最近ようやく涼しくなってきましたね。やっと秋が来たか。しかし今週末は台風直撃とのこと。日曜日に文化祭があるのですが、どうやら月曜に延期になりそう………。
では、本編スタートです!
4月6日の昼下がり。ラーの鏡を求めて旅を続けたリュカ一行はリュカとヘンリーが10日ほど前に10年の過酷な奴隷生活から逃れて流れ着いた海辺の修道院についた。春の暖かな陽射しが一行の凱旋を祝福しているようだった。
「あれから10日しか経ってないとは思えねーな。」
「ほんとだね。毎日の密度が濃かったからね。」
「静かなええとこやな〜。」
魔物達を馬車に残して一行は修道院の門をくぐった。ちょうどそこには大きな荷物を運んでいるヨシュアがいた。
「ヨシュアさん!」
「ん?おお、お前達か!久しいな!それでも10日ぶりくらいか。ともかく、元気そうで何よりだ。」
「はい。ヨシュアさんも元気そうで何よりです。」
「しかし、綺麗な女の子を連れて一体どうしたんだ?まさか結婚式でも挙げるのか?」
「いやいや、ちょっと用事のついでに立ち寄っただけですよ。修道院長はいらっしゃいますか?」
「わかった。呼んでこよう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数分後、少し暗い表情のリュカだけが食堂に通された。本来ならヘンリーも呼ばれるはずだったが、ヘンリーは疲れが溜まっているとのことで、カリンと共に客室に通され、休んでいる。食堂には修道院長に加えてヨシュアとマリアもいた。
「修道院長、マリアさん、お久しぶりです。」
「そんなに時間は経っていませんけど、それを久しぶりと感じているということは良いことです。さて、何用でしょうか?」
「実は、ラーの鏡についてお聞きしたいと思いまして。」
「ラーの鏡ですか。」
「はい。色々と伝承は聞いたのですが、まだ肝心な塔への入り方がわからないんです。心の清らかな者にしか扉は開かれないということまではわかったのですが……。」
「なるほど。事情は分かりました。とにかく今日はゆっくりしていきなさい。塔の魔物はとても強力です。十分に英気を養うと良いでしょう。塔へはマリアを遣わします。」
「えっ!?私なんかが行ってもよろしいのですか?」
「ええ。心の清らかな貴女には十分その資格があるはずです。それに貴女はいつまでもここに留まっているような人ではありません。ヨシュアさん、貴方もです。」
「はっ!?私もですか!?」
「その通りです。こんな所で世捨て人になっていてはいけません。マリアさん、セントベレスの人々への祈りなど別にここでなくても出来るわけですし、ヨシュアさんもその武芸を他のところで役立てるべきです。2人は幸せにならなければなりません。
しかし勘違いしないで下さい。伊達や酔狂では幸せを掴むことはできませんし、それを維持するためには不断の努力がなければなりません。ここは幸せを掴むコツを掴むためにうら若き乙女が花嫁修行をし、幸せを掴めなかった私たちのような人間が花嫁修業の手伝いをし、救いを求めてやってくる人に方向性を与える場所なのです。あなた方がここにいる理由は無くなりました。今こそ、人生の本道に立ち返る時です。」
「「………。」」
兄妹は考えこむ。やがてマリアが意を決した。
「わかりました。神の塔へ赴きます。院長、今までお世話になりました。」
それを見てヨシュアも決心する。
「私はリュカ達の旅のお手伝いをしましょう。ここでの生活の穏やかさは良い滋養となりました。元々はリュカの機転がなければ失っていた命。恩返しをせねばならん。」
「さあ、そうと決まれば今晩は送別会ですね。私がこんな言葉を使うのもなんでしょうが、パーッと盛り上がりましょうね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リュカ達が食堂で会談を行っている頃、ヘンリーとカリンは2人で客室で待たされていた。カリンはヘンリーとリュカの奴隷時代の生活やここで過ごした時間についての話を聞きながら出された茶をすすっていた。
「なんであんたは呼ばれへんかったん?」
「知らねーよ。」
しかし、ヘンリーは知っていた。これが親友の気配りであることを。実はヘンリーも食堂での会談に参加するはずだった。
"せっかく2人きりになれるんだから、ちょっとは距離縮めなよ。話し合いは僕が綺麗に纏めとくからさ。ファイト!一目惚れ王子!"
相変わらず一言多かったが、聡い親友を持てたことを少し誇らしげに思う自分がいた。親友がくれたチャンスを無駄にはできないも思ったヘンリーはカリンに何気なく話しかける。
「あのさ………良かったのか?サンタローズを飛び出してきて。」
「あそこは後ろを振り返る場所やからね。ええとこやしずっとおりたいと思うけど、何かを変えるためには動いた方がええと思って。」
「そ、そうか………。」
「てか何あんたどぎまぎしてんの?」
「ど、どぎまぎなんかしてねーよ。」
(惚れてる女と2人で喋ってんだぞ!どぎまぎするに決まってるだろ!………とにかくここで一番まずいのは俺がカリンに惚れてることを悟られることだ。とにかく普通に会話しねーと。)
しかしその直後、ヘンリーは自分の足下にダイナマイトを設置することとなる。
「そー?まあええけど。」
「ところでさ、お前ってリュカのことどう思ってるんだ?」
「どうって言われてもな〜。ま、可愛い弟かな。あんたが疑ってるような関係じゃないわ。」
「そうか。」
ヘンリーは安堵のため息をついた。聡いカリンがこれを見逃す訳がなく、追及を開始する。
「え?何あんた安心してんの?」
「へ?あ、安心なんかしてねーよ!」
「落胆のため息にしてはガッカリ感がなかった気がすんねんけど。まさかあんたウチに惚れてるとか言うんちゃうやろな?」
カリンは完全にジョークでその台詞を言い放った。しかし、それを聞いたヘンリーは図星を突かれて完全に硬直してしまった。顔からはしきりに冷や汗が吹き出している。自分の足下のダイナマイトが炸裂した。
「……………嘘やろ?」
「…………………………。」
その時、2人がいた客室の扉が開かれた。2人きりになってから1時間程経った頃である。
「出発は明日だって!今から皆んながパーティーを………どったの?2人とも?」
「「…………………………。」」
「喋れよ!てか時間ないから早く下に行こうよ。皆んながパーティーの準備して待っててくれてるんだよ!」
「……………取り敢えず行こうぜ。」
「…………うん。」
とは言いつつ2人は椅子に座ったまま動こうとはしなかった。両者とも額に汗を浮かべて考え込んでいる。
(あ〜〜〜!!やっちまったよ!!一番やっちゃダメなことやっちゃったよ!!いくら図星突かれてもフリーズとか"はい"って言ってるようなもんじゃねーか!!もうダメだ。確実に嫌われた…………。)
(は?ありえへんし!なんであいつウチなんかに惚れてんの!?確かにそんな雰囲気は出してたけどさ!カマかけただけでフリーズするとかどんだけ純情やねん!恋愛経験が前世でほぼないからこういう時どうしたらええかわからへん!!言い寄られることはあったけど燃えるような恋はしたことない!!どうするんが1番ヘンリーが傷つかんのかな?なんでこういう時に限ってモモおらんねん………)
「2人とも何赤くなってるの!?皆んな待たせてるから早く行くよ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カリンはここの修道院のメンバーと会うのは初めてだったが、送別会をする中ですぐに打ち解けることができた。清楚を絵に描いたようなマリア、ちょっと強面ながら気さくなヨシュア、人生を達観している冗談好きな修道院長、年相応にはしゃぐシスターたち。酒もこの世界では初めて飲んだ。久々のワインは結構美味しかった。そこへヘンリーか近づいてきた。
「よ、よう。た、楽しんでるか?」
引け目と緊張でヘンリーはガチガチになっていた。カリンも似たような状況ではあったが。
「え、うん。そ、それよりさっきのことやねんけど。」
ヘンリーの顔が朱に染まった。そして固唾を呑む。
「ほ、惚れたとか急に言われてもウチあんまりそういう経験ないからな、あんたのことどう思ってるかとか全然わからへんねん。だ、だからさ、まず友達から始めへん?すでに友達みたいなもんやけどさ。そっからどうするか考えるわ。別にあんたのこと嫌いやないし。」
「そ、そうだよな。わ、悪りぃ。混乱させちまったな。」
「ごめんな、あんたの気持ちに応えられへんくて。」
「嫌われてないんだったら良いか。」
「取り敢えず乾杯しとこか。」
カリンとヘンリーのグラスは軽やかな音を立ててぶつかった。
翌朝、ついにカリンたちはマリアとヨシュアを加えて神の塔へ向けて出発した。
<次回予告>マリアとヨシュアを加えたリュカ一行はついに神の塔の前に立った。マリアの乙女の祈りによって扉に取っ手が現れたものの、何をしても扉が開かない。果たして、リュカ一行はこの仕掛けの種を見破れるのか?
次回 第33話「絞り出せ知恵」
賢者の歴史が、また1ページ。