人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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13話 「再会するだけのお話」

 side Ellie Garcia

 

 ───『魔の森』 東側

 

「エリー、敵きてる!」

「うん! 魔法の準備はできてるよっ! アナちゃん、いつでも戦い始めてもいいからねっ!」

 

 東側の入り口へと到着したと同時に、敵の大軍がよし押せてくるのが見えた。

 数は分からない。けど、軽く一〇〇人は超えている気がする。

 

「エリー。危険だと思ったら隠れて。竜にならないから、力弱い。だから、何かあったら守れないかもしれない」

「マナは豊富にあるから大丈夫だよっ! 私のことは気にしなくていいから、できる限り人を殺さないように倒して!」

「難しい要望。でも、頑張る」

 

 できれば、仲間にも、敵にも死んでほしくない。

 人族と魔族の戦争中に、こんな理想、実現なんて不可能に近いけど......。

 

「ヒャッハー! 幼女だーっ!」

「なんだと!? 捕まえろ!」

「お前ら! 統率を乱すな! また男爵に怒られるだろうが!」

 

 オーク達が私達を見てそう言って、真っ直ぐ私達へと向かってきた。

 あれ? 地味にオークじゃない奴が一人いるような......。でも、リーダーとかじゃないよね。

 リーダーっぽいのはアエロ姐さん達が行った方向に居たし。

 まぁ、今はそれよりも......。

 

「あの人たち怖いんだけどっ! っていうか、私は少女だから! 幼女って年じゃないから!」

「あれ、殺していい?」

「ダメ! 怖いけど、一応、殺さないで。動きを止めるか気絶させてっ!」

「分かった。じゃ、凍って」

 

 アナちゃんは一言だけそう呟くと、手を握りしめ、淡い水色の光を拳に集めた。

 

「ちっ、めんどくせぇ。おい、盾になっとけ」

「ふぁっ!? あ、これやば──」

 

 そして、その拳を開けたと同時に、すぐにその光は敵の方へと薄く広がり、ほとんどの敵の足を凍らせてしまった。

 

「──なんだこれ!? 氷か!?」

「こんなもの! あ、転けぶへらっ!」

 

 足が凍った人のほとんどはその場から動けなくなり、一部の人は氷を無理矢理砕いたが、その反動で転けてる人もいた。

 

 うん、普通にダサいなぁ。身体能力そこまで高くない私が言うのもなんだけど。

 

「アナちゃんって、竜じゃなくてもそんな魔法使えるんだねー」

「魔法? ううん。これ、私だけの種族特徴、個体特徴。オド消費して、水、氷を作って操れる。詠唱は必要ない」

「へぇー、竜ってそういうのもあるんだねっ!」

「テメェら。呑気に話してんじゃねぇよ」

「あっ、と。アナちゃん! 敵来てるから構えて!」

 

 アナちゃんの氷を回避した人達が真っ直ぐ、こちらへと向かってきた。

 オークじゃない人、多分人間の人を先頭にして。

 

「ここは戦場だ。一瞬の隙が命取りに......げっ、お前リリィか!? い、いや、お前じゃ──」

「お前が命取りになってるのよ!」

「え? ぶへらっ!」

「よし! 決まった!」

 

 突如、何も無いところから少女と男の子が現れた。

 そして、人間らしき人の顔を思いっきり蹴ったかと思うと、私達の目の前に着地していた。

 

「え、貴方は......カルミア君!?」

「昨日ぶりだな。ま、俺は死なないって言っただろ? ところで、レイラ達は何処だ?」

「レイラはアエロ姐さんと一緒に北にいるよっ! 他のみんなは小屋の近くに隠れてると思うっ!」

「ふむ。分かった。リリィ、でいいよな? お前はこいつらを頼む! 俺は北に行ってくる!」

「あいさー。さて、私はリリィ・ベネット。貴方の味方、っていうかお姉ちゃんだよ!」

「......は、はい?」

 

 急に出てきて、お姉ちゃんとか言われても......。

 でも、味方なのは確かだよね。敵さんから守ってくれたみたいだし。

 

「あー、そっか。まだ知らないかったわね。後で姉様、もといナオミが来るから少し待ってて。

 私達だけ先を急ぎすぎちゃったからねぇ」

「え!? お姉ちゃんが!? あ、ってことは、貴方がリナさんの妹さん?」

「あ、正解ー。ま、ちゃんとした自己紹介は後ででいいよね。今は──」

「痛てぇなぁ。まぁ、いつも通りみたいで逆に安心するが、分からねぇな」

 

 さっきの人、何ともなかったみたいに起き上がってる!?

 不意打ちだったし、くりーんひっと? してたのに......。

 

「リリィ。お前は魔族だろ? どうして人族の味方をするんだ?」

「──あいつをボコって逃げないとね。後、恩売るついでに他の人族を助けて」

「な、何? あの人知り合い?」

「さぁ? 知らないわ。お姉さまを私から盗ろうとしたクズなんて」

「おい、それ絶対覚えてるセリフじゃねぇか。それで? リナは何処だ?」

 

 えーっと......うん、話に全然ついていけない。

 と、とりあえず、あの人達を気絶させて逃げればいいんだよね?

 他のみんなも頑張ってるし、私も頑張らないと......!

 

「貴方になんか教えない」

「ちっ、まぁいい。あいつだけでも魔族(こっち側)に引き戻さないとな。お前はあれだ。事故死って報告にしとくわ」

「貴方の武器、双剣? それで事故死ってどうするのよ」

「殺した後に考えるわ」

「そ、なら私はお姉さまにでも伝えるね。貴方がどうやって無様に死んだか」

 

 うわぁー、あっちはものすごくっピリピリしてるぅ......。

 わ、私達は他の敵を相手にしとけばいいんだよね? .....,護るしかできないけど。

 

「あ、アナちゃん! 私達は、他のオーク達を!」

「うん、分かった。的確に、確実に、凍らす!」

 

 そう強く声を発したと同時に、先ほどと同様、右手に淡い水色の光を集め始めた。

 

「そうはさせねぇぞ! お前ら! 矢を放て!」

「アナちゃんがっ! くっ、『スヴェル』!」

 

 気付くと、私はアナちゃんの前に飛び出し、大きな盾で自分とアナちゃんを護っていた。

 矢は全て盾に塞がれるか外れるかして、なんとか無事にすんだみたいだった。

 盾に傷一つ付いていないみたいだし......これなら、大丈夫!

 

「ちっ、めんどくせぇガキがいやがるぞ!」

「や、やっぱり怖い......。けど! アナちゃんは私が護るから!」

「エリー、ありがとう。じゃ、エリー以外は凍って!」

「第二波だ! 避けろ!」

 

 アナちゃんの二発目の攻撃は、先ほどと同じように地面スレスレに飛んでいった。

 

「くっ!? 足が!」

「ひゃぁ、冷たいぃ!」

「狼狽えんじゃねぇ! ただの氷だ! 砕いてしまえ!」

 

 そして、先ほどと同じように、複数の人の足を凍らす結果となった。

 

「このまま、時間を稼いで......って、そうだった! 馬をなんとかしないとっ!」

 

 馬のほとんどは、離れた位置にいたせいか、凍ってない。

 このままじゃ、逃げれたとしても追いつかれる......!

 

「アナちゃん! 馬の動きを止まらせるか、馬を盗らないと!」

「そうだった。じゃぁ、私が......エリー! 後ろ!」

「えっ?」

「死ねぇ!」

 

 後ろを振り返ると、既に剣を振り上げていたオークがいた。

 

 ──あぁ、これは終わったかなぁ。

 

 この世界の全てがスローモーションに見えた私は、そう悟った──

 

「──私の妹に! 手を出すんじゃないわよ!」

 

 懐かしいその声が聞こえた。

 それと同時に、オークは殴られて横にすっ飛んでいった。

 

「ぶへらっ!?」

「え、りー? ......よかった」

「ふぅ、危なかったわね。大丈夫?」

「え、うそっ......!?」

 

 気が付くと、唯一の家族に会えた嬉しさのせいか、腰を抜かして、目の前が見えなくなるほどの涙を流していた。

 ──ようやくだ。長く感じたこの数日間。ようやく、再会できたんだっ!

 

「まだ逃げれてないのに、そんなに泣かないの。ほら、立てる?」

「うんっ! 大丈夫だよっ! お姉ちゃん!」

 

 嬉しさのあまり、私はお姉ちゃんの胸に飛び込んだ。

 ──いつもの匂い、いつもの触感。間違いない。お姉ちゃんだ......。

 紛れもない、私の、お姉ちゃんだっ!

 

「嬉しいのは分かるけど、抱きつくのは後でにしなさい。今度こそ、助けるから」

「う、うんっ、分かった!」

「さて、敵の足を潰せばいいのね。

 まぁ、それはリンさんがやってくれるらしいからいいとして、こっちは時間稼ぎをしないとね。

『ミセリコルデ』!」

 

 お姉ちゃんが詠唱を口に出したと思うと、いつの間にか、右手にはダガーが握られていた。

 

「これは止めの短剣、慈悲の短剣。簡単に言うとただのダガー。

 今から、時間を稼ぐわ。その間、貴方は後ろに下がっていて。あと、貴方もね」

 

 お姉ちゃんは私とアナちゃんを交互に見て、そう言った。

 ──でも、下がるわけにはいかない。もう、何も失いたくないから。

 

「お姉ちゃん。私も一緒にやる。大丈夫っ! 私も魔法、使えるからねっ!」

「え? ......本当に?」

「うん、本当に」

「......そ、それでも、あまり前にいかないようにしなさいよ。

 できる限り、私よりも後ろにいなさい」

 

 あ、なんだか羨ましそうな目をしてる。

 お姉ちゃんも魔法使えるようになったみたいだし、羨ましがるようなことじゃ......あ、お姉ちゃんって、魔法が大好きだったんだ。

 だから気になってるわけか。ま、お姉ちゃんって、時々子供みたいなところあるしねー。

 

「なんか失礼なことを考えられている気も......。まぁ、いいわ。

 とにかく、ある程度時間を稼いだら、逃げるわよ!」

「分かった!」

「.....,話に入れなかったけど、分かった」

 

 お姉ちゃんに再会できた私は、再度、時間を稼ぐために、戦うのであった────


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