"想いを告げたいならさっさと告げちゃいなさい。"
ビアンカのそのアドバイスを聞いたリュカは早速翌日の11月12日にルドマン邸のデボラの部屋に来ていた。もっとも、呼びつけられたという方が正しいものではあったが。
「どうしたんですか、デボラさん。急に呼びつけたりなんかして。」
椅子に座ってそっぽを向いていたデボラがこちらを向いて立ち上がる。
「ねえ、あんた。あのビアンカとかいう田舎娘のことはどう思ってんのよ。」
その質問でリュカは大体のデボラの心情を察した。要するに、2人は両想いだったのだ。リュカは舞い上がりたい気持ちをグッと堪えて自然体でデボラに向き合う。
「別に、普通の幼馴染と思ってますよ。」
「本当にそうなの?」
「実は昨日ビアンカに告白されたんですよ。」
「で、振ったの?」
「はい。」
デボラはその返事に意外そうな顔をした。そして恐る恐るその理由を尋ねてくる。
「どうして?」
「そんなの、僕の好きな人が目の前にいるからじゃないですか。」
デボラは目をまん丸に見開いた。リュカの推測通り、どうやらデボラはリュカとビアンカは相思相愛だと思っていたようだ。
「あんた、ひょっとして私のことが好きなの?」
「そう以外に聞こえたのなら、おそらく僕の伝え方が悪かったんでしょう。」
その返事を聞いて、デボラは顔を真っ赤にし、俯いて少しイラついたような口調で話し始めた。
「あんたって馬鹿よね。こんな私のどこが好きなのよ。口が悪くて無愛想でこんなにツンケンしてる女の。」
「そうですね〜、もちろん容姿に一目惚れしたっていうのがスタートですけど、やっぱりそうやって自分の照れ隠しのために僕に辛く当たっちゃうような可愛らしいところですかね。」
リュカは現在のデボラの心情を正確に言い当ててデボラからさらなる反応を引き出そうとした。効果はまさに覿面である。
「はっ!この私が!?照れ隠し!?まったく、バカも休み休み言いなさいよね!」
「知ってますか?デボラさん。カリンによるとそういう性格の人のことを"ツンデレ"って言うらしいですよ。」
「あんまり意味は分からないけど、どうやら私を馬鹿にしてるようね。」
「いえいえ、そんなつもりは毛頭ありませんよ。僕的にはデボラさんのそういうところこそ"ツンデレ"で、可愛いって思いますよ。」
ついにデボラはリュカに対する攻撃を諦めた。これでは手を出すだけ向こうから強烈なカウンターを貰うだけだと察したのだ。
「あんたって物好きな男ね。」
「まあ、恋なんてきっとそんなもんですよ。」
「何よ。私より年下のくせに悟ったようなこといって。本当に小魚のくせに生意気ね。」
「お褒めに預かり、光栄の極み。」
そう言ってリュカはデボラに近づいてそっと抱き寄せた。
「僕としては本心を打ち明けたつもりなんですけど、そろそろデボラさんの気持ちを聞きたいですね。」
抱き寄せられたことで先ほどよりより一層顔を真っ赤にしたデボラがリュカの背中に腕を回しながら返事をした。
「私にここまでさせた責任、取りなさいよね。」
2人はしばらくそのまま抱き合った。
「はい、そこで覗きしてる人出てきて〜」
デボラを抱いていたリュカが不意に声を上げた。デボラも驚いて扉の方を向く。
「ちぇっ!バレてねーと思ってたのによ!」
「いや、だいぶ前から気づいとったな。ほんま、やらしい性格やわ〜。」
扉の向こうから現れたのはヘンリーとカリンの夫婦だった。さらにその後ろからビアンカとヨシュア、さらにリュカもデボラも予想していなかった………
「お姉さま、おめでとうございます!ついに意中の方を射止めなさったのですね!」
「ふ、フローラ!?」
「フローラさん!?」
野次馬をしていた最後の1人はフローラだった。実は、デボラがリュカを呼びつけたことを察知してカリンに耳打ちしたのはフローラであった。そしてカリンが残りの3人を呼び集めて、リュカが部屋に入った直後からずっと聞き耳を立てていたのだ。
「うふふ。それにしてもリュカさん、不束者のお姉さまをどうか末永くよろしくお願いしますね。浮気なんかしたら私が許しませんわよ。」
「だ、そうだリュカ。これでうかうかと浮気なんてできねーな。」
「なんや、最初から相思相愛やったんか。おもんな〜。」
「何言ってんのよ。これでめでたしめでたしじゃないの。」
「アホぬかせ。ビアンカ、あんたがリュカに惚れとったことなんかリュカ以外全員気づいとったで。まあウチは温泉で聞いたから例外やけど、フローラにデボラさんまでな。なんならルドマンの親父も気づいとったんちゃうか?」
「なっ…………!?」
「まあとにかく、カップルがまた1組成立したわけだ。とりあえずリュカ、ルドマン殿に"娘さんをください"の一言を言わないとな。」
ビアンカを赤面させた後は、しれっとヨシュアがリュカに矛先を向ける。
「はあ。早いこと片付けるか。デボラさん、ちょっといいですか?」
「…………わかったわ。それとあんた、その…………恋人同士になったんだからタメでいいわよ。」
「そう?じゃあ……………行こっか。」
「うん。」
リュカとデボラが部屋から出てルドマンが寛いでいる居間に向かった。残された5人も少し遅れて後に続く。
「それにしても、デボラお姉さまのあんな女の顔をが見られるなんて思ってもみませんでしたわ。」
「そういえばヘンリー、カリンもあんな顔見せたりするの?」
「まあ、あんまり数は多くないけどな。告白した時と結婚式の時くらいか。」
「うわ〜、その時のカリンの顔見たかったな〜。」
「まあこればっかりは見逃したビアンカの責任やな。」
そうこうしているうちにいつのまにか一行はルドマンのいる居間に到着していた。
「どうしたんだ?全員でぞろぞろと押しかけてきて。」
ルドマンが不思議そうに問いかける。
「いえいえ、ウチらはただの付き添いっていうか野次馬です。メインディッシュはそこのリュカとデボラですから。」
「それで、何だね?」
ルドマンに問いかけられたリュカは緊張しながら声を発する。
「あの〜、その〜、できればデボラさんとお付き合いしたいな〜と考えているんですけど………。」
ルドマンは大きく目を見開いて驚く。
「本当なのか?デボラ。」
「え…………まあ。」
「リュカたちの旅についていくつもりなのか?」
「私はそのつもりよ。」
「……………リュカよ、デボラを幸せにできるか?」
「正直、流浪の身である以上自信はありませんが、精一杯の努力はいたします。」
「……………。」
ルドマンはしばらく考え込んだが、やがて目に決意の光を湛えて大きく頷いた。
「よかろう。デボラはお前にくれてやる。」
「ありがとうございます!」
リュカは腰を90度曲げて頭を下げた。
「デボラ。」
「何?」
「リュカを選んだのはお前だ。この先何があっても心配はするがそれ以上のことはせん。リュカを責めるようなこともな。お前の選んだ道だ。最後までお前の脚で歩きなさい。」
「わかったわ。」
「しかし困ったな。これではフローラの挙式までにデボラの準備が間に合わん。できれば一緒に挙げたいものだが。ドレスもヴェールも今からではどうにもならんしな。」
「その点についてはウチらの故郷の村で挙げますわ。ここで挙げるよりは数段地味な式にはなるでしょうけど、リュカの地元ってこともあるし、参列に関してはリュカがルーラで送り迎えしてくれるから大丈夫でしょう。」
挙式はサンタローズで行うことをカリンが提案する。そしてそれにルドマンも賛同した。
「多分年明けくらいになるでしょうから、一応そのつもりしといて下さい。具体的な日取りが決まったらリュカを遣わすんで。」
「わかった。それにしても、デボラに良い婿が現れて良かった。正直言って、もう見合い結婚しかないと思っとったからな。それがお互い意中の相手と結ばれるのだ。これ以上のことはないな。」
「こちらこそ、リュカにいい嫁を提供してくださってありがとうございます。こいつのことやから、"全てが終わるまで結婚はしない"とかぬかして独身貴族貫くもんやとばかり思ってましたから。」
「ハハハハハ!そいつは良かったな!さて、それでは食事の用意をさせよう。いやはや、こんなに吉事ばかり続いてはうちの料理人も豪勢なものばかりを作らされて大変だろうて。ハハハハハ!」
ルドマンの豪快な笑い声とともに、奥で控えていたシェフが肩を竦めていそいそと調理場に向かう。
アンディとフローラの結婚式までは、あと3日を残すのみである。