「頼み?」
カリンは尋ね返す。
「はい、実は……皆さんにある方を助けて来て欲しいのです。」
「ある方?」
「先程、私の結婚相手を決める試練の説明が行われたんですけど、私も全く予想してなかったんですけど、幼馴染のアンディが紛れ込んでて、試練を受けに行っちゃったんです。アンディは体も強くないし、街の外にもほとんど出たことないのに………。」
「一個質問。」
「何ですか?」
「あんたはアンディのことどう思ってんの?」
「………昔からアンディが私に想いを寄せていることはわかっていましたし、私もアンディの誠実で優しい人柄に対して徐々に好意を抱き始めていました。でも、大商人の娘として産まれた以上は、お父様の事業の為に、例え望まない相手とでも結ばれなければいけないと思っていました。しかし、先程、お父様と皆さんの話を盗み聞きしていまして、それならとお父様にアンディは試練に向かわせないように頼んで、了承までしていただいたのですが、どうも変装していてお父様も気付かなかったみたいで。」
「あちゃー。」
「その次第をお父様にお話ししたら、出発してしまったアンディを引き返させて結婚させるのでは、他の志願者に面目が立たないということで………」
「そりゃそうやなあ。よっしゃ、恋するフローラさんのために不肖我々が一肌脱ぎましょうか。」
「そうだな。で、その試練というのは?」
「炎のリングと水のリングをここまで持ってくるというものですが、炎のリングがこのサラボナから南にある活火山の洞窟の中に、水のリングはグレートフォール山の滝壺の洞窟にそれぞれあるんです。両方とも強力な魔物が住み着いていて、アンディ1人じゃ死んじゃうかも………。もしそんなことになったら、私………!」
「任せとき。とにかく、明日になったらアンディ追いかけたるわ。それまでちょっと他のメンツ休ませたって。」
「引き受けて頂けますか!ありがとうございます!」
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その夜、カリンとリュカとヘンリーとヨシュアが宿屋の二階にあるバーで一杯やっていた。その中で、カリンが1人何かにしっくり来ていない表情をしていた。それに気づいたヘンリーが声をかける。
「どうした?カリン。」
「ん?まあどうでもええっちゃあどうでもええねんけど。」
「何だよ。」
「フローラちゃんってホンマにあのルドマンの娘なんかなあ?」
「急に何言い出すんだよ。確かに俺にもあの恰幅の良い親父からあんな美人が生まれんのかとか思ったけどよ。」
「いや、あの後散歩しとったら多分フローラのお母ちゃんと思しき人見かけてん。」
「ああ、あの屋敷に入っていったおばさんか。」
「あんたも気づいてたんか。ルドマンは茶髪、お母ちゃんは金髪やったやろ?あそこからどうやったら青い髪の子が生まれんねやろ?」
「そういやそうだな。俺の場合は俺を産んだお袋が、髪が緑だったらしいしな。」
「そう、ウチも母ちゃんから貰ってるわ。ウチの前世の知識として、髪の色とかはどんなに遡っても祖父ちゃん祖母ちゃんまでのモンしか受け継がれへんねん。だから可能性が無いとは言われへんねんけど、いくらなんでもあそこまで鮮やかな青になるかなあ?」
「その通りよ。」
その時、バーの入り口近くから若い女性の声が飛んできた。
「そこのあなた、勘がいいのね。」
カリンたちが振り向くと、薔薇の飾りで括られ、独特な結び方をした長い黒髪をなびかせ、少しキツめの美貌を持ち、贅沢かつ奇抜なファッションをした、ケバい若い女がカリンたちが座るテーブルのすぐ近くに立っていた。
「失礼やけど、おたくは?」
「私?フローラの姉のデボラよ。あんたの言う通り、私とフローラはルドマンの実の子供じゃないの。一回そういう話をパパとママがしてる所を聞いたことがあるわ。どういう経緯で私達がこの家に来たかまでは知らないけど。」
「ほーん。で、その事フローラちゃんは知ってんの?」
「知らないと思うわ。それより、あなたたち?フローラの無茶ぶりを引き受けたっていう物好きは。」
「まあ、そういう事になるんかな。」
「そ。まあ頑張ってちょうだい。」
「そういやあんたは結婚とかは?」
「してないわよ。何回かそういう話はあったけど、私がこういう派手好きな女だって知った瞬間向こうが引くし、正直どいつもこいつも私の好みじゃないのよね。」
「好み?」
「ま、私自身よくわかってないんだけど。」
「あっそう。」
一旦話題が途切れた所でデボラがカリンたちが座るテーブルに座る面々を見渡していると、ふとリュカのところでデボラの視線の移動が止まった。
「あら?」
「どうしたん?」
「そこの紫ターバン、どっかで見たことあるわね。」
「僕?」
「どこだったかしら?」
「多分ルラフェンで一度。」
「ああ、あの酒屋でジジイと酒買ってた小魚ね。」
「小魚?」
「だってあんた、小魚みたいな顔してるじゃない。」
「はあ。」
「ま、頑張ってちょうだい。それじゃ。」
そう言うとデボラは酒屋を去っていった。その後ろ姿を見送ると、ヘンリーとカリンとヨシュアが立ち上がってリュカに詰め寄った。
「おいリュカ、ルラフェンで一目惚れした女っていうのはあいつか?」
「確かに美人ではあったがな。性格もキツそうだぞ。」
「あれは絶対ドSやな。あんなんと結婚したら一生尻に敷かれっ放しやで。」
「ドSとは何だ?カリン。」
「Sっていうのはサディスティックの略で、まあ簡単に言うたら人をイジることに加虐心をそそられて興奮するような性格のことや。この場合は男を尻に敷きたがる女のことかな。」
「カリン、お前のことじゃねーか。」
「ウチは"ド"はつかへんって自負してんねんけどな。ヘンリーに甘えんの結構好きやし。」
「ば、バカ!何言ってんだよ!」
「何でヘンリーが慌ててんのよ。そこ恥ずかしがるん普通ウチちゃう?」
「うるせー!」
「………。」
本来話題の中心であるはずのリュカを置いてけぼりにして、3人で誰がSで誰がMかの談義に耽るヘンリーとカリンヨシュアであった。
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翌10月8日朝、リュカ一行はサラボナの教会で魔力を見て貰った。
「汝、リュカは味方1人の体力を全快させるベホマを、カリンは仲間の体力を一気に回復できるベホマラーを、ヘンリーはメラの上級魔法たるメラミを習得している。汝らの旅に神のご加護があらんことを。」
一行はサラボナの街を後にし、一路南の火山へ向かった。その道中の魔物たち〜左手に弓矢と右手に剣を装備したロボット・メタルハンター、肥満体型のだらしない鬼のような姿をして常に長い舌を出している魔物・ベロゴン、黄色のどでかい3つ目のマンモス・ダークマンモス、顔が着いた岩の姿をし、ピンチになれば自爆する魔物・ばくだんいわ、とつげきへいの上位種・ランスアーミー、ムチを持った道化師・魔物つかいなどの強力な魔物〜を倒しながら進んでいく。その道中で、キメラの翼の原料であり、火の息と氷の息の双方を使いこなし、回復呪文も使用できるキメラを1匹仲間に加えた。
「ねえ、カリン。名前どうする?」
「この前はふざけてJPとか付けてもうたしな。キメラやしメッキーとかどう?」
「えらく安直だね。」
「しょうみ考えんの面倒い。」
南下を続けること7日、リュカ一行は遂に南の火山に到達した。
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「うわー、近づくだけで暑いな。ようルドマンもこんなん考えついたわ。しかも中の魔物の気配も強いしな。」
「マジで指輪こん中にあんのか?」
「指輪自体は元々ここに祀られていた物だと聞く。昔は死火山と見なされていたそうだが、ここ10年ほどの間に急激に火山活動が活発化したそうだ。それにしても、この中に入るとなるとゾッとするな。」
「サラボナの人たちからは死の火山なんて呼ばれてるんだって。」
一行は火山を見上げてため息を吐く。
「暑さに弱そうなん連れて行くのは論外やな。分かれよか。」
こうして、毛皮を着ているモモとブラウン、熱中症の前科があるピエール、火山に近づいただけで既に蕩けかけているスラリンが留守を任されることとなった。潜入メンバーは人間4人とドラッチ、JP、メッキーである。
「モモ、ピエール、留守番頼むわ。」
"美咲、無理しーなやー。"
「私も本来ならついて行きたいところだが、留守番とて大切な役割。全身全霊を以って務めさせていただく。」
「さあて、行きますか!」
10月15日昼下がり、リュカ一行はアンディの救出と指輪を目的として、死の火山の探索を開始した。