簪side
時は少し進み、私は第二アリーナにて機体の最終チェックをしていた。途中で合流した本音にも事情を話して協力してもらい、たった今終了した。
「・・・よし。これで最終チェックは済んだ。本音、手伝ってくれてありがとう」
「うん・・・。ねぇ、かんちゃん。やっぱり戦うの?」
本音にしては珍しく真剣な態度で聞いてくる。もちろん、私自身もこの勝負自体に意味なんか無いと思う。まるで子供のわがままの様に思えてさえくるかもしれない。
「分かってる・・・。これも私のわがままなんだって事は。自分の都合で運命に迷惑かけてるのに、今更になってまた運命を求めているのは筋違いだってこと、痛いくらいに分かってるよ。でもね・・・」
私は本音を見据えて、視線を逸らすこと無く話す。
「私は知りたい・・・!どんなに辛い思いをしたとしても・・・。どんなに傷ついたとしても!だって、私は運命が好きだからっ!!」
私の告白を受けた本音は、やがて真剣な表情からいつもの本音に戻った。
「んひひ〜♪やっと言ってくれたね、かんちゃん。それが今の気持ちだと思うよぅ〜?本人もそう言ってくれたら、今頃抱きしめてくれたかもよぉ〜?」
私は数瞬経って、本音の真意に気づく。
「なっ・・・!?ほ、本音!まさか、私にこれを言わせるために・・・!?」
「んひひ〜♪どうかなぁ〜。でも〜告白してる時のかんちゃんの顔、真っ赤で可愛かったなぁ〜☆」
「ほ、本音〜!!!」
私は恥ずかしさを隠すために、本音を追いかける。本音も楽しみながら逃げる。とてもくだらない事のようにも思えるけど、おかげでとても清々しい気分だ。
やがて、本音は立ち止まり、振り向いて私に告げた。
「かんちゃん。私は仕える関係の前に、友達だからね。これまでも、これからも。ずっと変わらないよ。だから、お互い前に進もう、ね?」
子供のころから少しも変わらない、曇りのない笑みを浮かべ、本音は優しく言う。
私は理解した。今が踏み出すべきチャンスだということを。
「じゃあ、頑張ってね。かんちゃん!」
私はその笑顔を見やり、強く頷いた。そして、すぐさま“フリーダム”を展開し、アリーナへ機体を駆った。
アリーナに出ると、すでに篠ノ之さんが自身の専用機“紅椿”を展開して待っていた。私はまず遅れたことを謝罪する。
「遅れてごめんなさい。でも、おかげで吹っ切れました」
私の言葉に、篠ノ之さんは密かに微笑む。まるで、こうなることが分かっていたかの様に。
「その目は・・・。心は決まったようだな。私が出るまでも無かったようだ」
「いえ、これは篠ノ之さんのおかげでもあります。私自身の目指すべきものが、今ははっきりと見えます。ありがとうございました」
すると、篠ノ之さんは主装備の雨月と空裂を展開して、剣先をこちらに向けながら言い放った。
「それは良かった。だが、手加減はしないぞ!」
それに対して、私はシールドを展開し、ビームサーベルの持ち手を握り、構える。
「分かってます。それでは、行きます!!」
言い放ったと同時に、私はビームサーベルを抜き放ち、バーニアの出力を全開にし、“紅椿”に迫った。
「はあぁぁぁっ!!」
“紅椿”も一瞬戸惑ったものの、二本の剣で迎え撃つ。
「くぅ・・・!!映像で見ていたが、これ程とは・・・。だが!」
突如、“紅椿”の背面の装甲が展開し、二つの「何か」が飛び去った。なおも攻撃を続けようとしていた私は、不意に何かを感じ、一時的に距離を置く。すると、一瞬前まで“フリーダム”のいた空間にエネルギーソードを展開したビットが割り込んだ。目前の“紅椿”が何の動きも見せなかったのに。
「っ!?これは、ソードビット!・・・もう使いこなせる様になっていたなんて」
「ふふっ、まだ終わりではないぞ!ハアァッ!」
私がビットに集中している隙に、雨月からはレーザー、空裂からはエネルギー刃が連続して放たれる。回避とシールドを両立させて対抗するが、すでに数発は受けてしまい、押され気味だった。
「ビットによる援護攻撃と主装備による連携技。乗り始めの人間が出来る芸当じゃない・・・。仕込んだのは運命?」
「流石にばれていたか。そうだ、これを教えたのは運命だ。“紅椿”に乗り始めて日の浅い私は、強くならなければと日々思い悩んでいた。何においても、結局自らの経験値が全てだと思っていた。だが、違った!運命はその理論を逆手に取り、“紅椿”が最も得意とする戦闘スタイルで戦えるよう、仕込んでくれたのだ!」
篠ノ之さんはそう言いながら、ソードビットを分離する。さらに再び雨月、空裂による過剰攻撃を開始する。
「守られるだけの存在はもうたくさんだ!今度は、私が守る番だ!」
少しずつ、だが確実に減らされてくシールドエネルギーが私を焦らせる。防戦一方となりつつあるこの現状を打開する手だてはあるのか?
考えを巡らせていると、先ほど言われた一言が頭の中を過った。
ーーーだから、お互い前に進もうーーー
(そうだよね・・・。私は護るって決めたんだ。理屈とか運命だからじゃない。誰かに言われたからでもない。これは、私が決めたことだから。誰にも否定はさせないっ!!)
すると、“フリーダム”から一つのモニターが出現した。それは私に勝利を授ける結果に繋がるものだった。
ーーー「単一仕様能力・限界突破(SEED)」発動を確認ーーー
突然、私は不思議な感覚に襲われた。私の中の全神経が異常に発達しているかのような感覚だ。先ほどまで視界に捉えることが困難だったビットの高速移動すらも遅く感じる。
「私は・・・負けないっ!!」
私は叫び、“紅椿”に迫る。その間にビームサーベルを収納し、ビームライフルに持ち替える。
自分に向かって飛んでくるソードビットを、私は機体を錐揉みさせながらかわし、すれ違うのと同時にその内の一基をビームライフルで撃ち落とす。次の瞬間には背後から迫り来るもう一基を、振り向きざまに射抜く。
「くっ!・・・なんて精度だ。だが、これならば!」
“紅椿”は自身の装甲を起動形態にして、接近戦に持ち込む。私も背面の翼を展開し、疾風のように踊りかかった。
『はああぁぁぁっ!!』
“紅椿”は雨月・空裂を、“フリーダム”は両手にビームサーベルを抜き放ち、お互いに交錯する。
勝負は一瞬だった。
「くっ・・・。流石だな、完敗だ」
「はあ・・・はあ・・・。貴女こそ、この数日でここまで強くなれるなんて・・・」
「想いの強さが人の原動力だと、運命が言っていた。私にも共に肩を並べたい奴がいるからな」
私は悪戯っぽく指摘する。
「それって、織斑くんのこと?」
「な、何を言っているんだ!?そんなことあるわけないだろう///」
やっぱり図星のようだ。でも、これだけ分かりやすいのに気づかないなんて・・・男の子はみんなそうなのかな?
「それにしても、さっきのは何なのだ?動きがまるで別人のようだったぞ?」
それについては私も分からないので、曖昧な感じで返す。
「・・・私自身もよく分からないかも。ただ、凄く感覚が冴えることは分かった。使うと疲れるけど・・・」
「そうか・・・。なら、私と共にその力を物にしないか?」
そう言って、手を差し出す篠ノ之さん。そうか、篠ノ之さんももしかしたら私と一緒かもしれない。そう感じたときには、私は手を握り返していた。
「よろしく・・・篠ノ之さん「箒だ」え?」
突然、言葉を遮られたので、思わず反応に困ってしまった。すると、篠ノ之さんは微笑みながら答えた。
「呼び捨てで構わない。手合わせした者なのに他人行儀なのは良くないぞ?私も名前で呼ばせてもらう。これからよろしく、簪」
「・・・うん、分かった。よろしく・・・箒」
こうして紅と白の勝負は、白の勝利で幕を閉じたのだった。