夏の夜に昔語りでも   作:アクセンティア

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今回でとりあえず終わりです


夏の夜に昔語りでも3

あれから、俺たちはイベントの終了時間より早めに会場を出て家路についていた。

理由は電車が混むからだ。

現在の時間は一時三十分、イベントの終了時間が2時のためまだ駅にいる人もまばらだ。

イベント終了まで俺の腐っている目のお陰なのか雪ノ下に話しかけてくる輩はいなかった。

帰りの電車でも特に会話もせず、無言だったが不思議と居心地の悪さは感じず、ある意味安心感も感じられた。

繋いでいた手はそのままのため、電車でも嫉妬のような目線が数多く感じられた。

そんなこんなで目的の駅に到着した。駅を出て雪ノ下のマンションを目指して、俺が一歩ほど前を歩いている。

俺の位置では雪ノ下が今どんな表情をしているのか分からない。

いつものような凛とした表情なのか、もしかしたら今日のことを思い出して笑っているのかもしれない。

少したって、雪ノ下のマンションに到着した。これで俺の今回の勤めも終了だ。

 

 

「じゃあな雪ノ下、また月曜日部活で」

 

 

別れの挨拶をして、踵を返して帰路ににつこうとする。

すると、後ろから引っ張られた。

 

 

「おっと」

 

 

突然引っ張られて、ブレーキがかかる。

後ろを振り向くと、雪ノ下が顔をうつむかせて俺の服の裾をつかんでるのが見えた。

 

 

「その、まだお昼食べていないでしょう?だから、良かったら食べていかない?」

 

顔は髪に隠れて見えないが、僅かに見える耳が真っ赤に染まっているのが見えた。

もちろん彼女の誘いを断る理由もなく。

 

 

「お、おう、じゃあ頂こうかな」

 

 

雪ノ下は顔を上げていつも見ることのないような柔らかい微笑みを残しながら、エントランスに歩を進めた。

…………あんな微笑み反則だと思います。

そのあと、雪ノ下の昼食をいただいた。

いつも、家で食べている物を軽く越えておいしかった。

ガツガツ食べている俺を見て、雪ノ下は満足なのか微笑みながら自分も食べ始めた。

そのあと、雪ノ下と一緒にソファーに座りながら、紅茶をご馳走になっていた。

………雪ノ下サン、ちょっと近いような気がするんだけど、いろいろ当たってるんだけど

 

 

「雪ノ下、ちょっと近くないか」

「今日一日は私の恋人役なのだから、当然だと思うのだけど。」

「誰も見ていないからいいだろ」

 

 

なに、別に監視カメラもあるわけもないよね。

 

 

「貴重な休日を使ってしまったのだから、その対価よ」

「いや別に気にしてねえから」

「それでもよ、私が気にするわ」

「わかったよ」

 

 

そこから、他愛のない話をしながら雪ノ下の紅茶とお茶請けのクッキーをご馳走になった。

 

 

「今日のイベントどうだった、雪ノ下?」

「とても楽しかったわ、普段見れない猫も見れたし、そして何より………」

「なにより?」

 

 

雪ノ下は一旦口を閉じ俺をちらっと見て、微笑みながらこう続けた

 

 

「あなたと一緒にいれたから」

「お、おおそうか」

「そうよ」

 

 

雪ノ下の言葉を聞いて、自分の顔が暑くなっているのを感じた。

雪ノ下はそんな俺を見て、クスクスと笑っていた。

 

 

「ねぇ、比企谷君」

「なんだよ」

「外国の猫のところで何を考えていたの?」

 

 

どうやら、考えていたことが顔に出ていたようで雪ノ下はそんなとこを聞いてきた。

しかし、お前に対する思いを諦めた何て言える訳がないので誤魔化すことにした。

 

 

「他の猫はよってくるのにカマクラは寄ってこないのかと思っただけだ。」

「嘘ね、あなたって嘘ついてるとき右の小指が動くのよ」

「えっ、嘘だろ」

 

 

まさか、そんなところに落とし穴があるなんて思っていなかった。

おいこら小指、ばれちゃっただろうが!!

 

 

「嘘よ」

「へっ?」

「カマをかけてみたの、反応から見て嘘ね」

 

 

雪ノ下の策略にまんまと引っ掛かってしまった。

さすが学年一位、いや関係ないか

 

 

「あなた、私の顔を見て悲しそうな顔していたから、私の隣に入られないなんて思ったんじゃないでしょうね」

「んぐぁぁ」

 

 

思わず変な声が出てしまった。

何、学年一位ってエスパーなの?

女子ってエスパーなの?

 

 

「全く、こんなに鈍感だと困るわね…………いい?」

「なんで、あなたに頼んだのか分かる?あなたと二人で出掛けたいから。恋人つなぎしたのもあなたとしたかったから。今こうやってくっついているのも貴方と触れあいたいから。」

「雪ノ下………」

「いくら鈍感でもわかるわよね」

 

 

………俺は本当にばか野郎だ。

何が隣にいられないだ、何が勘違いだ。

現に雪ノ下は俺に近づこうとしてくれている。

ここから、俺が言わなきゃいけないな。

 

 

「雪ノ下」

「何かしら」

「伝えたいことがあるんだ」

「私もよ」

 

 

彼女の伝えたい言葉と一緒であることを祈って、言葉を紡ぐ。

 

 

「雪ノ下」

「比企谷君」

「大好きだ」

「大好きよ」

 

 

二人で顔を見合わせて、微笑む。

いま、俺はとてつもなく幸せだ。

これから、俺と雪ノ下には色々な壁が待っているだろう。

でも俺と雪ノ下ならのりこれられる。

 

 

〜〜〜

 

 

「……と、こんな感じでお父さんとお母さんは付き合い始めたのよ。」

「やっぱり、お父さんヘタレなんだ。」

「おいこら、それだれから聞いた。」

「小町伯母さん」

「あいつ、今度あったら覚えてろよ」

「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

「そうだな、明日はディステニーランドだしな。」

「やったー!楽しみだね、お母さん」

「ええ」

「じゃあ、おやすみなさい、お母さん、お父さん」

「おう、おやすみ」

「ええ、おやすみ」

 

 

娘はあくびをしながら、自分の部屋に続く廊下を歩いていった。

俺と雪乃も自分たちの寝室へと迎いながら、ふと思ったことを雪乃に聞こうと口を開いた。

 

 

「雪乃、今幸せか?」

「どうしたの突然?」

「昔の話を聞いてたら、聞きたくなってな」

「幸せよ、幸せ過ぎて夢じゃないかと疑うくらい」

「そっか、でもまだまだだよな」

「ええ、二人目もできるし」

「ああ、明日張り切りすぎるなよ。」

「わかってるわよ、………八幡、愛してるわ」

「俺も愛してる、雪乃」

 

 

おれたちはまだまだ未熟だ、まだ三十路と呼ばれる年に今年なったばかり。

それに子供だって、二人目もできる。

でも、俺と雪乃と娘ともう一人の家族と一緒ならどんなことでも乗り越えられる。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 




これからも短編をちょこちょこ上げます。

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