ビアンカと感動的な再会を果たしたリュカ一行は、そのビアンカの案内でビアンカとビアンカの母、ダイアナが営む宿屋に向かった。
「あら、ビアンカ、今日はちょっと遅かったね。何かあったのかい?」
宿屋に入ると、ダイアナは入り口に背を向けてカウンターに座って宿屋の帳簿をつけていた。そちらに集中しており、まだリュカたちには気付いていない。
「ママ。ちょっと開業するには早いけど、とびきりのお客様をお連れしたわ。」
ダイアナはこちらを振り向きながら掛けていた老眼鏡を外す。少し癖のある長い茶髪を後ろで束ねている。疲れたような表情や少し落ちた頰肉が時の流れを感じさせたが、あの気丈な肝っ玉母ちゃんであったダイアナであることは一目瞭然だった。ダイアナもこちらに気づく。そして、その目をまん丸に開けた。
「あんたたち、もしかして…………。」
「久しぶりやね、ダイアナさん。」
「その話し方……、本当にカリンなのかい?」
「うん、まあ。」
「じゃあその後ろにいる紫ターバンは………。」
「うん、僕だよ。リュカだよ。」
「あ、あんたたち………。」
ダイアナの目から大粒の涙が溢れてくる。
「よく………よく生きてたねえ…………。」
そして、ダイアナはリュカとカリンに近寄り、2人をきつく抱きしめた。その時、ビアンカがカリンの左手薬指の指輪に気がついた。
「あら?カリン、その指輪は?」
「あ、これ?まあ、その、あれや。要するに、その、ウチ…………結婚したんや。」
「「……嘘………」」
「まあ、その、そこの緑頭がウチの旦那やねん。」
「式は挙げたの?」
まだ信じられないという顔をしながらビアンカが尋ねる。
「挙げたで。」
「なんせ相手はラインハットの王子様だからね〜、そりゃもう盛大に。」
カリンの返答に被せてリュカが新郎の個人情報を暴露する。
「そうかい、あんたが行方不明になったっていうヘンリー王子かい。」
「はい。」
「何があったかは後でじっくり聞くよ。とりあえずは、カリンを幸せにしてやるんだよ。もしカリンを不幸にしたら、あんたが王族だろうと私は容赦しないからね。」
「肝に銘じておきます。」
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「そうかい、2人とも苦労したんだねえ。」
カリンとリュカがこの10年間に起こった出来事を話す。特にパパスの最期やリュカの地獄の奴隷生活の話の時は、ビアンカもダイアナも流れる涙を止められなかった。
「そうかい、あのパパスがねえ。何回殺しても死なないような偉丈夫だったのにねえ。」
そして、話はセントベレス山の脱出からラインハット奪還作戦へと移っていく。カリンもリュカとモモとマルティンを失ってからの灰色の日々についても話した。ビアンカとダイアナが特に食いついたのはもちろんカリンとヘンリーの馴れ初めについてである。
「なるほど、ヘンリー殿下の一目惚れだったのね。」
「その殿下っていうのはやめてほしい。私は王族になど値しない。ビアンカさんはカリンの親友なのだから、私のこともそう思ってほしい。」
「じゃあ遠慮しないわよ。で、カリンはヘンリーの告白を受け入れたのよね。どの辺に惹かれたの?」
「そうやなあ。自然体で過ごせるとこと、ウチのことを女の子やと思ってくれるし、優しいし、男気あるし……。」
「うわ〜、あのカリンが女の子の顔してる。」
「なんやビアンカ、ウチのこと何やと思うてんねん。」
「なんか独身貴族貫くと思ってたなあ。」
「う、ウチだって恋くらいするし!そういうあんたはどうやねん?あんたは?」
「全然よ!そもそも若い男の人少ないし、全員タイプじゃないし。」
「じゃあタイプは?」
「秘密!」
「なんやそれ。」
そして西の大陸での大冒険である。ポートセルミで明かされたカリンの秘密、カボチでのモモとの感動の再会劇、ルーラを復活させるために見た地上の星、そして、プロポーズのないまま挙行されたラインハット王族のW結婚式。
「そうか、それであんたは妙に大人びてたんだね。」
「まあそういうことです。」
「そうか、レヌール城に冒険に行った時にモモが熱烈な視線をカリンに送ってたのは元々知り合いだったからなのね。」
「そゆこと〜。」
「で、どうだったの?結婚式は。」
「豪華すぎてビビった。ラインハット城の中庭フルで使っとったからな。」
「んで、デール国王陛下と結ばれたのがこのヨシュアさんの妹さんのマリアちゃんなんだけど、妹を取られてシスコンのお兄様は悲しみに暮れて………。」
「おいリュカ、うるさいぞ。」
「うわあ。本当に居たんだ、シスコンって……。」
「ビアンカさんも便乗するでない!」
最後に、現在のミッションについて話した。
「なるほど、天空の装備を探しに行ったら恋のお手伝いに巻き込まれちゃったのね。」
「まあ、そういうことや。んで、リュカがデボラに一目惚れしたんやんな?」
「え?」
ビアンカが少し動揺する。その様子を見てカリンとヘンリーとヨシュアとモモとダイアナは察した。ビアンカのタイプの男性がどのようなタイプであるか。いや、具体的に誰であるか。
「別にしてないよ〜。」
「ふーん。ま、そういうことにしといたるわ。」
カリンは追及の手を緩めた。
そして、ビアンカも最愛の父、ダンカンを失ったことを話す。
「ダンカンさんがなあ〜。」
「本当にね。」
「ところでビアンカ。」
「何?お母さん。」
「リュカたちの旅について行きな。」
「えっ?」
「あんたには色々我慢させちまったからね。これからは私のためじゃなくて、自分のために生きなさい。私は大丈夫だよ。何せここは稼ぎが良いからね。新たに人を雇えば済む話だ。」
「でも………」
「カリン、リュカ、それで良いかい?」
「こちらとしては大歓迎や。何迷うてるか知らんけど、せっかくお母ちゃんがこう言うてくれてるんやから。」
「そうだよ。ビアンカと一緒の方が絶対に楽しいよ。」
「ほら、リュカたちもああやって言ってくれてるんだから。それに、私は早く孫の顔が見たくてね。」
「…………うん、わかった。リュカたちについて行くわ。」
「レヌール城の時以来やな。」
「さっきから気になってたんだけど、後ろのフードかぶった人は?」
「ああ、こいつはジェルミー・パウエル。略してJPや。またの名をレヌール城の親分ゴーストっちゅうんやけどな。」
「ああ〜。私たちがやっつけた魔物ね。」
「仲間に見捨てられたり、あろうかとかこのウチを詐欺ろうとしてバレたりな、とことん不憫やったからこき使ったってんねん。」
「なるほどね。」
「さて、話はまとまったようだね。今日は一日ここでゆっくりしていきな。積もる話もあるだろうしね。」
最後にダイアナが場を締める。こうして、ビアンカを新たに旅の仲間に加えたリュカ一行は、ひとまず山奥の村の温泉で疲れを取ることとした。
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日が沈んでしばらく、夕食を済ませたカリンとビアンカは温泉にそのスタイル抜群の全身をたっぷりと浸していた。
「あんた、リュカのこと好きやろ。」
カリンが唐突に爆弾を投げ込んだ。
「なっ………!」
ビアンカの顔が一瞬で茹で上がる。
「隠さんでもええやん。リュカを好きって思うんはあんたの自由やねんから。それに、ウチに隠し事なんか通用せえへんしな。」
「それもそうね。」
「ちなみにいつから?」
「やっぱりレヌール城の時かな。何事にも臆さないところがカッコよかった。だからリュカが行方不明になったって聞いて本当にショックだったわ。」
「んで、今日イケメンにさらに磨きをかけて来たリュカを見て株価急上昇って感じか。」
「本当に何でもお見通しなのね。」
「それでさあ、もし仮にリュカがあんたを選ばんかったらどうするつもりなん?」
「そりゃあ諦めるしかないわよ。」
「そっか。」
「それにしてもカリンが転生者だったことにも驚いたわ。まあ、納得の方が大きかったけどね。よくよく考えたらあんなに大人の余裕醸し出す7歳児なんて考えられないわ。」
「実はお母ちゃんには早々にバレとったし、パパスさんにはウチからバラしとったんやけどな。これで秘密墓まで持って行ったろかって思ったけど、リュカにあっさりバレたわ。」
「ふふ。さすがリュカね。」
「じゃあ、そろそろ上がろか。」
「そうね。」
「腕は鈍ってないか?」
「水門の掃除に行く時に出くわすこっちの強い魔物に随分と鍛えられてね。鈍るどころか成長してるわよ。」
「それは期待させて頂こう。」
2人はグータッチを交わして浴槽を出た。満天の星空が2人の美しい裸体を照らし出していた。