「こいつらが溶岩原人だ。高い攻撃力と口から吐く燃え盛る火炎を武器にしている。とにかく1匹ずつ叩きのめすのがベストだろう。」
JPが分析結果を伝える。
「スクルト!フバーハ!バイキルト!」
手早くカリンが補助呪文をかける。
「JPはヒャダルコ、メッキーは氷の息を連発!残りはひたすら打撃を叩き込め!1番左のヤツから行くぞ!」
ヘンリーが作戦概要をまくし立てながら溶岩原人に斬りかかる。
しかし、溶岩原人はそのドロドロとした体を器用に変形させて剣先を躱した。ヘンリーは続けざまに剣を横一文字に振るい、今度は溶岩原人を斬りつけたが、思ったほどの手応えはなく、ドロヌーバやマドルーパーを斬った時に感じる、粘土を切ったような感覚ではなく、流れる泥水を払ったような感覚しかなかった。
「ちっ、単なるマドルーパーの上位互換って訳じゃなさそうだな。」
殴りかかってくる溶岩原人をいなしながらヘンリーが叫ぶ。それを聞いたカリンが新たな作戦プランを伝達する。
「作戦変更!ウチらはJPとメッキーの盾になりながらアイツらに隙を作る。隙ができたら2人でヒャダルコと氷の息を叩き込んで!」
カリンは弓矢を馬車の中に放り込んで、腰に差していた護身用の刃のブーメランを抜く。
「そういやこいつらって直に触れて大丈夫なん?」
「無理だな。近づいただけですげぇ熱気だ。」
「ちっ!やりにくい!」
「まあでも奴らも一回切られたら回復にちょっと時間食うみたいだし、弓矢に持ち変える必要はねえな。」
「サンキュー!」
弓矢を取りに帰ろうとしたカリンをノールックでヘンリーが制した。
「さすが夫婦。お互いに考えてることが丸わかりなんだな。」
「あーあ、僕も早く結婚するか!」
ヨシュアとリュカが溶岩原人に攻撃を加えながら話す。その戦列にヘンリーとカリンも加わり、4人は縦横無尽に走り抜けながら溶岩原人にダメージを与えていく。そして、溶岩原人三体に同時に隙ができた。
「今や!」
その号令とともに、攻撃していた4人が溶岩原人から飛び退く。そこへ、JPのヒャダルコとメッキーの氷の息が炸裂した。効果は覿面で、溶岩原人たちは大きくよろけた。それを見てJPとメッキーがもう一度ヒャダルコと氷の息を放つ。しかし、これには溶岩原人たちが反応し、燃え盛る火炎を吐き出して相殺した。
「立ち直るのも早いね。まあでもあと3発くらい叩き込めば行けそうだけど。」
リュカが論評を加える。
「ま、そんなもんやな。」
その時だった。三体の溶岩原人が一斉に大きく息を吸い込んだ。
「三体で同時に燃え盛る火炎を吐く算段だな。1匹でも火達磨になるってのに、こいつはやべぇぞ。」
「メッキーの氷の息とJPのヒャダルコも1匹で相殺したからな。しかもその射線上には馬車と。どうする?」
そう言いつつ、カリンが溶岩原人の1匹にヒャドを放つ。しかしほとんど効果は無く、溶岩原人たちは三体同時に燃え盛る火炎を吐いた。
「っしゃあ!来いや!!」
リュカたち4人は炎や氷の息を防ぎやすい鉄の盾二枚を前にして、馬車の10メートルほど前方で一列に並んだ。そして、燃え盛る火炎をもろに食らう。
「「「「うわああああああ!!」」」」
4人はその炎のあまりもの勢いに弾き飛ばされた。そして、馬車のすぐ近くの地面に叩きつけられる。メッキーがすかさずホイミをかけてくれた。
「おー、効くな〜〜。」
最初に頭をさすりながら1番最後尾にいたヨシュアが立ち上がった。
「さーて、次はどう防ごかな?」
そこへ溶岩原人たちが近づいてくる。前方にいたリュカヘンリーはまだ頭を抑えて座り込んでいる。まだ戦える状態ではないようだ。カリンは咄嗟に時間稼ぎのために刃のブーメランを投げた。ブーメランは溶岩原人の体の中心を横一文字に切り裂いていった。しかし、3匹目にブーメランが当たった時、妙な事が起こった。
鋭く回転しながら進んでいたブーメランが、3匹目を通過する途中で何かにぶつかったかのように回転が止まり、ブーメランがその場に落ちた。
「なにが起こったんだ!?」
カリンが刃のブーメランを投げたスキに立ち直ったヘンリーが驚きの声を上げた。しかも、他の2匹の溶岩原人がすぐさまブーメランの通り過ぎた傷(というより、マグマの流れの途切れ)を修復したのに対し、最後の1匹は酷くもがき苦しんでいるように見えた。
「なるほどな。奴らの体の中心にはコアっちゅうか、核みたいなんがあって、そこに溶岩を纏わせてるんや。」
「そうか、その核にたまたまカリンが投げたブーメランが当たったんだ。そこに傷がついたから、うまく体を形成できなくなったんだ。」
同じく立ち直ったリュカが大きく頷く。
「よっしゃ、とりあえずあのもがいとる1番左からいくで!」
その号令と共にリュカたちが一斉に溶岩原人に斬りかかる。残りの2匹の溶岩原人がその後背を襲おうとしたが、JPのヒャダルコとメッキーの氷の息が彼らを足止めした。
当の溶岩原人も、最初はコアの位置をずらすなどして粘っていたが、抵抗虚しくヨシュアの槍先が傷ついたコアを捉え、最後は灰になって消滅した。
「よっしゃ!残り2匹や!」
それから2時間して戦闘は終結した。1匹をJPとメッキーのコンビで足止めしている間に、さすがにピンピンしている溶岩原人の反撃や超高速のコア移動に苦戦したものの、人間4人がかりでコアを叩き潰した。最後の1匹に至っては4人と2匹がかりでフルボッコにされ、最後はヘンリーにコアを破壊されて灰となって消滅した。
「ふーっ、これはこれで疲れたな。」
カリンが散らばったゴールドを回収しながら呟く。
「全くだ。それより、さっきの火達磨野郎はどうした?」
ヘンリーが他のメンバーが忘れかけていたことを言い放った。彼が担ぎ込まれた馬車の中では、ドラッチによる完璧な応急手当が完了していた。上半身は包帯でグルグル巻きされ、ところどころに火傷によく効く薬草が挟み込まれている。その時、人の気配を感じたのか、男が目を覚ました。
「お、気ぃついたか。」
「ここは…………?」
「馬車の幌の中や。今あんたを襲った魔物ぶっ倒して一息ついてるとこ。」
「リングは…………?」
「あんたの荷物にあった指輪入れに挿してある。あんたがアンディやな?」
「そうですが………」
「ウチらはあんたのヘルプをフローラに頼まれたもんや。」
「フローラに…………?」
「さて、指輪を回収した時点でここに用は無くなったな。さっさと帰ろか。」
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洞窟を3時間かけて脱出し、ルーラでサラボナに帰着したのは10月16日朝のことだった。とにかく全身火傷のアンディをルドマン邸に担ぎ込む。
「アンディ!」
知らせを聞いたフローラが慌てて玄関ホールにやって来た。その後ろから悠々とデボラも降りてきている。
「アンディ!しっかりして!」
「フローラ、済まない。こんな無様な姿を見せてしまって……。」
「もう!バカ!あなたに何かあったら、私………!」
フローラはアンディの手を握りしめてアンディを乗せた担架に突っ伏して泣き喚いている。
「まあ怪我っちゅうても全身の火傷がメインやから、全治1ヶ月ってとこかな。」
カリンが取り敢えずデボラにアンディの容態を説明する。
「へぇ〜〜。あんたたち、なかなかやるわね。」
「まあ伊達に旅続けてるわけちゃうしな。それと、アンディがむしり取ってきたこのリングはどないしたらええんや?」
「それはワシが預かっておこう。」
騒ぎを聞きつけたルドマンが居間から出てきた。
「本当によくやってくれた。フローラの頼みを無償で引き受けてくれた君たちには非常に感謝している。さて、これから水のリングも取ってきて頂こうと思うのだが、どうかな?」
「引き受けさせていただきます。」
リュカが大きく頷いて承諾の旨を伝える。
「そうか、引き受けてくれるか。とにかく今日は一日ゆっくり休んで英気を養っておきなさい。そして明日の朝にもう一度ここを訪ねてきたまえ。水のリングのありかについて詳細に説明する。」
「わかりました。」
こうして、アンディは自宅に引き渡され、リュカたちはサラボナの宿屋に宿泊し、疲れを癒した。サラボナでの冒険の前半が終了した。