では、本編スタートです!
第39話 華麗なる船旅?
「んーーーーーー!やっぱこうやって爽快な気分で船旅をするのはいいよな〜〜〜〜〜!」
大きく伸びをしながらヘンリーが大きな声をあげる。
「そうだよね。この前は樽の中で缶詰だったし、奴隷になる時は魔法で瞬間移動みたいな感じだったし、それより前は船に乗ったことがなかったもんね。」
「…………ウチは初めてやけどな。」
危うく"前世を含めて4回目"と言いそうになるのを堪え、カリンは差し障りのないことを口にした。
だんだんと出航したビスタの港が見えなくなってくる。ラインハット王国を離れたリュカ、カリン、ヘンリー、そしてスラリン、ドラッチ、ブラウン、ピエールの3人と4匹は次の目的地である西の大陸の玄関口のポートセルミに向かって船上の人となっていた。ポートセルミまではうまく風に乗って15日、平均して約20日の船旅である。
「そう言えばさ、リュカって6歳でサンタローズに戻ってくるまでどこ旅してたん?」
「さあ?よく覚えてないなあ。まあでも今思うと情報を得るために港から港へ転々としてた感じかな。陸にいるより船に乗ってた時間の方が長かったと思うよ。」
「他の国は言語違ったりせえへんの?」
「うーん、言い回しが独特だったり、ちょっと語感が違ったりするけどあんまり変わらないと思うよ。」
「そうなんや。それは安心したわ。」
「ていうか僕たちみんな人間なんだから話す言葉なんてそう大差ないのが普通じゃないか。」
(いや〜、この世界便利やわ。)
カリンはそんなことを考えていた。
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船の上はまさにカリンのリサイタルの場であった。前世の頃から歌っていた歌を口ずさんでいると仲間たちや同乗した商人たちがいつの間にか集まってくる。カリンの柔らかな歌声と現代日本の名曲の数々の心温まる歌詞が船員や商人たちの心を掴み、いつしか午後一回と夜一回の定期公演のようになってしまっていた。
それ以外の時はコックの手伝いをしたり、カリンの美貌と歌声とさんの強さに惹かれ、鼻の下を伸ばす(常にヘンリーの険しい目線が突き刺さっているため手出しはして来ない)商人たちと雑談しながら西の大陸の情報を集め、それ以外の時は筋トレなどで汗を流していた。ブラジャーなどという便利でセクシーなものがないこの世界ではあるが、汗をかいて上半身サラシ一枚で涼むカリンに、船にある男は皆ドキリとした。
リュカはピエールと共に魚釣りをしている事が多かった。ヘンリーはカリンの歌を聴きながら剣や魔法の練習に勤しむ。カリンを守るためにと決然とした様子で黙々と剣を振り続けるヘンリーにカリンもかなり胸キュンしていた。スラリンとドラッチとブラウンは好きな時に好きなことをして勝手気儘に過ごしていた。
最初は同乗者たちは彼らを警戒していたが、リュカたちに懐いており、海の魔物と戦ってくれ、何よりほのぼのしている様子に警戒心を解き、普通に接してくれていた。そして、日に数回現れるしびれくらげ、幽霊船長、深海竜、マーマンなどの海の魔物を討伐しながら船はのどかにかつ順調に西へ進み、6月18日にリュカ一行はポートセルミの港に降り立った。
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ポートセルミは世界有数の港湾都市である。この西の大陸に入る人とモノは必ずここを経由する。内陸に物品を搬入するために古くから運送業が発展し、その元締めである大豪商、ルドマンは一代でそれまで全く手を出していなかった娯楽、造船、海運など様々な業種に手を出しては大儲けして西の大陸の中部にあるサラボナという町の自宅をまさに豪邸に改造して権勢を振るっているという。それでいてあまり悪い評判を聞かないあたりがおそらく大商人たる所以なのであろう。
そしてこのポートセルミには、ルドマンの会社の造船所や昔からの運送業の事務所が存在し、そこに勤める人々がここに住んで生活をしている。その彼らが使う金でこの町の経済が成立しており、まさにルドマンによって支えられている町と言える。
「いや〜、しかし暑いなあ。」
ヘンリーが燦燦と降り注ぐ陽光を仰いで呟く。
「まあ、寒いのよりまし。」
カリンはそう返すが、額には汗が滲んでいた。ポートセルミはラインハット王国周辺より低緯度にあるため、暑いのは当然ではある。
「まあ干からびて死ぬほどの暑さでもないし、大丈夫なんじゃない?とにかく情報を集めようよ。」
「そうやな。」
馬車の中に魔物たちを入れてタラップを降り、西の大陸の地図を購入する。この西の大陸には国家が存在せず、ここからほぼ真南にある丘陵の上に立つ村のカボチ、ここから真西にあるルラフェン町、そしてルラフェンから赤道を越えてさらに南にある、ルドマンの本拠地たるサラボナ、その北の山岳地帯にある名もない山奥の村から成り立っている。
「そう言えばこの大陸のどっかにビアンカがおんねんな〜。多分美人になってるで、あいつ。」
「そうだね。子供の頃から可愛かったもん。」
「ん?ビアンカって誰だ?」
「ああ、レヌール城の冒険の話したじゃん。あの時の金髪のおさげの女の子だよ。」
「ああ〜。その話聞いたわ。お前が落とし穴に落とされたってやつだな。」
「そうそう。」
そして一行はまず武器屋と防具屋を回って装備を買い換えた。資金については神の塔で魔物が落としたゴールドや、ラインハットからの報奨金などで余裕があったのだが、"先立つ物はあって損はしない"と言うカリンの思考法によっていつもと変わらず値切りが行われ、彼女が去った後それぞれの店の店主はなんとも言えない表情でカリンの後ろ姿を見送っていた。
さらに嬉しいことに、カリンは弓矢による攻撃が最近効果が薄くなっていると感じていたが、この大陸の魔物はラインハット周辺に比べて強力なので矢のレベルも高く、それまで鉄製だった鏃を全て玉鋼のものに買い換えた。手に大きな荷物をぶら下げてルンルン気分で武器屋から出てきたカリンを見てリュカがため息をつく。
「もー、また値切ってきたの〜?なんかさっき武器屋の主人が恨めしそうな目でこっち見てたよ〜。」
「そう言うあんたもオラクルベリーでやんちゃしたらしいんやん。ヘンリーから聞いたで。」
「だってカリンの見てたら自分ももうちょっと値切れるんじゃないかなって思うじゃん。」
「いや〜あの時のリュカはえげつなかったけどな。」
「そんなことないよ。僕は端数を切ってもらっただけだから。浮いたの結局600ゴールドぐらいじゃん。カリンはもっとえげつないよ。ラインハットの時もヘンリーは気づいてなかったと思うけど、あれはどう考えても2割近くは値切ったよね。」
「に、2割!?」
「ちなみに今回は23パーカット。」
「!?!?2500くらいは普通に浮いてんじゃねーか!」
「とりあえず銀行行こか。」
「銀行?なにそれ?」
「金預かっといてくれるとこ。店主が口走っとったから間違いなくこの町のどっかにある。」
「へー、そんな便利なものがあるんだ。で、どうしてカリンはサンタローズから殆ど出たことないのに銀行のことを知ってるの?」
「!?船で商人から聞いたんやけど。」
カリンは核心を突かれてどきりとする。まだカリンは自分が転生者であることをパパスにしか告げていなかった。説明が面倒臭いので墓まで持って行ってやると考えていたが、リュカは逆にまくし立ててくる。
「嘘だ。さっき店主にここにあるって聞いたって言ってたよね。もし銀行のことを商人に聞いて知ったんだったらこの町に銀行がある事ももちろん教えてもらってるはずだよ。商人たちがそこだけ伏せる意味はないからね。」
「…………。」
カリンはしまったという感じで手を顔に当てて天を仰いだ。
「お、おいリュカ………どういうことだよ………。」
ヘンリーは状況について行けずにオロオロしている。
「それに小ちゃい時から教えてくれてた歌もそうだし、その頃の行動を思い返してみてもやっぱり変だよ。ラインハット城下町にいた子供達より大人び過ぎてる。本当はカリンは何者なの?」
「……………。」
カリンは観念する。どうやら年貢の納め時が来たようだ。
「前からずっと聞こうと思ってたけど、ずっと僕たちに何か隠してたよね。」
「お前ほんまに昔から変なとこ鋭いよな。説明すんの面倒いから隠し通したろうと思ってんけどな。分かった。全部話す。その代わり長くなるから夜にやだ宿屋でな。じゃ、ちょっとその辺ウロウロしてくるわ。それと…………今までずっと騙しててごめん。」
カリンは町の雑踏に踏み入っていく。いつものように明るい声で話していたが、やはり少し申し訳ないという気持ちがあるのか、最後の謝罪の声は少し震えていた。
<次回予告>ついに明かされるカリンの秘密。それに対してリュカとヘンリーはどのような反応を示すのか。カリンの昔語りが始まる。
次回 11月10日午後9時3分投稿 第40話「明かされる秘密」
賢者の歴史が、また1ページ。