のんびり天使は水の中   作:猫犬

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浦の星女学院

トンッカンッ、トンッカンッ

「これくらいで平気かな?」

「たぶん大丈夫かと」

 

二月の終わり。浦女がもうすぐ閉校すると言う訳で、閉校祭が行われることになった。なんでも、よいつむ先輩方を筆頭に鞠莉さんに提案して、鞠莉さんが承認したんだとか。

と言う訳で、今日は授業もなく、生徒全員で準備をしていた。僕は校門前のアーチの設置現場にいた。まぁほとんど曜さんたちがやったから僕の仕事はほぼ無かったけど、アーチの柱を掴んで揺するととりあえず、勢いよくぶつかったりしない限りは問題なさそうだった。

 

「では、僕は次の現場に行きますね」

「次の現場?」

 

千歌さんが首を傾げているのを他所に、僕はここを後にする。

 

~~

 

やってきたのは、二階の隅っこにある、ヨハネがやろうとしている占いの館。

 

「やっほー」

「あっ、沙漓」

「戻ってきたずら」

 

占いの館の装飾はまだまだで、というかみんな他の教室をやっているから、ヨハネとマルちゃんしかいなかった。

これは大変そうかな?

 

「さて、ペースを上げないとね。とりあえず、暗幕つけてるね」

「うん。お願い」

「あー、なんでルビィはいないのよ!」

「ルビィちゃんは人気者で引っ張りだこずら」

 

暗幕を付けているとヨハネがぼやく。

ルーちゃんは裁縫ができると言う訳で、色々な場所で仕事をしているらしい。僕もいろんな場所をフラフラしているから人のこと言えないけど。

 

「ここは人気のないマルたちが地道に頑張るずら」

「突貫工事だね。そもそも、こういうのって普通数日かけて準備するものじゃないの?」

「まぁ、無理やりねじ込んだから仕方ないずら」

「それもそっか」

テッテテッテ

「うちっちー?だよね」

「うん」

「ええ」

 

喋りながら作業していると廊下をうちっち二体?二頭?二匹?うちっちーって単位なんだろ?まぁ、新旧揃って走っていた。安定した走りであり、転ぶ気配も無いあたり中の人はそれなりに運動ができる人かな?

 

「うちっちーならモフれる気がする」

「まぁ、中身は人間だしね」

「誰が入ってるんだろ?片方は曜だろうけど」

 

とりあえず、準備がまだまだだけど気になるから追跡する。二人も気になるらしくついて来る。途中で見失ったけど、同じくうちっちーを追いかけていたらしい千歌さんたちと合流し、視界の片隅で白い何かが通り過ぎた。

 

「うちっちーの次はお化け?」

「お化けってモフれるのかな?」

「沙漓ちゃん怖くないの?」

「暗闇が無理なだけで、明るければお化けは平気だよ」

「明るい所にお化けは出ないような?」

 

とりあえず、お化け?が消えた方に行ってみる。その結果、使われていない空き教室に行きつく。

ルーちゃんとヨハネは怖がって扉の前で止まり、廊下からお化け?が走って来て僕たちの足を縫って中に入る。二人はそれで怯えて中に入ってこず、千歌さんを先頭に四人で中に入ると、ヨハネが扉を閉めた。

 

「シーツだよね?」

 

部屋の片隅でもぞもぞ動くシーツ。動いてるってことは中に何かがいる?

 

「確かめてみよう……とりゃぁ!」

 

千歌さんはそう言って、シーツの端を持って引き上げる。その結果、シーツの中からしいたけちゃんがこんにちは。

なんだ、しいたけちゃんだったのか。お化けじゃなくてよか……

 

密室の部屋+しいたけちゃん=逃げ場がないからモフれる

 

……これはっ!

 

「大丈、夫?」

 

千歌さんの声でヨハネがドアを開け、途中でしいたけちゃんの存在に気付いて疑問形になっていた。そして、二人の後ろにうちっちー。

 

「ふにゃぁ!」

「ぴぎゃぁ!」

「ワンッ!」

 

二人は驚いて声を上げて、その声でしいたけちゃんが三人の足を縫って廊下に出ようとし、

 

「させるか!」

 

僕はドアを閉めた。良かった、ドアの近くにいて。

その結果、しいたけちゃんは逃走経路を失い、僕はにじり寄る。

 

「今日こそモフモフする時!」

「まだ、諦めてなかったんだ……」

 

みんなに呆れられている気がするけど気にしない。今までは逃げられてきたけど、ついにこの時が来たのだから。

 

「ウゥー」

「かつてないほどしいたけが警戒してる!?」

「おりゃ!」

「ワンッ!」

 

普段は大人しいしいたけちゃんが僕を威嚇する。ここまで敵意を向けられると……余計にモフりたくなる。あっ、Sじゃないですよ。真理ですよ。

そして、僕としいたけちゃんは地を蹴った。今こそこの長い因縁(大体半年ぐらい)に終止符を打つ時!

そうして、僕はしいたけちゃんを……。

 

~~

 

「触れなかった……」

「顔を蹴られたんだからある意味触れたじゃない」

「おかわりずら!」

 

頬にくっきり残ったしいたけちゃんの肉球スタンプをさすりながらぼやく。

しいたけちゃんとの一騎打ちは、しいたけちゃんのストレートが僕の顔にあたり転倒させられた。まさか、逃げることを止めて攻撃に出るとは思わなかった。

結局しいたけちゃんは千歌さんに確保され、散歩に出ようとしたところで逃走を図ったという訳で美渡さんが引き取りに来た。

そして、お詫びにみかんを貰い、みんなに“みかんちゃんこ”が振る舞われた。

マルちゃんは高ペースで食べていく。良くたくさん食べているのにダイエットする状況に至らない謎。これが経済格差なのだろうか?

うちっちーの中には果南さんと曜さんがいて、曜さんはうちっちーをキャストオフすると、再び胴と顔をくっつけて教室を出て行った。それをみんなは見ていなくて、はたから見ればうちっちー(中身無し)が座っている形に。なんで変わり身の術みたいなことしてるんだろ?

 

「もう、それ着て動き回らないでくださいね」

「はいはい」

「それにしても、果南だったとは。こっちは曜なのよね?」

「……」

「そうだよ。曜と一緒に内浦の海を紹介する展示をするから」

 

ヨハネはうちっちー(中身無し)に声をかけるも返答がなく、果南さんが代わりに返答する。あっ、果南さんは曜さんがいないことに気付いているみたい。

 

「そんなことしてたのね。というか曜はいい加減脱ぎなさいよ!」

バンッ、ゴトッ

「あっ、マミった」

 

返答がないことでヨハネがうちっちー(中身無し)を小突くとそのまま倒れ、うちっちー(中身無し)の胴と顔が離れた。

 

「え?曜が入っていない?まさか元からいなかったというの?」

「曜ちゃん、普通に脱いで何処か行っちゃったよ?」

「あっ、千歌さんも見てたんだ」

「と言う訳で私もぶらぶらしてくるね」

 

千歌さんはそう言って教室を出て行った。

たぶん何処かに行った曜さんを探しに行ったのだろうけど。

 

「さて、そろそろ作業に戻ろっか」

「そうね。まだまだ準備ができていないし」

「と言う訳で」

「さらばッ!……ずら丸行くわよ!」

「マルはまだ食べるずら~」

「じゃぁ、先行ってるね」

 

まだ占いの館の準備が終わっていないからそう言ったものの、マルちゃんは“みかんちゃんこ”にご満悦な様でまだまだ食べる模様。

そんなわけで僕とヨハネは教室を後にした。

外はもう日が落ちて暗くなっている。結局大体の場所が下校時刻までに準備が終わらず、小原グループによる送迎によって、しばらく学校に居られることになった。やっぱり、一日で作るのは無茶だったか。人数がもっと居ればたぶんできたんだろうけど。

 

「スクールアイドル部でーす!あなたも!あなたも!スクールアイドルやってみませんかー!」

「ん?」

「どうかした?」

「いや、今スクールアイドルという単語が」

「私には聞こえなかったけど」

 

廊下にでたら不意に聞こえたスクールアイドルという単語。ヨハネは聞こえなかったらしいけど、聞き間違いには思えないから声が聞こえた方に歩き出す。急に方向転換したことで、ヨハネはどうしたものかと悩んだ後ついて来た。

 

「ずっとこのままだったらいいのにね。そしたら……」

「私ね。千歌ちゃんにあこがれてたんだ。千歌ちゃんが見てるものが見たいんだって。ずっと同じ景色を見ていたいんだって。このままみんなでお婆ちゃんになるまでやろっか」

「うん!」

 

声が聞こえた場所――校門前には曜さんと千歌さんがいて、足元には寿太郎の箱。

 

「これはとんでもない場所に来てしまった……」

「ん?なにが?普通にあの二人が話してるだけじゃない」

「お婆ちゃんになるまでやろっかということは、ずっといっしょ。つまりあれは告白……」

「いや、単純にお婆ちゃんになっても仲良くしたいって話でしょ?」

 

確かにそういう見方もできる。でも、それはそういう側面があると言うだけで、もしかしたら僕の考えている方が正しい可能性もある。

 

「果たしてそうなの?本当にないと言い切れる?」

「いや、無いでしょ。リリーの同人誌じゃあるまいし」

「いやいや、梨子さんの持っている同人誌みたいな展開が現実で本当に無いと言い切れる?」

「仮にあったとしても、あの二人に限ってそれは……」

「いやいや、逆にあの二人だからこそ。なら、梨子さんの見解も聞こうよ。さっき、一冊持ってるの見かけたし、数冊あるはず」

「私のなんだって?」

「「あっ……」」

 

話が逸れていると、いつの間にか梨子さんがそこにいた。隠しているはずのあれの話を二人でしていたせいか、笑みの裏に影が見える。

まずい。このままでは消される……。

ヨハネも自身の身の危険を感じているのか、暑くも無いのに頬に汗がつたう。

 

「梨子さん。えーと、ご機嫌いかがかなん?」

「ん?だいぶいい感じだよ?さて、二人は何の話をしてたのかな?」

「あはは、はは……」

 

にじり寄る梨子さん。後退する僕たち。しかし、いた位置が悪く、校舎の壁にすぐに追い込まれた。

 

「さぁ、教えてもらおうかしら?」

 

梨子さんは不敵な笑みを浮かべてそう言った。

というか、何されるの僕たち?

 

「沙漓逃げるわよ!……あっ」

「えっ……にゃぁー!」

 

その後、周囲に謎の鳴き声が響いたとか響いていなかったとか。

 

~~

 

「あれ?倉庫が開いてる」

 

あの後、気が付いたら二十分くらい経っていて、何故かヨハネに膝枕されていた。たしか、ヨハネが躓いて、僕が壁ドンされて、そのまま頭突きを喰らって……ヨハネにやられたのか。

その後、ヨハネは梨子さんと一緒に何処か行っちゃったから、僕が気を失っている間に何があったのかはわからない。追いかけようにも、二人ともやたら速くてすぐに見えなくなった。

千歌さんと曜さんの姿も見え無くなってたから、一人でふらふら歩いていると、倉庫の扉が開いていることに気付いて中を覗き込んだ。

 

「あら、沙漓さん」

「どうかしたの?」

 

中をのぞき込むと、ダイヤさんと鞠莉さんがいた。こんなところで何してるんだろ?

 

「なにしてるんですか?」

「ん?ちょっと、使えそうなものないかなってね」

「まぁ、ガムテープなどがまだ必要になりそうなので」

「なるほど。では、僕も」

 

二人がいる理由が分かって納得すると、中に入って一緒に物色する。

 

「そう言えば、閉校祭なんてよくできましたね。こんな時期にねじ込むとは」

「そう?まぁ、割となんとかなるものよ。どのクラスも授業の時間は十分足りていたしね」

「それに、一応参加は任意にしていますから、受験がまだある人はそっちを優先してもらえますし」

「でも、全員参加してるような?」

「それだけここが愛されてるってことよ」

 

それから物色を進め、いくつか気になるものがあったから手に取る。

 

「鞠莉さん、これ使っていいですか?」

「クリスマスの電飾?いいけど、何に使う気?」

「もちろん、閉校祭の一部に」

「まぁ、頑張ってくださいね」

「はい。では、僕はそろそろ準備に戻りますので」

 

そう言って、手近なところにあった大き目の袋に詰め込むと倉庫を出た。

 

~~

 

「わぁ、だいぶできてますね」

「まっ、みんなも手伝ってくれてるから」

 

教室には果南さんの他にも数名の生徒がいて、ペンキで板が青く染まって行く。千歌さんと校門前にいた曜さんはもうすぐ戻って来るはず。

 

「手伝うことありますか?」

「んー、特に無いかな?それよりも善子ちゃんの方が大変なんじゃないの?なんだかんだで四人でやってるんでしょ?」

「あー、ルーちゃんがやっとこっちに来れるようになったので」

「渡辺曜、帰還したであります!」

 

果南さんと話していると、曜さんが戻って来て敬礼した。何故敬礼?いや、いつも通りだけども。

曜さんの手には袋があり、何か入っていそうだけど中は見えない。

 

「あっ、曜さん」

「あっ、沙漓ちゃん。さっきは大変だったね」

「まさかしいたけちゃんが攻撃するとは思わなかったです」

「あっ、そっちじゃなくて」

「ん?何かあったの?」

「いろいろあったよ。まぁ、いいや。そうだ。ペンキの追加持って来たよ」

「ありがと」

 

袋の中から曜さんがペンキを取り出して、板のそばに置く。

てっきり、しいたけちゃんとの戦闘のことだと思ったけど、違ったみたい。

 

「それで、さっきの事って?」

「ううん。気にしないで」

「はぁー。あっ、そろそろ戻って来いって来ちゃった」

 

曜さんに話を聞こうとしたら、ヨハネから帰還命令が来てしまった。そう言う訳で戻らなくてはならない。まぁ、曜さんが話さないのならそれはそれでいっか。見た感じここは手伝えることは無さそうなのかな?人は足りていそうだし。

 

「まぁ、特に無いようなら行きますね?」

「明日来てね」

「時間があれば来ますね」

「そこは絶対来ますじゃないんだ」

「まぁ、世の中絶対はないので。もしかしたらヨハネの占いが大盛況でいなくちゃいけなくなるかもなので」

「まぁ、それくらいになった方がいいよね」

「では、さらば!」

 

二人に一応約束をしたら教室を後にする。梨子さんの贄にしたヨハネ戻って来てるかな?

 

 

「それで、沙漓ちゃん何かあったの?」

「あー。ちょっと色々あって……」

 

~~

 

「戻って来たよ~」

「あっ、沙漓……」

「あー、ヨハネ……」

 

占いの館に戻って来ると、三人とも準備を進めていて、ヨハネは僕に気付くと目を逸らした。僕もヨハネを見たら、なんというか……だから、あの空白の時間に何があったのか聞く。

 

「ねぇ、なんで僕ヨハネに膝枕されてたの?」

「覚えてないの?」

「うん。ヨハネがこけて、その拍子に壁ドンされて以降の記憶が無い。気づいたらヨハネの膝の上だったし」

「覚えてないならいいわ」

「いや、でも……」

「二人ともこのままじゃ間に合わなくなるずら」

「あっ、うん」

 

マルちゃんに言われて渋々この話を止めて作業に取り掛かろうとし、

 

「そうだ。魔方陣のバージョンアップしない?」

「なにする気?って、それ……」

「イルミネーション?」

「なんで疑問形な訳?」

 

僕が持ち込んだのは、倉庫の中にあったクリスマスのイルミネーション。数年前には中庭の木を装飾していたらしくて、今は経営難なせいで使われなくなっていたとのこと。

鞠莉さんに聞いたら使っていいって許可も出たから使う。気がかりがあるとすれば、数年前だから使えるのかだけど。

 

「作業が増えるずら……」

「まぁ、パパッとやるから」

 

パパッ

 

「おー、それっぽいずらね」

「うん。なんというか雰囲気が寄りそれに近づいたかも」

「沙漓、よくやったわ」

 

てきぱきとヨハネが描いた魔方陣をなぞるように設置して、光らせてみると、好評だった。どうやら成功みたい。

 

「じゃぁ、この調子でがんばろー!」

「「「おー!」」」

 

そうして、僕たちは準備を一気に進め、生徒全員が鞠莉さんの家の力で家に帰されたのでした。

 

~~

 

翌日。無事、準備が終わって閉校祭が始まった。

 

「では第一問。第二回ラブライブにてµ’sが二回の予選と決勝で歌った曲を順番に答えてください」

 

僕は特に持ち場が無いからフラフラしていた。持ち場としては占いの館なんだけど、ヨハネが占うから僕とマルちゃんは準備くらいしかすることが無かった。

そして、僕はダイヤさんとルーちゃんがやっているというスクールアイドルクイズの会場に来ていた。まぁ、僕は回答者の席に着かないけど。ルーちゃんとダイヤさんは出題者の役割をしている。

これは、ユメノトビラ、Snow halation、KiRa-KiRa Sensation!、僕らは今のなかで、までで正解かな?回答者はどこも、フリップに最初の三つだけ答えて、僕らは今のなかでが無くて不正解になってるけど。

 

「ぶっぶーですわ!アンコール曲の僕らは今のなかでを忘れていますわ!」

 

そして、ダイヤさんがそう答えると、何故かダイヤさんにポイントが入ってた。いや、なんでダイヤさんに入ってるの?ダイヤさんは出題者じゃないの?

 

「続いて第二問――」

 

~~

 

「二人とも似合ってますね」

「ありがと。それで、何頼む?」

「じゃぁ、みかんどら焼きで。あと、写真撮っていいですか?」

「いいよぉ」

「ダメ!」

「どっちなんだろ?」

 

ラブライブクイズの会場を抜け出して、千歌さんたちがやっているという喫茶店に来た。ここの衣装が可愛いから写真を撮っていいか聞いたら、千歌さんはよくて、梨子さんはダメという反応。うーん、この場合はどうすればいいんだろ?

 

パシャッ、パシャッ

「いいって言ってないのに、写真撮らないでよ!」

「個人用ファイルなので、モーマンタイ」

「大丈夫じゃないからね」

 

とりあえず、欲望に負けて二人の写真を撮ったら梨子さんに怒られ、みかんどら焼きを食べた。うん。やっぱりみかんどら焼き美味しい。

 

「それにしても、その衣装いいですね。和服寄り好きですし。誰の提案なんですか?」

「ああ、梨子ちゃんの提案でね。ほら、わざわざこの本まで持ってきてくれたんだよ」

 

そう言って、先輩は梨子さんの本を出して見せた。それは“壁クイ、大正ロマン編”だった。梨子さん、ついに隠すの止めたのかな?昨日はてっきり間違えて持って来ただけだと思ってたけど。

 

「え?なんの事?あれはたまたま家にあっただけで」

「あれ?でもあれって梨子さ、むぐっ」

「沙漓ちゃん、ナンノコトカナ?」

「あっ、はい」

「余計なこと言わないで」

 

梨子さんに口を抑えられて、渋々そう言うことにすると解放された。でも、離れる際に小声でそう言われてしまった。

隠したいのならなんで持って来たのやら?

 

~~

 

「みんなー、浦の星AQUARIUMにようこそー!」

「ここは広くて暖かい内浦の海!」

 

続いて浦の星AQUARIUMにやって来た。まさか、一日でここまでの完成度に至るとは

あっ、照明眩しい。

 

「内浦には三つの水族館があり、それぞれの水族館には特徴があるよー」

「僕たちうちっちーがいる三津シーにはイルカさんやアシカさんがいるよ」

 

浦の星AQUARIUMって、水族館の紹介をするんかい!と思って聞いていたら、果南さんのところのダイビングについても話し始めてた。まさか、ここで集客に走るとは……。つづいて、プロジェクターで内浦の海の映像が流れ始めた。

で、終いにはうちっちーヘッドを外して子供たちと遊び始める。結局ここはどういう目的だったのやら?

いや、内浦の海の魅力を伝えるという目的は果たされたけども。

 

「やっほ、沙漓ちゃん」

「こんにちは、果南さん。一日でよくここまで準備できましたね」

「まぁ、みんなのおかげかな?」

「そうそう。私たちだけじゃ無理だったよ」

 

一回目が終わったことで、二人と喋っていた。教室の板の数は結構あって、本当に準備は大変そうだなぁと思う。実際大変だったみたいだけど。

 

「そう言えば、よくうちっちー装備借りれましたね」

「ああ、意外と何とかなるものだよ。頼んだら快く貸してもらえたし。夏にやったあれが良かったみたい」

「なるほど。確かにあれけっこう評判になりましたしね」

 

いつしかやった三津シーの仕事のおかげらしかった。それで借りられるってすごいなぁ。あれ?じゃぁ、今日三津シーにうちっちーは不在ってこと?

 

~~

 

占いの館に戻って来ると、閑散としていた。

 

「人がいない……」

「やっぱり、隅っこというのは無茶だったわね。それに隣に客がとられてこっちまで来ない……」

「せっかく光るようになったのに、これじゃ意味ないね。そういえばマルちゃんは?」

「ずら丸ならお腹空いたって屋台の方に行ったわ」

「なるほど」

 

占いの館は残念ながら今はお客が0人。まさか、また0が立ちはだかるとは。

そうなると暇だなぁ。

 

「ヨハネ、僕を占って~」

「ん?いいわよ。どんな悩みもズキューンと解決してあげるわ!」

 

暇だからヨハネに占いを頼む。ヨハネはそう言って、水晶に手をかざし、

 

「わかりました恋の悩みですね」

「あー。それもあるかも」

 

なんとなく乗っかっておく。別に恋してないけど。あっ、でも近くにいると他の人と違う感じになるのはいるか。

 

「えっ?」

「どうしたの?」

「いや、まさか当たると思ってなかったから。てか、沙漓恋してるの?」

「うーん。恋なのかわからないんだけど、その人の近くにいるとドキドキするというか落ち着かない?」

「なるほど、一般的には恋と同じ症状ね。それで、何を占えばいいの?その人とうまくいくか?それとも、その人に好きな人がいるかどうか?」

 

ヨハネは真面目に僕のことを占ってくれるらしくてそう問う。おー、本格的かも。こっちがそこまで真面目にしてないから申し訳ないけど。

そもそも男の人との会話なんて、お父さんかコンビニとかのバイトさんくらいだし。

 

「たぶん、不整脈だと思うけど。まぁ、いいや。その人に好きな人がいるかどうかで」

「不整脈って……まぁ、いいわ。じゃっ、その人の顔を浮かべてちょうだい」

「ん、わかった」

「では、ミュージック、カモーン!」

 

ヨハネがそう言った直後、昨日設置したイルミネーションが輝き、きれいなピアノの演奏が流れ始める。というか、超聞き覚えのある演奏。音の方を見れば梨子さんが弾いていた。あれ?さっきまで隣の教室にいなかったっけ?AQUARIUMの方に一回行ってたからその間に交代したのか。

 

「見えます。これは……白い。どうやら誰もいないようですね。さすれば、道はとにかく当たってみることです!」

「ほえー。すんごいそれっぽい」

「ぽいって、これでも占いは放送でやってるんだから!」

「それもそっか。うーん。とにかく当たるか……」

 

ヨハネの占いは割とガチだったけど、よくよく考えればいつも放送でやってるからそれくらいにはなってるか。

それにしても当たってみるって、どうするべきなのやら?

 

「それで、どうするの?告白でもすんの?」

「んにゃ、まだ不整脈の可能性もあるし」

「そう……」

「まぁ、のんびりと考えるよ。というわけで、お腹空いたから表出てくるね。ヨハネと梨子さんは欲しいものある?」

「ん?適当にお願い」

「私もそんな感じで」

「了解!……それにしても、ヨハネって好きな人いないんだね」

「え?」

「まっ、冗談だけど」

 

~~

 

「おーい、千歌こっち来てー!」

 

表の屋台でたい焼きや焼き鳥などを手に入れていると、屋上の方で声がした。声に釣られてそっちを見ると、よしみ先輩たちが“浦女ありがとう♡”という巨大なバルーンアートを建設させて完成させていた。

 

「まだまだこんなもんじゃないよ!」

 

そして、掛け声と共にばらけて風船が空に舞う。

すごいけど、あんなにいっぱいの風船を空に上げちゃって、後で問題が起こらないといいけど。

 

それから時間は経って、閉校祭が終わろうとしていた。最後はキャンプファイアを囲んで鞠莉さんが話し出す。

 

「これで浦の星女学院、閉校祭を終わりにします。この学校がどれだけ愛されていたか、みんなにとって大切なものだったのか。私に取って何よりも大切で、何よりも温かくて……ごめんなさい」

「鞠莉さん……」

「ごめんなさい……ごめんなさい。もう少し頑張れれば……」

 

鞠莉さんは謝る。でも、鞠莉さんは十分に頑張ってくれた。鞠莉さんがいなければ、夏休み前には統廃合が決定していただろうし、今日の閉校祭も開催できなかったと思う。

だから、鞠莉さんは謝る必要なんてない……。

 

「Aqours!Aqours!――」

「「Aqours!Aqours!――」」

 

すると、辺りにAqoursコールが鳴り響き、どんどん拡散して増していく。

 

『『『Aqours!Aqours!――』』』

「鞠莉さん」

 

次第にこの場にいる生徒全員、地域の人たちにまで広がっていく。

ダイヤさんは鞠莉さんの背を押すと、鞠莉さんは一歩前に出る。この場にいる全員の視線が鞠莉さんに集まる。それらは全て鞠莉さんへの賛辞のような温かいものだった。

 

「みんな!ありがとう!じゃぁ、ラストにみんなで一緒に歌おう!最高に明るく!最高に楽しく!最高に声を出して!」

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