千冬side
早朝にもかかわらず生徒の集まりが良かった事もあり、これならすぐにでも始められる。と私、織斑千冬は考えていた。実際問題、自分たちにはあまり時間が残されていない事を悟っているからだ。流石に枯野があそこまで大胆な発表をするとは予想もしなかった。だが、奴はそれを実行した。我々はおろか、何も知らない一般市民たちに「金森運命の死はIS学園によるものだ」という最悪のイメージを植え付ける事を。
「織斑先生、生徒の準備が整いました」
私の後輩にあたる先生、山田真耶が知らせに来る。彼女自身も自分の教え子を失ったことに相当堪えているはずなのに、気丈に振舞っている。
「あぁ、分かった。山田先生、本当に良かったのか?確かにあの場ではあぁ言うしかなかったが、今からでも遅くは・・・」
私がそう言うと、彼女は静かに首を横に振った。
「いいんです。確かにあの時はまだ決心していなかったですけど、今は違います。私もできることをしたいんです。それが自分たち、ましてや世界に良くない影響を与えてしまったとしても。それに学園を守るのが教師の仕事、ですよね?」
彼女の思いの強さに、自分の悩んでいたことがどれほど小さなことだったかを思い知らされた。
「あぁ、そうだ。まったく・・・私はどうかしていたみたいだ。自分のやるべき事を見失うところだった」
「それに気づけることが織斑先生の強さなんじゃないんですか?少なくとも、私はそう思いますよ」
そう言って、微笑む山田先生。やはり彼女は強いなと改めて実感させられた。同時に、私も負けられないという互いを高め合う認識に昇華した。
「そうだと良いな。すまないが、生徒が待っている。私は行かせてもらうぞ」
「えぇ、きっと彼も何処かで見ている気がします。彼のためにも・・・」
「あぁ、分かってる」
私はそう言って、その場を立ち去った。
一夏side
なんだがよく分からないけど、とにかく不味い状況なのは分かった。俺自身、しっかりと把握していないけど、IS学園が危機に瀕していることは嫌でも分かる。そして運命も・・・。
いや、まだ分からない。一つの情報だけを鵜呑みにするのは良くない。確かに報道はされた。だが、あの運命がただやられるなんて事は正直あり得ない。情報と経験。どちらを信じるべきかは既に分かった。
『一夏(さん)・・・』
そんな俺の様子を察したのか、セシリアたちが様子を伺っている。なんだかんだ言っても、付き合いが長かったからな。心配してくれているんだろう。
「大丈夫だ。運命が死ぬなんてあり得ない。あんなに強いんだ、きっとデマに決まってるさ。それに、これは現実逃避なんかじゃない。経験に基づいた確証だ」
それを聞いて、それぞれに活気づいたようだ。良かった。もしかしたら馬鹿にされるかと思っていたけど、分かってもらえた。
「そうですわ!まだ運命さんには“ブルー・ティアーズ”の新たな使い方を教えてもらってないんですから!」
「あたしだって“甲龍”をもっと知って、あいつにリベンジするんだから!」
「僕も“高速切替”以外にもいろいろ考えてもらってたっけ」
「私は・・・会ってお礼が言いたい。覚えていないとはいえ、助けてもらったのは事実だからな」
なんだ、運命も結構みんなと絡んでるんだじゃないか。人と関わるのはきらいだとか言ってたくせに。
内心安心していると、舞台上に千冬姉の姿が見えた。どうやら始まるようだ。周りにもなんとも言えない空気が襲う。これから・・・か。
「生徒諸君、おはよう。早速で悪いが、本題に入らせてもらう。既に知っていると思うが、今朝、金森運命の死が発表された。もちろん、我々が手を下す訳も無し、ここにいる生徒の誰がやったとも言わない。だが、周りはそうは思ってくれない。だが、この際金森運命の生死は問わない。恐らくだが、一週間後にここは実力行使という名の撤去作業が始まると思われる。そこで、教師陣は一つの決断をした。
このIS学園の閉鎖は、我々の手で阻止する!
だが、奴らもそれを見逃してはくれない。ここに居るものは我々と思いを同じくするものと見なされ、最悪の場合は命が無くなるかもしれない。
時間は一週間だ。命の惜しいものは、それまでに荷物をまとめ、即刻退去することを容認する!
だが、もし我々と思いを同じくする意思があるものは、一週間後に同じ時間、同じ場所で再び集合せよ!
話は以上だ。重要なことだ、選択を謝るなよ・・・」
「こりゃあ、凄いことになっちまったな・・・」
一人驚いていると、セシリアたちが集まってきた。
「みんなはどうするんだ?代表候補生ってのもあって、あまり自由に動けないんだろ?」
そう言うと、途端に罰の悪そうな顔をし始める。どうやら図星のようだ。
すると、シャルが代表してその意思を伝えた。
「確かに代表候補生は一度国に戻されるけど、結局それは自衛の手段が欲しいだけなんだよね。だから、みんなで話し合ってこう言おうって決めたんだ」
「何を決めたんだ?」
そう聞くと、四人で顔を見合わせからこちらに向かって言った。
「国の脅威となり得るものを討つために、日本にて決着をつけますってね」
正直、驚いた。自分と同じ年頃の子が、国や世界を基準として物事を考えていたなんて。俺は自分のことで手一杯だってのに・・・。
「それで、一夏はどうするの?」
そう聞かれて、改めて考える。俺はどうするべきなんだ?千冬姉もセシリアたちも恐らく会長たちも、みんなが確固たる意思を持った上で決断したんだ。でも、ならば自分はどうだろうか?何を、何のために守るのか。未だに決まっていない自分はどうだろうか?
その瞬間、ふとあの一言が蘇る。
【お前が本当に大切なのは誰か、よく考えてみろってことだな】
忘れてた。根本からして間違ってたんだ。何のためにじゃなくて、誰のためにって事を。
「俺は・・・・・ここに残る。結局は自分のエゴかもしれないけど、それすらも失ったらダメな気がするから。だから俺は、それを証明するためにここに残って戦う」
そうだ。まだここにはたくさんの希望が残っているんだ。それを守るのが俺のやるべきことだ。それにあいつも、運命も戻ってくる場所が無いと悲しむもんな。
「ここを破壊なんてさせるもんか。気の済むまで徹底抗戦してやるっ!」