「それではリュカ、ヘンリー、ヨシュア、マリア、そしてカリン。みなさんお元気で。」
翌朝、春の暖かな陽気の中で一行は修道院長の見送りを受けていた。ヨシュアとマリアもあらかじめ買い揃えていた旅装束に身を包んでいる。
「取り敢えず魔力だけ見ておきます。…………カリンは吹雪や炎の攻撃を緩和するフバーハと鉄の塊となって敵の攻撃を一切受け付けなくするアストロン、味方の攻撃力を大幅に増すバイギルトを、リュカは巨大な竜巻を起こすバギマを、ヘンリーは魔除けの効果があるトヘロスを習得しています。それではみなさんの旅路に神のご加護があらん事を。」
海辺の修道院を発った一行は南東に進み続け、日が落ちる頃に神の塔を見据える位置に到着した。山賊ウルフ、クックルー、まどうしなどの強力な魔物が立ちはだかるようになったが、ピエールとヨシュアの戦闘能力は非常に高く、リュカとカリンとヘンリーはかなり楽をすることができた。神の塔の攻略は明日へ回してこの日は野宿をとる。
「ヨシュアさん、強いですね。びっくりしちゃいました。」
「いやはや、それ程でもないさ。これしか取り柄もないしな。」
そう言ってヨシュアは鉄の槍を誇らしげに掲げる。マリアは既に仲間の魔物たちと仲良くなっており、魔物たちに子守歌を聴かせていた。
「ピエールも本当に強かったね。」
「お褒めに預かり、光栄の極み。」
「てかさ、神の塔って名前ついてるけど魔物とか入れんの?」
「あの中にはかなりの魔物が巣食っていると修道院長が言っていた。野生の魔物が入れるんだから改心した魔物も入れると思うが。」
「げー。あんな高い塔を階段で上り下りせなあかんのに魔物ともやりあうん?めんどくさ〜。」
「そう腐るなよ。苦しいのは皆んな一緒なんだからな。さ、さっさと寝て英気を養おうぜ。」
「そうだよカリン。不機嫌と夜更かしは美容に悪いんでしょ?」
「はあ、リュカも言うようになったなあ〜。昔はあんなに純粋無垢やったのにな〜〜。」
「取り敢えず寝ようぜ。見張りは俺がやっとくよ。ピエール、途中で起こすから代われよ。」
「承知した。」
(そうやねんな〜〜、ヘンリーって意外と男気あるし優しいねんな〜〜。)
「明日は忙しくなるね。」
「せやな。モーレツにな。」
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夜が明け、一行はついに神の塔の麓に立った。リュカは扉の前に立つ。しかし、その扉に取っ手らしきものは見つからなかった。無理矢理押してみるが全く微動だにしない。
「う〜〜ん、やっぱり開かないね。じゃ、マリアさん。」
「私で務まるかどうかはわかりませんが………。」
促されてマリアは扉の前に立った。そして膝を折り、天に祈りを捧げる。すると空から光の柱が降り注ぎ、扉の中央に縦に二列に多数の立方体の取っ手らしきものが現れた。
「さすがマリアだな。では、行こうか。」
ヨシュアが取っ手を掴んで扉を開こうとする。しかし、押しても引いても引き戸のように動かしても扉は開かなかった。
「なっ!どういうことだ!?開かないぞ!」
「嘘つくなや。ほれ、うちがやるわ。」
しかし扉は開かない。
「は〜〜。やっぱりうちの心は汚いねんな〜〜。」
「これはマリアさんしか開かないのかな?」
しかし、マリアがやっても扉は開かなかった。
「どういうことなんだ!?」
ヨシュアが頭を抱えてしゃがみこむ。他の面々も大きく肩を落とした。そこへリュカが近づいていく。
「おいリュカ、お前、マリアさんより心が綺麗な自信でもあるのか?」
「大丈夫だよヘンリー。そんなに自惚れちゃいないよ。でもみんなより観察力には自信があるんだよね。」
「どういうことだ?」
「さっきカリンがガチャガチャやってた時に微妙に扉が動いてたんだよね。…………上下に。」
「なんだと!?」
「だからね………」
リュカは下の方の取っ手を逆手で掴み、扉を上へ跳ね上げた。すると扉は上へ持ち上がった。
「こういうこと!」
扉はシャッターのような構造になっていたのだ。
「この塔の設計者性格悪っ!この上魔物おるとかマジないわ〜〜。」
「修道院で聞いた伝承の一つに"目に見えるものが全てではない"とありましたが、こういうことですか。」
「これはなかなか楽をできそうにないね。じゃ、行こうか。できるだけ早くラインハットに戻りたいしね。」
かくして一行は神の塔内部に侵入した。どでかい盾と剣を持った紺色の鎧の魔物・さまようよろい、緑肌の踊り子のお化け・エンプーサ、ダークアイ、ダークアイの色違い・インスペクター、エビルプラントらの魔物の強力な魔物を四苦八苦しながら討伐する。ワンフロアを毎回端から端まで歩かされ、時には中央の吹き抜けと通路を仕切る壁のわずかな幅の道を壁にへばりつきながら進んだり、宝箱の中身がしょぼかったりしながらも着実に塔を登っていった。
「なんなんだよこの塔!おかしいだろ色々!」
1番最初に発狂したのは意外にもカリンではなくヘンリーだった。かといってカリンが冷静を保っているわけでもないが。
「ヘンリー落ち着いて。とにかく登るしかないんだから。」
「うるせー!愚痴ぐらい許せよ!」
「ま、まあね。気持ちは分かるよ。」
「カリンだってそう思うだろ!?」
振られてカリンは怒りをぶちまけた。
「ほんまそれな!時々わけわからんとこ歩かされたりいちいち階段上がんのにフロアの端まで歩かなあかんかったりするのはまあええわ!魔物が強いことも良しとしたろ!でもな、いくらなんでも宝箱ショボいのはあかんわ!!何よりもそれが1番腹立つ!!」
「まあまあヘンリーさん、カリンさん、私も十分に腹が立っています。若くて血気盛んなのは結構なことだ何よりもラーの鏡を持ち帰ることが先決だろう。ここは我慢だな。幸いもう少しで最上階のようだ。あと一踏ん張りだ!」
年長者のヨシュアが宥める。すると急にヘンリーがけろっとした。
「ふぅー。これでカリンもガス抜きできたんじゃない?」
「へ?」
カリンが驚いたように言う。
「当たり前じゃん!俺がこれくらいで発狂するかよ。あの奴隷地獄に耐え抜いたんだぜ。ちょっとやそっとの嫌がらせなんか気にも留めねーよ。カリンが暴発しそうだったから怒気の抜け穴を作ってやったんだよ。」
「…………見透かされてたんがなんか腹立つけど、取り敢えずありがと。ええストレス発散になったわ。」
「そりゃどうも。」
(え?ヘンリー何気に優しいやん。これはポイント高いわ〜〜。)
カリンのヘンリーに対する好感度が上がった。
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ついに一行は最上階に辿り着いた。吹き抜けを挟んだ反対側のフロアには台座が設置されており、ラーの鏡が神々しい光を放ったまま安置されていた。しかし………
「下から覗いてる時から気になっててんけど、ここ、床空いてるよな!」
一行が登ってきた階段からラーの鏡がある台座までは吹き抜けを貫通するようにおよそ30メートルほどの人2人が通れるくらいの太さの橋(とはいっても、手すりも何もなく石を組み合わせた足場が伸びている。)が架かっていた。しかし、その橋の中央が7、8メートルほど欠けているのだ。
「そうなんだよね。それを気にして装置か何かがないか気を配りながら進んでたんだけど、それらしきものは何処にもなかったんだよね。さて、どう渡る?」
「取り敢えずさ、ドラッチ空飛べるじゃん。やらせてみたらどうだ?」
それを聞いてドラッチが空をパタパタと飛んで橋の中央へ向かう。すると、その手前で急に何かにぶつかったかのように進まなくなった。しばらくジタバタしていたが、やがてこちらにションボリした様子で帰ってきた。
「魔物だからダメなのかな?」
「いや、どっちかと言うと空を飛ぶのがアウトなんだろ。でもあの距離を飛び越えれる自信はないしな……。」
するとカリンが何かに気づいたかのように手を叩いた。
「逆転の発想で行こか。」
するとカリンはスタスタと橋へ向かって進んでいく。そして、石の橋が切れるギリギリ手前に立った。
「取っ手が現れたからって扉のように開くとは限らない。
ほんで、目に見えるものが全てでもない。」
カリンは何もない空間に足を踏み出す。
「よせ!やめろ!」
ヘンリーが制止する。しかし、降ろされたカリンの足はしっかりと何もない空間を踏みしめていた。そのままカリンは歩を進め、何もない空間の中央に佇む。
「な?」
驚きのあまりフリーズしている一行を尻目にカリンはさらに進み、対岸にたどり着く前に……………落ちた。
「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜!」
残っていた全員が青ざめた。
<次回予告>遂にラーの鏡を入手したリュカ一行は、来た道を引き返してラインハットに戻る。しかし、ラインハットでは変事が起こっていた。その知らせを聞いたリュカ一行はラインハットへの帰途を急ぐが………。
次回 9月29日金曜日午後9時3分投稿 第34話「2度目の凱旋」
賢者の歴史が、また1ページ。