のんびり天使は水の中 作:猫犬
「よいしょっ」
「沙漓ちゃん、どこから持って来たずら?前、片付けた時にほとんど持って行ったはずじゃ?」
浦女に入学し、今はもう四月終わりの時期。今日は部室の掃除をしていて新たに発掘された本を図書室に返却しに来た。というか、やっぱり多すぎ。前に荷車に乗せて運んだのに……掃除をしたらまた数冊出てきたから持って来た。
図書室のカウンターには今日は図書当番をしているマルちゃんがいて、僕の方を見て首を傾げていた。まぁ、そんな反応だよね。
「部室に封印されてた未返却の本、数冊だよぉ」
「確かに、ここの本ずらね」
マルちゃんが本を開いて確認していると、図書室のドアがガラッと開く。放課後だから人は来るわけだね。ここは人が少ないから、あんまり人が来るイメージは無いけど。
「シャイニー♪」
「図書室はお静かにお願いします」
そこから金髪の外人さん……いや、ハーフかな?が声高々に現れ、マルちゃんが一蹴した。え?明らかに先輩なのに、冷静に注意してるし。
「あら、ごめんなさい。見た感じ、二人だけみたいだったからね」
「あの一瞬で、中の様子を把握したんですか?」
「マリーになら朝飯前なのです!」
「はぁ……」
胸をドンッと叩くマリーさん。理由が理由になっていないことにはツッコんだ方がいいのかな?というか、この人何処かで見たような……会ったことは無いはずだけどぉ。
「それで、どのようなご用件ですか?マルたち二人の時を狙ったみたいですけど」
「ああ、そうね。私は小原鞠莉。ここの新理事長デース」
「「新理事長?」」
「デース。それで、あなたが今年入ったアイドル研究部の部員よね?」
理事長さんは僕の方を見てそう言ったから、用件は僕みたいだねぇ。
「そうですけど?一体……」
「そう……」
「まさか、アイドル研究部を廃部にする気で――」
「いや、そうじゃないわ。ただ、あの部に入った子がいるって聞いてたから気になってね」
あっ、違うんだ。
「まぁ、ちょっと困ったことにはなったけどね」
「困ったことって言うと?」
「今、スクールアイドル部を立ち上げようとしている動きがあるのは知っているわよね?」
困った顔をしながらそう言ったので、首を縦に振る。マルちゃんは自分には関係ない話だと判断したのか、さっき運んだ本の状態チェックをしていた。
「私としては部の立ち上げ自体はいいんだけど、ダイヤが条件を出しちゃっててね。作曲自体はメンバー勧誘できたみたいなんだけど、五人以上にすることがまだできていないのよ」
「はぁ、それでなんで私に?まさか、合併しろと?でも、それでも四人ですよね?」
高海先輩、渡辺先輩、桜内先輩の三人に、僕だから四人だし。まさか、黒澤先輩を巻き込むとは思えないし。アイドル研究部は今勧誘をしていないから、それ以上は増えないし。というか、片付けが終わらない……。
つまるところ、理事長が襲来した理由が分からない。
「まぁ、それで私が勝手に、今度の日曜日に体育館でライブしてもらって満員にできたら、三人の状態で部にすることを認めるって言ってね」
「なるほど。勝手に決めたから黒澤先輩が怒ったと」
「そういうことよ。だから、どうしようと思ってね」
「いや、私に聞かれても……それこそ二人で決着させてくださいよ」
結局僕が関与する要素が全くなかったので、困惑する。僕にどうしろと?
すると、本の状態チェックが終わったのかマルちゃんが顔を上げる。
「沙漓ちゃん、どの本も乱丁は無いから平気だよ」
「うん、わかった。じゃぁ、私は部室の片づけに戻らないと。それで、理事長。お話は終わりですか?結局、私に話した理由が分からないんですけど?」
「……えぇ。ただ、あなたならダイヤを説得できないかと思ったから来ただけよ。時間取らせちゃったわね」
「あっ、別にそれはいいんですけど」
「そう。じゃぁ、私は行くわね。チャオー」
理事長はそう言って、去って行った。本当に何がしたかったんだろ?
理事長が出て行った後、僕は重大なことに気付いた。
「あっ、そう言えば、理事長随分若かったなぁ。まるで、学生みたいだったねぇ」
「ん?完全に学生なんじゃないの?」
「えっ?でも、学生で理事長になれるものなの?」
「さぁ?」
こうして、今更ながら、理事長が何者なのかという疑問に二人して首を傾げるのだった。
~☆~
翌日。
「今週日曜日にライブやりまーす」
沼津駅前に行くと先輩三人がライブのチラシを配っていた。僕はマルちゃん、ルーちゃんと一緒に書店に行った帰りだった。いつも読んでいる小説の新刊がちょうど出てたとは思わなかったよ。そして、高海先輩が二人にチラシを渡すと、自動販売機で飲み物を買いに離れていた僕に渡辺先輩が来てチラシを渡した。日時や場所がかかれており、本当にライブをするようだった。
「あっ、本当にライブやるんですね」
「よかったら来てね」
「はい。日曜日なら特に予定はないですし。行きますね」
「うん、ありがと」
渡辺先輩はニコニコしながらそう言うと、ロータリーを挟んだ向こう側にいる桜内先輩の方に視線を向け、つられて僕も視線を向けると、ちょうどチラシを渡していた。サングラスとマスクをして髪の右側を団子にした黒髪の少女に。少女はチラシを貰うと一目散に駆けていった。
「あれ?あの子、どこかで見たような?」
「あっ、ヨハネ」
僕と渡辺先輩は同時にそう口にしていた。この時間帯にあの格好は目立ちそうだし、若干不審者に見える件。あれ?そう言えば、学校休んでるのになんで外を出歩いてるんだろ?まさか、不良に!?
「ああ、善子ちゃんか。そう言えば入学式の時以来学校で見てないや。自己紹介で失敗したんだって?」
渡辺先輩は駆けていったヨハネの方を見ながらそう呟いた。
「一応そうですけど、とどめは私が……」
「とどめ?」
「クラスに溶け込ませようと掘り返した結果、あぁなっちゃいました」
「あぁ~」
その光景が目に浮かんだのか、そんな反応をされた。なんともいえない空気になって、チラシの方に目を向けると、そこである疑問が。
「あれ?そう言えば、グループ名は無いんですか?」
「……あっ」
「決まってないんですね……」
~☆~
「スリーマーメイド?」
「「1、2、3,4」」
「反応してよ!」
時は進んで、チラシ配りを切り上げた先輩たちは海辺に移動していた。僕は、そう言えば普段どんな練習してるんだろう?と思い、ついて来ていた。マルちゃんとルーちゃんはあのまま帰っていったからこの場にはいない。
今はストレッチ中で邪魔にならない絶妙な位置に座って見ていると、どんどんグループ名の案が出されていく。桜内先輩の案には二人してスルーしていた。スリーってことは、人数が増えたら増えるのかな?五人だったらファイブマーメイド?
と思ったら、渡辺先輩は『制服少女隊』と言い、二人はスルーしていた。衣装は基本制服なのかな?
「じゃっ、軽く走って来るね」
「はーい。荷物見てますね」
「うん、よろしくね」
ストレッチが終わり、一時名前決めを中断して三人が駆けていき、僕は海を見ていた。たぶん走りながら決めてそうだけど。そして、視界に何故か黒澤先輩が映った。何かを浜辺に書いているみたいだけど。
てくてくと歩いて行き、声をかけることにする。
「あのー」
「ぴぎゃっ!」
突然後ろから声をかけたせいか、先輩は驚きの声(鳴き声?)を上げた。まさか、そこまで驚くとは。
「あっ、すいません」
「いえ……それで、どうしましたの?」
先輩は何事も無かったかのように装う。いや、無理がある気が……。気にしたら負けな気もするのでここは自重。
「黒澤先輩はここで何しているんですか?……アクア?……アクア……あれ?どこかで聞いたことがあるような?」
「……ッ!気のせいですわよ」
「ああ。先輩たちが二年前にやってた時の名前か」
「えっ?」
何処かで聞いたような気がするけど、思い出せない。何故か、先輩は即答で否定するし。と思ったけど、よくよく考えたら思い出した。二年前に先輩たちがやってた名前だったことを。僕が知ってることに先輩は驚いてるけど。
「何処でそれを?」
「まぁ。あの時あそこで見てましたし……それで、先輩はそれで何をしているんですか?まさか、高海先輩たちの邪魔をしに?」
「違いますわ。ただ海を見に来ただけですわ」
「はぁ。まぁ、いいですけど」
海を見に来たって言うのは明らかな嘘だけど、言いたくない理由があるっぽいからいいかな?
そうしているうちに三人の足音が聞こえてくる。
黒澤先輩はハッとすると、慌てて回れ右をする。
「用事を思い出しましたので、失礼しますわ」
「はい。さよならです。あっ、Aqoursっていい名前ですね」
「あら?そう言ってもらえると嬉しいですわね」
黒澤先輩はそう言って逃げていくかの如く去って行った。あの三人には見つかる訳にいかない訳?なんだろ一体?
「沙漓ちゃん、こんなところで何してるの?」
「いえ、海を見てたんです。あと、これを」
「アキュア?」
「アクアじゃないかな?というか、これ沙漓ちゃんが書いたの?」
「いえ、いつの間に書かれていたので」
三人は興味を持ったみたいです。黒澤先輩が書いたことについては、言わない方がよさそうな気がするので言わない方向で。
「そうだ!私たちのグループは“Aqours”にしよう!」
「いいの?誰が書いたかもわからないのに」
「いいの!考えてる時に出会った。これは、運命だよ!」
こうして、グループ名が決まりました。
黒澤先輩。無事、先輩の望みは叶ったみたいです。うーん、それにしても黒澤先輩は何がしたいのやら?わざわざ名前を名付けるって。それに、敵対しているよね?
~☆~
「ヨハネー、そろそろ学校行こうよー」
「まだよ!まだあと一か月は猶予があるわ!」
「いや、来週の月曜日には決行するからね」
四月最後の木曜日。放課後にヨハネの家に来ています。結局入学式以来学校に現れないし。
本当に、五月が終わるまで来ない気なのかな?というか、一日でヨハネを連れ出せるとは思えないから、ヨハネが学校に現れるのはいつになることやら?はっきり言って、朝そんなに時間が無いし。
「あっ、こんなところにライブのチラシが」
「しまった!」
ヨハネの部屋を見回したら、コルクボードにチラシがくっついていた。行く気満々なのかな?カレンダーにも丸がしてあるし。
「それはあれよ。暇だから行くだけよ」
「暇だったら、学校行こうよー」
「それはそれよ。どうせなら、全員が私の自己紹介を忘れるぐらいまで……」
「僕が覚えてるから、永遠に来れなくない?」
「アンタは別よ!」
「マルちゃんも覚えてそうだし……」
「ずらまるも別よ!」
「ルーちゃんも覚えてるだろうし……」
「ルーちゃんも……って、ルーちゃんって誰よ!」
なんてこと、ヨハネはルーちゃんのことを忘れてしまったというの?いや、まぁ、入学式の時以来ヨハネは来てないから、まだクラスメートの名前が一致しないのは仕方ないけど。
注)ルビィ=ルーちゃんと呼んでいることを知らないだけ。
「って、もうこんな時間」
「急に話をぶった切ったわね」
そこから色々喋ったり、ゲームをしたししていたら、五時を回っていたので、そう言ったらヨハネに呆れられた。
「用事というか、やることがあるからそろそろ家に戻って始めないと終わらないからさ」
「そう…って、もしかして学校の課題でもあるの?」
僕の言った“やること”が学校の課題なのかと邪推し始めたけど、そう言った課題は特にないので違う。これは個人的なものだし。
「ううん、違うよぉ。という訳で帰るねぇ。明日の放課後は用事があって来れないから、また次会うのは日曜日かな?ヨハネが明日来れば、また明日だけどぉ」
「いやよ。まだ行かないんだから!」
「はいはい。じゃっ」
~☆~
かれこれ時間が経って日曜日。
外は大荒れでした。ここまで荒れるとは思わなかった。
十三時二十分頃には浦女前の坂に着いた。もう少しのんびりしててもよかったけど、荒れてるから早めにねぇ。
「この天気でもライブやるモノなの?普通」
「さぁ?でも、中止の連絡も聞いてないし、部の立ち上げがかかってるんだからやると思うよぉ」
辺りには人の気配があまりなく、一緒に来ていたヨハネは疑問顔をして見回していた。なんでか、サングラスとマスクを着用しているけど、正直やめて欲しいかな?見るからに不審者な訳だし。
「それよりヨハネ。サングラスとマスク外そうよぉ。見るからに不審者で、守衛さんに止められるよ?」
「ふっ、私の侵攻は何人も止められないわ。それこそラグナロクを始めるだけのこと」
「はいはい。こんなところで聖戦を始めないでね。よっと」
「ちょっ、返しなさい!」
外す気がないようだから、サングラスを外して奪う。マスクは寸での所でガードされた。うん、これならまだ風邪予防の人にしか見えないねぇ。そう言う訳で、逃げるように体育館に向かう。雨強いし、いつまでも外にいたら傘がもたない。あと、ヨハネが追いかけてくる。あっ、風で傘がコウモリと化した。
体育館の会場は本来なら一時半からの予定だったけど、この天気だからか早めに解放されていた。
中に入ると、ちらほらと人がいた。黒澤先輩や理事長は立場の問題だろうし、ルーちゃんとマルちゃんは純粋な興味かな?後はここの生徒が数人。
やっぱり、この天気だと厳しいし、初ライブはこんなものなのかな?二階の部分では照明担当を受け持った生徒が確認をしていたり、放送室の電気が付いているから音響の確認をしているようだった。
「やっぱり少ないわね」
「まぁ、初ライブとこの天気だからね」
ヨハネも観客の人数を見てそう呟いていた。どうやら、サングラスを取り返すのは諦めたようだった。ラグナロクは起こらずに済みそう。
うーん。それにしても残り数十分だから、少し増えるのが限界だよねぇ。普通に考えて満員にするのは困難だろうしぃ。あっ、遠くで雷が鳴った。
「ちょっとお手洗いに行って来るね」
「ん、わかった」
ヨハネにそう言って、体育館を出ると校舎の方に行く。
そして、数分して体育館に戻ってくると、ドアの前に果南さんがいた。
「あれ?果南さん、入らないんですか?」
「あっ、沙漓ちゃん……うん。ダイヤたちがいるからね」
「なるほど。でも、せっかくの高海先輩たちの晴れ舞台ですよ」
「私は別にあの子たちのお母さんではないからね」
どうやら、ライブを見たいけど、黒澤先輩たちに会いたくは無いようだった。つまり、ばれなければ言い訳だねぇ。
「果南さん。これをどうぞ」
「……これで入れってこと――」
「――です」
「じゃない?」という前に言葉をかぶせたら呆れた顔をされた。まぁ、我ながら、妙なことをしているわけだし。
~☆~
「遅かったわね……って、誰?」
ヨハネのそばに戻ってきたらヨハネに首を傾げられた。まぁ、ヨハネの視線は僕の後ろに注がれてるんだけどねぇ。
僕の後ろには、髪を下ろしてサングラスをした人物がいる。
ヨハネはじーっと見ると、そこで誰なのかわかったのか表情が変わる。
「まさか、か――」
「ストップだよぉ」
名前を言う前にヨハネの口を押えると、バタバタと暴れる。しまった、完全に塞いでしまったから息をできなくさせちゃった。
慌てて手を放すと、息を整えジト目をされる。
「(で、どういうこと?果南さんがなんで素性を隠すようなことをしてる訳?)」
「(カクカクシカジカな訳があるんだよぉ)」
「(なるほどね。あれ?じゃぁ、不登校している私はいいの?)」
周囲に隠そうとしていることを察したのか耳元に寄って、小さな声で聞かれた。だから、簡単に説明をした。といっても、黒澤先輩たちとどういった事情があるのかよくわからないから、休学中に学校に来るのはまずいかもしれないということにしておいたけど。
ヨハネはそれだけで理解してくれたのでありがたかった。根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だしねぇ。
途中から、ヨハネが自分自身のことに気にし始めてるけど、それは問題ない。
「ヨハネに関してはばれても問題ないよぉ」
「なんで?」
「だって、もう五月に入るわけで、これからは登校してもらうように動くんだからぁ。というか、ばれて無理やりこざる得ない状況にしたいしぃ」
「なんの話?」
僕の計画にヨハネは怪訝な顔をすると、放置されていた果南さんが唐突に話に加わってきた。だから、果南さんにも簡単に説明をする。
ヨハネが不登校になっていることを。
「ああ、前の相談してた不登校児は善子ちゃんだったんだ」
「はい。明日から引っ張り出す予定なので、もうその悩みは無くなるはずですけどねぇ」
「なんで、相談なんかしてるのよ!」
ヨハネがツッコミを入れた瞬間、体育館の電気が消えて周囲が暗くなった。人の輪郭が薄っすら見えるくらい?
「ヨハネのツッコミに呼応して周囲が暗くなった!ヨハネがいつの間にか闇魔法を体得したの?」
「いや、そんなわけないでしょ。単にライブが始まるんでしょ?」
「あれ?でも、まだ時間じゃないよ。ほら、今一時半だよ」
ボケを挟んだら、ヨハネはちゃんとツッコんでくれた。ヨハネが言った通り、ライブが始まるから電気を消したのはわかるんだけど、ある疑問が。そして、果南さんが時計の方をたぶん指差してそう言った。
「この真っ暗な中、そんなことを言われても、見えないのでわからないんですけどぉ」
「そう?これくらいの暗さ、私はある程度なら物の位置とかはわかるけど?」
果南さんは時計が見えることに対して、さも当然のように言うけど、普通は見えないと思う。まさか、夜に海に潜ってるのかな?
「って、そんなことよりも、なんで開演の三十分前から電気を消しちゃうんですか?」
「さぁ?千歌が開場と開演の時間を勘違いしている可能性はあるけど」
「そんなことあるモノなんですか?渡辺先輩と桜内先輩もいるのに」
「もしかして、裏にある時計は時間がずれてるとか?」
二人にもよくわからないようで困惑する。だいぶ目が慣れてきたから黒澤先輩の方を見ると、あまり驚いている様子は無かった。つまり、予想外の事態ではないってこと?
疑問は尽きず、そうこうしているうちに、ステージの幕が上がる。
「本当に始まっちゃいましたね……」
「ええ」
「だね」
観客が数人しかいない中、三人のライブは始まる前に終わらないか心配だった。せっかくここまで準備して練習してきたのに、満員どころかガラガラだから。
こんなガラガラの状態なら、気持ちが負けて投げ出す可能性だってある。
「大丈夫。あの子たちはそんなにやわじゃないよ」
そんなことを考えていると、果南さんは僕の考えていることを見透かしたかのようにそう言った。なんで、言い切れるのか分からなかったけど、果南さんが言うとなんだかそんな気がした。
そして、果南さんの言葉は本当だった。
「私たちはスク-ルアイドル」
「「「Aqoursです!」」」
三人の目はまだ諦めの色が無く、やる気に満ちていた。
そして、先輩たちはこの少ない観客の中、歌い始めた。
踊り自体はまだ完ぺきじゃないからか、時々フォーメーションがずれたりしていて、上手いとは言い切れない。
でも、三人とも楽しそうだった。
だから、自然と引き込まれた。
しかし、唐突に照明が消え、音楽も止まって体育館は静寂に包まれた。遠くで雷が落ちた音が響く。
「(停電ね)」
ヨハネは声を潜めてそう言い、誰かが体育館を出て行ったのかドアが開く音が響いた。
突然のライブの中断。ステージ上の三人に困惑の表情が浮かび、起きてしまった事態に今度こそ三人の心が折れたかと思った。
「(ちょっと、付いて来て)」
「(えっ?)」
果南さんが他の人には聞こえないような声でそう言い、手を握られて体育館の外に連れ出される。何をするのか分からぬまま着いて行くと体育館そばの倉庫に着く。中に入ると、そこには黒澤先輩がいた。
「黒澤先輩?」
「ん?あなたは……何故ここに?それに……」
黒澤先輩の立つ前には数個の大型のバッテリーが置いてあった。黒澤先輩は果南さん(サングラス+髪下ろし)を見て、驚いた顔をしていた。どうやら、変装(雑)は一瞬で見破られたようです。
「先輩。これを運べばいいんですか?」
「え、ええ。そうですわ」
気まずい空気が流れ始め、それをぶった切るように質問をした。いつまでも向こうを静寂なままにする訳にはいかないしぃ。
置いてあったバッテリーは三つで、一人一個運ぶと、すぐに配電室まで運べた。
「そこに置いてください。後は配線を繋げば」
黒澤先輩は手慣れたような手つきで配線を繋ぐと電気が付く。これで、後は三人がそうするか次第。部屋を出ようとすると、果南さんは一瞬黒澤先輩に向けて、寂しげ、或いは申し訳なさそうな顔をし、すぐに気を取り直して部屋を出た。
体育館に戻ってくると、いつの間にか体育館にたくさんの人がいた。それこそ、体育館が満員になりそうな。
果南さんに引っ張られている時は渡り廊下側を通ったから気づかなかったけど、体育館入り口にはだいぶ集まっていたみたい。それに、本来の時間にはこんなにもたくさんの人が来るはずだっただねぇ。
すると、三人はやる気に満ちた顔に戻り、
「キラリ――」
歌が再開された。街の人で満たされたことで、さっき以上に感情がこもっていた。そして、歌が終わり、高海先輩と黒澤先輩が話だした。
「じゃっ、私は帰るね」
「あっ、僕も行きますね。バス混みそうですし」
「あっ、私を置いてくな!」
果南さんは観客の視線がステージに向いているうちに、サングラスを僕に返して体育館を出て行こうとし、僕も追いかける。それに気付いたヨハネも追いかけてきた。
だから、この後あった会話を僕は知らない。
~千~
「大成功……なんだよね?」
「うん。たぶん」
「そうだよ!大成功だよ!」
ライブが終わり、チカたちは体育館のステージ袖の部屋で衣装から制服に着替えています。ライブをやり切った実感がまだわかないけど、大成功だったと思う。
途中で停電したりしたけど……。でも、体育館はちゃんと満員にできたから、やっぱり大成功だと思うよ!
曜ちゃんと梨子ちゃんもやり切った顔をしていて、満足が行く出来だったと思う。時々、少しミスはあったけど……。
そして、着替え終えたチカたちは理事長室に何故か呼び出されました。もしかして、何かあったのかな?
そう思いながら、理事長室のドアをノックすると、鞠莉さん返答があり、中に入る。
そこには、鞠莉さんと共に、ダイヤさんもいた。やっぱり、チカたち何かしちゃったのかな?
そんな心配をしていると、ダイヤさんは口を開いた。
「ひとまず、ライブお疲れさまでした」
「いい演技だったわよ!」
怒られるかと思ったら、とりあえずはライブの成功に対しての言葉だった。あれ?じゃぁ、なんで呼ばれたんだろ?
「そして、約束通り満員にできましたね」
「はい。やり切れました」
「でも、もう一つの条件は忘れちゃダメよ」
多分、これがチカ達が呼ばれた理由。スクールアイドル部を立ち上げるのに出された条件は二つあるから、その確認だと思う。
一つは今日のライブで満員にしてライブを成功させること。
そしてもう一つ。
「はい。アイドル研究部の人をちゃんと見つけて説得してみせますよ」
次の投稿は明日か、明後日になります。