医務室に帰った彼女たちは、一人の少年の亡骸を連れ帰った。それは事実上、第二の男性IS操縦者、金森運命だった。いま少年は、敬意を表するように道を空けた教員や生徒に見守られて霊安室に運ばれて行く。そのあとを、少年の血で服を汚し、泣き濡れた顔の簪と楯無が従う。葬送の行列のように。
この事実は一夏たちにも伝えられた。
「あいつだけが気づいたのね。飛び出して・・・」
鈴の言葉を、一夏は驚きをもって受け止めた。これまで自分に敵対する者のようにとらえていた少年の心にひそむ、複雑な思いをかいま見たような気がして、やりきれない気分になる。
少年の早すぎる死。それを招いた事件は、自分たちにも責任の一端があるように思えてならない。
鈴も自責の念に顔を歪ませた。
「代表候補生だってのに・・・情けないわ・・・」
鈴の顔には生き生きとした表情は無く、一夏は悟る。自分が間に合わなかったことを。
「くっそォォォォッ!!」
一夏は拳を壁に叩きつけた。その痛みも胸の痛みを紛らわせてくれない。
(あの時、ちゃんと倒していればこんな事にはならなかったのに・・・なにがみんなを守るだよ・・・守るどころか殺してしまっているも同然じゃないか・・・!!)
痛恨の思いが呻きとなって、食いしばった歯の間から漏れる。一夏は天を呪って慟哭した。
簪は一人で霊安室に戻った。薄暗い部屋には一人の少年が、まるで眠るように横たわっている。最前、目にした運命の生の声、その言葉の数々がよみがえって彼女を打ち据える。
これは、自分の罪だ。
疑うことを知らぬ少年。ひたむきに自分を護ってくれた少年が死んだ。自分の身代わりに。
その死を招いたのは、ほかでもない簪自身なのだ。
少年の側にたたずむ簪の肩に、そのときそっとあたたかな手が触れた。彼女振り返り、いつの間にか楯無が背後に立っていた事に気づく。楯無は黙って、いたわりをこめた視線で彼女を包み込む。簪はたまらなくなって、彼女の胸に身を投げた。こらえていた熱い涙があふれ出し、嗚咽が喉の奥からせり上げる。
自責の念に打ちひしがれる彼女を、楯無は黙って強く抱きしめてくれた。まるで彼女の思い、苦しみを、すべて感じとっているかのように。
ーーーだって・・・今度は・・・・守れた・・・から・・・
最後に聞いた運命の切ない声が、簪の耳にまたよみがえる。
「絶対に忘れない、運命・・・」
彼女は涙に濡れた顔を上げ、心に強く誓う。
忘れない。もう逃げない。二度と、こんな過ちは繰り返さない。それだけが運命に対して、自分ができる償いだ。
今、簪は新たな決意を胸に、自らの進む道を見据えたのだった。
一方、同時刻。学園から遠く離れた海岸に一つの影があった。
『なぜ、トドメを刺さずに戻ってきたんですか?』
聞こえるのは男の声だった。
「単機で複数のISとの戦闘は不利と考えたからです」
そう答えるのは、先ほどまで学園で戦闘をしていたエクシアだった。しかし、聞こえるのは機械音ではなく、操縦者のものと思われる声だった。
『しかしだね、“トランザムシステム”がまだ未完成とはいえ、目標を倒さずに撤退したのはどうかと思うがね・・・』
男は少し呆れた様子で話を続ける。
『これでは君を「蘇らせた」意味が無くなってしまうよ。大事なのは結果なんだからさぁ・・・』
「心得ています。次こそは必ず・・・」
『まぁ、期待しているよ』
そう言って通信は切れた。同時にエクシアを解除する。そこに居たのは一人の少年だった。
「目標を倒せ・・・か。上の考える事はわからねぇな・・・俺は俺で好きにさせてもらうぜ」
そうつぶやくと、再び歩き出した。
運命の死は公にはならなかった。しかも、真実を知っているのはあの場に居た者のみで、他の学年の生徒には「武者修行」という事で通っている。真実を知っている生徒には、この事件について、一切の情報の漏洩は許さない程の最重要機密だと伝えられた。心苦しい思いをさせて申し訳ないというのが教師陣の総意だそうだ。
あの事件から何日かたったある日、俺のクラスに転校生が来た。シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒだそうだ。クラスのみんなは歓迎していたが、俺はあまり素直に喜べなかった。シャルルは第三の「男性」IS操縦者だったからだ。あのラウラとかいう奴に殴られた事よりも、シャルルを見ていると運命を思い出してしまう事の方が俺への痛みが大きかった。
色々な所で事態が進んでいるようです。運命の出し時も大事になってきます!