別れが近づいているのに、実感が湧かない。
次の日の朝、運命は一人とある場所に佇んでいた。IS学園の中でも外れに位置する岬だ。思えば、ここから全てが動き始めたといっても過言ではないだろうか。
「さぁて・・・そろそろ行くかな。ここで終わりにしないと・・・」
運命はその決意を胸に約束の地へと歩き始めた。全ての出来事に終止符を打つ為だけに。
時間は少し経ち、舞台は1年1組の教室に移される。昨日の約束の通り、学園に残っている生徒や職員、その他関係者達全員が楯無によって集まっていた。
当事者である金森運命を除いて。
「なぁ、箒。一体何が始まるんだ?俺何も聞かされて無いんだが・・・」
今よりほんの少し前に到着した織斑一夏は、隣に座っている篠ノ之 箒に事情を伺う。
「私とてそれは同じだ。ただ、用があるのは運命らしいのだが・・・」
箒の返答に感謝しつつも、一夏は内心疑問に思った。
(運命が?一体なんだってそんな事に・・・)
物思いにふけっていると、運命本人が静かに入ってきた。運命はそのまま空席が無いのを確認すると、静かに話し始めた。
「えっと、揃っていますね。まずはお集まりいただいてありがとうございます。楯無さんもご協力、ありがとうございました。今日集まって貰ったのは、皆さんに真実を知ってもらいたかったからです」
「真実」
恐らくその言葉の真意を理解しているのは、運命と桜野銀河、エクシアに神原 愛の四人だけだろう。周りが騒然となる中、運命は淡々と真実について話し始めた。
「全てをお話しします。俺の身に起こった出来事を」
この物語が始まった忘れもしない始まりの日の事を。
運命から話された事柄は、その場で聞いていた一夏達を絶句させるものばかりであった。その事実を確認するように、口々に運命に疑問をぶつける。
「クラス代表を決める際、私が一夏さんに決闘を申し込むのは・・・」
「あたしの時にも、あの黒いISが乱入してくるのも・・・」
「僕が男として入学して、ISの情報を集めてたのも・・・」
「私がISに操られて、暴動を起こしたのも・・・」
それらの疑問に、運命は静かに答えた。
「あぁ、全部知っていた。だから全部対応できたし、もしかしたら未然に防ぐことができたかもしれない。本当に、申し訳ないと思っている」
運命の返答に対して、思わず言葉に詰まる彼女たち。別に運命を責めたい訳ではないのだ。結果として、全てが良い方向に向かっている事に変わりはないのだから。
寧ろ、その他にもっと大変な事があった。
「運命・・・私を助けてくれたのは、自分の為なの?」
そう問いかけたのは、運命と最も親しい関係にある少女、更識 簪だ。
一瞬返答に困ったが、運命は自分に嘘はつきたくなかった。だから、答えた。
「簪・・・そうだよ。君が俺の事を好きになるように、仕向けたんだ。君が楯無さんに劣等感を感じている事を逆手にとってね。幻滅しただろう、俺の事。でもね、金森運命はその程度の人間なんだ」
簪は静かに席に座る。もう彼女は自分の側にはいてくれないだろう。でも、それでいい。なぜならば、それが普通なのだから。
運命は次に楯無に向かって話しを始めた。
「楯無さん、いつの日か俺に聞きましたね。何でお家の事を知っているんだって。俺にはこの物語の知識があるんです。貴方がどう思っていたかは知りませんが、貴方が求める等身大の理想の男子を演じていたに過ぎません」
運命の告白に、衝撃を受ける楯無。それはここにいる全員が思っている事で、誰も何も言えなかった。
言い終えた運命は、先ほどとは打って変わり千冬に頼みを聞いてもらうため、話しをする。
「千冬さん、“彼女”は?」
今まで静聴していた千冬は、思うところがあったが、言葉を飲み返答した。
「・・・正直、分からないな。あいつの気分次第といったところか。それにこれは私個人の意見なのだが・・・」
そこで一旦言葉を止め、運命と目線を合わせようとしない千冬。変に思った運命は、無理矢理視線を合わせに行くと、彼女の顔が微かにだが、何故か紅潮している事に気付いた。
「お前は、私が今まで出会った男の中でも、一番信用できる男だと思っている。だから、その・・・堂々としろ!言いたい事はそれだけだ!」
千冬はそれだけ言うと、すぐさま部屋から出て行こうとする。一瞬理解するのに戸惑ったが、すぐに理解しその言葉が口から出てしまっていた。
「あぁ、千冬さんがデレてる・・・グハッ!!」
その瞬間、光の速さで戻ってきた千冬から放たれたとどめの一撃によって、地にひれ伏した運命。
軽い脳震盪の症状がみられたが、その際に耳打ちで聞こえた「馬鹿者」の言葉には優しさが含まれているように聞こえた。そう、聞こえたのだ。
「だ、大丈夫か?って気絶してる・・・」
運命は一撃によって、意識が飛んでいた。次に戻ってくるのは現実か?はたまた黄泉の国か?
「・・・ハッ!としてみた」
気づいたら自分のベットで寝ていた。あれからどれくらい経っただろうか。
物思いにふけっていると、不意に声をかけられる。
「起きた?お姉さんビックリしちゃったよ。運命くん、いきなり倒れるんだもん!」
「運命・・・もうどこも痛くない?」
そこに居たのは、運命と親密な関係になる筈だった少女二人。過去形なのは言うまでもない。
「そっか、運んでくれたのか。でも、どうして良くしてくれるんだ?俺は君たちを騙していたのに・・・」
運命はつい先ほど、それを告白したばかりだと知っている。だからこそ、彼女たちの行動は理解できなかった。
その問いかけに答えたのは簪だった。
「確かに、ちょっとビックリした。でも、それだけ。騙してたっていうのは、少し違う気がする・・・かな?」
簪の意見に同意するように、楯無がその思いを口にする。
「そうだよ!ただ利用するだけなら、私が怪しむ筈だもん。それにほら・・・」
楯無は言葉を止め、運命の背後から首へと手を回し、静かに身を寄せる。そこに空間は存在しない。
「私の鼓動、感じるでしょ?こんなに早く波打つのって、本物の気持ちだと思うんだけどなぁ?」
突然の行動に、驚きを隠せない運命。それを見ていた簪も黙っていなかった。
「わ、私だって・・・」
今度は運命の正面から、小さな、しかし確かにそこにあるものが当たっていた。運命は何故こんな事をするのかいよいよ理解できなかった。
「何で、こんな事ができるの?俺は君たちを・・・そんな資格なんてないのに・・・!!俺は君たちに好かれたかった!その為にズルをしてまで!」
運命は自分の醜さを吐露する。だがそれ以上の言葉は、彼女たちによって阻止された。
『いいんだよ、それで。君がどう思っても、私たちの気持ちは嘘じゃないから』
その言葉を聞いた瞬間、それ以上の言葉は何も言えなかった。そして今が贖罪の時だと悟った。
「分かったよ・・・だったら、俺の事を知ってくれないかな?俺がここに来るに至った経緯を・・・」
彼女たちは静かに頷いて、息を飲んだ。
そして、運命は語り始める。自分の始まりの物語を。