昨日の高校野球、智弁和歌山(和歌山)対興南(沖縄)の試合をたまたまテレビで見ていたのですが、とても面白い試合で見ててシビれました。それにしても智弁和歌山の応援歌のジョックロックめちゃカッコいいですね。なんかウォーってなります。
では、本編スタートです!
牢屋の前に現れたのは、先ほどの兵士たちのリーダー格であった男とマリアであった。
「ど、どういうことだ?」
ヘンリーは驚きの事態に目を丸くしている。
「ごめん、ヘンリーには言ってなかったね。その兵士の人がヨシュアさん。マリアさんのお兄さんで、僕の内通者だよ。元々は給料がいいし、マリアさんが光の教団の敬虔な信者さんだったからここに入ったらしいんだけど、どうもここの教義に疑問を感じていたから協力してくれるんだってさ。ま、今回の件は偶然なんだけどね。」
「どうしてそんな大事なこと黙ってたんだよ!」
「てっきりもう言ったと思ってた。」
「調子のいいヤツめ……。」
ヨシュアは牢屋の鍵を開け、2人を外へ出す。そして死体を流す樽の前に2人を連れて来た。
「この水と食料とあんたらが捕まった時の荷物を積んだ樽に乗ってマリアと共に逃げてくれ。」
「あんたはどーすんだよ!」
「俺はここに残る。」
「そんな……兄さん………。」
「ダメなんだ。下に落とすための水門を開けるにはこのレバーを誰かが引かなきゃならん。私ならここでは地位と身分があるから大丈夫だ。」
そう言ってヨシュアは壁にある上下に動かすレバーを指差す。そして、樽置場から水門までは距離がややあり、水門の近くまで樽を流さなければ水門が開いても樽が流れ落ちることはないのだ。
「そんなのダメだよ。その樽なら荷物と人間4人でもギリギリ入るよ。それに、マリアさんが悲しんでる。レバーを引き続けている間はずっと水門は開くんだよね?」
「そうだ。」
「ヨシュアさん、細くて丈夫なロープとテント建てる時に使う穴の空いた杭ある?」
「ある。取ってこよう。」
言われたものを取ってヨシュアが戻って来た。
リュカはレバーを一番下まで引き、レバーの取っ手にロープを結ぶ。そして壁に垂直に打ち込まれた杭の穴にロープを輪っかにして通してピンと張るように結んだ。これでレバーが戻ることはない。
「これでいける!ヨシュアさん!鎧とか全部脱いでこの袋に入れて樽に入って!」
リュカを除いて全員が樽の中に入った。リュカは樽を勢いをつけて押し出し、そのまま樽に向かって跳躍して中に入る。確かにギリギリながら全員が入って蓋を閉めることができた。
リュカが勢いをつけた樽はしっかりと水門近くまで届いて水門を抜け、山肌に沿って作られた傾斜のキツい水路を流れていく。4人は衝撃に揺られながらも耐えぬき、ついに樽は穏やかな外海に流れ出た。4人は身体をよじらせながら食料と水を補給し、三日三晩波に乗って流され続けた。
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サンタローズ。10年前にラインハット正規軍1300名を50名で退けた村だ。だが、戦いの傷は大きく、田畑の多くはダメになり、殆どの家や建物は廃墟となってしまった。再建は容易ではなく、多くの村人がこの地を去った。後に残った20名ほどの村人が、地道な復興作業を続けながら慎ましく暮らしていた。その中に、ラインハット正規軍1300名を文字通り手玉に取った英雄、カリンの姿もあった。
カリンは今日も桜の木の前に立っていた。この桜は、カリンがリュカとモモと妖精の世界の危機を救った際に妖精の村の主、ポワンから貰った苗木が生長したものだった。その桜の近くには、2つの墓石が並んでいる。1つはカリンの母、ユリーナのもの。もう1つは、10年前の防衛戦で、カリンを庇ってサンタローズ側唯一の犠牲者となったマルティンのものだった。カリンは墓の前で手を合わせる。桜は、まだ花芽を付けたばかりだった。村人に呼ばれ、カリンは復興作業に戻っていく。その笑顔には、濃い影がこびり付いていた。
「カリン、またあの辛そうな笑顔をしてるわね。」
今年で27歳を迎える村唯一の聖職者、シスタールカが、大きくなったお腹をさすりながら夫に呼びかける。
「やっぱり父さんのことまだ引きずってるのかな?」
そう答えたルカの夫は、マルティンの息子であり、10年前には八面六臂の働きを見せたスコットである。妻より4歳の年長であった。
「パパスさんも、リュカも、モモちゃんも帰ってこないもんね。相当無理してると思う。」
「昔みたいにニカーッって笑うカリンが見たいな。」
「うーん?誰や?人の噂話してんのは?」
驚いて振り返ると、カリンが佇んでいた。
「い、いやいや、噂なんてしてないよねー?」
「そ、そうだよ。桜まだ咲かないかなーって話してただけだよ、あははははは」
すると、カリンはやはり寂しげな顔をして話す。
「ゴメンな、心配かけて。ウチもほんまは昔みたいに笑えたらええなあって思うねんけどな。でも、どんなに気にすんなって言われてもマルティンさんはウチのせいで死んだって考えてまうし、リュカ達のことも不安に思ってまうねん。」
「カリン………」
「さ、この話はここまで。スコットさんはこっち手伝って。ルカさんもお腹の子に障るから早く休むねんで。」
そう言い残してカリンは復興作業に戻っていく。ルカは神に仕える聖職者でありながら、この時ばかりは神の至らなさを呪わずにはいられなかった。
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リュカが目を開けると、そこは知らない天井だった。
「お、リュカ、気がついたか。」
目の前には清潔な服を着たヘンリーがいた。
「ここはどこだい?」
「詳しくは俺も分からねえけど、どこかの海辺の修道院だよ。もう他の2人は起きてるぜ。シスターの話ではこの浜に打ち上げられた時は全員気を失っていたらしい。今日は3月28日だ。あそこを出てから5日。この浜に打ち上げられてから丸1日ってとこだな。」
「そうなんだ。とにかく、みんな助かったんだね。」
「ああ。それよりこのリンゴ食えよ。美味いぜ。」
リュカはヘンリーが器用に剥いたリンゴを口にする。
「あー、長らくリンゴなんて食べてなかったな。こんなに新鮮な味がするんだ。」
「俺らもだいぶ悪食に慣れちまったからな。あのシチューの酷さといったらありゃしねーからな。」
「ははは、その通りだね。」
「よし、食ったな。歩けるか?」
「問題なさそうだけど、どうしたんだい?」
「実はな、もうそろそろマリアさんの洗礼が始まるんだ。ここのシスターになるんだってよ。」
「ヨシュアさんは?」
「本人は何も言ってないから詳しくは分からないけど、この修道院の貴重な男手として重宝されてるし、マリアさんもここに残るわけだからここに残るんじゃないか?」
「………ヘンリーは?」
「おいおい何疑ってんだよ。お前について行くよ。お前の親父さんの仇を討ちたいのは俺もなんだぜ。」
「ありがとう。疑って悪かったね。」
「まあいいってことよ。さ、そろそろ行こうぜ。マリアさん、普通の環境に戻ったらめちゃめちゃ綺麗なんだぜ。」
「ま、美人な雰囲気は奴隷の服でも出てたけどね。」
リュカは実におよそ10年ぶりにフカフカのベッドから起き出した。
マリアの洗礼も終わり、脱出した4人は1つのテーブルを囲んで今後について話し合う。
「私はここで今も働かされている奴隷の人たちや、あの場所で亡くなられた人たちに祈りを捧げるつもりです。」
「私もしばらくここにいよう。ここの修道院は男手が無いから、色々と頼まれごとを抱えていてな。それが済んだら済んだでまた考えることにしよう。」
「僕はヘンリーと明日にはここを出るよ。どうやら10年前と違ってここからサンタローズまで歩いて行けるみたいだし。」
この修道院は、サンタローズのある半島のすぐ南に位置する島の南西端に立っている。ここから北へ向かうとオラクルベリーという街が存在しているのだが、以前は半島とこの島には橋が架かっておらず陸路での移動は不可能だったが、8年前に橋が完成したお陰で陸路での移動が可能になったのだという。苛政で疲弊したラインハットからこの島に多くの人が流れ、オラクルベリーは急速に発展しているそうだ。
ヘンリーがまとめるように一座に声をかける。
「ま、これから自由な空の下で生きていけることを祝って、まずは乾杯しようぜ。」
残りの3人は頷き合う。そして、この修道院で取れた茶葉で淹れられた麦茶の入ったグラスを手に取った。
「自由に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
万感の想いが籠もったヘンリーの音頭に合わせて四つのグラスが涼しげな音を立ててぶつかった。
高校野球ってプロ野球とは違った面白さがありますよね。両方大好きですけど。
<次回予告>ついに旅立ちの時が訪れた。修道院を離れてオラクルベリーに向かったリュカに意外な才能があることが発覚する。
次回 第25話「魔物使いの覚醒」
賢者の歴史が、また1ページ。