のんびり天使は水の中 作:猫犬
「ヨハネー、ズル休みはどうかと思うよぉ」
「うっさい!無理よ。陰口を叩かれるってわかってるんだから!」
学校が終わり、ヨハネの家の隣に住んでいるのでプリントを渡しに来た今日この頃。とりあえず中に通してもらい、ヨハネはベッドに座って僕もその隣に座って、そう言ったら喚かれた。
「えー、特に何も起こらなかったよ。というか、『津島さん今日休みなんだ』とか『体調崩したのかな?』とかしかなかったよぉ」
「そんなの、嘘よ!どうせ、『昨日のあの子マジキモイー』とか『堕天使w』とか言われてたんでしょ!」
「おぉ、すごい被害妄想」
何処からそんな発想が湧くのか分からないけど、もしそうだったらヨハネにこんなこと言わないよぉ。その気持ちよくわかるしぃ。
「大体、僕は全く否定してないじゃん。いつも通りでもヨハネでも、結局どっちも津島善子でしかないんだからぁ」
「沙漓ならそう言うでしょうけど。普通はそういう風に割り切れないわよ」
「うーん。否定できないやぁ」
ヨハネをよく知ってる僕と、まだ知らないクラスメートじゃ、確かに説得力が違うか。どうしたものか……。こういうのは時間が解決してくれるのかな?ヨハネには兄妹とかいないから、それしかないしぃ。うん。
「まぁ、ヨハネが来る気になるまでは気長に待つよぉ。無理やりやるのは嫌だしぃ」
「えっ?そこは無理やり連れて行くんじゃないの?」
「ううん。それじゃ、ヨハネに負担しかないからぁ。勉強に関してはノートを見せればなんとかなるでしょ?まぁ、欠席日数が三分の一越えたらアウトな訳だし、病気とかを考慮して……うん。五月中には強硬手段に出るねぇ」
「あー、結局強行するんだ……大体五月いっぱいね」
これ以上はヨハネとの学園生活に支障が出そうだから、ここが境界線かな?これ以上は引くわけにはいかない。
「うん。そして、ヨハネが来やすいようにクラスを温めておくねぇ」
「やめてね。それ嫌な予感しかしないから」
「冗談だよ。普通に生活してるよぉ。それと、毎日は来れないからねぇ」
「はいはい。別に毎日は来なくていいわよ」
それから、今日学校で会ったことをしゃべったり、ヨハネの部屋のゲームをしたりしていると、日がだいぶ傾いていた。
「あっ、もうこんな時間。じゃぁ僕は帰るねぇ」
「ええ、じゃっ」
荷物を纏めてから、別れを言ってヨハネの家を出た。明日はどうしようかな?
~☆~
「今日も、善子ちゃんは休みずら?」
「花丸ちゃん、語尾付いてるよ。うん、休んでるね。風邪かな?」
「うん。方言女子っていいよね」
「あっ……って、沙漓ちゃんは何言ってるの?」
今日もまた、ヨハネは休みだった。花丸ちゃんとその友達の黒澤ルビィちゃんもヨハネのことを気にしていた。ハッとして、僕に対してジト目をされたけど、僕のダイヤモンドメンタルの前ではそんなの気にしないに等しい。ダイヤモンドだから、強すぎたらアウトだけど。
二人とは、席が隣と斜め後ろの位置にあり、そう言う訳で話している。二人は平気そうだし。
「善子ちゃんなら、別に風邪じゃないよ。自己紹介でやらかしたから、それでバカにされると思って来られなくなっているだけだから」
「それって、あの後に沙漓ちゃんが二重人格設定を足したからなんじゃ……」
「ううん。私は善子ちゃんのためを思ってやった訳で……あれ?」
「……自覚は無いんだね」
今更ではあるけど、もしかしてヨハネが来ない理由って僕のせい?確かに、あそこで何もしなければ、流れてたかもしれない訳で……やらかした!
「あわわ、どうしよ。完全にやらかした」
「落ち着いて!別に沙漓ちゃんのせいじゃないから」
「そうだよ。善子ちゃんの為にやったんでしょ?」
慌てる僕をなだめる二人。周りのクラスメートは、そんな僕たちを見て何故か微笑まし気な表情をしていた。なんで?
『――ですわ!』
「おわっ……いきなり放送ってびっくりした……」
「お姉ちゃん……」
~☆~
「ありがとうございました」
「果南さん、遊びに来ました」
「やっほ。今日は一人なんだ……それで、客として?それとも後輩として?」
学校終わり、僕は果南さんのダイビングショップに来た。と言っても、終わってすぐに行ったらお店の邪魔になるから、お客さんが減りだすまで部室の掃除をしてたけど。というか、掃除した割に散らかり過ぎなんだけど?物置にしても置き過ぎだよ!
ダイビングショップに着き、本日最後のお客さんを見送った果南さんはそんな返しをする。たぶん、どっちかによって対応が変わるんだと思う。
「後輩としてですかね?」
「そう。じゃぁ、ちょっと待ってて。着替えてくるから」
「分かりました。そこで待ってますね」
テラスの席を指差すと、OKという意味で首を縦に振ってお店の中に入って行ったので、席に座って待つ。
それから数分後。
「お待たせ。それで、なんの用なの?」
「はい。果南さんに聞きたいことがあって」
「ん?聞きたいことって?」
お店から出てきた私服姿の果南さんも椅子に座り、早速切り出したので、僕も本題にすぐ入る。だから、鞄から写真を取り出す。
それを見た瞬間、果南さんは息を呑み、しかしすぐに平静を取り繕う。
「その写真どこにあったの?」
「部室にあった本に挟まってました。僕はアイドル研究部に入ったので、今は片づけ中ですけど」
「そうなんだ。まだ残ってたんだあの部。よくダイヤがOKしてくれたね。それで、聞きたいことって?」
果南さんは過去でも思い出しているのか遠い目をし、呟くようにそう言うと、聞きたいことについて問う。この反応から聞きたいことの一つはもう済んだようなもの。
「果南さんもアイドル研究部の一員だったのか聞こうと思ってたんですけど、その反応からそうみたいですね。なんで、辞めちゃったんですか?」
「それは、私のお父さんが怪我をして、私はお店の仕事で休学してるからね。その手続きの時に辞めただけだよ」
「そうですか。じゃぁ、ダイヤさんがスクールアイドル好きなのを隠している理由はなんなんですか?」
辞めた理由が聞けたから、気になっていたことを聞く。今日の昼休みにダイヤさんの声が放送で聞こえていたから気になった疑問。
果南さんは「それ本人に聞けばいいのに」と呟く。
「まぁ、ダイヤにも私にも色々あるんだよ。それ以上は流石に言えないかな?個人のことを他所で言うのはどうかと思うし。これでいい?」
「はい。ありがとうございます」
「あれ?てっきり、踏み込んでくるのかと思っちゃったよ」
「ん?これ以上は言えないって言ったから、聞くのを止めたんですけど?」
意外そうな反応をされたから、理由を言ったらポカーンとされた。理由が変かな?と思ったら、果南さんが笑い出す。
「ふふっ、変なところで律儀だね」
「まぁ、嫌な事はしない主義なので。それに果南さんだって僕に聞かないじゃないですか。なんで、アイドル研究部にいるのかとか、聞きに来た理由とか」
「まぁ、なんとなくわかるからね。それで、他に聞きたいことあるの?話せる範囲なら話せるけど」
「じゃぁ、果南さんはアイドル研究部に居た頃……二年ほど前に三人で東京ライブしてましたよね?」
「……ッ!うん。まぁね。それ他の誰かに言っちゃった?千歌とか曜に」
果南さんはどこか言い辛そうな顔をしながら、二人に何か言っていないか聞いた。あぁ。これはやっぱり、二人は知らないみたいですね。
「いえ。言っていませんよ。他人の空似かと思ったりしてましたし」
「そっか。できれば言わないでほしいかな?」
「んと。わかりました」
「ありがと。それで、他に聞きたいことはある?」
そう言って、この話を打ち切られて、いつの間にか果南さんが話の主導権を握り、そう聞いた。だから、話は変わるけど、聞きたいこと。というか悩みを口にした。
「じゃぁ、不登校の生徒にはどう接すればいいんですかね?」
「あれ?話が逸れた上に、割とガチな相談が来ちゃった」
果南さんは困った顔をしながらも相談に乗ってくれた。結論から言えば、普通に接するのが一番だと思うとのこと。やっぱりそれしかないみたい。
それから、この辺りの話とか、こっちに来るまでの話とかしていた。わかったことは高海先輩、渡辺先輩と幼馴染だったことなどなど。ちなみに、やっぱり僕の口調が普段は違うことはばれていました。時間がある程度経つと、果南さんが時計を見てハッとした。
「あっ、そろそろ終バスに乗り遅れない最後のタイミングの定期船が来る時間だ」
「えっ?本当ですか?じゃぁ、帰らないとぉ。あ、最後に一ついいですか?」
「ん?なに?」
鞄を肩にかけて立ち上がると、手に持った写真を見せて最後に一つ質問をする。
「二人は今でも大切ですか?」
「……うん。ダイヤと鞠莉がどう思ってるかわからないけど、私は大切だと想ってる」
「そうですか。忙しいのにこんなに聞いちゃってすいませんでした。この写真、たぶん果南さんのだと思うんので返しますね。では、また」
「ううん、別にいいよ。また来てねって言ったのは私だし、沙漓ちゃんの事も分かったしね。写真持ってきてくれてありがと。じゃっ、また会おうね」
“K”が果南さんだと思うから写真を渡すと、果南さんは受け取って笑顔でそう言い、僕はお店を後にした。
差しあたって、アイドル研究部を廃部にさせずに存続させるかな?無くなるのはまずそうだし。
あれ?そう言えば“K”が黒澤の可能性が……まぁ、いいやぁ。
~☆~
四月×日。今日は天気がいいから部室の片づけをしようかな?ヨハネはいつになったら学校に来るんだろ?本当に四月が終わるまで来ない気なのかな?
風の噂で高海先輩と渡辺先輩の二人だったスクールアイドル部(未承認)に桜内先輩が加わっただとか。浦女にスクールアイドルが生まれたのは喜ばしいことだね。挫折して辞めなきゃいいけど……。
「まぁ、僕には関係ないからいいけどぉ」
「なにがいいの?」
「うわっ!」
「あっ、ごめんずら」
一人呟いたら、いきなり反応があって驚いた。驚いたことに対して謝られ、その声と語尾で誰なのかはすぐわかった。
「いや、こっちこそ。それで、花丸ちゃんはどうしたの?こんな辺境の地に」
振り返ると、予想通り花丸ちゃんが居た。ドアの向こうには赤い髪も見えているけど。気にした方がいいのかな?それとも隠れてるみたいだからスルーした方がいいのかな?
「マルは沙漓ちゃんの手伝いに来たんだよ」
「手伝い?」
「うん。沙漓ちゃん、いつもホームルームが終わったらすぐにどこか行っちゃうから、何してるのかと思って来てみたら、これだからね」
「あぁー」
途中で花丸ちゃんが部室の方に視線を向けたので、それで理解した。それに、体育の時にもここ見えるしね。
「いや、部員でもない花丸ちゃんに手伝わせるのは悪いし……」
「気にしなくていいよ。マルは今日図書当番じゃないから暇だよ?それに、ここは部室じゃなくて物置だよ?沙漓ちゃんはここの掃除をしに毎日来てるんだよね?」
「そうだけど。うーん、でも……」
「きにしなーい、きにしなーい」
悩む僕に花丸ちゃんは、そう言って中に入り込む。花丸ちゃんがいいならいっか。というか、ここが部室なのは本当なのに……。
「それで、ルビィちゃんは放置していいの?」
「あっ、ルビィちゃん、こっちずらー」
言われて今思い出したのか、ルビィちゃんがいる方を向いて花丸ちゃんは呼んだ。忘れてたのかな?と思うと、見えている部分の髪がビクッと揺れて、ルビィちゃんが出てきた。
「花丸ちゃん、ルビィはただ七不思議の一つになっている、アイドル研究部の部室に興味があって、物置には興味ないよ?」
「七不思議?なんの話?」
ルビィちゃんが来た目的が、アイドル研究部だったことと、七不思議の部分が気になって首を傾げたら、ルビィちゃんはハッとした。
「あっ、沙漓ちゃんは知ってる?アイドル研究部っていう存在しない部に入った生徒がいるって言う噂」
「ああ、そういえばマルもそんな噂を聞いたよ。沙漓ちゃんは知ってる?」
「あ、うん……」
廃部寸前だったアイドル研究部。まぁ、これは存在するのか分からないから、七不思議化するのかな?そして、入った部員って僕のことだ。これは説明すべきなのかな?それとも、知らない振りをして不思議のままにしておくべき?
「沙漓ちゃん何か知ってるの?」
「あっ、うん。ここがアイドル研究部の部室……」
「「へっ?」」
嘘はつきたくないから正直に言ったら、二人はポカーンとしていた。そして、すぐに二人は気を取り直す。
「あっ、だからさっき部員とか言ってたのか」
「あれ?ってことは噂の真相は……」
「うん。完全に私の事だね」
頬を掻いて苦笑いを浮かべる。まさか、七不思議の一つになろうとは思わなかった。
とりあえず、喋りながら窓を開ける。掃除をぼちぼちしているとはいえ、まだ結構埃っぽいから。
「ところで、なんで、アイドル研究部なの?」
机に散乱している物を手に取って、整頓していると、花丸ちゃんが急にそんな話を振った。二人もなんだかんだで手伝ってくれている。花丸ちゃんは当初の目的通り。ルビィちゃんはたぶん、部室前まで来た手前そのまま帰る訳にはいかなかったんだと思う。別に気にしないのにね。
「まぁ、私はスクールアイドルが好きだからね。だから、ちょうどよかったかな?」
「沙漓ちゃんもスクールアイドル好きなんだ」
「も?ってことは花丸ちゃんもスクールアイドル好きなの?」
「あっ、オラじゃなくて、ルビィちゃんがずら」
ルビィちゃんの方を見て、そう言ったのでつられて見ると、ルビィちゃんはあわあわしていた。その反応から、本当っぽい。つまるところ……
「おお!こんなところに同士が!ルビィちゃんはどのグループが好き?僕はµ’sかな?」
「えっ?ルビィもµ’sが好きだよ!沙漓ちゃんもだったんだ。教室だと本ばっかり読んでるから、そう言うのは興味ないんだと思ってたよ」
いつもはおどおどしているルビィちゃんが、はきはきと喋り出した!そんな驚きをしていると、ルビィちゃんがハッとした。
「あっ、ごめんなさい。ルビィ急にグイグイ行っちゃって」
「いや、別にそれはいいよ。それより、ルビィちゃんは本当にスクールアイドルが好きなんだね」
「沙漓ちゃんも大概ずら。アイドル研究部なんて噂で聞くまで知らなかったずら」
「僕もまさか、そんな噂があったなんて知らなかったよ」
三人でそんなことを話していて今更気づいた。僕呼びをしてたことに。
「っと、手も動かさないとね。私は棚方面をやるから、二人はそのままよろしく」
「あれ?沙漓ちゃん、僕呼び辞めちゃうの?」
「そう言えば、教室とかだと私なのに、さっきは僕だったような……」
今更ながら、一人称を戻して話を逸らしたけど手遅れだった。二人はそんなことを言ったから。無念。いつの間にか出てしまった。今からでも、二入が僕をバカにする姿が……バカにする姿が……
「あれ?全く浮かばない?」
「どうしたの?」
「何が浮かばないの?」
何故だか、二人がバカにする姿が浮かばず、思わず口に出ていた。急に口に出したからか、二人は問う。
「ううん、なんでもないよ。それより、変とか思わないの?僕って言ってることに」
「ん?別に普通じゃないの?マルだって時々オラとかずらって言っちゃうし……」
「ルビィも私じゃなくてルビィって言ってるし……」
二人は僕のことを気にしていなかった。というよりも、それぞれ、一人称が少し変わっているからかもだけど。
「「「ふふっ」」」
だからなのか、三人同時に吹きだした。三人似たもの同士だなぁ。それに、二人も気にしないでくれたし。いや、僕も二人の一人称に関しては気にしないし、可愛いと思うけど。
「ねぇ、二人とも。僕と友達になってください」
だから、二人に対してそう言った。二人とならやっていけそうだしね。そう思っていたら、二人はなんでかポカーンとしていた。あれ?もしかして、それは無理な感じ?
「あっ、ごめん。それは無理だよね」
「えーと。マルは友達のつもりだったから……」
「うん、ルビィもてっきり」
「あれ?そうだったの!?うーん、やっぱり友達の定義は難しいや。ということは?」
「うん、友達だよ。ルビィは引っ込み思案だからその気持ちはわかるよ」
「マルもずら。よろしくね」
こうして、二人と改めて友達になりました。友達になったのならあだ名呼びかな?別に普通でいいかもだけど。それじゃ味気ないし。
「うん、よろしくね。そうだ、マルちゃんって呼んでいい?ルビィちゃんは……変え方が思いつかないや。ルビちゃん?ビィちゃん?」
「えーと、無理しなくて考えなくてもいいよ?ルビィ呼びでいいから」
「マルはそれでいいずら」
「うーん、ここはちゃんと考えたいから」
ルビィちゃんのあだ名が決まらず思案し、ルビィちゃんは考えなくていいと言ってくれた。でも、ここで引くわけには……。
「あっ、ルーちゃん!」
「おお、なんか響きがいい感じずら」
「あっ、それいいかも」
思いついたのを口にしたら、二人は割と肯定してくれた。と言う訳で。
「改めて、よろしくね。マルちゃん、ルーちゃん」
ほとんど、沙漓はなにもせず梨子がAqoursに入って、その裏側の話だから(裏)をつけた感じです。