人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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かなり遅くなって申し訳ないm(_ _)m

これからは長い休みに入るので、早めに投稿できる......はず()


15話 「逃げのびるだけのお話」

 side Rina Bennett

 

 ──『魔の森』 東側

 

「さぁて、足止めの時間ねー」

「......やっぱり、お前も人族(そっち)側なんだな。リナ」

 

 迫ってくるオークの軍勢。その中にいるオーク(それ)とは違う唯一の者がこちらに向かって話しかけてきた。

 

「ん? 私はいつでもリリィ(こっち)側よ?」

「それは初耳だったな。......どうしても戻ってきてくれないのか?」

「もう私とは別れたんだし、私のことは忘れて()()()()()と付き合った方がいいと思うよ?」

「いや、俺は諦めねぇ。お前に見合うくらい強くなってみせる!」

 

 あら、まだ別れた理由を勘違いしてるのねぇ。

 それにリリィったら、まだ私が死んだことを言ってなかったのね。

 あの娘なりの優しさかな? それとも......。

 

「ふふっ、一体何年、何十年かかるんだろうねぇ」

「すぐに追いついてみせるさ。これでも同い年だ。努力さえすれば......」

「おい! いつまで敵と話してんだ! 男爵にまたどやされるぞ!」

「......あぁ、そうだったな。あのおっさんはめんどくせぇからな。

 リナ、すまないがここは力づくで通らせてもらう。......まぁ、無理だろうけどな」

 

 レンったら、心の声漏れてるよ?

 それに、私はそこまで強くないんだけどなぁ。

 本来は戦闘にあまり向いていない魔法しか極めてないし。戦闘用含めて他の魔法は微妙だし。

 

「あらまぁ、力づくで通るの? なら、私も妹を守るために本気を出すね?」

「......お前ら、油断はするなよ。あの顔はかなりやばいからな。それと、まだ凍ってる奴を早く助けて加勢させろ。

 急がないと、こっちが全滅するかもしれん」

「そ、そんなに手強い奴なんすか? あの女性は」

「名前を聞けば知ってるはずだ。魔族皇帝に認められた吸血鬼、『リナ・ベネット』という名を聞けばな」

「あ、あの皇帝様が次期皇帝にするという噂の自由人、リナ・ベネットですかい!?」

 

 あれ、なんかあの人達、大袈裟過ぎない?

 確かに皇帝様とは話したことや、王国をプレゼントしようか、とか言われたことあるけど、まだまだ二十二の若者よ? 死んでるけど。

 それと、自由人って言うほど自由にしてないからね?

 

「あぁ、あのリナだ。あいつを敵に回すのは厄介。お前ら、男爵が言ってたように死なないように戦え。

 ここで全滅するよかマシだ」

「警戒し過ぎじゃないかな? 大丈夫よ。むやみな殺生はしない主義だからね」

「全軍! 目の前の敵を警戒しながら前進! 隙あらば逃げた連中を追え! そして、絶対に誰も死ぬな!」

「って、聞いてないか。仕方ない。誰も追うことは叶わないよ。私がいる限りは、絶対に」

 

 目の前まで迫り来る軍勢を前に、私はすぐにでも魔法を使えるよう、準備をした────

 

 

 

 

 

 side Naomi Garcia

 

 ──『魔の森』 西側

 

「お姉さま、大丈夫かなぁ......」

 

 森の中にある小屋を通り、エリーの仲間を集め、西に向かっている最中、悲しそうな顔でリリィがそう言った。

 

「あいつが簡単に死ぬとは思えないわよ?」

「あ、そうじゃなくて......私の近くにいないから泣いてないかなぁ、って......」

 

 あぁ、そう言えばこういう娘だったわね。それにしても、この娘にはリナ(あいつ)が負ける、という考えは無いのね。

 それくらい信用しているのかしら? リナ(あいつ)の強さを......。

 

「みんな! そろそろ森抜けるよっ!」

「おそらく、敵がいるはずよね。さて、どうしたものか」

「姉様、私が先行しよっか?」

「......そうね。この中ではかなり強い方だしね。お願いできるかしら?」

「一番強い自身あるよ! じゃっ、行ってきまーす!」

「ちょっ、先行、って言っても早く行けとは......」

 

 リリィは私が制止するよりも早く、森の外側へと走っていった。

 

 あの娘、私と初めて会ったとき以上に御機嫌ねぇ。

 やっぱり、少しだけでも姉の姿を見れたから、なのかしら?

 

「......お姉ちゃん、私達も急ごっか」

「えぇ、そうね。......エリーも嬉しい?」

「え? 何がー?」

「私に会えて、よ」

「うんっ! 当たり前っ!」

「......そうね。当たり前のことよね」

 

 わざわざ聞くまでもなかったわね。さて......急いでリリィを追わないとね。

 あの娘、エリーに似てはしゃぎすぎると色々と失敗しそうだし。

 

 そう考え、私は走る速度を速めた。

 そして──

 

「みんな! 森の出口が!」

「えぇ、見えてきたわね」

 

 しばらくすると、森の出口が見えてきた。

 しかし、不思議なことに何も音がしない。

 

 戦っているなら、何かしらの音はするはずなのに......。

 まさか──

 

「あ、姉様ー! 遅かったね!」

「......え? リリィ?」

「......お姉ちゃん。敵、みんな倒されてるよ」

 

 ひと足早く、森の出口から外を見ていたエリーがそう言った。

 

 もしかして、私達が着くまでの数分の間に敵を?

 いや、そんなこと──

 

「あ、一人だけ、立っている人が......メイドさん?」

「メイド? ......あ、リンさん?」

 

 エリーのその言葉に、私は森の外を見に行った。

 そこには、複数の馬車を連れて立っているリンさんがいた。

 

「あ、敵はね、リンが倒しといてくれたよー」

「えぇー......」

「えーっと......そのリンさん、って人が一人で倒したの?」

「ま、五十くらいだし、魔眼と姉様のアーティファクト使えばこんなもんでしょ」

 

 霊となった今でも一人で百以上の敵を抑えたり、五十人ほどの敵を倒せるアーティファクトを持っていたり、リナってどんだけ凄い人だったのよ......。

 それにしても、そんなリナを殺した竜って一体......。

 

「ナオミさん。アエロ姐さんやレイラさんは......?」

 

 リリィと会話している最中、一緒に逃げてきたエリーの仲間の一人が聞いてきた。

 そう言えば、カルミアが助けに行った人らの名前......かな? リナがなんとかするとか言ってたけど、どうするんだろう?

 まぁ、今はとりあえず安心させないと。

 

「大丈夫よ。すぐに来るから」

「そ、それなら、よかったけど......」

「今はとにかく、逃げなさい。リンさん!」

「はい、ここに。どうなされましたか?」

「この人達を、人族の街まで送ってあげて。そのための馬車なんでしょ?」

「はい、そうでございます。では、皆様。こちらの馬車にお乗り下さい」

 

 とりあえず、一緒に逃げてきた人達はリンさんに任すとして......。

 

「リリィ。ちょっといい?」

「ん、どうしたの? それも小声って......」

「誰にも聞かれたくないからよ。リナが北側にいる仲間を連れて来れない、っていう可能性はあるかしら?」

「無いと思うよ」

「予想はしてたけど、即答なのね。で、どうやって連れて来ると思う?」

「そうねぇ......」

 

 リリィはしばらく「んー」と声を出し、頭を抱えていた。

 そして──

 

「生きているなら瞬間移動や透明化の魔法で来させるかな。死んでるなら直接言いに来るはずよ」

「そう......。まだ生きている可能性はあるのね。それはよかったわ」

「まぁ、この都市は人族、特に人間以外なら生け捕りが基本だしね。人族がいなければ生きてると思うよ」

「流石に何の種族かは聞いてないわね」

「ナオミ様。全員、乗り込めました。どうなされますか?」

「なんか言い方悪い気がするわね」

 

 それでも、流石ホムンクルスのメイド。仕事が速いわ。

 残りの馬車は二台、か。私達が乗る分とカルミア達の分。ちょうどあるわね。

 

「できれば一緒に行ったほうが安全なんだけど、敵が集まるのも時間の問題。

 ねぇ、リンさん。馬車を先に行かすことってできる?」

「支配系の魔法は取得済みなので、馬に命じれば何処へでも行かすことができます」

「......程々にしなさいよ? その魔法は。でも、今は有り難いわ。

 この人達を先に行かしてあげて。目的地はここから一番人族の都市で」

「了解致しました」

 

 そう言って、リンさんは馬に魔法をかけていく。

 これ、今更だけど動物に支配魔法をかけるって、都市によっては犯罪だった気もするわね。

 まぁ、今はそうも言ってられないけど。

 

「では......馬達よ! 人を目的地へとお連れなさい!」

 

 リンさんの一言により、馬は音を立てて走り去っていった。

 

 これで、あとは祈ることしかできないわね。

 ここから近いのは、おそらく人間の都市『アンリエッタ』のはず。

 あそこなら、人族は大丈夫のはず。......でも──

 

「......意外と馬って速いんだね」

「ん、え、えぇ。そうね。あとは無事に着くのを祈るだけ。カルミア達を待ちましょうか」

「うんっ、そうだねっ!」

「って、言ってるそばから誰か来たみたいだよ?」

「え?」

 

 リリィが森の中を指差しながらそう言った。

 敵? それとも味方? どちらにせよ、警戒はした方がいいに決まっている。

 

 そう思いながら、私はありあまるマナを使い、ダガーを召喚した。

 

「着いたにゃー!」

「みんな! 無事か!?」

「......カルミアね。それに、アエロ姐さんとレイラさん、かしら?」

 

 森から飛び出して来たのは、カルミアに、鳥の獣人と猫の獣人だった。

 怪我はしてるけど、どうやら無事みたいね。安心したわ。

 

「そうにゃ! お前は......誰にゃ?」

「初対面にお前って......。まぁ、いいけど。エリーの姉よ。よろしくね」

「私はアエロ。見ての通りハーピーだ。よろしくな!」

「あ、私はレイラにゃ。って、それよりも他のみんにゃは?」

「敵が来ても困るから、先に『アンリエッタ』向かったわ」

「それならよかったにゃ。ちょうど向かう予定だった場所もそこだからにゃ」

 

 へぇー、最初から......。まぁ、助けた、っていう事実があれば大丈夫よね。

 

「さぁ、積もる話もあるが、着いてからにするか。馬車はこれだな? 今すぐ出発するぞ!」

「では、貴方方はこちらの馬車へどうぞ。ご心配なく。目的地は『アンリエッタ』となっております」

「ホムンクルス、か? まぁ、後で聞くとするか。とりあえず、ありがとな」

 

 それだけ言うと、カルミア達は馬車へと乗り込み、馬を走らせた。

 そう言えば、リンさんにリリィ。エリーにアナちゃんという娘に私。

 合計五人もこっちに乗るのね。狭そうねぇ。

 

「では、私達も向かおっか。別に私は行く必要も無いんだけど......リン。『アンリエッタ』に出発よ!」

「はい、かしこまりました」

「......私、あんまり喋ってないから忘れられてる気がする」

「だ、大丈夫だよ? 私は忘れないからっ!」

 

 こうして、私達も馬車へと乗り込み、人間の都市『アンリエッタ』へと向かうのであった。

 おそらく、私だけが心配事を胸に秘めて────




アナちゃんの会話が物凄く短いどころか、一言しか喋ってない気もしますが、空気を読んで空気になっているだけです故、次回はちゃんと喋りますので、安心してください()

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