では、本編スタートです!
「誰だ!お前たちは!」
そう叫ぶザイルであろう人影にカリンとリュカが見事なコンビネーションの掛け合いを披露する。
「泥棒でーす!」
「いやあ、泥棒はあっちだよ。」
「そう、お前のことや。お前がザイルやな。」
「そうだ!俺様が………」
「指名手配犯発見!カリン、捕まえるよ!」
「ラジャー!」
2人はザイルに向かって跳躍し、ザイルの顔面に同時に拳をめり込ませる。ザイルはその場に倒れこむ。カリンはその胸倉を掴みあげて前後に揺すりながら顔を限界まで近づけて恫喝する。
「オラァ、さっさとフルート返さんかい!ウチはなあ、寒いのが一番嫌いやねん!それがおんどれがフルート盗んたせいであったかくならへんし、わざわざさらに寒いこっちまで出向いてタダ働きせなあかんのじゃ!この責任をどうとってくれるつもりや!?言うてみい!!」
「ひ、ヒィ〜〜!!」
文字通り蒼くなってブルブル震えているザイルが流石に哀れになったのか、追いついてきたベラの手がカリンの肩に置かれる。
「カリン、落ち着いて。それよりリュカ、フルートを!」
「うん!」
リュカは宝箱に手を伸ばすが、その手が何もないはずの空間で勢いよく弾かれた。
「あたっ!」
「え、どういうこと!?」
「バリアか!」
「ふふふ、その通りだ。」
宝箱の上の何もない空間が歪み、中から人影が現れる。半透明の氷でできたドレスに身を包み、肌は雪のように白く、吊り目でスタイルのいい美女であったが、その雰囲気には禍々しさが滲み出ていた。
「我がこやつにフルートを盗ませた雪の女王である。」
カリンは掴みあげていたザイルを手を離して自由落下させ、雪の女王に向き直った。
「動機を聞かせてもらおか。」
「我はそなたと違って冬を愛する。雪と氷の世界でこそ我の美しさが際立つのだ。故に我は永遠の冬を望む。そのためにポワンの元から彼奴に春風のフルートを盗ませたのだ。調子の良い言葉で踊らせてな。」
「ふーん。ま、1つわかったことはあんたが老いに逆らって美を求めるあまり道理をはき違えてる単なるオバハンやっていうことやな。」
その瞬間、雪の女王の表情に亀裂が走った。
「お、オバハン………?」
「自分、よう見たらほうれい線浮いてんで。化粧も濃いし。スタイルも服に肉詰め込んで調節しとるやろ。肌もカッサカッサやし。オバハンはオバハンらしく、若くあり続けることに執着するんや無くて美しいまま老いることを考えた方がええんちゃう?」
「今オバハンと言ったな?」
「おばちゃんに訂正しとこか?」
雪の女王の怒りが爆発した。
「謂れなき侮辱、我にはもう耐えられぬ!小娘!貴様を仲間もろとも氷漬けにしてくれるわ!」
「オバハンのヒステリーは目も当てられんな。」
「ほざけ!!」
雪の女王は凄まじい冷気を発生させてリュカたちに向かって吹き付けた。カリンは転がっているザイルを掴みあげ、リュカとベラとモモを引き連れて柱の陰に避難する。
「ほほほほ、我が冷気に恐れをなしたか!」
雪の女王のそのセリフとともに冷気が収まった所でリュカ、カリン、モモ、ベラは戦闘態勢を整えて雪の女王の前に姿を現した。今度はリュカが啖呵を切る。
「お前みたいなオバサンなんか怖くないぞ!早く春風のフルートを返すんだ!」
「小僧!お前も我を愚弄するのか?」
「もっと簡単な言葉を使ってよ!さっきから難しすぎて何言ってるのか全然わかんないよ!そんなんだからカリンにオバハンって言われるんじゃないの?」
「ほう、そなたはまだ幼く、躾が足りぬようだな。ならば我が代わりに躾けてやろう。」
再び空間が歪み、雪の女王の右手に美しい氷の彫刻が施された杖が現れる。そして雪の女王はその杖でリュカを殴ろうと飛びかかる。リュカは鉄の杖で受け止め、弾き返す。
「ルカニ!スクルト!」
カリンが立て続けに補助呪文を唱える。雪の女王はそれを一切気にも留めずにリュカに襲いかかる。その横からモモが飛びかかり、それに合わせてリュカも鉄の杖を振り下ろすが、リュカの鉄の杖は手で受け止められ、モモは氷の杖で殴打されて吹っ飛んでしまう。
「ベラ!モモをお願い!」
カリンは鉄の杖を掴んでいる雪の女王の左手に向かって矢を放ち、それは見事に命中した。雪の女王はリュカの鉄の杖を思わず離す。
「カリン、サンキュー!」
リュカとベラのホイミで復活したモモが同時に飛びかかるが、雪の女王は氷の杖一本で受け止め、弾く。ベラがギラを放つが、雪の女王の氷の息で無効化される。戦いは激しさを増していく………。
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女王を名乗るだけあって雪の女王の強さは半端ではなかった。まず、リュカたちのあらゆる攻撃が通らず、全ていなされる。そして氷の杖の殴打は激しく、リュカも受け止めるのが精一杯であり、狙い澄ましたヒャドや全体にダメージを与える氷の息はリュカたちの体力を大きく蝕んでいた。
「このままやったらジリ貧やな……。」
カリンはそう冷静にジャッジを下すが、だからと言って攻撃の手を緩めるわけにもいかず、とにかく状況を悪化させないことに心血を注ぐしかない。
そんな戦況を冷静に見つめる目がもう1つあった。カリンの恫喝から精神的再建をようやく果たしたザイルである。
(ちくしょう、俺がアイツに騙されなければこんなことにはならなかったんだ。だからこそ、この状況を何とか打開する手立てを考えないと………)
そんな時である。ベラが雪の女王の氷の息でさらに滑りやすくなった氷の床に足を取られ、転倒してしまった。
「きゃっ!」
それを見つけた雪の女王は襲いかかってきたリュカとモモをベラと反対側に投げ捨て、ベラに向かって冷酷な笑みを見せる。
「そろそろ終わりにしようぞ。」
雪の女王はベラに向かって突進し、氷の杖で殴殺しようとする。カリンが矢を放って牽制しようとするが、簡単に杖を持たない左手で弾かれてしまう。
「ポワンの手下よ、まずお前からだ!」
氷の杖がベラに向かって振り下ろされる。カリンはベラの頭がザクロのように砕ける光景を想像してしまう。
しかし、その杖が振り下ろされることはなかった。柱の陰に隠れていたザイルが投げたザイルの斧は雪の女王の右手の氷の杖を弾き飛ばし、氷の杖は建物外まで飛んでしまう。
「何!?」
「俺を騙した罰だ!思い知ったか!!」
「ふん、お前も役に立たん奴だったな。ならばお前から殺めてしまおう。」
ザイルに雪の女王のヒャドが直撃し、吹っ飛ばされて床に頭を強打したザイルは気を失ってしまう。さらに近づいてザイルを攻撃しようとする。誰もがザイルの死を覚悟したが、その中で名案を思いついたカリンが叫ぶ。
「ベラ!ギラを打って!リュカはタイミング計ってバギ!」
そう言いながらカリンはメラを放つ。そしてその作戦の意図を理解したベラがギラを放つ。
「ふっ、我が此奴を殺す方が早いわ!」
雪の女王は体に冷気を纏わせることでそれらを無効化しようとするが、その時、リュカがバギを放った。
「まさか!」
リュカのバギがメラとギラを巻き込み、炎の竜巻と化して雪の女王に襲いかかる。その風は雪の女王の冷気を突き破って雪の女王に大きなダメージを与えた。しかし、それでも雪の女王は怯んでザイルへの攻撃をやめただけであった。
「かくなる上は頭脳となる要素を取り除くしかあるまいな。」
そう言うと、雪の女王はカリンに襲いかかる。距離的に誰の援護も間に合わないと判断したカリンは矢をつがえようとするが、弓を持つ左手にヒャドの直撃を喰らい、弓を取り落としてしまう。雪の女王は手の平の上にヒャドを留めていつでも放てるようにした状態でカリンに飛びかかった。
「いくらヒャドでも、至近距離でしかも避けられなければ心の臓を突き破るだろうて、ふふふふふふ!」
周りの誰もがカリンの最期を覚悟した。しかし、カリンは余裕の笑みさえ見せ、腰に手を当てている。
「来やがれオバハン!」
「それが遺言か!!最期まで我を愚弄しおって!!」
雪の女王は勝利を確信した。しかし、カリンは体を沈めてヒャドを回避し、腰に差していたもの=リュカに貰ったブーメランを握りしめて雪の女王の脇腹に向かって振り抜いた。
雪の女王の氷のドレスが砕け、さらにその衝撃で雪の女王はバランスを崩して膝をつく。そこへ、飛びかかって来たリュカの鉄の杖が背中を打ちつけ、モモの頭突きが炸裂する。後頭部に頭突きを受けた雪の女王は気を失ってそのままうつ伏せに倒れこんだ。
勝敗は決した。
1番最初のリュカとカリンの掛け合いは某映画のワンシーンをアレンジしたものです。
「薬は注射より飲むのに限るぜ」って言ってわかる人何人いるのかな………。
<次回予告>雪の女王を倒し、ついにフルートの奪還に成功したカリンたち。しかし、それは一つの冒険の終結を意味する。一つの別れが、彼らをまた成長させると信じて。
次回 第18話「桜咲く春の訪れと……」
賢者の歴史が、また1ページ。