10月17日、死の火山での冒険の疲れをある程度癒したリュカたちは、ルドマンからの呼び出しに応じてルドマンの屋敷に来ていた。
「よく来てくれた。改めて死の火山で我が娘、フローラの愛するアンディを救ってくれたことに礼を言おう。」
「で、フローラは愛するアンディの看病に向かった、というわけだな。」
「うむ、そうだ。」
先ほど大量の薬草を抱えてルドマンの屋敷を出ていったフローラの行動をヘンリーが言い当てた。
「それでだ。次の水のリングなのだが、グレートフォール山の南側の川に面した麓の洞窟の最深部にある。というより、滝の裏だな。本来ならグレートフォール山の麓をぐるっと回って行くのだが、今回は先日の礼を兼ねて特別に船を貸してやろうと思う。」
「はあ。船ですか。」
ヘンリーが相槌を打つ。
「そうだ。実は船を使ってグレートフォール山に行く途中に秘湯がある山奥の村あってな。そこにいる高名なブーケ職人にブーケ作りを依頼せねばならんのだ。別に直前でも構わんのだが、まあついでと言うやつでな。」
「なるほど。」
ルドマンが懐から一通の書状を取り出した。
「これが依頼書だ。それと、山奥の村の近くには水門があって、それを開けなければグレートフォール山には辿り着けん。村に水門を管理している家があったはずだから、どうせ寄らねばどうにもならんのだ。」
「わかりました。」
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「これでついでにビアンカ探しもできるね。」
「せやなあ。さぞかし美人になってるやろうなあ。」
リュカとカリンが上機嫌で真っ先に船に乗り込んだ。他の面々も次々と船に乗り込み、出航したのは昼過ぎである。青色のフグのお化け・プクプク、合わせの部分に鋭い歯を持つ凶悪な二枚貝・たまてがい、灰色のタコの頭を悪魔にすり替えた怪物・オクトリーチ、下半身が人魚で上半身が厳つい半魚人のようなすがたをした青色の怪物、マーマン、山賊ウルフをオレンジ色にした怪物・シードックといった魔物をなぎ倒して北に進むこと5日、10月22日の早朝に一行は水門に到着した。
「これが例の水門か。」
木でできた水門が一行の行く手を阻むように立っていた。
「さーて、降りるぞ〜。」
船の護衛には、ビアンカと会うかもしれないことを考慮して、ビアンカと面識のあるメンツで山奥の村に向かうため、スラリンとドラッチとブラウンとメッキーを残してリュカ一行は山奥の村へと進んだ。
一行が村に着いたのは翌日の昼下がりである。非常に長閑なこの村は秘湯の村として西の大陸の中では有名であり、休耕期である冬になれば、カボチの農家が1年の疲れを癒しにわざわざ湯治に訪れることも多いようだ。村の入り口は南側にあり、その入り口から村を縦断する道が伸びており、道沿いには土産物屋や一般の民家が立ち並び、その裏に自給自足用の畑が広がっている。件の秘湯は村の1番奥の大きな宿屋が管理しており、その西側からは絶えず湯気が立ち上っていた。
「この村に有名なブーケ職人がいてるって聞いたんやけど、どこか知ってる?」
カリンが村の入り口に立っていた警備兵に声をかける。
「ブーケ職人?ああ、その職人ならそこの路地裏から抜けたとこにある洞穴にいるよ。ブーケの依頼かい?」
「まあ他人のやねんけどな。」
「そうかい。どちらにしろめでたいねえ。」
「あと、今から船でグレートフォール山に行きたくて、あそこの水門開けてほしいねんけど、水門管理してるとこってどこ?」
「それならこの通りの突き当たりにあるでかい宿屋で聞けばいいよ。そうか、あんたら、フローラお嬢ちゃんとの結婚を狙ってるのかい?」
「いや、まあ代理やな。」
「まあグレートフォール山に行く前にここでゆっくり温泉に浸かって行きな。疲労回復にはもってこいだからね。」
「色々ありがとうな。」
道沿いの酒場のランチメニューで昼食を済ませ、警備兵に教えてもらったブーケ職人に依頼書を届けたリュカたちはしばらく道沿いを散策していた。
ある土産物屋の手芸細工を見ていた時だった。ふとカリンが顔を上げて宿屋の方を見ると、村の東側へ抜ける路地裏に入っていく金髪の美しい女性が見えた。同じくそれに気づいたリュカがモモを引っ張ってその女性の後を追った。
路地裏を抜けるとそこは墓地だった。女性は緑色の裾の短いワンピースに黄色のマントのような服を羽織っていた。ボリュームのある金髪は一本のおさげにして左肩から垂らしている。そして、女性は持ってきていた花を墓に手向けた。
そして、女性が帰ろうとしてリュカたちのいる路地の方を向いた。女性は大きく目を見開いた。
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この村に移ってきたのはもう10年ほど前になる。
2人の親友と大冒険に出てからしばらくした頃、そのうちの1人とその父親が行方不明になったという知らせが飛び込んできた。私と父と母は大きなショックを受けた。その衝撃から立ち直れないうちに、今度は2人の親友が住んでいた村が軍隊に滅ぼされた。幸い行方不明にならなかった方の親友は無事だったが、私たちが住んでいた国では苛政が始まり、それらの出来事に心を痛めた父が体調を崩してしまった。そこで、父の病気の治療を兼ねて、父の実家である西の大陸のこの村に移り住んできたのである。
引っ越しに際して親友が必ず手紙を送ってくれると言っていたが、ビスタの港が封鎖されてしまったことで手紙が届かなくなり、安否は分からなくなってしまった。
母と私は熱心に父を看病した。そして父の実家である宿屋を2人で切り盛りし、水門の管理も行った。しかし、父の病気は小康状態と悪化を繰り返し、徐々に父の体力を奪っていった。そして3年前、父は息を引き取った。
父を失った悲しみは大きかったが、それでも母と2人で何とか立ち直り、宿屋の経営に心血を注いだ。
そんな私たちの元に、ラインハット解放の知らせが届いた。ビスタの港も再び開かれ、手紙を送ることができるようになった。
しかし、送れなかった。行方不明になった親友の安否を尋ねるのが怖かったのだ。もし、死んでいたら………。そう思うとどうしようもなく胸が締め付けられた。要するに逃げたのだ。母もそんな私の心情を察したのか、何も言わなかった。
ラインハット解放の知らせから半年が経った。宿泊客の退出を済ませて客室を掃除する。それが終わると、日課の父の墓参りに出かけた。母はこの時間は仕入れに出かけている。いつものように花を手向け、目を閉じて祈りを捧げる。そして、宿屋に戻ろうと振り返った時だった。
旅装束をした一団が路地を出たところに立っていた。1人は紫色のターバンを頭に巻いた青年、もう1人は薄く淹れた紅茶色の髪をした、長身の美しい女性だった。その隣には、あろうかとかキラーパンサーが座っていたが、敵意はないようだ。
しかし、彼らには見覚えがあった。離れ離れになった親友たちが成長したような姿をしていた。そして、3人で冒険した時に助け出した妙な猫も、そういえばキラーパンサーの子供であるベビーパンサーだと言われれば納得できる。
今目の前にいるのは、リュカとカリンとモモかも知れない…………。
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その場に沈黙の時が流れた。そこへ、リュカとカリンとモモが消えたことに気づいたヘンリーが追ってきた。
「おいリュカ、カリン、急にどうしたんだ?」
その声に反応して金髪の美女が驚いたように声を上げる。
「リュカとカリンなの………?」
「ちゅうことは、ビアンカってことでええんやな。」
「久しぶりだね、ビアンカ。」
「じゃあ、そのキラーパンサーはモモ?」
「そうだよ。」
それを聞いた瞬間、美女=ビアンカの目から涙がぶわっとこぼれ出た。そしてカリンとリュカの胸に飛び込む。それをリュカが満面の笑みで、カリンが涙を流しながらの笑みで迎える。3人はビアンカが飛び込んできた衝撃で地面に倒れこんだ。そして、そこに涙を流しているモモが近寄ってビアンカに頬ずりをする。
そのまま3人と1匹はしばらくの間この再会に酔いしれた。
10月23日、西に傾き始めた太陽の光の下で、10年前にレヌール城舞台に大冒険を繰り広げた3人と、そこに大きく関与したキラーパンサーが、感動的な再会を果たした。