では、本編スタートです!
カリンに遅れること2日、5月15日朝にヘンリーもサンタローズに到着した。
「ヘンリー!久しぶりだね!」
「ああ。今までずっと一緒だったから余計にそう感じるな。元気してたか?」
「うん。」
まずは10年来の親友であるリュカが出迎える。魔物たちや村の人々からも歓迎を受けたが、カリンだけが現れない。
「カリンはどうしたんだ?」
「え?いないはずないんだけど。どこ行ったのかな?」
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カリンは妖精の村から持ち帰った桜の大木の裏で顔を赤くしていた。
(うわなんかばり緊張してきた。なんか意識しだしてからヘンリーの顔見ただけで恥ずかしくなる〜!そうか!これが恋か!前世やったら何の感銘も受けへんかった少女漫画の胸キュンの意味が今になってやっとわかった〜〜!嬉しくはないけどな!)
「カリン…………。」
「!!ヘンリー……-」
1人で物思いに耽っていると、いつの間にかヘンリーが目の前に立っていた。
「ひ、ひさしぶりやな。」
「何緊張してんだよ。てか俺が来るのは嫌だったのか?こんな所でコソコソして。」
「ち、ちゃうし!全然ちゃうし!」
「………ちょっと話があるんだ。」
ヘンリーに連れられて2人はサンタローズの丘に腰かけた。10年前にビスタの港からやって来るパパスとリュカを発見した場所である。
「な、何や話したいことって。」
「何でそんなに余所余所しいんだよ。ラインハットにいた時はもっと普通に喋れてただろ。」
(お前の顔が恥ずかしくて見られへんねん!)
「べ、別に………。」
「何だ?熱でもあるのか?」
そう言ってヘンリーがカリンの額に手を当てる。その瞬間、カリンの中で何かが爆発し、茹で蛸になって顔を伏せる。
(わ、恥ずかしい!やめろ!)
1人でパニックに陥っているカリンはヘンリーも顔を赤くしていることに気づかなかった。
(さ、触っちゃったよ俺。変に思われたかな?)
「だ、大丈夫やし。」
「そ、そうかよ。」
「「……………。」」
二人は無言になる。その様子を陰から見守っていたリュカがため息交じりに同じく隠れているヨシュアとスコットに無声音で話しかける。リュカは本当は1人で見届けたかったのだが、2人がリュカを見つけたため、現在の状況となっている。
「いやあ、何かこうワクワクしますね。」
「いやあ、俺もルカに告白される時はあんな感じだったけどな。そうか、他人事になるとこんなに面白いものだったんだな。」
「私はワクワクすると同時に焦れったく思うけどな。」
スコットは懐かしそうに、ヨシュアはやや苦々しく返す。
「どっちから行くと思います?告白。」
「私はヘンリーに一票かな。こういうのは男が行かんと示しがつかんしな。そういうスコット殿はどうなんだ?」
「僕の時は想いを寄せていたのは僕が先でしたけど、告白したのはルカの方でしたからね。カリンも意外と純情だから先に行くんじゃ無いですかね?リュカはどう思う?」
「じゃあ僕は間をとって二人同時にしますよ。なんなら賭けますか?」
「よし、乗った!勝った奴に割り勘で1杯驕りだ。」
「俺も乗ります!」
「そうなるとリュカが一番確率が低そうだな。」
「これでも自信は有りますよ。あ、何か言うっぽいですよ!」
三人は黙って二人のやり取りに注視する。その周りにはいつの間にかカイルを抱いたルカを始めとして村人の全員が集まり、サンタローズの英雄の恋路の行方を見守っていた。
「そ、そうや。話ってなんなん?」
「そ、そうだったな。」
「あ、実はウチもあんたに伝えたいことがあんねんけど。」
「先に言うか?」
「や、やっぱええわ。あんたが先に言いーや。」
「何だよ。お前が割り込んで来たんだからお前が言えよ。」
「大したことちゃうし、あんたからどうぞ。」
「何だよ、水臭いぞ。」
「…………ここはせーので言わん?」
「い、いいけど………。」
「…………せーの!」
「「好きです!付き合ってください!!」」
2人は顔を真っ赤にして見事にシンクロした。
「「えっ!?話ってそれ!?」」
驚いた表情を作りながらもまた2人はシンクロする。そしてまた顔を真っ赤にして沈黙した。先に精神上の再建を果たしたヘンリーが沈黙を破る。
「逆に何の話だと思ったんだよ。」
「い、いや、これからのことちゃうかなって。そういうあんたは?」
「いやさっぱりわからなかった。」
「あ………そう…………。」
「……………。」
2人の間に再び沈黙が降りたが、どちらからともなく笑いが零れた。そんな2人の手はいつの間にか重なっていた。
すると、隠れていた村の全員が飛び出して来た。皆が口々に祝福の言葉を2人に投げ掛ける。目と口で3つのOを作って呆気にとられているカリンとヘンリーの元へリュカが近づいて来る。
「おめでとう、カリン!ヘンリー!」
「え、え、何なんこれ?」
「見てわからない?みんなカリンとヘンリーを祝福しているんだよ。修道院でヘンリーが自爆した時にはどうなることかと思ったけど、なんだかんだでカリンもヘンリーに惹かれていったよね。いや、本当に良かった。親友として心から嬉しく思うよ。」
「「あ、ありがとう。」」
そしてまたそのハモリに喝采が起こった。
こうして2人の想いは通じ合った。だからと言って2人の関係性がすぐに変わるわけでもなく、これまでのように気の置けないやり取りを続けていた。しかし2人のその表情は、とても幸せそうだった。
救国の英雄ヘンリーに恋人が出来たという知らせはラインハット王国全土に伝わって全国が祝福ムードとなり、その夜はあちらこちらで乾杯の音頭が響き渡っていたという。
その中で賭けの結果、弱いくせに店で一番強い酒を頼んだため1杯で顔を赤くし、3杯で突っ伏して寝てしまったリュカに奢る羽目になったスコットとヨシュアはリュカが大酒飲みでなかったことを心底感謝したというが、それはまた別の話である。
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来たる6月1日、それまで小さな港に過ぎなかったラインハット川河口のビスタの港の改修工事も終わり、ついに開港を迎えた。これまでサンタローズ側にあったビスタの港は貿易港としての機能はラインハット城側に移された。そして、開港記念式典がサンタローズ側の港で行われた。
「いやあ、10年前とは見違えるようだよ。本当に綺麗になった。」
そう述懐するリュカと、彼との同行を決めたカリン、ヘンリー、魔物達、さらにはスコット、ルカ、ヨシュアなどのサンタローズ住民も式典に参加している。この日のために作られた仮の演壇では、国王デールが祝辞を述べていた。
「…………というわけで、これを以って祝辞とする。
新暦11年6月1日 ラインハット王国国王デートリヒ。」
会場からは惜しみない拍手が送られる。それが収まると、デールは声色を変えて会場に語りかける。
「さて皆さん、先月中旬に我が兄ヘンリーに恋人が出来たことが記憶に新しいと思いますが、実はこの度、この私にも好きな人ができました。」
会場は大きくどよめく。しかし、その声もだんだんと祝福ムードに変わり、最後はほぼ全員が拍手喝采を送っていた。そうでないのはデールがある女性を好いていることを知る数名のみである。その1人であるヘンリーがため息まじりに漏らす。
「やりやがったな、全く。俺にはできねーや。あんな恥ずかしいこと。」
「ほんまな。あれで14歳やで。」
カリンもそれに返す。そのやり取りには既に夫婦同士のような自然さがあった。
全員が固唾を呑む中、ついにデールはその名を告げた。
「マリアさん。」
呼ばれたマリアは自分ではないと思っていたのか非常に驚いた表情でぎこちなく壇上に上がった。
「一目見た時から好きで、あなたと時間を共に過ごせば過ごすほど貴女の純真さに惹かれました。こんな年端もいかない
妹にまだ嫁がれたくないヨシュアが縋るような目線を壇上に投げ掛けるが、マリアは顔を赤らめながら、
「こ、こちらこそ。」
と言った。会場からは怒号のような歓声が沸き起こる中、1人肩を落とすヨシュアの肩に手を置いたスコットがグラスを煽るような仕草をする。彼らの夜は長そうだ。
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午後3時。ついに出航の時間がやって来た。最初にデールが声をかける。
「では兄さん、元気で。カリンさんとリュカさん、不束者の兄ですがどうかよろしくお願いします。」
「お前、一言余計なんだよ!とにかくマリアさんと上手くやれよ。ヨシュアさんもいつまでも拗ねてちゃダメですからね。」
「う、うるさい!」
「お兄さん、もう決めたことですから。」
「う………マリア…………」
次にスコットが進みでる。
「みんな元気でな。」
「スコットさんもやで。ちゃんとルカさん大事にしーや。ルカさんも、しっかり手綱引いてくださいね。」
「はい、任されました。リュカ君も元気でね。」
カイルを抱いたルカがカイルの小さな手を振らせながら答える。
「はい!カイル君も元気でね〜〜。」
3人と4匹を乗せた船が西へ進み始めた。目指すは西の大陸の東端の港、ポートセルミである。この西の大陸でリュカは大きな決断を迫られることとなるのだが、それを知るものは生者のうちに存在し得なかった。
第2章 完
<次回予告>海風に吹かれて船は西へ進む。悲喜交々の一行を乗せて。第3章・西大陸編が幕を開ける。
次回 11月3日月曜日午後9時3分投稿 第39話「華麗なる船旅?」
賢者の歴史が、また1ページ。