人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
これからは長い休みに入るので、早めに投稿できる......はず()
side Rina Bennett
──『魔の森』 東側
「さぁて、足止めの時間ねー」
「......やっぱり、お前も
迫ってくるオークの軍勢。その中にいる
「ん? 私はいつでも
「それは初耳だったな。......どうしても戻ってきてくれないのか?」
「もう私とは別れたんだし、私のことは忘れて
「いや、俺は諦めねぇ。お前に見合うくらい強くなってみせる!」
あら、まだ別れた理由を勘違いしてるのねぇ。
それにリリィったら、まだ私が死んだことを言ってなかったのね。
あの娘なりの優しさかな? それとも......。
「ふふっ、一体何年、何十年かかるんだろうねぇ」
「すぐに追いついてみせるさ。これでも同い年だ。努力さえすれば......」
「おい! いつまで敵と話してんだ! 男爵にまたどやされるぞ!」
「......あぁ、そうだったな。あのおっさんはめんどくせぇからな。
リナ、すまないがここは力づくで通らせてもらう。......まぁ、無理だろうけどな」
レンったら、心の声漏れてるよ?
それに、私はそこまで強くないんだけどなぁ。
本来は戦闘にあまり向いていない魔法しか極めてないし。戦闘用含めて他の魔法は微妙だし。
「あらまぁ、力づくで通るの? なら、私も妹を守るために本気を出すね?」
「......お前ら、油断はするなよ。あの顔はかなりやばいからな。それと、まだ凍ってる奴を早く助けて加勢させろ。
急がないと、こっちが全滅するかもしれん」
「そ、そんなに手強い奴なんすか? あの女性は」
「名前を聞けば知ってるはずだ。魔族皇帝に認められた吸血鬼、『リナ・ベネット』という名を聞けばな」
「あ、あの皇帝様が次期皇帝にするという噂の自由人、リナ・ベネットですかい!?」
あれ、なんかあの人達、大袈裟過ぎない?
確かに皇帝様とは話したことや、王国をプレゼントしようか、とか言われたことあるけど、まだまだ二十二の若者よ? 死んでるけど。
それと、自由人って言うほど自由にしてないからね?
「あぁ、あのリナだ。あいつを敵に回すのは厄介。お前ら、男爵が言ってたように死なないように戦え。
ここで全滅するよかマシだ」
「警戒し過ぎじゃないかな? 大丈夫よ。むやみな殺生はしない主義だからね」
「全軍! 目の前の敵を警戒しながら前進! 隙あらば逃げた連中を追え! そして、絶対に誰も死ぬな!」
「って、聞いてないか。仕方ない。誰も追うことは叶わないよ。私がいる限りは、絶対に」
目の前まで迫り来る軍勢を前に、私はすぐにでも魔法を使えるよう、準備をした────
side Naomi Garcia
──『魔の森』 西側
「お姉さま、大丈夫かなぁ......」
森の中にある小屋を通り、エリーの仲間を集め、西に向かっている最中、悲しそうな顔でリリィがそう言った。
「あいつが簡単に死ぬとは思えないわよ?」
「あ、そうじゃなくて......私の近くにいないから泣いてないかなぁ、って......」
あぁ、そう言えばこういう娘だったわね。それにしても、この娘には
それくらい信用しているのかしら?
「みんな! そろそろ森抜けるよっ!」
「おそらく、敵がいるはずよね。さて、どうしたものか」
「姉様、私が先行しよっか?」
「......そうね。この中ではかなり強い方だしね。お願いできるかしら?」
「一番強い自身あるよ! じゃっ、行ってきまーす!」
「ちょっ、先行、って言っても早く行けとは......」
リリィは私が制止するよりも早く、森の外側へと走っていった。
あの娘、私と初めて会ったとき以上に御機嫌ねぇ。
やっぱり、少しだけでも姉の姿を見れたから、なのかしら?
「......お姉ちゃん、私達も急ごっか」
「えぇ、そうね。......エリーも嬉しい?」
「え? 何がー?」
「私に会えて、よ」
「うんっ! 当たり前っ!」
「......そうね。当たり前のことよね」
わざわざ聞くまでもなかったわね。さて......急いでリリィを追わないとね。
あの娘、エリーに似てはしゃぎすぎると色々と失敗しそうだし。
そう考え、私は走る速度を速めた。
そして──
「みんな! 森の出口が!」
「えぇ、見えてきたわね」
しばらくすると、森の出口が見えてきた。
しかし、不思議なことに何も音がしない。
戦っているなら、何かしらの音はするはずなのに......。
まさか──
「あ、姉様ー! 遅かったね!」
「......え? リリィ?」
「......お姉ちゃん。敵、みんな倒されてるよ」
ひと足早く、森の出口から外を見ていたエリーがそう言った。
もしかして、私達が着くまでの数分の間に敵を?
いや、そんなこと──
「あ、一人だけ、立っている人が......メイドさん?」
「メイド? ......あ、リンさん?」
エリーのその言葉に、私は森の外を見に行った。
そこには、複数の馬車を連れて立っているリンさんがいた。
「あ、敵はね、リンが倒しといてくれたよー」
「えぇー......」
「えーっと......そのリンさん、って人が一人で倒したの?」
「ま、五十くらいだし、魔眼と姉様のアーティファクト使えばこんなもんでしょ」
霊となった今でも一人で百以上の敵を抑えたり、五十人ほどの敵を倒せるアーティファクトを持っていたり、リナってどんだけ凄い人だったのよ......。
それにしても、そんなリナを殺した竜って一体......。
「ナオミさん。アエロ姐さんやレイラさんは......?」
リリィと会話している最中、一緒に逃げてきたエリーの仲間の一人が聞いてきた。
そう言えば、カルミアが助けに行った人らの名前......かな? リナがなんとかするとか言ってたけど、どうするんだろう?
まぁ、今はとりあえず安心させないと。
「大丈夫よ。すぐに来るから」
「そ、それなら、よかったけど......」
「今はとにかく、逃げなさい。リンさん!」
「はい、ここに。どうなされましたか?」
「この人達を、人族の街まで送ってあげて。そのための馬車なんでしょ?」
「はい、そうでございます。では、皆様。こちらの馬車にお乗り下さい」
とりあえず、一緒に逃げてきた人達はリンさんに任すとして......。
「リリィ。ちょっといい?」
「ん、どうしたの? それも小声って......」
「誰にも聞かれたくないからよ。リナが北側にいる仲間を連れて来れない、っていう可能性はあるかしら?」
「無いと思うよ」
「予想はしてたけど、即答なのね。で、どうやって連れて来ると思う?」
「そうねぇ......」
リリィはしばらく「んー」と声を出し、頭を抱えていた。
そして──
「生きているなら瞬間移動や透明化の魔法で来させるかな。死んでるなら直接言いに来るはずよ」
「そう......。まだ生きている可能性はあるのね。それはよかったわ」
「まぁ、この都市は人族、特に人間以外なら生け捕りが基本だしね。人族がいなければ生きてると思うよ」
「流石に何の種族かは聞いてないわね」
「ナオミ様。全員、乗り込めました。どうなされますか?」
「なんか言い方悪い気がするわね」
それでも、流石ホムンクルスのメイド。仕事が速いわ。
残りの馬車は二台、か。私達が乗る分とカルミア達の分。ちょうどあるわね。
「できれば一緒に行ったほうが安全なんだけど、敵が集まるのも時間の問題。
ねぇ、リンさん。馬車を先に行かすことってできる?」
「支配系の魔法は取得済みなので、馬に命じれば何処へでも行かすことができます」
「......程々にしなさいよ? その魔法は。でも、今は有り難いわ。
この人達を先に行かしてあげて。目的地はここから一番人族の都市で」
「了解致しました」
そう言って、リンさんは馬に魔法をかけていく。
これ、今更だけど動物に支配魔法をかけるって、都市によっては犯罪だった気もするわね。
まぁ、今はそうも言ってられないけど。
「では......馬達よ! 人を目的地へとお連れなさい!」
リンさんの一言により、馬は音を立てて走り去っていった。
これで、あとは祈ることしかできないわね。
ここから近いのは、おそらく人間の都市『アンリエッタ』のはず。
あそこなら、人族は大丈夫のはず。......でも──
「......意外と馬って速いんだね」
「ん、え、えぇ。そうね。あとは無事に着くのを祈るだけ。カルミア達を待ちましょうか」
「うんっ、そうだねっ!」
「って、言ってるそばから誰か来たみたいだよ?」
「え?」
リリィが森の中を指差しながらそう言った。
敵? それとも味方? どちらにせよ、警戒はした方がいいに決まっている。
そう思いながら、私はありあまるマナを使い、ダガーを召喚した。
「着いたにゃー!」
「みんな! 無事か!?」
「......カルミアね。それに、アエロ姐さんとレイラさん、かしら?」
森から飛び出して来たのは、カルミアに、鳥の獣人と猫の獣人だった。
怪我はしてるけど、どうやら無事みたいね。安心したわ。
「そうにゃ! お前は......誰にゃ?」
「初対面にお前って......。まぁ、いいけど。エリーの姉よ。よろしくね」
「私はアエロ。見ての通りハーピーだ。よろしくな!」
「あ、私はレイラにゃ。って、それよりも他のみんにゃは?」
「敵が来ても困るから、先に『アンリエッタ』向かったわ」
「それならよかったにゃ。ちょうど向かう予定だった場所もそこだからにゃ」
へぇー、最初から......。まぁ、助けた、っていう事実があれば大丈夫よね。
「さぁ、積もる話もあるが、着いてからにするか。馬車はこれだな? 今すぐ出発するぞ!」
「では、貴方方はこちらの馬車へどうぞ。ご心配なく。目的地は『アンリエッタ』となっております」
「ホムンクルス、か? まぁ、後で聞くとするか。とりあえず、ありがとな」
それだけ言うと、カルミア達は馬車へと乗り込み、馬を走らせた。
そう言えば、リンさんにリリィ。エリーにアナちゃんという娘に私。
合計五人もこっちに乗るのね。狭そうねぇ。
「では、私達も向かおっか。別に私は行く必要も無いんだけど......リン。『アンリエッタ』に出発よ!」
「はい、かしこまりました」
「......私、あんまり喋ってないから忘れられてる気がする」
「だ、大丈夫だよ? 私は忘れないからっ!」
こうして、私達も馬車へと乗り込み、人間の都市『アンリエッタ』へと向かうのであった。
おそらく、私だけが心配事を胸に秘めて────
アナちゃんの会話が物凄く短いどころか、一言しか喋ってない気もしますが、空気を読んで空気になっているだけです故、次回はちゃんと喋りますので、安心してください()