人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
途中、視点が変わりますのでご注意ください。
side Ellie Garcia
──『魔の森』 大きな小屋
「エリー、朝。起きて」
「うん......おはよう......」
目が覚めると、窓からは光がこぼれ、朝だということが分かった。
それにしても、リナさん......あの言葉ってどういう......。
「エリー、大丈夫? 顔暗い」
「ううん、大丈夫だよー」
「おっ、起きたか? 今日の夜に出発するから、準備しとくんだよ」
「はーい......ふわぁ〜......」
あ、よく見ると昨日よりも人数増えてる? ん、あれ、レイラが居ない......? どこかに行ってるのかな?
それにしても、あの夢を見ていたせいかな? 寝た気がしないや......。
「エリー、眠い?」
「うん、まぁねー。でも、大丈夫だから気にしないでー」
「分かった。でも、無理しちゃダメ」
「大丈夫。無理はしないよ。まぁ、アナちゃんが危険な目に遭いそうな時は、無茶するかもしれないけど、それはいいよね?」
アナちゃんも私が危険な目に遭った時は助けてくれるだろうしね。
私は友達いなかったから知らなかったけど、助け合うのが友達らしいしめ。
「ダメ。私がエリー守る。エリーが傷付くの見たくない」
「むぅ......一応、人や自分の身を護る魔法は使えるのよ? まだ使ったことないけど......」
「おっ、魔法使ったことないのか。それなら使ってみるかい?
今、レイラに偵察に行かせてるから、レイラが帰ってくるまでだが」
あ、レイラの姿が見えなかったのはそういう事だったんだね。
で、魔法かぁ......。教えてもらったから大丈夫だと思うけど、いざっていうときに使えないと困るしなぁ。
「んー、じゃぁ、アエロ姐さん、貴方にかけていいですか?」
「あぁ、もちろんいいよ! あっ、回復とか補助の魔法だよね?」
「うん。攻撃魔法はちょっと......嫌いだからね」
「ん、どうして......は、聞く必要ないか。人族は好戦的なやつ少ないからねぇ。あ、嫌味とかじゃないからね?」
「あ、大丈夫! 分かってますよー」
魔族は戦いを好む種族らしいし、そういう反応されてもおかしくないしねー。
まぁ、私は戦いって、人を傷付けることがあるから嫌いなんだけどね......。
「それならよかった、よかった。あ、一応、外でやろうか。念のためにね」
「私も付いていく。エリー、一人にしたくない」
「私がいるんだけどなぁ......。まぁ、いいか。あ、シアルヴィ! ここは任せたぞー。
さて、エリー、アナ。付いてきてくれー」
シアルヴィと言う、レイラと同い年くらいの人間らしき男性にそう言った。
シアルヴィさんが「う、うん。分かった」と答えたと同時に、アエロ姐さんは外へと出ていった。
私達もアロエ姐さんの後へと続く。
「さぁ、行使してくれていいぞー」
「エリー、頑張って」
「うん! じゃぁ、遠慮なく......って言っても、人を護る魔法だけどね」
アエロ姐さんから数メートルほど離れ、オドを温存するために、森中に広がるマナを自分に集中させる。
「ふぅー、私ならできる......絶対にできる......『スヴェル』ッ!」
そして、力いっぱい呪文を叫んだ。
マナが身体中に巡っていくのが分かる。そして、マナが身体から、身体の外へと出ていくのが分かる。
「ん、おっ!?」
「......白い盾?」
よ、よかったぁ......。
魔法を行使し終えると、無事、アエロ姐さんの目の前には、半径一メートルほどの白い盾が現れた。
「......や、やったぁー! 成功したよー!」
「へぇー、結構デカイ盾だなぁ。ビックリしたよ。で、これってどういう盾なんだ?」
「えーっと......この盾は、物理はもちろん、魔力的な攻撃をも防げる盾らしいです」
そして、リナさんによると、光と熱系の魔法や干渉を防ぐことに特化しているらしい。
どれくらい特化しているかは知らないけど......。
「へぇー、これまた凄いねぇ。これなら頼れそうだねぇ」
「エリー凄い。でも、私が守るのは変わらせない」
「あはは、アナって過保護なんだねぇ」
「保護者は私だと思うんだけどなぁ」
実年齢、精神年齢からしても、私の方が年上だろうから、私の方が保護者だと思うんだよね。
まぁ、アナちゃんの方がめちゃくちゃ強いけど......。
「私も、エリーが保護者だといい。けど、守るのは私」
「矛盾してる気もするが、確かにそっちの方がいいだろうねぇ」
「むぅ......私、護る魔法持ってるのになー」
まぁ、アナちゃん達が危険な目に遭ったら、私が護ればいいよね。
もし怪我をしても、『ヒーリングライト』で回復させればいいだけだし。
「さて、他にも魔法はあるかい?」
「は、はい。後一つだけ、回復魔法が......」
「よし、それならまだ──」
「おーい! 大変にゃー!」
「って、ん?」
魔法の練習中、森の入り口の方から、レイラが慌てた様子で走ってきた。
何かあったのかな?
「敵がこの森を囲んでいるにゃ! あ、正確に言うと、十個くらいの小隊に別れて囲んでいるにゃ!」
「それは......総数で言うと、どれくらいだい?」
「五百にゃ。結構やばいにゃ」
「......え、五百!? え、えーっと、こっちの数は......」
「昨日、あんたらが来てからも増えたのは増えたんだが......三十弱しかいないねぇ。しかも、こっちは戦える数が半数もいないときた」
「まぁ、ほとんどの人らは捕まってたからにゃ......私も含めてだけど」
私は防護魔法、回復魔法しか使えないから戦えるわけではないし......。
アナちゃんは戦えるけど、五百は流石に......。
「まだ攻めてくる気配はにゃいにゃ。多分、完全な位置を把握していにゃいから、攻めるに攻めれないみたいにゃ」
「ふむぅ......不意打ちを警戒しているってことか? オークなのに?」
「え? オークだと警戒しないの?」
「あいつらは人族が物凄く嫌いだからな。不意打ちなんてお構い無しに突撃してくるはずなんだ。
それが無いってことは......」
「そういうオークじゃにゃいだけか、オークを従えるほどの強さを持った、オーク以外の魔族が部隊長のどっちかにゃんだろうにゃ」
オークか、オーク以外の魔族で、オークを従えるほどの強さ......。
どちらにしても、ただ突撃するだけの脳筋じゃないってこと?
......これ、本当にピンチなんじゃ......。
「どちらにしても、どうにかしないとな。レイラ。中の奴らにも伝えてやってくれ。私は空から見てくる」
「見つかる可能性があるからダメにゃ。見るなら隠れて見るにゃ。まぁ、中の人らに伝えるのはいいにゃ」
それだけ言って、レイラは小屋の中へと入っていった。
「むぅ、それもそうだったか。アナ、エリー。あんたらはどうするんだい?」
「私はエリーに付いていく。だから、任せる」
「私に任せられてもなぁ。でも......」
アエロ姐さんを一人にさせるのも心配だし、付いていった方がいいよね。
人を攻撃することはできないけど、人を護ることはできるし......。
「アエロ姐さんに付いていきます。一人にさせるのは、心配だし......」
「優しいんだねぇ。まぁ、人が決めたことに口出しするのもなんだしな。
何かあったら私が守るから、隠れて付いてくるんだよ」
「エリー、安心して。私も守る」
確かに、アナちゃんに守ってもらえると安心するけど......目立つだろうし、アナちゃんが攻撃されるかもしれないしなぁ。
できる限り、危険な目に遭わないようにしないと......。
「よし、それじゃぁ行くか。遅れないようにしなよ?」
「うん、分かった」
「はーい」
アエロ姐さんは歩きにくいからか、少しだけ浮いて森の入り口へと飛行して行った。
それを、私達はできるだけ素早く、目立たないように後を追っていった──
──『魔の森』
「これは......多いなぁ。流石に、三十人弱で何とかできるレベルじゃないねぇ.......」
森の中に潜み、森の外側を見てみた。
レイラの言う通り、敵がわんさかいた。
「私なら、百や二百......」
「アナちゃんが傷付くからダメ。却下」
「むぅ......」
傷付くならまだしも、最悪......いや、そんなマイナスなことは考えないようにしないと。
あれを思い出すし......。
「さて、これはどうしたものか......。いや、最悪......」
「ん、アエロ姐さん?」
「......あ、いいや。何でもないよ。一応、策はあるけど......」
「え、あるの!?」
「あるのはあるんだが......ほぼ賭けだねぇ。それに、全員が助かる見込みも低いからなぁ」
むぅ......それだとダメだよね。一体どうすれば......。
「まぁ、まだ攻めてくる気配は無いんだ。それまで考えるとしようじゃないか。何か案が思い付ければいいんだが......。
思い付かなければ......」
「......あ、アエロ姐さん?」
「......いや、大丈夫だよ。安心してくれ」
アエロ姐さんの顔は、何かを決心したかのように見える。
もしかして......いや、大丈夫だよね。多分......いや、絶対にみんなで助かる道があるよね。
そう自分に言い聞かせ、私達は森に潜んで、敵の動向を探り続けた────
side ???
──同時刻 『魔の森』付近
エリー達が森の中から偵察しているのと同時刻。
『魔の森』の近くでは、オーク達を従える二人の人影があった。
「......男爵。このまま待たせといてもいいのか? オーク達は今にでも暴れそうな勢いだぞ」
そう言ったのは、その影の内の一人。
銀色のロングヘアーに赤い目を持つ二十代前半の男性。
剣に慣れているのか、双剣をジャグリングのようにして遊んでいる。
「心配するでない。彼らはそう簡単に暴れるはずはない。できる限り、そう、夜まで待つのだ。
そうすれば、暗視を持つ者が少ない人族は不利となる。こちらの被害を最小限に抑えるためにもそうするのだ」
そしてもう一人、男爵と呼ばれた馬に乗っている男性。
立派なちょび髭を生やし、ボーラーハットをかぶった三十代後半に見える男性だ。
彼は幾つもの戦場を駆け抜け、勝ち抜き、己の強さのみで貴族の男爵という称号を手に入れた歴戦の戦士だ。
「今すぐ突撃させればすぐに終わるんだがなぁ」
「突撃さして不意打ちを受けたらどうするのだ。軽傷ですむやつは少ないかもしれんのだぞ?」
「そんなの不意打ちを受けた方が悪い。魔族なら自分で何とかしろってんだ。
俺みたいな半端者ならまだしもな」
彼らはいずれ始まる戦闘を前に、ゆっくりと、着実に準備を進めていくのだ────
戦闘開始直前。
エリー達は生き残ることができるのか。
ナオミ達はエリー達を助けることができるのか。
次回、ようやく1章に入る()