「痛ったぁ・・・・・・くなかったんだっけ。でも、流石にやり過ぎだったかなぁ?反動で“インパルス”が強制解除しちまったし。こりゃ、当分は使用不可能かもな」
“ミステリアス・レイディ”の一撃を自分の身を呈して受け返した俺だったが、その時に生じた爆発の衝撃によって、恐らく町外れの廃工場であろう場所まで吹き飛ばされていた。
「少しばかり予定が狂ったけど、やっとこれで彼奴らと合流できるな。ここまで来れば、いくら楯無さんといえども追いかけて来る訳がーーーー」
そんな甘い独り言を言い始めた刹那、首筋に嫌な感触が触れた事に気付く。が、時すでに遅し。
「あるに決まっているでしょう?」
「・・・・・・ですよね」
後ろに居たのは、もちろん楯無さんだった。運が悪い事に、楯無さんも
同じ方向に飛ばされたようだ。本当についてない。
「早速で悪いけど、もう覚悟は出来てるよね?運命くん」
触れた部分だけで何かを特定するのは難しい。後方に視界を向ける間に死ぬのがオチだろう。と言っても、俺だって簡単に死ねないからこそ辛いんだけどね。
「だんまりか・・・。でも心配しないで。痛いのは一瞬だけだから」
そもそも、ISの武装使ってる時点で俺に勝ち目が無い訳だが・・・・・・。最後の望みとして、部分展開くらいは出来るかもしれないけど。
「いいの?本当に行くからね?嘘じゃないよ?」
後の事を考えると、やっぱり一回ここで殺されるべきか?その方が色々都合がいいし、何よりも全てが「元通り」になるはずだ。
「・・・抵抗しないんだね。後で後悔するかもしれないよ?」
・・・・・・さっきから何やっているんだ。どんだけ聞いてくるんだよ、フリじゃないんだぞ?「押すなよ!押すなよ!絶対だからな!「早く行けよ」オワッ!!!熱ッ!熱ッ!!」のくだりと変わらなくなってきたな。
「私はね、後悔すると思うよ。私に殺す覚悟をさせたことを!迷いを断ち切らせたことを!」
彼女自身が無理矢理取り繕ったその言葉に対して、俺は振り向いて真実を告げる。
「なら・・・なんで貴女は泣いているんだッ!!貴女だって、守りたいものの為に戦うんだろ!?これまでも、これからも!「楯無」を継いだ時から分かりきった事じゃないか!!」
俺の言葉を聞き、ようやく自分が涙を流していることに気付く楯無さん。しかし、俺は気に留めず言葉を続ける。
「相手が誰であろうとッ!どんな事情があろうとッ!貴女は撃たなきゃいけないんだ!情に流されてはいけないんだ!貴女は貴女の使命を全うしなくてはいけないんだ!」
耐え切れなくなったのか、彼女はついに持っていた武装を手放し、その場で嗚咽を漏らす。同時に今まで閉じ込めていた感情が解き放たれる。それはかつて俺が最初に感じたもの、「悲しみ」だ。それも、どこにも向けることが出来ない終わりなき悲しみの迷路。
「運命くんに・・・・・・一体何が分かるっていうのッ!!自分の愛するものを守るために、自分の愛する人を殺さなきゃいけないなんてッ!!この辛さが貴方に分かるわけないでしょ!!!」
彼女は今、自らに素直になって、その秘めたる想いを俺にぶつけている。「楯無」としてではなく、一人の少女として。
「楯無さん、それって・・・・・・」
俺は戸惑いを隠せないでいるが、彼女はキッパリと言い放つ。
「・・・そうよ!私は貴方が好き!!貴方の無邪気な笑顔も、悲しげな表情も全てが愛おしく堪らないのッ!!」
楯無さんは吐き捨てるように言ったあと、泣き笑いのような表情で言った。
「でもね、駄目なの。私が「楯無」を継いだ以上、私情は一切通じない。いくら貴方を愛していようと、裏切り者を討たなくてはいけない。好きな人を自分の手で殺すしかないのッ!・・・・・・いっそ、貴方を憎めればいいのに」
その言葉を聞いて瞬間、俺はたまらなくなって、彼女をきつく抱きしめた。
「・・・・・・楯無さんッ!」
彼女も自分と同じなのだ。俺が楯無さんを殺したくないのと同じように、彼女も俺を殺したくないのだ。だから悲しい。もどかしい思いが自分の中で何度も渦巻いているんだ。やり場の無い悲しみを抱き続ける以上の苦しみは無い。
「・・・やっぱり、貴女には敵いそうにありませんね。俺のお願い、聞いて貰えないですか?」
突然の俺の申し立てに、楯無さんは戸惑いながらも、真剣にこちらを見つめる。
「まず、これを受け取ってください」
そう言って、俺は一枚の紙切れを手渡した。
「これは?」
「それには、これから起こるであろう出来事が書かれてあります。出来るだけ警戒を怠らないようにして下さい」
俺の言葉を聞いて、こくりと頷く。さぁ、次だ。
「次にこれは警告。近いうち、そっちに俺のクローンが襲撃するかもです。早ければ・・・・・・学園祭当日。それまでに専用機組を鍛えて下さい。特に織斑を重点的にお願いします。理由は分かりますよね?」
「もちろん。こっちでも、ある程度の情報は掴んでいるわ。たしか“亡国企業”よね?狙いは織斑一夏くんと白式だったかしら?」
俺は虚を衝かれた表情になる。分かってはいたが、更識家暗部の情報網には驚かされる。
「えぇ、その“亡国企業”と俺のクローンは裏で繋がっている可能性が高いです。注意しておいてください」
楯無さんはすぐに理解して、「分かったわ」と頷いた。頭が良くて助かる。最後の意図も伝えるとするかな。
「では、楯無さん。最後のお願いです。これで俺を撃って下さい」
俺はビームライフルのみを展開して、楯無さんに差し出す。
「えっ・・・・・・!?」
訳が分からない顔で聞き返す楯無さんに、俺は重ねて命じる。
「これを使って俺を撃って下さい、と言ったのです。さっきの大爆発で既に事態が知られているはずです。野次馬が来ないとも限らないですし、辛いのは分かりますが、俺のためにもお願いします。そして、今度こそ世界に俺の死を伝えて下さい」
楯無さん自身には途轍もない衝撃が走っているだろう。しかし、苦しいのは今だけだ。俺は安心させるように微笑みかけ、その思いを伝える。
「今はまだ無理ですけど、帰って来たら俺の居場所を確保しておいてくれると嬉しいです。さぁ、お願いします」
「・・・・・・本当にいいの?本当に帰ってくるの?」
まぁ、分からなくもないかな。でも、俺って死人だし。
「僕も使命で動く奴なので、求める声があるならばってやつですね」
俺の言葉を聞いて、楯無さんは渋々ながらも了承してくれた。
「私は、信じるよ。だって私が好きになった人だもん。帰って来たら覚悟しておいてよね!」
「うへぇ・・・それは辛そうだな。簪も数えると二対一か。ま、法律なんか怖くないけどな!家でも何でも行ってやらぁ!」
お互いに言いたい事を言ったことだし、そろそろかな?俺は視線で楯無さんに訴えると、頷いてビームライフルを構える。
「では、楯無さん。またいつか」
「・・・うん。またね、私の好きな人///」
言葉を言い終えると同時に、楯無さんはライフルの引き金を引いた。