「それでは授業を始めます。教科書の196ページをーーー」
朝の全校集会が終わって、現在は一年一組にて山田さんが教鞭を執っているところを拝見させてもらっています。僕の仕事はあくまで補佐なので、直接教鞭を執らずに呼ばれたらそこに行って教えるかたちです。いわゆる「お助け先生」ですね。
「あの・・・金森くん、ちょっとここの問題分からないんだけど、教えてくれるかな?」
おっと、いきなり仕事のようです。とりあえず、勤務時間なのでお仕事はしないといけないですからね。それでは行ってきます。
「え〜っと、それでどこの問題かな?」
「この問題なんだけど、解き方がイマイチよく分からなくて・・・」
問題を見てみると数学の問題だった。それも見た感じだと、かなり難しい問題だ。まぁ、解けないこともないけど・・・。
「まず、この公式に当てはめるんだ。その後にこれとこれを計算すると・・・ほらっ、答えがでたよ・・・ってどうしたの?」
僕が公式を思い出しながら教えていると、教わっていた女生徒の様子がおかしいことに気づいた。何故かそわそわしてるけど・・・。
「いや、その・・・すごくかっこいいなぁ・・・なんて」
「うぇ!!・・・あっ」
全くもってびっくりした。面と向かってよくこんな恥ずかしいことを言えるもんだ。こんなこと初めてだ。しかし、タイミングが悪かった。なぜなら今は授業中だ。教室内はもちろん静かな空気に包まれている。そんな状況でいきなり奇声をあげたら、どうなるかは言うまでもない。
「か、金森く〜ん・・・!!」
思ったとおり、山田さんが頬を膨らませて怒っていた。いや、怒っているんだよな?こう言っちゃ失礼だと思うけど、なんか可愛いな。なんて言うか、その・・・・・子供らしさが抜けきれてないんだよなぁ。本当に成人してるのかな?
「あっ!また馬鹿にしましたね!?もうちゃんと成人してますよ!!」
げっ!?ま、まさか山田さんまで読心術を会得していたとは・・・織斑さんの影響か?
「いや、それはその・・・すみません」
その状況がなぜか笑わずにはいられないような雰囲気に包まれた。和んだのはいいけど、こういう事で注目を浴びるのはちょっと複雑な気分だ。どうせなら自慢できる事で注目を浴びたいものだ。
「もう・・・教えるのはいいですけど、授業中だという事を忘れないでくださいね?」
そう言って、山田さんは授業に戻った。一組の生徒もその様子を察したのか、授業に集中し始めていた。僕も教室の後ろの方に戻る事にした。途中でさっきの女生徒の方を見たが、「ありがとう」、「ごめんなさい」とジェスチャーで伝えてきた。ハハハッ!!この恨みは忘れないぞ!
「ちょっといいか?」
授業が終わって教室を出ようとした時に誰かが僕に話しかけてきた。その相手は織斑さんから渡されたデータで見知った人だった。
「え?いいですけど。えっと、篠ノ之さん・・・でしたよね?」
「箒だ。名前で呼んで構わない。私もそうさせてもらう」
「はぁ、わかりました。それで、僕に用があったんじゃ?」
「少し込み入った話がある。あまり他人には聞かれたくないから、二人きりで話せる場所に移動たいのだがそれでいいか?」
「だったら屋上ですね。あそこはあまり人が集まりませんから。では行きますか」
そう言って、僕と箒さんは屋上に向かった。
「それで、話とは一体なんですか?」
「・・・単刀直入に言う。私を鍛えてくれ!」
ふむ・・・この子は何をいきなり言い出したのだろうか?僕は知ってるんだぞ。あなた、剣道がめちゃくちゃ上手いらしいじゃないか。そんな人が僕に教わる事など今さらあるわけも無いじゃないか。
「・・・あなたが何を思ったのかは知りませんが、今の僕に教えてあげられる事なんか何もないですよ。聞きたい事がISの事なら尚更です」
僕の言葉に驚愕する箒さん。言い方はきついかもしれないが、それが現実なのだ。ISを動かすことが出来ないという事実が覆る事などないのだ。いままでも、そして、これからも。
「だが!私は強くならなければならないのだ!そうしなければ一夏と共に肩を並べることが出来ない!!」
なるほど。自分の好きな人のためならばということか。恋する乙女は大変だね・・・あれ、もしかして今のすごくおっさんみたいだった?
「だったらISの動かすことのできる織斑さんか山田さんに言えばいいことでしょう。別に僕である必要はありませんよ?」
「・・・覚えているか知らないが、運命は自分の身の危険を顧みずに、どんな奴が相手でも一人で挑んでいたんだ。誰に弱みを見せることも無く、常に完璧だったあの姿に、私は強い憧れを抱いていた」
「だから僕に鍛えて欲しいと?今の話を聞く限りだと、かつて僕は相当酷い生き方をしていたみたいですね。一人でいる事と孤独では、同じようで全く違うものですよ?」
「そんな事は言われなくてもわかっている。それを踏まえての頼みだ」
強情な人だな、箒さんは。正直、僕は構わないと思っているけど、本当にそれでいいんだろうか?まぁ、それは本人に確認してもらおう。
「じゃあ、二つだけ忠告。一つは先に言っておくけど、君は僕にはなれない。もう一つは、僕の生き方は危険と孤独が伴う。それでも僕に教わる気があるかい?」
僕の忠告を聞くと、箒さんはさっきとは打って変わり、少し微笑みながら答えた。その眼は決意に満ちていた。
「そんな事は覚悟の上だ。それでも私はやらなければならないのだ!」
どうやら意思は硬いようだ。本人がここまでリスクを問わないと言うならば、それに相応しい力を授けてあげるまでだ。それが教師ってもんだろう?
「・・・明日から授業が終わったら、以前の僕のデータを持って僕の部屋に来るといい。一ヶ月限定でいいなら鍛えてあげるよ。これでいいかい?」
「本当にありがとう、感謝する!それでは明日から頼むぞ!」
そう言って、箒さんは教室に戻って行った。なんだかんだで、またやる事が増えたな。楯無さんのお世話係と生徒会の顧問か・・・本当多忙だな、僕は。とりあえず、職員室に戻るかな?