それでは、本編スタートです!
第5話 パパスの凱旋
どの歌を教えようかと思案しながらビアンカのいる村の小高い丘に戻ると、ビアンカが遠くに目を凝らしていた。
「どうしたん?誰か来た?」
「うん。あれ、パパスさんとリュカじゃない?」
「え、マジ!?」
言われてカリンも目を凝らしてみる。どうやら二人組がこちらに近づいているようだ。
「あ〜〜!!」
「どう!?見えた?」
「いや、全然見えへん。」
ビアンカはズッコケそうになる。
「何よ!見えたんじゃないの!?」
「確かに二人組が近づいてくるのは見えるんやけどな〜。ビアンカめっちゃ目ええやん。」
「あ、戦い始めたね。」
どうやら魔物と遭遇したらしい。
「あ〜〜!」
「今度は何よ!?」
「あれパパスさんやわ。」
「本当に!?」
「あの規格外の素早さと強さはパパスさんやな。目算一キロやから15分ぐらいか?」
「キロって何?」
「忘れてくれていい。あ、スコットさんも気付いたっぽい。」
2人はスコットのいる村の入り口へ向かう。
「おお、2人か。どうやら人が近づいて来ているようだな。」
「うん、パパスさんっぽい。」
「本当か!?」
「魔物と遭遇したっぽいねんけど、瞬殺してた。あのデタラメな強さはパパスさんに間違いない。」
「うーん、根拠としては弱いな。だがカリンが見誤るはずもあるまい。村の者を呼んでくるからここにいなさい。」
「いや、ウチが呼んできますよ。」
「バカを言うでない。一緒に住んでいたカリンが最初に出迎えるのが筋だろう。」
「ありがとうございます。」
「パパスさんにサボってはいないと言っておくのだぞ。」
そう言い残してスコットは村の中に消えていった。しばらく待っていると、こちらに気付いた紫のターバンの男の子が猛ダッシュで駆けて来た。
「カリ〜〜ン!!」
「リュカ!覚えててくれたんやな!」
リュカはカリンに走って来たそのままの勢いで抱きついた。それをかなり下半身に力を入れて抱きとめる。
「カリン、また歌を教えてね。今度は長くいれるみたいだから。」
「わかった。」
そこへビアンカが言葉をかける。
「リュカ、あたしのことは覚えてる?」
「あ〜〜!」
「覚えてくれてた!?」
「誰だっけ?」
「「覚えてないんかい!!」」
カリンとビアンカが突っ込む。
「嘘だよ。金色の髪の女の子と遊んだ思い出はあるんだけど、名前はどうしても思い出せないんだ。ゴメンね。」
「ううん。いいのよ。あたしはビアンカよ。」
「うん、ビアンカだね。もう忘れないよ。」
すると遅れてパパスが村に近づいて来た。
「ビアンカ、私ちょっとパパスさんとお話しするからリュカと丘の上くらいで遊んであげて。」
「うん。でもあたしの方がお姉さんなのに、カリンにお願い事されると断れないな〜〜。」
「よし、ビアンカよ、リュカと遊んで参れ。」
「うん。その口調だったら問答無用で断るわ。」
「嘘やって。お願いしていい?」
「うん。」
リュカとビアンカが丘の上で遊び始めると、村に到着したパパスに向き直る。
「お帰りなさい。」
「うむ。それにしても大きくなったな。もう明日で7歳であろう。」
「覚えててくれたんですね。嬉しいです。それはともかく、もうすぐ村の人間にもみくちゃにされると思うから、四方山話はまた夜にでも聞かせてくださいね。」
「わかった。」
「じゃ、ウチもリュカと遊んで来ますわ。」
「うむ。」
カリンが丘の上へ駆けて行くと、村人たちがパパスの元へ集結して来た。皆、パパスが無事に戻ったことを喜んでくれている。村人たちの祝福も一通り終わり、パパスはリュカとビアンカとカリンを連れて1年9ヶ月ぶりに家の前にたどり着いた。そしてドアノブに手をかけようとした時、教会から猛スピードでシスタールカが駆け出して来て、パパスの胸に飛び込んだ。
「パ、パ、ス、さ〜〜ん!!!」
「お、おおシスタールカ。そなたも今年で16歳であるな。大きくなったな。」
「はい。パパスさんの無事を毎日教会でお祈りしておりましたの。」
はい、そうです。ルカはパパスさんにマルボレ印ですわ。この2年間口を開けば「パパスさんに会いたい。リュカに会いたい」と豪語しておりました。リュカも可愛いからね。こっちはペットを愛でる感覚なんやろ。あー、これは仕事ほったらかして来たやつですね。教会で神父さんがまあまあ困った顔してこっちの様子伺ってますわ。
「パパスさんもお疲れなんやし、この家の思い出にも浸りたいやろうから離してあげてください。それに、あんた仕事ほったらかして来たやろ。」
「はっ、いけない。まだお勤めが終わっておりませんでしたね。また伺いますね。」
そう言ってルカは教会に戻っていった。お、神父さんにサムズアップされた。ちょっと嬉しい。
「すまんな、カリン。手を煩わせてしまった。」
「いいんですよ。それより中に入りましょう。今日は特別にウチが料理しますわ。こう見えて得意なんですよ。」
「そういえばユリーナ殿も言っていたな。」
そして、ようやくドアノブに手を掛け、パパスは家に凱旋した。
「おやまあ!村の入り口が騒がしいと思っていたら、旦那様とお坊っちゃまのお帰りだったんですね。このサンチョ、感激の至りでございます。」
「サンチョ、留守番ご苦労であったな。」
「サンチョさん、今日はウチがご飯作りますわ。」
「あら、そうですか?リュカお坊っちゃまとお遊びにはなりませんか?」
「ダイアナさんも来てるしな。ちょっと今日は趣向を変えておもてなししたいなと思いまして。」
「そうですか。では今日はカリン料理長ということになりますね。では私はダイアナ様を呼んで参りましょう。まだこちらには顔をお見せになっておりませんしね。旦那様の帰還をお喜びになることでしょうから。」
そう言ってサンチョは宿屋へ向かった。
「カリン、あたしたちとは遊ばないの?」
「ゴメンな。どうしてもパパスさんたちに料理作ってあげたいねん。そこのテーブルで座っといてくれたら、歌を一曲教えるわ。それで勘弁してくれへん?」
「わかった。カリンの料理、楽しみにしてるからね。」
カリンはリュカたちに「それが大事」を教えながら手際よく料理を作り始める。この世界に箸はないので、ユリーナが小枝を削って作った菜箸を使ってテキパキと料理を作っていく。(といっても、ユリーナがカリンも転生者であることを見抜いてすぐにカリンの箸も作成したので、ユリーナが他界するまで箸が存在しないことをカリンは知らなかった。)
とにかくね、出汁がないのよ。この世界。てか母さん何気にスゴい。箸を小枝削って作っただけならまだしも、鰹節の作り方知ってたとか最強やろ。しかも鰹節菌倉庫で栽培しとったし。母さんが死んだ後倉庫の整理してたらメモ出て来たわ。ウチが生まれてからは女手一つで子供育てんのはキツイから得意な方の洋食ばっか作ってたみたい。ちなみにウチは和食の方が得意やねんけどな。
そして日は落ちた。何故かこの世界に味噌はある(ユリーナが普及させた可能性はある。)ので、味噌汁とご飯と肉じゃがと適当に生野菜ををつくった。
「見たことのない料理だな。」
「はい、このサンチョも初めて見ました。」
「一回ユリーナが作ってくれたことがあるね。確か肉じゃがだっけ?」
「へぇ〜、母さんこれ作ったことあるんだ。」
「カリン、あたしにお箸を頂戴よ。使い方わかるし、この料理は箸の方が食べやすいんだろ?」
「はーい。」
何かあった時のために箸を削る練習はしていた。ちょっと余分があったのでそれをダイアナに渡す。
「はい、皆さん揃いましたね。では、パパスさんとリュカの無事の帰還を祝って、今日は私が腕によりをかけて作りました料理でおもてなししたいと思います。では、顔の前で手を合わせて。いただきます!」
「いただきます!」
ダイアナだけがそれに唱和した。
やらかした!そんな文化こっちにはないんやった!
それからは、「いただきます」「ごちそうさま」についての話や箸の使い方レクチャー、ユリーナの昔話、そしてパパスの旅の四方山話などで大いに盛り上がりながら、夜は更けていった。
思えば"いただきます"と"ごちそうさま"って日本人のメンタリティを表す凄く大事な言葉ですよね。皆さんは言っていますか?私は毎食ちゃんと最低でも心の中では言うようにしています。
<次回予告>武器屋の前で不審な行動を見せるリュカ、リュカの取ろうとする行動を聞いたカリンは、ついに始めての冒険を決意した。次回、"はじめての冒険"
賢者の歴史が、また1ページ。