状況は現在、一時休戦のようなありさまになっていた。今のうちに先ほどの二人はピットに戻っている。黒いISも突然の出来事に混乱して、完全に動きを止めている。学園側もエクシアの対応に困っているようだ。
一方、俺はビームライフルを撃ち抜かれて甚大な損傷を受け、すぐには身動きもままならない。あの黒いISだけでも厄介なのに、この上エクシアまで敵に回すこととなったらーーー
「まったく、何がどうなっているんだか・・・まさかこのまま一緒になって退くなんてことは・・・」
ありえない、と俺は思う。
(大体この世界に俺と簪以外のガンダムシリーズなんか存在しないはずだ・・・となると、あいつは一体?)
その時、簪から通信が入った。
「運命・・・生徒の避難完了した。今からそっちに行く・・・!」
「あぁ、頼む!」
あとは、相手の出方を待つだけだ。黒いISはどう出るかーーーそして、エクシアは・・・?
最初に戦いのひぶたをきったのは黒いISだ。全身に装備してあるビーム兵器を全てインパルスに向けて発射される。
「まずは俺からってか!?上等!!!」
俺はすぐさまシールドを掲げ、ガードに成功する。その間にも、GNソードを展開したエクシアが黒いISめがけて襲いかかった。直撃は逃れたものの黒いISの左腕をもぎ取っていった。
鮮やかに攻撃をしかけるエクシアに、しばし眩惑されていた俺は我に返る。
「やるなぁ・・・俺も負けてられねぇ!!」
俺はインパルスを駆り、黒いISに向かって迫った。
ビームライフルは使えない。エクシアにやられてーーその事実を思い出し、俺の憤りと同時に疑惑がこみあげてくる。
ーーあいつ・・・いきなりしゃしゃり出てきたくせに、どういうつもりだ!?あの黒いISは仲間じゃないのか?
一瞬頭を過ぎったが、あのエクシアも敵機だ。理由はどうであれ、俺のことを撃ったのだから当然そうだろう。
俺は押し寄せてくる無数のビームをかわし、すれ違いざまにビームサーベルを抜き放ち黒いISめがけて切りかかる。ビームの刃は黒いISの両脚を切り裂いた。
(これであいつはもう動けないだろう・・・次はあいつだ!!!)
俺は鮮やかに機体をひるがえし、今度はエクシアに向かっていく。その手にサーベルの光刃をきらめかせ、襲いかかる。しかし俺が横薙ぎに払った光刃を、エクシアは身を沈めて紙一重のところでかわす。同時にGNビームサーベルをきらめかせ俺に迫る。
(ーーーしまっ・・・!!)
回避には遅い。ビームサーベルで応戦しようとしたが、間に合わないことはわかっていた。
光刃がまさに機体に届こうという時ーーーいきなり、なにかが視界に割り込んだ。エクシアはくるりと機体を回転させ後退した。緑色の残像が俺の網膜に焼きつく。
「ビーム兵器!?・・・簪か!」
ビームが飛んできた方向に振り向いた。そこには十枚の翼を広げて、エクシアへの牽制をしていたフリーダムの姿があった。
「運命、お待たせ・・・学園から援軍が来たからもう大丈夫・・・」
フリーダムの後ろには続々とピットから発進した学園のISの姿が多数あった。
(ありがたい・・・これなら、いける!!)
そう確信した時、再びエクシアから機械音が聞こえた。
『戦闘行動に支障発生。戦闘続行不可能とみなし撤退する・・・またな、運命』
「えっ・・・」
そう言ってエクシアは急上昇し、その場から撤退した。なんとかこの場は凌ぐ事が出来たようだ。だが、今の俺にはそんな事よりもさっきのエクシアの事で頭がいっぱいだった。
(あいつ・・・なんで俺の名前を!?訳がわからねぇ!!)
結局、エクシアの介入行動ついても目的も存在原因すべてが謎のままだ。答えを知っているのはエクシア自身のみ。まぁいい、次会ったときに聞き出してやるさ。
俺はインパルスを解除する。
考え込んでいると、上空から簪と楯無さんが俺の側に降下してくる。
「運命君、大丈夫!?」
「遅いですよ、楯無さん」
俺は憮然と答えるが、今もエクシアの事を考えている。すると、簪が俺にたずねてきた。
「運命、どうかしたの?顔色が良くないみたいだけど・・・」
「あぁ、ちょっと考え事をね・・・それよりも!さっきはありがとうね。おかげで助かったよ・・・」
「うん、それはいいけど・・・運命、あまり一人で抱え込まないで・・・私たちがいるからさ・・・」
そう言って、簪が俺に手を差し出す。
「さ、行こう・・・」
俺は戸惑いながらその手を見つめる。少ししてからその意味がようやくわかった。
(そっか・・・はたから見ても分かるほど顔に出てたのか。何やってだか、俺は・・・)
少しためらいながら、差し出された手に自分の手を重ねようとした時ーーー俺の視界の隅に、キラリと光るものが入る。ビームサーベルとビームライフルによって吹き飛ばされ、ボロクズのようになった機体が動いている。あれはーーー銃口!
「ーーーあぶないっ!!」
銃口はまっすぐ簪を狙っている。楯無さんも気づいていない。俺がとっさに簪に飛びついた瞬間、銃声が響いた。
時間が止まったような気がした。目を見ひらいた簪の顔が大写しになったあと、青く広がる空が見えた。簪? 俺? 撃たれたのはーーー?
一拍遅れて焼けつく痛みが体を貫く。一瞬、血相を変えた楯無さんの顔が視界に映り、銃声が二度、響いた。
「運命っ!?」
気づいたときは、簪の腕に抱えられていた。
「運命!ーーー運命っ!!」
「お・・・れ・・・」
それでは、簪は無事だったのだ。俺は心の底から安堵した。
これで、返せる。今までの借りを・・・俺は微笑んだ。
「へへ・・・これで・・・今までの・・・」
俺は残された力をかき集め、懸命に言葉をつないだ。
「借りは・・・チャラだね・・・ウッ!!」
自分を覗き込む簪の顔が歪んだ。視界に楯無さんの顔が割り込む。
「運命君っ!!」
俺は楯無さんの顔を見ながら必死に言葉を紡ぐ
「楯無・・・さん・・・俺・・・・・・今すごく・・・満足して・・・ます・・・・・・だって・・・・・・今度は・・・守れた・・・から・・・」
「運命君!!」
楯無さんが必死の形相で自分の名前を呼ぶ。いまにも泣き出しそうだ。この人が自分なんかのために、こんな顔をしてくれるなんて。
「早く治療しないとっ!急いで、お姉ちゃん!!」
叫ぶ簪の声が遠く聞こえる。俺は最後に簪と楯無さんの顔を見上げた。この世界に来てから最も関係が強かった二人。
もっと側にいたかった。力になりたかった。そうすればきっと、今度こそ何かが手に入ると思っていた。きっと、すばらしい、なにかが・・・。
「ごめ・・・なさ・・・」
小さくささやき、それきり俺は、目を閉じた。
運命はいったんフェードアウトします。一体、いつ帰ってくるのか!?