ハリー・ポッターと悪魔の双子   作:ボルヴェ

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夢かと思いました。ありがとうございます。

それと、評価してくださった方ありがとうございます! この前評価者の名前を晒すのは宜しくないのではないかという助言を頂きましたので今回からは伏せさせてもらいます。

また誤字報告して下さった方も、ありがとうございました!とても助かりました。


To your hell we'd like to welcome you

 sideダンテ

 

 

 

 バージルはベリアルより少し斜めに走り出したかと思うと、瞬間移動の如く一瞬のうちに消えた。あちらも随分と特攻的だが、安否を心配しなければならないような奴ではない。寧ろバージルの相手になった奴がどれほど叩きのめされたかどうかの方が気になるレベルだ。

 

 というより自身もリベリオンを片手に、奴の真正面を突っ走っていた。俺の姿を確認したベリアルは巨大な剣を振り上げて、その膨大な質量を持った大剣の刃先で、凄まじい腕力からこちらへと突きを繰り出した。

 ゴオッ! と斬られた風が悲鳴を上げ、覇者の無慈悲な一撃がダンテを削り飛ばす、とはいかない。

 

 ダンテは馬鹿正直に正面から繰り出された突きを目の前にニヤリと口角を上げると、リベリオンを構えて相手の大剣の先目掛けて同様に突きを放った。

 普通に見れば体表差が開き過ぎている為に、ベリアルと比べると小粒とも言えるダンテの方が耐えきれずに潰れる筈なのだが、けたたましい金属音の先に見えたのはベリアルの剣の刃先をリベリオンの刃先で止めるダンテの姿であった。

 

 

 逆賊とはいえ魔帝を倒したスパーダの血族。早々殺せるとは思ってはいなかったがこれ程まで簡単に一撃を相殺されられるとは、とベリアルは思わず顔を歪ませる。

 その表情を見てダンテは不敵な笑みを崩さずに、鼻で笑いながら挑発した。

 

You scared?(ビビってんのか?)

『ッ! 嘗めるな小僧!』

 

「嘗めているのは貴様だ」

 

 そう安い挑発に乗ったベリアルが再び大剣を振り上げた瞬間、背後に底冷えするような濃密な殺気が現れた。殆ど反射的に後ろへ振り向いて、勢いでダンテに振り下ろしそうになった大剣を盾のように構える。それと同時に鋭い斬撃が大剣に叩きつけられた。若干構えが甘かったか頬に刀傷の一線が深く走っている。

 やはりというか何というか、斬撃の元はバージルだ。ダンテと共に走り出したと同時に瞬間移動と言えるスピードでベリアルの背後に回り込み、ダンテと剣を交えている隙に閻魔刀へ魔力を込めて斬撃を飛ばした。

 兄は閻魔刀を鞘に収めながら呆れた表情でベリアルを睨めつける。

 

「敵が単体では無いにも関わらず片方に意識を絞るなど愚の骨頂。噂に聞く覇者とは思えんな」

 

 斬撃に畳み掛けるような鋭い言葉の羅列。これでも本人は煽るつもり無く本気で言っているからタチが悪い。

 ダンテの予想通りに、ベリアルは本気でブチ切れてしまったようだ。だが俺からしてもこのままでは歯応えが無さすぎる。少しくらい本気を出してもらわなければ盛り上がりに欠けるというものだ。

 

 そんなダンテの期待通り、ベリアルは憤怒で昂る感情の如く燃え盛る炎の衝撃波をぶちまけながら咆哮を上げる。

 

 

You're death!(殺してやる!)

 

 

 巨体のベリアルが収まる程の広い部屋が、真っ白に染まるほどの爆炎。流石にこれを直撃というのは痛い。咄嗟に後ろへと飛び退いて逃れる。

 

「ハッ、ご機嫌斜めらしい」

 

 それでも充満する地獄の灼熱に、ダンテはリベリオンを肩に担いで先程と同じく悠長に顔を仰いだ。

 今の炎に呼応したように室内を囲う炎の高さが爆発的に伸びている。火光の収まった周囲に目を凝らすと、ベリアルよりもっと先にバージルの姿があり、兄は自身とは逆方向の遠方で今の衝撃を回避した事を確認できた。

 

 左右両方向の遠方に回避した双子をギロリと睥睨するベリアルは、その巨体に歪む紫がかった陽炎を携えたまま勢い良く地面に手を叩きつける。

 疲労から倒れ込んだ訳では無い。奴の攻撃手段の一つ。証拠にダンテとバージルの足元には火山が噴火する手前のような張り詰めた赤色が膨れ上がり始めていた。

 しかしまた逃げ回るなど性に合わない。双子はどちらも迷う事なく地面を強く蹴ってベリアルの方向へと駆ける。後ろでは先程立っていた場所で、彼等が離れたと粗同時に巨大な火柱が上がった。

 

『消し飛ばしてくれる!』

 

 対してベリアルは恐れ無く両脇から迫る彼等を蹴散らさんと、一瞬だけ力を溜める為に体を硬直させ、一気に放出するように体を回転させながら大剣を一周横薙ぎに振り抜いた。その斬撃に、空気が低い悲鳴を上げる。

 

 振り抜いた勢いで軽く舞い上がった身体が地につき、仄かな火の粉が舞う中、ベリアルは怪訝な顔付きで周囲に目をくれる。双子の姿は見えないが消し飛ばせたのか、しかしその手に奴等を斬った手応えは感じられない。

 それとも再び距離を取られたか。ならば此方も同様に火柱を誘導しようとした瞬間、

 

『ッグォ!?』

 

 自身の下から不意に現れた衝撃が、無防備な身体に撃ち込まれた。認識する間もなく喰らった、ベリアルの強大な体躯でも軽々と打ち上げられるような強烈な一撃。

 

 何事かとその元凶に何とか視界を合わせようと首を捻ると、漸くベリアル自身が立っていた場所へ焦点が定まり、

 

Humph, How boring(フン、つまらん)

 

 そこには姿を消した筈のバージルが、いつの間にかその四肢に強い光を放つ篭手を装着した状態で、恐らくベリアルを殴り上げたのであろう右腕を挙げたまま、つい先程ベリアルに挑発とも取れる苦言を零した時と同じく一切熱を感じない冷たい目を携えて佇んでいた。

 

 

 あの一瞬、ベリアルが剣を振り始める直前に、バージルは幻影剣をベリアルの右前脚元の内側に突き刺して的を作り出し、その場へ瞬間移動───エアトリックを行使した。そしてベリアルの隙の大きい斬撃のフォロースルーが終わる前にベオウルフを両手足に装着、アッパーを即座に打てる体制で力を溜め込み、ベオウルフが強い輝きを放ったと同時に標的の腹へ叩き込んだのだ。

 

 全てがものの数秒の出来事、まさに電光石火。

 

 空中に叩き上げられたベリアルは衝撃と不利な体制により身動きが取れない。しかしこのまま無防備に落ちれば追撃を食らうことは確実だ。なんとか握る大剣を下方からの斬撃から守るために構えるが、

 この時ベリアルは、少し前にバージルから発された言葉を完全に忘れ去ってしまっていた。

 

 

 "敵は単体では無いにも関わらず片方に意識を絞る等愚の骨頂"

 

 

「一度じゃ学習出来ねぇってか?」

 

 そんな炎帝の上手に疾風の如く現れたもう"片方"が、

 業火の赤を薄く映したリベリオンをその背へと叩き落とした。

 

 バージルが一寸も残さない程一撃断絶な斬撃だとすれば、ダンテは剣術にも関わらず"斬っている"というより"殴っている"という方がしっくりくるような斬撃と言える。

 その為か打ち上げられていたベリアルの身体が、その威力に押されて尋常では無いスピードで垂直落下し轟音と共に地面へと衝突する。部屋に衝撃が広がった。

 

 

 兄がエアトリックによりベリアルの懐に入りこんだ時、ダンテは自身に振られた剣を疾走の勢いのまま跳んで避け、絶妙なタイミングで振り抜かれる前の大剣を踏み更に跳躍、一気に頭上まで到達していたのだ。

 しかしこの二人に打ち合わせをしたような場面は確かに無かった筈だ。なのに彼等は迷いなく行動を開始し、兄の弟の動きに合わせた間違いの無い攻撃方法を選択している。

 ベリアルが片方に対応してもう片方に追撃を食らってしまうという状況に二度嵌ってしまうのもおかしい事ではない。イレギュラーなのは、上級悪魔でさえ想定出来ないほど精密な共闘を行う彼等の戦闘技術であった。

 

 

 

 

 ベリアルを中心に立ち上がる煙の真上を、ダンテが重力に従って落下する。一撃をきっちり叩き込めた感触はあったがどうなっているのか、肝心の標的は靄に隠れて視認することは出来ない。もう意識も落とせたのか。

 

 そう思った瞬間、灰色に覆われた景色から赤い大剣がついさっきの横薙ぎと同じく爆発的な威力で自身に振るわれた。

 

 ダンテは空中を蹴ることもせず咄嗟に構えたリベリオンごと弾き飛ばされた方向の壁に衝突した。劈くような金属音と衝突音が室内に響く。

 ベリアルはそのまま煙を吹き飛ばしながら反対側のバージルへと振るった剣を向かわせたが、ベオウルフの脚力を使用して後方に飛んでいた為に届く事は無かった。

 

『ハァ゙、逆賊、共等に……我が、倒される訳には……いかぬ!!』

 

 剥がされたはずの炎の衣を纏いなおしたベリアルが、煙をかき消す程の咆哮と共に再度立ち上がった。

 スパーダの血族とはいえまだ十数年程度であろう子供に良いようにやられるなど認められない。認められるわけがない。煙で隠された完全なる奇襲とはいえ構っていられるか。

 強烈な殴打と斬撃で確実に削られた魂をそれこそ火の様に燃え盛らせて入れた一撃は確かに重かった、

 

 

「見掛け倒しってやつだな」

 

 筈だったのだが。

 それはあくまでもベリアルの中での話だったようだ。

 

 壁に叩きつけた怨敵は怠げに首を捻って小気味いい音を立てながら、自身の衝突で穴の空いた壁から軽々と体を引き抜いた。その様子に重いダメージを受けた形跡は見られない。

 いや、重いというよりもその魂を少しでも削れた様子が見られなかった。防いだとはいえ、直撃したのにも関わらず。

 そんなダンテの姿に衝撃を受けているベリアルへ、不機嫌な顔をひっさげたバージルの発言が更に追い打ちをかける。

 

「愚弟が、()()()攻撃を受けてやる奴がいるか」

「怒んなよ、このまま同じ事繰り返すのも芸が無ぇだろ?」

 

 彼等の会話が耳に届き、嫌でも頭が意味を解釈する。つまりあの憎き血族共は、最初から本気でベリアルの相手をしていないのだ。認めたくはないが言い方を直せば、奴等の本気を引き摺り出せる領域に己の実力が達していないということ。

 荒い呼吸に合わせ、ベリアルの身体が怒りで震える。腸が煮えくり返る。嘗め腐った双子の態度が、そんな奴等に己の力で一撃も食らわせる事の出来ない己が。

 

 リベリオンを担いだダンテが、怠慢な足取りでベリアルへと近づく。その目に宿っているのは闘志では無い。遊び足りない子供のそれだ。敵にさえならないと意思表示されているようなものだった。

 

『何故、これほどの力量差が……』

「おいおい、まさか戦意喪失したのか?」

『ッ、抜かせ!今すぐ噛み砕いてくれる!』

「……それでいい。さっさとリタイアなんざつまらねぇからな。つってもこのまま同じように続けんのもなぁ、」

 

 顎に手を当てて唸り、周囲を見渡す。何か趣向を凝らせないか等と戦場とは思えない思考を回しながら───先程バージルがベオウルフを使用した事を思い出す。

 ダンテがニヤリと不敵に笑った。

 

「───アグニ、ルドラ!」

 

 火をもって火を制す。

 

 

 リベリオンを背負い直して、あの騒がしい魔具達の名を叫ぶ。間を入れずに、空気を斬りながら飛んできた赤色と青色の双剣がダンテの目の前に突き刺さった。

 その双剣の柄の先にある顔らしき装飾の口元が動いて、低い声で語り出す。

 

『主が喚んだ』

『闘いに喚んだ』

『『我等を喚んだ』』

 

「うるせぇ喋んな」

 

 ダンテは呆れた表情を隠さずに双剣の頭をお互いにぶつけて命令する。理不尽だとは思うが自分よりお喋りな奴は嫌いだ。

 そうして嘘のように大人しくなったアグニとルドラに「good」と適当に褒めてやってから、慣れた手つきで双剣を回転しながら構える。ベリアルの体力的にも、彼等を使用するのは一撃二撃程度であろう。それに全て込めてやろうと思う。

 

 そう柄を力強く握りしめ、地面を蹴りあげて砲弾の如く肉薄する。

 

Die!(死ね!)

 

 ベリアルが大きく振りかぶった剣を、ダンテが近づくタイミングに合わせて打ち落とした。しかしそれは当たらない。ダンテは落とされる剣をギリギリの距離で回避、跳躍しベリアルの頭部を踏み抜いて、その背後に降り立つ。

 

『まだだ!』

 

 一撃目は当たらないと決め込んでいたベリアルは、そのまま振り下ろした剣を横に滑らせ、背後にいるであろうダンテを両断せんと最大火力で薙ぐが、

 

「いや、終わりだ」

 

 乾いた声、激しい破壊音共に、ベリアルの大剣が粉々に斬り壊された。

 

 ベリアルが目を見開いた先には、構えを取ったバージルの姿。二撃目を放つであろうベリアルの挙動に合わせて、閻魔刀を振るいベリアルの大剣を砕き壊したのだ。いや大剣だけでは無い。身体にも数多の斬痕が入っており、そこから体液がとめどなく飛び散った。

 

 そして眼前へ飛び込んでくる、双剣を携えたダンテが視界へ映りこんだ。脳が対処する事の出来ない光景に、全ての動きがスローモーションの様に鈍くなる。

 

「今回は貴様に譲ってやる」

「そりゃどうも」

 

 双子がそれぞれ軽口を叩く。閻魔刀が徐々に鞘に収められていき、鋭い納刀音を落としたと同時に、

 

Ash to ash!(灰は灰に!)

 

 炎と嵐が交じる極大な竜巻が、ベリアルの身体全てを飲み込んだ。

 

 灼熱が、斬風がその巨体に深い傷跡を残していく。轟音が部屋を支配し、やっと竜巻が収まった時には受け身さえとることの出来ないベリアルが無抵抗のまま地面に落ちた。ピクリとさえ動かない。

 

 その姿を横目で確認し、赤と青の双剣を地面に突き刺してそれぞれ指を指しながらジト目で見つめる。

 

 

「喋んなっつったろ」

「……貴様と同じで喧しい魔具だな」

 

 少し納得がいかないとバージルを見やるが、そもそもぐうの音も出ない程本当の事なのは自分でも自覚している為開きかけた口を閉じざるを得なかった。返事の代わりに肩を竦めてみせる。

 

 

 勝負はついた。

 二人は部屋を出るために入口の方へ足を向けようとした時、

 

『アアァァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!』

 

 獅子の咆哮が、再び轟く。

 双子は足を止めて同時に背後へと顔を向けた。その表情に呆れと感嘆の色を持って。

 

「へえ、タフだな」

「諦めの悪い奴だ」

 

 止まることのない血より鮮やかな体液を流しながら、ベリアルは喘鳴を繰り返して立ち上がる。

 その魂は最早欠片が残っている程度の儚さにも関わらず、短い蝋燭を業火を持って尽きさせるように滾っていた。

 

「……勝負はついた。さっさと魔界へ帰んな」

『退かぬ、我は退かぬぞ。貴様等に背を向け逃げ帰るなど、亡き同胞共に示しがつかぬ』

 

 その言葉に複雑な心情を物語る鈍い光を過ぎらせたダンテの目が、すうっと細まる。

 誇り。人間達が命を重んずるのに対して、本能から闘争を望む悪魔は"誇り"を何よりも重視する者が多い。勿論どちらもその限りでは無いが、目の前に瀕死ながらも立ち上がろうとするベリアルはその象徴的と言っていいほど悪魔そのものである。

 

 その誇りに応えないという事は、最早侮辱にも値するだろう。ダンテは軽薄な笑みを消し去り、空に手を伸ばす。

 

 

「───アクシオ エボニー、アイボリー」

 

 言葉の終わりと同時に、その手へと飛んできた二丁の銃が収まった。

 その片方のエボニーを無言でバージルへと投げ渡し、目線だけで意思表示をする。兄は何か言いたげな視線を返すが、一つ仕方ないとでも言うような溜息を零して、銃を片手にベリアルへと向き直す。

 

 

 息も絶え絶えなベリアルは一度完全に硬直すると、火炎と猛り声を響かせて最期の爆炎を撒き散らし、燃え盛る頭部だけで双子へと一直線に、彼等を鋭い牙で噛み砕かんと肉薄した。

 

 

「いいだろう。貴様に付き合ってやる」

「……決め台詞、憶えてるだろ?」

 

 

 バージルは返事をしない代わりに、一つ小さい笑みを浮かべる。そして彼等の目の前まで覇者の命を懸けた一撃が迫り、

 二人は互いの銃を重ねる様に構え、

 

 

「「───ジャックポット!」」

 

 "決め台詞"と共に、引き金を引いた。

 

 

 二つの銃弾は赤と青の残光を引きながら獅子の額に突き刺さり、ベリアルは火の粉と共にその身を散らした。消滅と共に部屋を照らしていた周囲の炎も消え去り、静寂が降りる。

 

 炎帝の闘争はこれにて終焉を迎えた。

 

 

 

「ハッ、ショボイ花火だ」

 

 

 ゆっくりと構えていた銃を下げ、その足を部屋の出口へと向ける。ダンテはバージルから投げ返されたエボニーを受け取って、周囲に残る火の粉の仄かな光を眺めながら独りごちた。

 

 言葉とは裏腹に、満足そうな笑みを浮かべて。

 

 

 




双子が共闘している上、覚醒もしてないネロに追い詰められるベリアルが手も足も出ないのは仕方が無いことだと思うんだ…。

戦闘描写などでの矛盾、報告、アドバイスなどありましたら是非お願いします。

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