人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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──ここはエウロパ。人が、魔が、神が生きる神秘の世界──

これは、そんな世界で生きる人間と吸血鬼の姉妹のお話。


序章その1 「人間の姉と吸血鬼の妹編」
1話「人間の私が吸血鬼の姉になるだけのお話 前編」


side Naomi Garcia

 

──いつかの記憶 どこかのお花畑

 

また、同じ夢を見た。

 

「おねーちゃーん!」

「んー、どうしたのー?」

 

これは、今も忘れない......いや、忘れたくない記憶だから。

 

「見て見て! 花冠! ほら、綺麗でしょ? お姉ちゃんに似合うと思うの!」

「私の為に作ってくれたの? ありがとね。......どう? 似合う?」

「うん! 似合うよ! すっごく可愛い!」

 

大切な妹と遊んだ最後の記憶だから。

 

「そう? えへへ、嬉しいなぁー......あ、貴方にも作ってあげるね」

「ほんとに? ありがと! ......あれ? あの煙なんだろ?」

「え? ほんとだ。何だろ? あっちって村の方だよね? 何かあったのかな?」

「んー......行ってみる?」

「うん、そうだね」

 

何度も、同じ夢を見るんだと思う。

 

──私はこの日......たった一人の家族を、たった一人の妹を失った──

 

 

 

──いつかの記憶 どこかの村

 

気付いた時には、また違う夢を見ていた。

 

「お、お姉ちゃん! 助けて!」

「ど、どいて! エリーが!」

 

忘れたい。だけど、忘れてはいけない大切な記憶。

 

「お姉ちゃん!」

「あ......エリー!」

 

村に帰ってくると、村が魔族に襲撃されていた。

家に帰るまでもなく、妹は魔族に連れ去られ、私も別の魔族に連れ去られ、離れ離れとなってしまった。

あれから、一度も妹を見たことがない。おそらく、もう──

 

──そんな最悪な事態を考える前に、私の目が覚めるのであった──

 

 

 

──現在 どこかの館

 

「......また、か......」

 

目が覚めると、最近になってようやく見慣れてきた館の天井が目に入る。

妹とはぐれたあの日から、この夢をよく見るようになった。見たくもないのに......何度も、何度も同じ夢を見る。

 

「姉様? また怖い夢でも見ちゃったの? ふふ、大丈夫、私がいるから怖がらなくてもいいよ?」

「......そっちの方が怖いんだけど......」

 

起き上がると、目の前には妹に似た少女が立っていた。

白い短髪に真っ赤な目を持つ少女。

黒い長髪に黒い目を持つ私の妹とは少し違うが、まるで小さな妹がもっと小さくなった姿にも見える。

服は、体格よりもかなり大きな布に穴を開け、そこから頭と手を通したような貧相なものだ。その服には、日光が当たらないように、フードも付いている。

 

「......姉様、やっぱり、私は嫌なの?」

「人間の私が吸血鬼である貴方の姉とか嫌に決まってるじゃん。早く家に返すか殺しなさいよ」

 

この娘は姿こそ似ているが、私の妹、エリーとは全く違う存在。

名前はリリィ・ベネット。魔族である吸血鬼の少女だ。

見た目的に、私の妹よりも三歳下の十歳くらいに見えるけど......実は、十五歳の私よりも五歳くらい年上らしい。

それなのに、姉が私と似ているからという理由で、姉様と呼ばれている。

 

「そっか......。でも、安心して。私の魅了が効かないとしても、いつかは私のものになってくれると信じてるから。

大丈夫、それまでは絶対に死なせないし、絶対に私の傍から離さない」

「......やっぱり、本当に貴方ってヤンデレよね。正直言って近付きたくないわ」

「またまたぁ、そんなこと言って、私と一緒に居たいんでしょ?

大丈夫、ずーっと一緒に居てあげるから。......もう、絶対に死なせたりしないんだから」

「......そ、勝手に頑張りなさい」

 

リリィの狂気にも感じる瞳。

それに見つめられながら、私は素っ気なく答えた。

 

どうしてこんなことになっているのかは数日前に遡る。

そう、それは私がまだ魔族に捕まっている時のことであった。......いやまぁ、この娘も魔族だから今も捕まってるのと変わらないけど──

 

 

 

──数日前 吸血鬼が住む街『ドラキュア』

 

村で魔族に捕まってからは、どこかの街に連れていかれた。

二、三日もの間、馬車に揺られていたせいか、ここが何処だか全く分からない。

やっぱり、魔法学校行っとけば......でも、エリーがいたから無理か......エリー......。

 

「......痛っ」

「おめぇ、何度言ったら分かるんだァ? その檻に触れたぁ痺れて、終いには死んじまうぞ?」

 

そして、連れていかれた先では、私は魔法が込められた檻の中に閉じ込められ、奴隷市場で売られていた。

檻は触れると電気が流れる魔法がかけられており、少し痺れる。

いやまぁ、私の力じゃ、これが無くても出れないんだけどさ。

 

「......ふん」

「ちっ、可愛くない奴なこって」

「......ねぇ、おじさん。その娘、幾ら?」

「あぁ? あ、お、お客様で......ちっ、なんだ、子供かよ......」

 

檻に入れられて、何時間が経っただろうか。......おそらく、一時間くらい経った時であった。

いつの間にか、目の前には白い短髪と真っ赤な目を持った少女が立っていた。

最初に見た時は、容姿や面影が妹に似ているせいか、一瞬エリーと見間違えた。

 

「何? 子供じゃ悪いの? 貴方、見たところ悪魔よね? それも、かなり低級の」

「そ、それがどうしたってんだ?」

「分からない?

──私は吸血鬼よ。貴方とはそもそも格が違う。低級の悪魔如きが、私に舌打ちなんて......ほんと、命が惜しくないのね。

姉様の前だから今は何もしないけど、姉様が居なかったら、首を切り裂いてたわ」

 

容姿は見間違えたが、中身は全く違っていた。

優しいエリーとは全く逆の、慈悲が全くない、第一印象は残忍な性格だった。

って、姉様? 今、目の前にはこの娘しかいないし......何処が姉様の前なんだか。

 

「......は? ね、姉様?」

 

横に居て、私を見張っていた商人らしき悪魔も同じようなことを思ったようだ。

辺りを見舞わたしても、やっぱりこの娘しかいない。

 

「姉様よ。ほら、今、檻の中にいる娘。私の姉様」

「......え?」

「は、はぁ?」

 

この娘は一体何を言っているんだ?私が? 姉様?

た、確かに、この娘はエリーに似てるけど、絶対別人だよね? 吸血鬼とか言ってたし、私は人間なんだけど?

 

「ま、そういうことだから。さ、私に渡しなさい。あ、お金はちゃんと払ってあげるわ。特別よ」

「え、あ、はぁ......それなら別に構いやせんが......五十万ゴールドですぜ?」

 

五十万ゴールド? 五十万って結構な金額だよ? 吸血鬼と言っても、十歳くらいの少女が持て──

 

「ふーん、思ったよりも安いわね。はい、これ」

「......え!?」

「お、おぉ......」

 

そう言って、その少女は懐から大きめの袋を取り出した。その袋には、溢れんばかりの金貨が入っていた。

 

「もしかしたら、五十万よりも多いと思うけど、まぁ、別にお金なんて幾らでもあるからあげるわ」

「......はっ! あ、有難うございやした! く、首輪はどうしやすかい!?」

 

首輪......奴隷に付けるらしい、逃亡防止用の首輪のことかな。

確か、奴隷が逃げた時に任意のタイミングで首輪を爆破することが出来るとか......。

 

「首輪? あぁ、逃亡防止用の首輪ね。そんなの要らないわ。だって、私の姉様ですもの」

「え、ちょ、ちょっと待って! 私、貴方の姉なんかじゃないわよ!?」

「あ、う、うるせぇ!お前は黙って──」

「貴方が黙って! ......大丈夫、貴方は私の姉様よ。絶対に、ね。

あ、心配しなくてもいいよ。姉様には何も悪いことはしないから。だから.....安心して私の傍にいて。ずーっと、ずーっとね」

 

そう言って、その少女は檻越しに私の頬に触れた。何故だか、その時に見えた少女の瞳は、狂気に染まっている、と思わせられた。

お金を渡された時に魔法を切っていたのか、電気で痺れてはいないみたいだ。

 

「......あ、貴方、狂ってるの?」

「......あれ、おかしいね。魅惑されてないの? やっぱり、吸血じゃないと効果薄いのね。

じゃ、おじさん。もう連れていくけど、何も伝え忘れとかないよね? それと、私の姉様をもう檻から出して」

「え、えぇ、分かりやした。......へい、出しました。もう連れて行ってもらって大丈夫ですぜ」

 

そう言って、悪魔は私を檻から出して、私を強引に少女に引き渡した。

 

「そ、じゃあね。じゃぁ、行こっか。姉様」

「え、ちょ、ちょっと! 手を強く引っ張らないでよ!」

「あ、痛かった? でも大丈夫! 手が取れたとしても、リンが治してくれるから!」

「そ、そういう問題じゃなくて!」

 

こうして、私は厄介な吸血鬼に拾われることになったのであった──

 

 

 

──数日前 幼き吸血鬼の館

 

「姉様! ここが私達の館よ! 名前はないけど、立派な館でしょ!」

 

奴隷市場からしばらく歩くと、この娘の家らしき館に着いた。

確かに大きくて、立派な館だ。けど、周りの家とかよりも、古い感じがして、浮いてる気がする。

 

「......うん、そうだね。それで? どうしてさっきから私を姉様って呼んでるの?」

「え? そんなの決まってるじゃん。貴方が姉様だから。あ、詳しく言うとね、貴方が姉様の『代わり』なの。

私のお姉さまは魔物に殺されちゃって......。でも、これからは貴方が姉様よ。よろしくね!」

「......死んだ貴方の姉さんはそれでいいと思う? 代わりなんて、姉さんは貴方のこと恨みそうだけど?」

「ううん、大丈夫だよ。お姉さまは私に優しいから。私のことを一番知ってる人だから。許してくれるよ」

 

うん、この娘が何を言ってるのかよく分からない。

何? 妹が妹なら、姉も姉ってこと? それとも、この娘が勝手にそう思ってるだけ?

多分だけど、この娘......姉を亡くして、狂っちゃったんじゃないの?

 

「ま、そんなことは置いといて。早く入ろうよ、姉様」

「......うん、そうだね。寒いしね」

 

吸血鬼に促されて、私は館の中へと入っていった。

入ってすぐには、階段があり、周りは幾つかの部屋があるみたいだ。

そして、中は丁寧に掃除されているのか、とても綺麗になっていた。

 

「......へぇー、綺麗なんだね。貴方が掃除してるの?」

「ううん、メイドがいるの。一人だけね。名前はリン。とっても頼りになるよ!」

「ふーん......」

 

これだけ広いのだから、メイドはいるとは思っていたが......まさか一人だけとは。苦労が思いやられる。

 

「さ、先ずは私の部屋に行こっ! そこで自己紹介もしようね、姉様」

「......えぇ、そうね」

 

そう言えば、まだこの娘の名前を知らないんだっけ。なんだか不思議な気分。

姿はエリーに似ているし、姉様って呼ばれているから、とても別人とは思えないのに......全然違う種族だなんて。

 

「......姉様、元気ないけど......大丈夫?」

「......大丈夫じゃない。連れ去られたと思ったら、吸血鬼の姉になれって言われたのよ? 大丈夫なわけないじゃない」

「あぁ、そういうこと。それなら何も心配ないじゃん。だって、これからはずーっと幸せだよ?

私みたいな妹と一緒にいれるんだよ? 絶対に幸せだねっ!」

「その自信はどこから来るのよ......。それと、私、すでに妹いるから」

「......え? 本当に?」

 

少女の顔が、見て分かる程に変わっていく。

あ、これは言わない方がよかったのかな? ......流石に、今更訂正しても嘘だとバレるよね。

それなら、言った方がいいか。

 

「......えぇ、本当。二歳下の妹がいるわ」

「......ふ、ふふ、姉様も妹がいたのね! それも、私とお姉さまと同じ年の差の!

もはや、これは運命よ! ねぇねぇ、その妹はどこにいるの? 出来れば、その娘を私の妹にしたい!」

 

あぁ、これは別の意味で言わなければよかった。何この娘? 色んな意味で怖いんだけど。

 

「......残念だけど、分からないわ。私と同じで、魔族に連れていかれたから......」

「ふーん......そっか、残念。でも、安心してね。いつか、私が助けてあげる。私も妹が欲しいからね〜」

「......やっぱり、貴方に話さなければよかった......」

 

助けてくれるのは嬉しいけど、これってエリーにも迷惑かかってるよね......。

はぁー、本当に厄介なのに捕まってしまったわ。......今すぐにでも逃げたい。けど、逃げたら殺される。あぁ、本当にどうしてこうなったんだろう......。

 

「え? どうして?」

「妹に危害が加わりそうだから」

「? ま、いいや。話の続きは部屋でしよっか」

「......そうね。ここで話すのも疲れたわ」

 

どうせ逃げれない。そう諦めている私は幼き吸血鬼の部屋へと向かうのであった────




前後編に別れているうちの前編のお話。
これから数話は世界観説明が多いです。

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