千冬side
私は現在、日本政府直接連絡をとっていた。相手は金森運命を入学させた張本人の男だ。
「金森運命の遺体を引き渡せ・・・だと!?本気で言っているのか!!」
『えぇもちろん。彼の体を調べれば何かわかるかもしれないでしょう。そのために彼の協力が必要なんですよ』
私は殺意を抑えるので必死だった。この男は運命の体を解剖すると言い出したのだ。こんな事があっていいはずが無い。
「だが、彼はまだこの学園の生徒だ。ゆえに外部からの干渉は受けないはずだ!」
『でも、もう死んじゃっているんでしょ?だったらそれは意味の無い事だと私は思いますけどね・・・この研究のおかげで世界が良い方向に向くのだとしたら、とても光栄な事だと彼も分かってくれるでしょう』
その言葉を聞いた途端、私は理屈を超えた嫌悪を感じた。しかし男は冷ややかに言い放つ。
『ただ、金森運命君に限って言っても・・・そうですね、私はじつに不幸だったと、気の毒に思いますけどね』
「・・・不幸?」
この男の口から運命の名が出たことにも驚いたが、私が聞きとがめたのはその単語だ。
運命がなぜ・・・不幸だというのだ?
男は私の疑念に答えるように続けた。
『あれだけの資質、力です。彼は本来「戦士」なのですよ。ISで戦わせたら、当代、彼に敵う者はいないというほどの腕の』
確かにこの男の言う通りだと私も思う。
そして、男は惜しむように長々と息をついた。
『あれだけの力、正しく使えばどれだけの事が出来るかもわからないというのにね・・・』
私のなかに、徐々に怒りが高まってくる。
正しく使う?不幸?確かにあいつはなんでも一人で背負いこみ、苦しんできた。
だが、この男に気の毒がられる筋合いではない!
『本当に、不幸だった、彼は・・・』
男は白々とその言葉を繰り返した。
『彼がもっと早く自分を知っていたら・・・彼自身も悩み苦しむこともなく、その力は称えられて、幸福に生きられただろうにねぇ・・・』
とたん、私は戦慄した。この男が運命を惜しむのは、その機能が自分の役に立つことなく、無駄になったからだ。そこに運命の人格や思いは存在しない。ただ「戦士」としてーーISを操る道具としての価値しか、この男の目には入らないのだ。
そして、自分もーーー。
『女尊男卑の無い世界。私はぜひとも、そんな世界を創ってみたいと思いますねぇ』
女尊男卑の無い世界。私には想像することもできなかった世界を、確かにこの男はその頭のなかに、はっきりと描き出していたのだ。人々が対立し、戦争する世界。
そしてその世界を創るための道具として、この男は自分や運命に目をつけたのだ。ただ、戦士としてーー人を殺す道具として。
『人を向かわせるので移動の準備をしておいて下さい。では』
そう言って男は通信を切った。だが、もはや、なにを言う気も失せていた。なにを言っても、相手の耳には届かないと知っていたからだ。
それからすぐに、あの男が寄越したと思われる車が運命を引き取りに来た。この事は極秘事項だが明日、更織姉妹には伝えようと思う。彼女たちは知る権利があると判断したからだ。
男のイメージはムルタ・アズラエルです。頑張って似せたいと思います。