のんびり天使は水の中 作:猫犬
今回は恋アクのPVに寄せた感じです。でも、友情ヨーソロー後の設定なので、違う点は多々あります。
あと、時系列は番外編1の後です。
「三津シーの紹介?」
「ええ。この前のライブで興味を持たれたらしくて、オファーが来たわ。メインは三津シーの宣伝だけど、それなりの人の目に触れるからAqoursを知ってもらうにはちょうどいいと思うわ」
練習の休憩中に鞠莉さんが唐突にそんな話を持って来た。知名度を上げるのなら確かにこういう方法はありだと思う。
「ちなみに何をするんですか?」
「基本的には仕事体験とそこにいる生き物の紹介をする感じね。前者は雑誌に載るし、後者は地方の番組のコーナーに流れるわ」
「なるほどね。確かにそれならスクールアイドルを知らない人の目にも留まるね」
「私は賛成だよ。一人でも多くの人に知ってもらいたいし」
「私も賛成であります!」
内容もわかり、みんなはやる気満々のようだった。こうして、僕たちは三津シーに行くことになりました。
~☆~
話があった週末の朝七時半。僕たち九人は三津シー前に集まっていた。なんでも、普通にお客さんは来るから、開業時間前に行うとのこと。まぁ、それは基本だよね。お客さんの居る中じゃやりづらそうだし。
「それで、どうするんですか?曜さんがまだですけど」
「予定時刻ですし、先方に迷惑がかかりますから着き次第合流しかなさそうですわね」
「だね。まさか、曜ちゃんが今日に限って寝坊するなんて」
この場には曜さんがおらず、なんでも寝坊したとのこと。曜さんが寝坊なんて珍しいなぁ。そうこうしているうちにスタッフの人がやって来る。といっても、対応は基本ダイヤさんと鞠莉さんがするんだけども。
「それで、次のバスはとうぶん先ですけど……」
「うん。だから、曜ちゃん自転車こいでるって。さっきまでは静浦漁港辺りだってさ」
「なんでわかるんですか?」
二人がスタッフと話している間に曜さんの状況を聞いたら「あのへんかな?」じゃなくて割とピンポイントな場所で返された。まさか、千歌さんには曜さんの居場所が察知できる能力が?
「ラインでそう返されたよぉ。さっきから信号で止まるたびに現在地を打ってくれてるしねぇ」
「なるほど。ということは、まだ三十分近くはかかりそうですね」
「うん、そうみたい。あっ、更新された。今淡島の近くだってさ」
「あれ?なんか、一気に移動してません?」
「あっ、前の更新時刻がそもそも二十分近く前だよ」
千歌さんの曜さんの現在地が分かったのはいいけど、場所がズレてると思ったら、梨子さんがのぞき込んでそう言った。更新が数十分前ってことはそれまでは信号に捕まらなかったってことなのかな?
「それにしても曜さんも不運だね。寝坊して慌てて家を出たらちょうどバスが行った後だったって」
「もしかして、善子ちゃんの不運が移っちゃったのかな?」
「不運って移る物なの?あと、ヨハネ!」
「でも、ヨハネがここに居るってことはやっぱり不幸が移っちゃったんじゃないの?」
「皆さん、雑談していないで行きますよ」
曜さんの不運をヨハネの不運の影響説を提唱していると、スタッフとのやり取りが終わったようだった。しまった、一切話を聞いてなかった。といっても、僕は裏方だから説明を聞きたところであれなんだけども。
「本日はよろしくお願いしますね。まずは、みなさんにはここの掃除を体験してもらいます。そして、どの動物の紹介をやるか決めておいてくださいね。決まり次第撮影を始めるので言ってください」
「わかりました」
「と、その前に汚れてもいいようにここの制服を着ちゃってください」
スタッフに連れられて僕たちは中に入り、スタッフルームで制服に着替える。そして、それぞれ数人のグループに別れて掃除が始まったのだった。さて、僕はフラフラしながら掃除をするかなぁ。
~屋内エリア~
「こちらのセイウチは――」
「って、沙漓が来た瞬間奥に引っ込んだ?」
「ここで沙漓の能力が発動したのね」
とりあえず、順路に従って屋内エリアから掃除を始めようと思い、来てみると、梨子さん、ヨハネ、鞠莉さんのギルキス組が早速撮影を始めようとしていた。でも、僕が来た瞬間、セイウチが奥に行ってしまい中止になってしまった。
これって、僕のせいなのかな?
「あ、ウミガメも奥に引っ込んでく」
「やっぱり、僕のせいか。と言う訳で退散しますね」
「あ、すぐにどこか行っちゃった」
「そして、沙漓ちゃんの通った直後に動物たちは水槽の奥に逃げていく」
「あっ、セイウチが戻って来た」
僕は三人の撮影の迷惑になりそうだからモップで床を磨きながら退散した。うーん、まさか水族館の動物たちにすら僕の動物避けが発動するとは。撮影時は近づかないようにしないとだなぁ。
~ペンギンの前~
「ペンギンが奥に逃げだした!」
「あ、こっちでもか」
「沙漓ちゃん?」
続いてペンギンの檻の前にやって来ると千歌さんとルーちゃんが地面を掃いていた。そして、やっぱりペンギンは逃げていった。今回は撮影がまだだったから問題は無かった?はず。二人とも目の前で起きた惨状を見てポカーンとしていた。
「なんで、こう動物は逃げていくのやら」
「さぁ?何したの?」
「いえ、特に動物に対してやらかした記憶は無いんですけどね」
「うーん。謎だね」
「と言う訳で次の場所に行きますね」
「じゃぁねぇ」
ここは人数的に足りていそうだから、僕は別の場所に向かった。その際に隣のフラミンゴに威嚇されたけど気にしない。気にしたら負けな気がする。
~いそあそび~ち~
「あうっ!」
いそあそび~ち前にやって来ると直後に後方からイルカによって水をぶっかけられた。まさか、逃げるでもなく、威嚇でもなく、攻撃されるとは。
「大丈夫?沙漓ちゃん」
「まさか、攻撃される事態になるとは」
「ほんと、何やったの?」
「うーん。ここには初めて来たから特に関わりはなかったはずなのに」
そんな僕を近くで掃いていた、マルちゃん、ダイヤさん、果南さんが声を掛けた。正直、僕が何をしたのか僕自身が一番聞きたいのだけど。
「と、そんなことより、沙漓ちゃんはずぶ濡れだから更衣室に行って拭いてきなよ。風邪引くし、また水かけられちゃうよ」
「ですね。行ってきます」
果南さんの提案に乗って僕はその場を避難した。もう少し居たらまたイルカに水をかけられそうだし。
~更衣室~
「あれ?沙漓ちゃん?」
「あっ、曜さん」
更衣室に行くとそこには無事たどり着いた曜さんが着替えていた。時間を見るとなんだかんだで二十分は経っているから、居ること自体はおかしくはなかった。
「おはヨーソロー。沙漓ちゃんは……なんでずぶ濡れなの?」
「おはヨーソローです。イルカに攻撃されまして」
「なるほど?それは災難だね」
「ですね」
曜さんは苦笑いを浮かべ、僕は手近にあったタオルで水を拭きとる。そうしているうちに曜さんは着替え終える。
「さて、戻りますか」
「あれ?服濡れたままだけど?」
「いいですよ。どうせ、外にいるスタッフは全員女性ですし、Aqoursの皆も女子なんですから。それに、すぐ濡れる未来しか見えませんし」
「そうなの?」
「そうですよ。この後はショースタジアムの掃除で水を撒くらしいですし」
「そっか。それなら濡れるかもだね」
曜さんは納得すると一緒に外に出た。まぁ、言わなかったけど、外なら日の光で乾くしねぇ。
外に出ると、みんなショースタジアムに集まっており、千歌さんがホースで水を撒いていた。
「みんな楽しそうですね」
「だね。私がいなくても」
「ん?どうかしました?」
八人の様子を見て呟くと、曜さんはどこか浮かない顔をしていた。
まぁ、なんとなく予想はつくけど。
「もしかして、遅れたことを気にしてます?」
「うん。まぁね」
「そうですか。でも、誰も気にしてませんよ。曜さんは別に完璧超人じゃないんですから、こんなことだってありますよ。それで申し訳なく思ってるなら、ここから挽回ですよ」
「うん、そうだね!」
すると、曜さんの表情が戻り、僕たち二人は皆のもとに行く。そして、千歌さんが僕たちに気付いて身体の向きを変えた。
「曜ちゃーん」
「わぷ!」
「きゃっ!」
「うわっ!」
千歌さんは手をぶんぶん振り、ホースの水が周囲に散り、みんなに水が飛んで行った。その結果、被害の大きさに差はあれど全員が濡れた。本当に濡れることになろうとは思わなかった。
「ちーかーちゃん!」
「あっ、ごめん」
そして、梨子さんは怒って千歌さんに詰め寄った。千歌さんは謝るけど、こういった不注意の被害を何度も受けてきたせいか、梨子さんは完全に怒っていた。これは、日頃の行いのせいかな?
「まぁまぁ。梨子ちゃん、落ち着いて。千歌ちゃんだって悪気があった訳じゃないんだから」
「曜ちゃん。でも、今回で何回目かわからないのよ」
「まぁ、それは否定できないけど……」
曜さんが仲裁に向かい、僕はその場で眺めていた。
「沙漓、そんなところに突っ立ってないで掃除しなさい」
「うん」
眺めていたらヨハネに言われたから、返事をして階段辺りの掃除をする。といっても、この辺りは毎日掃除されているはずだから、そこまで汚れもなくすぐに終わりそうな勢いだった。
~曜~
「曜ちゃん、私たちCYaRonはペンギンでいこうと思うの!」
「うん。いいんじゃないかな?ギルキス組はセイウチ、アゼリア組はイルカだし、ペンギンが無難だよね」
「ルビィも賛成です!」
私たちは掃除を途中で切りあげて、動物紹介の撮影に入った。開場前に済ませないといけないらしいし。というか、私のせいで待たせちゃったんだよね。
「見てください。このペンギンたちはケープペンギンという種類で――」
それから撮影が始まり、資料の内容を簡単に要約して紹介をした。本当は檻の中に入りたかったけど、くちばしで突かれる可能性があるとのことでそれはできなかった。触ってみたかったなー。
「終わったし、掃除に戻らないと」
「そうだね。遅れた分はこれから挽回するであります!」
「曜ちゃん、張り切ってるねー」
遅れた分はちゃんと取り戻さないと皆に申し訳ないしね。という訳で、甲板磨きの要領でどんどん掃除していくであります。
そんなことを考えながら、私は二人を置いてどんどん掃除をしていく。結果として掃除は予定していた時間よりも早く終わり、あとは開場した後に来たお客さんにインタビューするのなどなど。今更ながら、これってスクールアイドルのやる内容なのかな?
とりあえず、それまでの間は休憩していていいとのことで、私たちは更衣室に行って椅子に座ってのんびりとする。
「あれ?千歌ちゃんと梨子ちゃんは?」
「さぁ?お手洗いでは?」
さっきまで二人がいたはずなのに、いつの間にか居なくなっているから聞いたら、みんな知らないようでそう言われた。うーん、なんでだろ?
「そう言えば、なんで今日に限って寝坊したんですか?」
「ああ、実は目覚ましをセットし忘れちゃってね。起きたらギリギリで間に合わない時間だったの」
「なるほど。よくありますよね」
「沙漓は何回私に起こされているっけ?」
「その節はお世話になり、ありがとうございます」
善子ちゃんにジト目を向けられた沙漓ちゃんはお礼を言っていた。見た感じ、今日も起こされたってところかな?
すると、何処かに行っていた二人が戻って来る。千歌ちゃんの手には袋があり、中身はよく見えなかった。
「千歌ちゃんそれ何?」
「あ……うん。あはは」
「まぁ、気にしないであげて」
「ん?」
「皆さん、この後の予定の確認をしますわよ」
「そうずら。この後は?」
あれ?なんでか二人は中身を見せたくないのかそんな反応をした。うーん、よくわかんないけど、追及はしない方がいいかな?
ダイヤさんがそう言ったから流れがぶった切られてしまった。ん?なんか、みんなの反応もおかしいような。まるで、あの袋から意識を放そうとしているような?
一人ずつ分散してインタビューして、最終的にそれを編集するらしかった。つまり、一部のインタビューだけが流れる感じか。
それにしても、みんなチラチラ袋と私を見ていて、視線が合うと慌てて逸らすのが繰り返される。なんだろ?
「曜さん、どうかしました?」
「ううん、なんでもないよ」
そんなことを考えていたら沙漓ちゃんが私の顔を見てそう言った。しまった、これじゃまた変な心配をかけちゃうね。
「ちょっと、手洗いに行って来るね」
「いってらっしゃーい」
私は気持ちを切り替えるために部屋を出た。といっても、それが理由で本当に手洗いに行く気は無いかな?
だから、私は一人になりたくてクラゲの水槽に行く。ここはカーテンで区切られているから、一人になるにはもってこいかな?
「それにしても、なんかみんなよそよそしいんだよなー。なんでだろ?」
一人呟くけど、今はここに一人だからそれに答えてくれる声は無い。
うーん。やっぱり、遅れちゃったことが関係しているのかな?それに、今日はみんなでいる時は大体千歌ちゃんと梨子ちゃんが二人でひそひそ話していたような?私に秘密があるのかな?
「考えても分かんないし、ここは当たってみるしかないか」
でも、考えても答えなんてわからないし、だから聞くしかないかな?また、勝手な勘違いで変な感じになるのも嫌だし。
とりあえず皆の元に戻ろうと歩いていると、事務室のそばでスタッフの人が困ったような顔をしていた。
「どうかしたんですか?」
「ん、君は……」
「あ、体格的にちょうどいいかも」
「はい?」
~☆~
「曜ちゃん、どこ行っちゃったの?」
「完全に消えましたね」
「皆さん、曜さんが心配なのはわかりますが、ここでの仕事も……」
「ダイヤさんは心配じゃないんですか!?」
「もちろん心配ですよ。ですが、何かあればすぐに連絡も来るでしょうし……だから、探しつつインタビューも進めましょう」
「それしかないですね。曜ちゃんを探していたせいで仕事を放ったら、曜ちゃんが戻って来た時に自分のせいって自分を責めちゃうだろうし」
開場時間になり、スタッフの人が来たけど、曜さんが戻ってこなくて、みんな困惑していた。正直、僕も心配な訳で探しに行きたいけど、ダイヤさんと梨子さんの言うことももっともだから、とりあえず……って、僕は裏方だからインタビューしないんじゃん!
とりあえず、みんながインタビューで表側を探して、僕は裏側を探すかな?他にも仕事はあるし。
「じゃぁ、適度に探してくるね」
「うん。沙漓ちゃんも何処かに消えないようにね」
「気を付けるねぇ」
と言う訳で、僕は施設の裏側にやってきた。と言っても、掃いたゴミをゴミ捨て場に運んでるだけだけど。
でも、そこにはおらず、今更気づいた。手洗いに行くって言って出たんだから、まずはそこに行かないと。しかし、一番近くの手洗いに行ってもそこにはいなかった。そうして、探しつつ、荷物を運んだり、落とし物を届けたりなどしながら捜索をした。
その結果、施設の裏側で行ける範囲は回り終え、みんなの方に行ってみた。もしかしたら見つかったかもだし。
「ルーちゃん、曜さん見つかった?」
「ううん。見当たらないよ。みんなもそんな感じだったし」
「うーん、もしかして外のプールに落ちた?」
「それはないずら。落ちた場合は動物たちが何かした反応をすると思うよ」
「それもそっか」
ルーちゃんとマルちゃんと合流したけど、どうやら発見はできてい無さそうだった。どこに行ったのやら?
「とりあえず、僕はイルカとかの方に出てみるね」
「うん、ルビィたちはもう少しこっちにいるね。入れ違いで現れるかもだし」
「まかせたずら」
曜さん捜索の為、僕はイルカプールの方に出てみて、そのままショースタジアムに行くとそこにいた。うちっちーが。おお、初めて見た。あれ?うちっちーから海のような水色が見える?てか、着ぐるみでこれはありえないし……まさか、僕の能力進化した?
そんなことを思って、向こう側にいる果南さんを見るとエメラルドグリーン、鞠莉さんからは紫色が見えた。あれ?初めて会った人じゃなくても見える……。まぁ、いいや。とりあえず、この色から中の人が誰なのかは察しが付く。同じカラーの人他に見たこと無いし。
「曜さん、なんでうちっちーやってるんですか?」
理由は後回しにして、とりあえず曜さん?がうちっちーの中に入っている理由を聞くと、うちっち―はぶんぶんと手を振った。たぶん、着ぐるみで声を出すことに抵抗があるのだと思う。それに、周りには人もいるしね。
「まぁ、行方不明になってないのならいいので。きっと、事情があってその中にいるんですね」
そう言うと、うちっちーはぶんぶん首を縦に振った。しかし、着ぐるみに基本首が存在しないから、身体全体で縦に振ってる感じになって、頭が飛びそうで地味に怖い。
「では武運を」
とりあえず、曜さんの無事?を確認したので敬礼をすると、うちっちーも敬礼をした。腕が短いのと顔がでかいせいで頭まで届いてないけど。
そうして、うちっちーは風船を子供たちに配り、ショースタジアムのイベントがまだだからか人はいなくなった。それと入れ替わるようにみんながやって来る。たぶん、それなりの人数のインタビューが終わったようだった。そして、うちっちーは逃げるように階段を登って影を潜めた。
あれ?曜さん、何がしたいんですか?なんで、逃げるんですか?
「曜ちゃんいないねー」
「そうね。沙漓ちゃん、本当に曜ちゃん見つかったの?」
「見つかりましたよ。別の仕事で見当たらなくなってるだけですよ」
「そうなんだ……あれ?」
みんな近くの椅子に座ったりして休んでいると、千歌さんはうちっちーを見て、首を傾げた。おや?
すると、うちっちーに近づき、目をのぞき込むように見る。直後、うちっちーは驚いたのか逃走をはかり、いや何故に?階段を踏み外して転がり落ちた。そして、柵の近くで止まるもうちっちーの頭が飛んだ。
「曜ちゃん!」
「曜さん!あと、うちっちー!」
僕と千歌さんの声がはもった。転がり落ちた曜さんに怪我がないかという心配が。そして、千歌さんは瞬く間に曜さんに駆け寄り、抱きついた。曜さんは苦笑いを浮かべ、僕もてくてくと走り寄り、曜さんの状態を見ると、着ぐるみがいい感じに緩衝材になって怪我は無さそうだった。そして、慌てて僕はうちっちーの頭を手に取り、曜さんの頭にはめた。みんな、なんで?みたいな表情をしていた。
「おかあさん、うちっちーだー」
でも、すぐにその理由は伝わった。子供がやってきたから。流石に頭が飛んだ状態を子供に見せるのは色々アウトな訳で。それで、抱きついてる千歌さん共々起こして立ち上がらせる。
その後は、それぞれ仕事をし、なんだかんだで仕事体験は終わった。
曜さんがうちっちーをやっていた理由は、なんでも元々うちっちーに入るはずの人が怪我をしたから曜さんが入ることになったらしかった。そして、うちっちーは唐突にランダムで登場する設定とのことで、本日のうちっちー業務は終わったとのこと。
~千~
「曜ちゃん、今日はごめんね」
「え?何が?千歌ちゃんが謝るようなことなんて……」
「ううん。今日途中まで曜ちゃんから距離取ってたでしょ?」
「あっ、うん」
「実はね……帰りまでこれを隠しておかなくちゃで。チカ、顔に出やすいからばれない為にはこうするしかなかったんだ。曜ちゃん、この前の大会、入賞おめでとう!」
三津シーからの帰り、曜ちゃんをチカの部屋に誘い、みんなと別れると、今日よそよそしくしちゃったことを謝って、それから休憩時間に買った曜ちゃんの入賞祝いを渡す。今までこういうのをあげてなかったから今までの分も込めてね。みんなにも協力してもらって、サプライズにしたかったしね。
曜ちゃんは、それで、休憩時間に私がもっていた袋の正体に気付いたようで驚いた顔をする。これはサプライズ成功かな?
「ありがとう、千歌ちゃん!開けてみていい?」
「うん!」
「……あっ、綺麗なクリスタルだ」
曜ちゃんにあげたのは三頭のイルカが中に入ったクリスタル。一目見た瞬間、これだ!ってなって選んじゃったものだけど、きっと曜ちゃんなら気にいってくれるはず!
「どう?もしあれなら、別の物を探すけど……」
「ううん。これでいい……いや、これがいい!こんなきれいなもの、うれしいよ!」
「そっか、なら良かった」
思った通り、気にいってくれてよかった。お世辞じゃなくて本当に喜んでくれてるみたいだしね。
~曜~
「曜さーん、行きますよー」
「うん、ちょっと待ってー」
あれから数日後。私たちは新しい曲を作り、今日アップする予定で、その前に全員で完成したものを見るとのこと。なんか、編集が凝ってるとか?
私はクリスタルを見てから、バッグを手に取って階段を下りる。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
ドアを開けて出ると、そこには沙漓ちゃんと善子ちゃんが待っていた。
「おはヨーソロー。二人とも……って、沙漓ちゃん、目に隈ができてるよ?」
「おはヨーソローです。曜さん。昨日徹ゲーしちゃって」
「おはよう、曜さん。っと、早くしないとバスが来ちゃわね」
「おっ、じゃぁ、誰が一番にバス停に着けるか勝負だね」
私はそう言って駆け出し、善子ちゃんが若干遅れて走り出し、沙漓ちゃんは呑気に歩いていた。あれ?そんなゆっくりしてたらバスが来ちゃうんじゃ?そんなことを思いながらも足を止めずにバス停にたどり着き、遅れて善子ちゃんも到着する。時間的にはバスが来てもおかしくないのに、沙漓ちゃんはのんびり歩いていた。そして、
「ふぅ、ちょうどですね」
沙漓ちゃんが着いたタイミングでバスもやってきた。まさか、予知能力?まぁ、疑問はあるけどとりあえず乗り込むと、一番後ろの席に座る。
「沙漓、前のバスが若干遅れたからその要領で予想したわね」
「まぁね。生まれてこのかたバスに時間通りに乗れたこと無いもん」
なんというか、悲しい理由だなぁ。でも、バスって大体数分遅れで来ることの方が多いか。なんというか、沙漓ちゃんなら予知能力とか持っていてもおかしくないのに……識別能力?はある訳だし……あっ、そういえば。
「沙漓ちゃん、あの時なんで私がうちっちーの中にいたのにわかったの?千歌ちゃんは勘だったみたいだけど、沙漓ちゃんもそうだったの?」
「そう言えば、私もそれについて聞きたいわね」
すっかり忘れていたけど、あの時の疑問を思い出したからそう聞いた。善子ちゃんも興味があるようで、対して沙漓ちゃんは困った顔をしていた。
「うーん。正直よくわからないんですよね。あの時、うちっちーの中から曜さんの色が偶然見えて……それで分かった感じで。初対面の人だけに発動するはずなのに、あれ以降いつの間にか見たいと思いながら見ると、見えるようになってました。と言っても、今まで全く意識していなかったですけど、たぶん、あの日より前からできるようになってたんだと思います」
「そっか。沙漓ちゃんの能力でわかった感じなんだ」
「あいかわらず、その能力は謎ね。いつの間にか進化してるみたいだし」
「まっ、正直この能力そんなに使ってないから」
沙漓ちゃんの能力の謎が深まった気もするけど、本人があまり気にしていないのなら、私たちも気にしない方がいいのかな?
そして、なんだかんだで部室につくと、みんな揃っていた。
みんなが集まったことで、早速完成した曲のPVを見ることになり、沙漓ちゃんがノートパソコンを開き映像を流す。その際、三津シーの映像も先に見せてもらえるとのことで一緒に見た。
三津シーの映像は、いつの間に撮ったのか仕事風景も流れ、それぞれ一人分のインタビューの短い物だった。でも、地元のニュースの一コーナーに流れる訳だから、知らない人の目に触れるはずだし、これでいいはず。
続いて新曲“恋になりたいAQUARIUM”のPVに移り、なんというか、善子ちゃんと沙漓ちゃんの本気を見た感じだった。所々で三津シーの一コマが挟まっていたり、体育館でダンスシーンを撮ったはずなのに、背景は巨大な水槽になってるし、私のソロで青い光の道ができたりなど、本当に凝っていた。というか、いつの間に私がクラゲの水槽の前に居るの撮ったんだろ?
「なんかすごいね」
「ヨハネの編集技術の賜物ですね。僕は隣でいじってただけですから」
「え?」
「さすが、善子ちゃん!」
「まさか、善子ちゃんの編集技術がここまでだったなんて」
みんなが善子ちゃんを褒め、沙漓ちゃんは徹ゲーのせいか突っ伏していた。私がセンターだったから本当に平気か心配だったけど、思っていた以上にちゃんと踊れたし満足かな?この調子で頑張るであります!
今更ながら思ったのですが、沙漓が水族館に行けば動物が逃げるから沙漓は楽しめるのだろうか?
では、ノシ