ハリー・ポッターと悪魔の双子   作:ボルヴェ

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いざクライマックスへ。
評価ありがとうございます!


召喚されし者

 sideバージル

 

 

 

「キさ、貴様はアァァああ!?」

 

 

 目の前の醜悪な容姿を引っさげた男の叫び声が炎の巻き上がる部屋に響き渡り、ビリビリと波打つ錯覚を覚える。

 

 何と喧しい奴だろうか。豪炎の影響で無駄に上昇している室温など比にもならない程度には不快だ。隠す事なく目の前の男へと舌打ちを送りつつ、首だけ捻り背後で意識を手放したハリー・ポッターを確認した。

 

 来るとは思っていたが結論から言うとやはり邪魔だった。闇の帝王を倒した英雄とはいえ自身やダンテがこの部屋でブルーニと闘争する様を見せようものなら後の収拾がつかない。状況を説明しようが拗れるだけだ。こうして奴と対面するにもポッターの意識が落ちるかどうかの条件が揃わない限り姿が現せない為に手間がかかってしまった。

 ならば忘却魔法を使えばいいのではとダンブルドアに提案自体はしたが、忘却魔法というのは一寸単位で間違えると特定の記憶以外も消去してしまうような精密な技術を要する物で、その便利さに目を眩ませて無闇矢鱈と使用するのは得策ではないと却下になった。貴様がやれば確実に一点のみ消すことなど容易だろうとも言ったが、ダンブルドアは断固として揺るぐことは無かったのだ。面倒にも程がある。

 

 無理やり評価するのであれば、ロクな呪文も習得せず強い意思のみで格上に立ち向かいに来たという点では流石"英雄"と称される身だと言えようか。

 しかし何度も言うが、勇気と無謀を履き違えている事には何も変わりはない。筋金入りの愚か者だということは今回でハッキリ分かった。

 

 突然炎が揺らぎ、背後へダンブルドアが姿を現した。様子を見るに今ようやく帰還したと見える。やはり魔法省の呼び出しはフェイクだったのだろうか。

 背を向けたままポッターからダンブルドアへと視線を移し、別段変わった様子のない事を確認してから顔を前に向け戻す。

 再び視界に映ったブルーニは、先程よりも身体が肥大し始めていた。更に悪魔の魔力を摂取し続けている様だが、器が耐えきれないようであちらこちらの皮膚が裂けだしている。力を得たと悦楽に浸っているようだが素質のない人間の憑魔など身を滅ぼすだけだ。

 

「ダンブルドア、ハリー・ポッターを連れて退け。みぞの鏡も移動させろ、壊されたくなければな」

「…分かった。───武運を祈っておるよ」

「いらん世話だ。さっさと行け」

 

 バージルの素っ気ない言葉に相変わらずだとダンブルドアは苦笑を零し、ポッターを抱えてみぞの鏡と共に姿くらましを使用して一瞬の内に消え去った。

 これでようやく障害もなく事が進められる。

 

「愚かだなヴォルデモート、あの時の悪運に任せて逃走しておけば良かったものを。貴様は相手の力量差も測れん程脳が無いのか?」

 

 ブルーニの崩壊しかけた身体にはめ込まれたヴォルデモートを侮蔑の眼差しで眺める。しかし決して挑発ではないと言っておこう。目の前の男が怒り狂っているが知らん。事実を述べているだけだ。蠢くヴォルデモートは分かりやすく顔を歪め口を開いた。

 

『…貴様、まさかケルベロスの部屋に居た悪魔か』

「これから死ぬ者がそんな事を聞いてどうするつもりだ?」

『自惚れるな小僧…! この闇の帝王に二度も刃を向けた事を後悔するがいい! ウロス、()()に相手をさせろ!』

「必要あリません我が君ィ! こんな貧相なガキ、俺がァ! あ、ア?」

 

 

 、

 

 

 ポッターをはじき飛ばした時よりも比較にならないほど肥大化し最早人間としての原型を留められていないブルーニが、慢心に満ちた叫び声をあげバージルを殴り殺す為に一歩を踏み出す。

 だがブルーニの身体は急に硬直を強制された。目の前の憎たらしい銀髪の男をこの手で殺したいというのに足が動かない。

 

 ふとバージルの手元を見ると、先程まで杖が握られていた右手には血を滴らせて鈍い光を放つ細長い刃が存在し。バージルは流れるような動きで刀身に付着した血を払い落として、ゆっくりと鞘の中へ収めていく。

 スローモーションを見ているような錯覚。戦闘中とは思えない、高く舞う炎の燃焼音のみが辺りを支配し───カチン、と納刀の小気味いい音を合図に、ブルーニの視界はゆっくりと傾き始めた。

 

 世界が歪んだ感覚。何故? 重力の法則が変わって地面が天井にでもなり始めているのか? 現実逃避の様な思考の奥で、ブルーニの諦めとも言える冷静な部分が呟くように答えを落とした。

 

 俺が斬られたのだと。

 

 世界が傾いたのではない。自身の身体が真っ二つに断絶されて上半身が倒れている。何が起きたのかは全く理解出来ないが、目の前の人の形をした化け物(悪魔)がやったという事は、よく分かっていた。

 

 鈍い動きで視界がブレて、暗転、

 

 

 、

 

 

 

 ドチャ、と大量の血溜まりに落ちたブルーニの上半身を冷めた目で眺める。何ということは無い、ただ杖の姿をしていた閻魔刀を元に戻して奴を斬っただけだ。応戦できる程の実力が無かった己の無力さを恨むがいい。

 

『使えぬ駒が…!』

 

 間を開けずに煙のようにブルーニの死体から抜け出したヴォルデモートが恨めしそうな、苦しそうな目でこちらを見ていた。負け犬にも劣らないその様子が何とも滑稽で呆れる。これが闇の帝王とはな。

 だが次の瞬間にその歪んだ口元が笑みに変わったのを見て訝しげに奴の動向を静観する。

 

『まあ良いだろう。残念だが…貴様は私に構っている暇など無いぞ。先ほど貴様が私に言ったが、そっくり返してやろう。あの時を最後に逃げておけばよかったのだよ。───ウロス・ブルーニは悪魔に捧ぐ魂こそつまらぬものだったが、()()()()()()()()()()()()()()。故に貴様はここで死ぬ』

「下らない御託を…、」

 

 違和感を覚えて口を閉じた。

 

 この場に強い魔力が近づいている。勢いよく湧き上がるように何かが。

 怪訝な表情を浮かべながらバージルが周りを見渡すと、ブルーニの死体の後ろで徐々に巨大な魔法陣が形成されていく様が視界に入った。部屋が地鳴りの様に揺れ始める。部屋に立ち上る炎が呼応するように激しく燃え盛ると共に、

 この苛烈な現象の主が、姿を現した。

 

 

 

『グォォオオオオ!』

 

 

 炎獄の覇者、ベリアル。

 

 迸る炎を纏った獅子。ケンタウロスと同様の形象、10mを優に超える体躯を持った上級悪魔。矮小な人間など何人束になろうが、それこそ虫を払う様に薙ぎ払ってしまう存在だ。唯の人間からすれば絶望が再現されたといえる怪物であるだろう。唯の人間からすれば、だが。

 

 巨大な剣を携えた炎の戦士は軽く周囲を見渡し、自身の足元に散った召喚者の姿を冷笑した。

 

『フン、人間風情がよく我を召喚できたものだと思うたが…所詮は矮小な存在よ。しかし久々の人間界も良いものだ、』

 

 言葉を句切り召喚者ブルーニの先にいる、ベリアルを前にしても涼し気に佇む男をギロリと睨みつける。その迫力は筆舌に尽くしがたいほどである筈なのだが、向けられているバージルはまるで我関せずとでも言うような仏頂面を続けたままだ。

 そんな、まるでお互い全く異なった状況が歪に混ざりあったような不可思議な雰囲気を断ち切るかのようにベリアルが猛った笑い声を上げる。

 

『まさかスパーダの血族を叩き潰す為に召喚するとはな! 偶合とは言え誉めてやろう、人間よ!』

 

 バージルは目の前の悪魔の言葉などまるで聞きもせず室内に存在する魔力を探る。どうやらヴォルデモートはベリアルが召喚された時の場の衝撃と合わせて逃げたようだ。霊体というのは便利らしい、というより何とも悪運が強い。

 だが正直アレが人間界で名前を言ってはいけない人物だと恐れられる道理が分からない程度の存在だと認識しているバージルがそれを危惧する事など有りはしなかった。そもそもムンドゥスという魔界の王もスパーダでさえ滅する事が出来ずに封印止まりとなったのだ。それに比べれば随分と楽である。何度復活しようが叩き潰せばいい。

 

 それよりも必要の部屋というのは随分と高性能な代物だった。悪魔の召喚に合わせて事前に広大な構造にしていたのだがまさかベリアルが入り込むほどとは。魔術も捨てたものではない。

 

 などと己の思考に篭っているうちに、ベリアルが悪魔の恒例であるのか長ったらしい戦闘前の語りを終わらせたようで、

 

 

『覚悟するがいい、スパーダの血族よ。同胞たちの仇を取らせて、「つーかさ、何で中ボスといいラスボスといい戦闘前のお喋りが長いんだろうな。世界を半分くれてやろうとか言ってくるけどアレ"yes"って言わせる気無いだろ。選択肢は"いいえ"or"die(死ね)"だろ? まあ勇者が物騒過ぎんのが悪いのかね」もら、う。…何者だ?』

 

 

 突然割り込んできた第三者の声。ベリアルはわざとらしく言葉を遮られた事に不機嫌な声色を隠す事無く、この軽薄で腹立たしい事この上ない声の方向、背後へと顔を向ける。

 それの正体が分かりきっていたバージルは聞き飽きた兄弟の挑発に、ベリアルが召喚された時よりも更に疲れた表情を隠さずに盛大な溜息を吐いた。

 

 そんなベリアルとバージルの目線の先、

 あっちー、と顔を手で仰ぐ真紅のローブに身を包んだダンテが、かの炎獄の覇者の炎を纏った尾の上に、

 

 まるで公園のベンチでも使っているかと錯覚する程呑気に座っていた。

 

 

「いや普通に暑いな。さすが炎獄の覇者の炎って言えばいいのか?」

『貴様ァァアアッ! 我を愚弄するか!』

 

 予想に容易く怒ったベリアルが奴を振り落とすべく尻尾を乱暴に動かすが、ダンテはその勢いに任せて高く跳躍し、余裕綽々と笑みを浮かべてバージルの隣へと降り立って、何故か全焼することなく幾分かローブに燃え移った火を埃を取るかのように払い除けた。

 

 手には既に、杖ではなくリベリオンが握られている。

 

「普通に出てくる事も出来ないのか、貴様は」

「何言ってんだよ。やるなら逐一スタイリッシュに、だろ? スパーダ家の家訓だぜ?」

「勝手に下らん家訓を立てるな」

 

『何処まで我を馬鹿にするか貴様らァ! 反逆者の血、ここで絶やしてくれる!』

 

 自身などそっちのけでコント染みた言い合いを繰り広げる双子を、嘗められた行動だと憤慨するベリアルに二人はやっとの事で意識を向けて不敵な面構えを見せながら覇者を鼻で笑ってみせた。

 

 その目に怯えも恐怖も緊迫もない。それはこれから起きる闘争が待ち遠しくて目を光らせる悪魔の顔だった。

 

「絶やす? 笑わせてくれるな。大人しく尻尾を巻いて魔界に帰ればいいものを」

「言うだけ無駄さ、」

 

 憤怒の炎を纏ってゆっくりとこちらに歩み寄るベリアルに、ダンテがリベリオンの刃先を向けてバージルを横目で見やる。腹立たしい表情だが今は咎めずにいてやろうと思う。

 

「身体で気付かせなきゃな!」

 

 その言葉を皮切りにバージルがダンテの構えていたリベリオンを閻魔刀で弾いて、お互いにベリアルへと走り出す。炎帝の咆哮が轟く。

 

 彼等(悪魔)の圧倒的な闘志に当てられたのか、部屋を取り巻く苛烈な炎が、確かに揺らいだ。

 

 

 

 




まさかのベリアル様登場です。ブルーニだと一瞬で終わっちゃうからね。ブルーニには召喚術はまあ優秀だった設定を追加です。

ちなみにみぞの鏡の部屋はベリアルが入るように必要の部屋仕様にしました。
次回の戦闘描写が怖い。

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