ここでうちの社会の先生の名言を一つ。
「政治家っていうのはなあ、忖度してなんぼやと俺は思うんやけどな〜〜。」
では、本編スタートです。
夜が明けて7月1日、リュカ一行は西の洞窟に保管してあるパパスの遺した剣を回収するために西進を開始した。もちろんモモも加わり、3日かけて洞窟にたどり着く。その間にも戦闘をピエールを指揮官としたスラリン、ドラッチ、ブラウンが魔物たちを続々と屠っていった。
「いやあ、ピエールもだいぶ戦いが上手くなったな。」
ヘンリーがそう論評してのけた。これからは魔物たちも強くなっていくだろうし、そうなればいちいち全員で馬車から出て戦っていては疲労も溜まり続けるばかりである。そのため、ヘンリーが二交代制のローテーションを構築したのである。とは言っても人には向き不向きはあるため、最も適切なローテーションを構築するために色々と試行錯誤しながら戦いを重ねて来たのであるが、どうやら理想のフォーメーションが構築できたようだ。先ほどヘンリーの論評を受けた魔物4匹とリュカ、ヘンリー、モモの2人と1匹である。
カリンはと言うと、いくら矢を強化したとは言っても弓矢での攻撃力には限界があるため、適宜に回復呪文をかけたり牽制攻撃や弱点へのピンポイント攻撃を行ったりしながら状況がまずくなれば馬車内で待機している仲間を呼び出したりと後方で戦闘の全体の統括を任されていた。最も、生前将棋が得意だったカリンからすれば、全体の戦局を見渡しながら戦闘をコントロールする今の役割が非常に合っていたし、周りもカリンが後方で楽をしているとは考えなかったため、しばらくはそれで回すことにした。
一行は洞窟を目の前にして夜になったので一旦休息を取っていた。ヘンリーの先ほどの分析についてカリンも私見を述べる。
「まあでもピエール本人は前線に出て暴れ倒したいやろうけど、回復出来るやつの人数が限られてるからなあ。ま、本人が折り合いつけてくれてるんやったらええけど。」
「うん、ピエールは大丈夫だよ、きっと。」
そして、カリンは膝にポンと手を打って立ち上がった。
「さて、この洞窟は馬車ごと入れるらしいから、さっさと行きましょか。」
村人たちがここを非常食の保管庫兼避難場所に指定していた理由がわかる。馬車が入れるほど足場はならされているし、洞窟の中は岩の隙間から漏れてくる陽光によって意外に明るくなっており、気温は外に比べれば低く、夏に入ったと言うのにどこかひんやりとしていた。
さらにここの魔物は排他的な集団のようで、外から来るものには人間であろうが魔物であろうが容赦しなかった。休息の前にドロヌーバ(表現不能)、青いピッキー・デスパロット、紫色の土偶戦士・ミステリードール、紫色の服を着た長い槍を持つ細身の怪人・とつげきへい、少し青みがかったイエティ・ビックスロース、ビッグアイ、青いナイトウイプス・デススパークなどの魔物の強さを測るため、少し実験的に入り口付近をほっつき歩き、対峙しては次々と構築された連携攻撃で倒していった。確かに手強いが無理ゲーでは無さそうだ。
ちなみに村人たちは魔物のエサとなる牛肉と魔物を寄せ付けなくする聖水を持参し、魔物のエサで洞窟の外の魔物をおびき寄せて洞窟の中の魔物と戦わせている間に奥に進入して保管庫のある区画に入っているようだ。
その間にもカリンという通訳を介してリュカやヘンリーとモモの会話が続く。
"ヘンリー、美咲を頼むな。こいつウブやし不器用やし息をするように毒吐くし色々と迷惑かけるかも知れんけど、よろしくお願いします。"
「ん、任された。」
馬鹿話は長く続き、夜は更けていった。
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翌朝、睡眠もしっかり取って英気を養ったリュカ一行はついに洞窟への侵入を開始した。次々に魔物を討伐し、宝箱を逐次開けながら奥へ奥へと進行する。
地下二階のフロアを探索中のことであった。ヘンリーがやや奥まったところで宝箱を発見した。しかし、他の面々は何も感じていないようだったが、カリンはその宝箱に何かしら違和感を感じていた。
「なーんかやな感じがすんな〜。」
「どうしたの?」
呟きを聞いたリュカがカリンを伺う。
「いや、あの宝箱な、根拠という根拠は無いねんけどなーんか気配を潜めてるような感じが………。」
宝箱にはヘンリーが手をかけようとしていた。すると、あろうことか宝箱がひとりでにやや開き、その隙間から光る目が覗いた。
それに気づいたカリンは即座に矢をつがえる。
「ヘンリー!動くな!」
そう叫ぶと同時にカリンは矢を放つ。その矢は綺麗な直線軌道を描きながら寸分狂わず宝箱のわずかに開いた隙間から宝箱の中へ吸い込まれていった。すると矢が何か柔らかいものに刺さった音がすると共に宝箱が跳ね上がった。
「な、何だ!?」
宝箱は大きくその蓋をあけ、中から鏃に紫色の体液をつけたカリンの矢が吐き出された。中には禍々しい光を放つ双眼と、宝箱の中と蓋の縁にびっしりと生え並んだ尖った歯が覗いていた。
「これは人食い箱ですな!こうやって宝箱に成りすまして身を潜め、不用意に近づくとあのデカい口であっという間に噛み切ってしまう、恐ろしい魔物です。体力も攻撃力も高い上にすばしっこく、非常に強力な相手です。」
ピエールが分析を加える。見聞が広いピエールはまさに歩く魔物辞典であった。
「ヘンリー、取り敢えず貸し1な。」
「こりゃ高くつきそうだな。」
3人と5匹は瞬時に身構え、攻撃をかけるが、人食い箱のすばしっこい動きを捉えられずに空転する。人食い箱はどうやら人間にしか興味が無いらしく、リュカとカリンとヘンリーを重点的に狙って攻撃して来る。その一撃は盾を使っても腕に痺れを感じる程のピエールのお墨付き通りの重さを誇った。盾を持たないカリンも何とか中古の刃のブーメランで対応する。
10分ほどが過ぎた。人食い箱が攻撃を3人に集中している現状では魔物たちはノーマークであるため、人食い箱が3人に攻撃を加えている隙にちまちまと打撃を与えていき、どうやらダメージの蓄積を怖れた人食い箱は一気にカタをつける気になったようだ。盾を持たないカリンに向かって人食い箱は跳躍する。カリンは人食い箱から放たれる素早い連続噛みつき攻撃を5発まではいなす事が出来たが、6発目になって遂に刃のブーメランを弾き飛ばされてしまった。人食い箱はそこから口(蓋)を閉じて体当たりを食らわせてカリンを転ばせる。すっ転んで無防備になったカリンに向かって人食い箱はその体を噛みちぎるべく再度の跳躍を行なった。カリンは目を閉じた。
しかし、カリンの予測した痛みは無かった。その代わりに何かに後ろに押される感覚と液体の飛沫が顔にかかる感触がした。恐る恐る目を開けると、そこには屈強な一本の左腕があった。そこには人食い箱の歯が噛み込まれ、鮮血が滴っていた。しかし、人食い箱の顎の力が抜けていき、遂に噛み込んだ歯は腕から離れ、人食い箱はその場にひっくり返り、風化が始まった。見ると人食い箱の中から一本の鋼の剣がそびえ立っていた。カリンは血塗れになった腕から肩、そして苦痛に顔を歪ませたヘンリーに移した。その瞬間事態を把握し慌ててヘンリーにベホイミを唱えてやる。
「大丈夫?」
ヘンリーは頷きながらもその場に膝をつく。回復呪文で傷は塞がったものの、痛みは取れない。その痛さに左腕を押さえて蹲るヘンリーの顔には大粒の脂汗が浮かんでいた。カリンは自分の膝を枕にしてヘンリーを寝かせてやる。ヘンリーそしてカリンは鞄から痛み止めの薬を染み込ませた包帯を左腕に巻いてやる。少し呼吸を落ち着けたヘンリーがカリンに話しかける。
「カリン………」
「何?」
「これで貸し借り0だな。」
「いや、膝枕で貸しプラス1」
「せこ!」
「んー、しゃあないなあ。んならカッコよかったご褒美に………」
その後のカリンの行動にその場にいたリュカと5匹の魔物は驚愕を禁じ得なかった。
CHU………
何とカリンはヘンリーの唇に口付けを落としたのである。
「"エーーーーーーッ!!"」
リュカが大声で、モモは心の中で盛大に叫び声をあげた。ヘンリーも即座に顔を赤くした。口付けは長くは続かず、3秒ほどでカリンは唇を離した。
「な、何すんだよ、いきなり。嬉しいけどビックリしたし、何より恥ずかしいじゃねーか。」
「いや、ウチを守ろうとしてるヘンリーがカッコよかって胸キュンしたから、つい。」
「あ、ありがとよ………。」
「ちなみに前世含めて今のファーストキスな。」
カリンが顔を背けて告白する。
「…………!」
「ちゅうわけで貸し10な。」
「ファーストキスで10か。安いな。俺はお前とキス出来るんだったら100でも構わねーぞ。」
今度はカリンが顔を赤くした。
急にデレつき出した2人を見て残りの面子は唖然としていた。しかし、2人は立ち上がるといつもの友達の延長線上ポジションに戻っていた……………いつの間に繋がっていた2人の手を除いて。
<次回予告>洞窟の最深部に眠るパパスの剣をついに手にしたリュカ一行。カボチ村を経由して西の大陸の玄関口・ポートセルミに戻った一行は、ついに西の街、ルラフェンに向けて移動を開始した。
次回 12月8日金曜日午後9時3分投稿 第44話「ポートセルミでの一夜」
賢者の歴史が、また1ページ。