では、本編スタートです。
洞窟からの帰還を果たしたカリンとリュカとヘンリーはカリンの家で夕食と風呂を済ませた後、天空の剣をテーブルの中央に置き、それを取り囲むように座ってこれからのことを話し合っていた。
「オラクルベリーの占い師に西に行けって言われてるんだよね。だから何とかしてビスタの港から船を出してもらわないと。」
「やけど戒厳令でビスタの港は閉鎖中や。無理矢理港に行っても船がない。」
「戒厳令を撤回させねーと埒があかないという訳だな。」
「そゆこと。それでな、この前ラインハットにおる知り合いから手紙が届いたんや。」
「知り合い?誰?」
「まあ見てみ。」
カリンは引き出しから1枚の便箋を取り出し、テーブルの上に広げた。
"親愛なるカリン殿。
この度私の独自の調査による結果、まだ疑いの段階ではあるが非常に興味深い仮説が立ったので、お知らせしようと思った次第である。
カタリナ太后の周辺を洗い出した結果、ヘンリー殿下が行方不明になられる少し前からそれまで普通の皇后であらせられたのに対して急にお人柄が変わられたとのことだ。さらに好みの食べ物も変わったそうで、それまで好んでお召し上がりになっていた魚を食べなくなり、肉食が急に増えたそうだ。昔からのお友達の顔を忘れられたり、最近は息子のデール陛下まで疎んじられているご様子である。
以上から判断すると、ある仮説が私の頭に浮かんだのである。
太后陛下は偽物である。
物的証拠は何もないので表立った行動はできないのだが、最近はデール陛下を廃する計画が進行しているという噂を耳にし、危機感を募らせたため、こうして書簡にてお知らせした次第である。
元第3師団師団長 イワン"
「何だって!?」
ヘンリーは驚きの声をあげた。
「あんたから見た太后はどんな感じやったん?」
「10年会ってない俺が言っても説得力はないかもしれんが、あの親バカがデールを見捨てるとは思えないな。」
「偽物説が濃厚になってきたね。どちらにしろ、ラインハットに行く必要があるよ。」
「そういえば現国王のデールってどんな人なん?」
「僕が見た感じだと、優しくて賢そうだったけど、ちょっと気弱な感じがしたね。」
「その評価で大体あってる。昔は俺のことを兄さんって呼んでくれてたな。」
「何とかデール国王に会えたら活路開けるんちゃう?」
「そうだな。リュカ、明日ラインハットに行ってもいいか?」
「もちろんだよ。」
「おいコラ、ウチを除け者にするつもりはないやろな?」
「いや、関係ない人を巻き込むわけにはいかない。これは俺がケリをつけるべきだ。」
「あら〜、それはしゃあないな〜〜って言うとでも思ったかボケ!出発は明朝な!おやすみ!」
カリンはそう言うとさっさと布団に入ってしまった。
「お、おい………」
「まあまあヘンリー、どれだけ言っても付いてくるよ。僕も置いていくつもりなんかさらさらないし。」
「で、でもよ……」
「うんうん、惚れた女は危険なところへは連れて行かないか。気持ちだけはわかるよ。」
その瞬間、ヘンリーはフリーズした。
「な、な、何故それを………」
「見てりゃわかるよ。奴隷の時から気になってたんだよね。あ〜〜、ヘンリーもちゃんと大人になったね〜〜。」
「舐めてるのか!俺だってもう17だぞ!年下に大人になったとか言われる筋合いはねー!」
「ほらほら、そんな大声出したらカリン起きちゃうよ。」
ヘンリーは声を潜めて恐る恐る尋ねた。
「お、お前はカリンの事どう思ってんだよ?」
「うーん、家族だね。頼れるお姉さんって感じ。恋愛感情はないかな。向こうもそうなんじゃない?」
「前言撤回する。そこまで自分の気持ちの整理がつくお前はやっぱり大人だな。」
「まあね。カリンに奴隷になる前に言われたんだ。人の気持ちが汲み取れる大人になれって。僕はそれを実行してるだけだよ。」
「………」
「さ、僕たちも寝よう。明日は忙しくなるよ。猛烈にね。」
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翌朝、リュカたちはラインハット城を目指して東進を開始した。戦闘はある程度仲間になった魔物に任せてできるだけ体力を温存しながらの旅路となった。
「いや〜、皆さん大活躍やな〜〜。楽でええわ〜。」
「本当にそうだね。」
装備品は基本的にサンタローズの武器屋に無償で譲り受けた、決してランクの高いとは言えない装備品ながらも彼らは堂々たる戦いぶりで魔物をなぎ倒していく。
「難関は川の関所だね。」
「最近は通行証無いと通られへんらしいからな。ヘンリーが10年も奴隷になってなかったら顔パスでいけたのに。」
「そうだな。馴染みの兵士なんて残ってないだろうし、今の俺を見て判別してくれる保証なんてどこにも無いからな。」
「あ〜、何の対策も決まらんまま関所見えてきてもうた〜。最悪強行突破やな。うん。それで行こう。」
カリンは箙から矢を取り出してつがえようとする。
「まあまあ落ち着こうよ。一縷の望みが無いわけじゃ無いんだし。」
「チェーンクロス取り出してやる気マンマンなリュカにだけは言われたないわ〜。」
「とりあえずスラリン、ブラウン、ドラッチ、ご苦労さん、馬車に入ってな。」
ヘンリーの誘導に従って魔物たちが馬車に入っていく。ヘンリーも自分のチェーンクロスをいつでも取り出せるように半分ベルトから抜いておく。そして、一行は川の下を通るトンネルの入り口の関所に到達した。
当直の兵士が一行を呼び止める。
「おい、お前たち、太后陛下の通行証は持っているか?」
((あーあ、こりゃやるしかないな。))
リュカとカリンが同時にそう思った時だった。ヘンリーがある事に気付いたのか、その辺の草むらを何やら掻き分けている。
「おい!通行証はどうした!通行証が無い以上ここを通すことは出来ないぞ!それにそこの緑頭!何をしている!」
その時、ヘンリーが何かを捕まえ、手で包む。
「何してるかって?これだよ。」
ヘンリーはゆっくりと包んでいた手を開いた。そこに居たのは………
「ぎ、ぎゃああああああ!!」
それを見た兵士は急に狼狽えて騒ぎ始めた。カリンが手の中を覗き込むと、アマガエルがヘンリーの手の中にちょこんと座って居た。ヘンリーはカエルを持って兵士に近づいていく。
「ん?まだカエルは苦手なのか?偉そうにふんぞり返ってるからもう克服したのかと思ったぜ。やっぱりお前が寝てる布団の中に入れた時が一番傑作だったな。あの時お前はベッドから飛び上がってもら「あああああ!!何も知りません何も聞こえません!!」
「え?漏らしたん?」
カリンが兵士の喚き声にかき消された部分をあっさりと補完した。
「ぐ……人の心の傷を抉りおって…………」
「やっぱり気にしてたのか、トム。あん時はガキで悪かったよ。」
「な!?貴様、何故私の名前を知っている!?それにカエルのことだって私とヘンリー殿下しか………まさか!?」
兵士がまさに幽霊を見たような表情で緑頭の男を指差した。
「へ、ヘンリー殿下…………?」
「やっと分かったか。そうだ。俺がお前の布団の中にカエルを入れてお前をチビらせたヘンリーだよ。」
「ヘンリー殿下なのですね!まさか生きておらられたとは…………。」
自分を認識してくれた事がわかったヘンリーはカエルを放した。
「お懐かしゅうございます。あの頃の我が国は楽しかったものです。ヘンリー殿下のイタズラには散々迷惑しましたが、あれも国を明るくしていました。しかし、今の我が国は…………」
「心配するな、トム。俺が今からこの国をもう一回あの頃みたいな平和で暖かな国に戻してやるよ。」
「しかしヘンリー殿下!今の我が国は普通ではありません。危のうございます!正体が露見すれば間違いなく捕らえられて殺されてしまいますぞ!」
「バーカ。俺だってあの頃から少しは成長したんだ。うかうか捕まって死ぬつもりなんてさらさら無いし、ラインハットを本道に戻すことができるのは王族の俺の他に誰がいる?」
「殿下………。」
「さ、トム。通してくれるな?」
「…………もちろんです。そこまで覚悟を持って戻ってこられた殿下をカエルにビビっている程度の私には止めることなどできません。どうか、我が国ラインハットをよろしく頼みます。それと、川の向こうは10年前に比べて魔物も強くなっております。どうかお気をつけて。」
「もちろんだ。ありがとな、トム。」
こうして一行は川の関所を通る事に成功した。目指すラインハットは、目と鼻の先である。
<次回予告>遂にラインハット城下町に乗り込んだリュカ一行は既に引退して城下町で暮らしている元第3師団長のイワンと接触する。そして、事の真偽を明らかにするため、リュカ一行は城に乗り込むことを決意する。
次回 第30話「渦中へ」
賢者の歴史が、また1ページ。