人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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昼に投稿することもある以下略。

今回は少しほのぼのが混ざったりします。
それでもいい方は暇な時にでもごゆっくりお読みくだされ


第2章「人間の都市で起こる事件編」
17話 「人間の都市に着くだけのお話」


side Naomi Garcia

 

──満月が見える夜 人間の都市 『アンリエッタ』 城門付近

 

「うわぁ......凄いなぁ」

「リリィ。夜だからといって離れちゃダメよ」

「大丈夫大丈夫。......こんなに居るのに離れる方がどうかしてるよ......」

 

都市に着くと、城門前には多くの馬車と、どういう訳か、少数の鎧に身を固めた王国軍騎士が居た。

そして、現在は騎士達に連れられ、城へと向かっている。

会話を聞く限り、どうやら先に着いた人達も城に案内されているらしい。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。ちょっと怖い......」

「大丈夫。何もされないわよ。......少なくとも、城に入るまでは」

 

ゆっくりとした足取りで城へと向かっていく。

夜遅いせいか、周りを見ても騎士以外に人は少ない。

 

周りを囲む騎士は五人。少ないから逃げやすい。だけど逆に言うなら、あまり敵対心は持っていない、ってことよね。

あ、私達を魔族に襲われないように守る、っていう命令でも受けてるのかしら?

まぁ、『付いてこい』以外は何も喋ってくれないし、聞く術が......。

 

「お姉ちゃん、城に......」

「え? あぁ、そうね」

 

かなり歩いたらしいが、あまり自覚は無かった。

気付くと、私達は目の前に城が見えるくらい近くまで来ていたのだ。

 

「皆様。城に着きました。王室へと向かいますので、王様に失礼の無いように」

「は、はい......」

 

そう促され、私達は城内へと足を踏み入れた。

中は毎日掃除されているのか床や壁が綺麗に輝き、通路の端には高価そうな装飾品が、ガラス張りのケーズの中に保管されている。

 

装飾品とかは見せびらかしてるって気しかしないわね。やっぱり、ここの王様はあまり好きにはなれそうにないわ。

 

「......これで全員か?」

「密偵によれば、その通りかと......」

「そうか。最初に聞いていたよりも少ないな」

 

王室は赤く長い絨毯が敷かれ、その絨毯の先には大きな玉座が置かれている部屋だった。

中には数人の騎士と従者、偉そうに玉座に座る五十代程の王様。

そして、その横には黒髪で二十歳程のエルフらしき耳を持った青年が居た。

 

「王よ。連れてきました」

「見れば分かる。お主らは下がって良いぞ」

「ははぁっ」

「......して、ある程度のことは密偵から聞いておる。無事、こちらへ戻ってきたことを喜ばしく思うぞ」

 

私達を連れてきた騎士達が下がるのを確認すると、王は一人一人の顔を観察するようにじっくり見ながらそう言った。

 

「いえいえ、王様にそう言って下さるとは......感謝します......」

「顔を上げよ。そして、今日はゆっくり休むが良い。部屋は貸してやろう。

後日、騎士を遣わす。それまでは都市の中でも見て回るといい」

「ありがたき幸せ。......先に来た者達は?」

「既に別の部屋を用意しておる。都市に居れば会える機会もあろう」

 

何故だろう。何か、嫌な予感がする。......まぁ、いずれ分かることか。今は、ゆっくり休みたいわ。

 

「......そうですか。ありがとうございます。では、失礼しても?」

「......良かろう。そこの従者よ。この者達を案内して差し上げろ」

「承知しました。では、私に付いてきて下さいませ」

 

私達は一礼だけすると、王室を後にした──

 

 

 

──そして、従者に案内され、城から数分程歩いた場所にある建物へと案内された。

 

外観は立派な二階建ての建物だが、簡素な造りだ。

それでもまぁ、貸してくれただけでも有り難い。

 

「こちらの建物を自由にお使い下さい。二日後。使いの者を寄越しますので」

「分かったわ。......って、この建物まるごとつかっていいの?」

「はい。王様からは、そのようにと」

「......ありがとうございます。では、二日後。また会いましょう、と王様にお伝え下さい」

「承知しました。では、私はこれで......」

 

それだけ言って、従者の人は城へと戻っていった。

 

意外とあの王様。太っ腹ねぇ。逆に何か考えてるんじゃないかと思わされるわ......。

 

「......姉様。入ろっ?」

「えぇ、そうね。......貴方達、喋ってもよかったのよ?」

「下手に喋るよりも、お姉ちゃんが喋った方がいいと思ってね?」

「ま、そゆことー」

「あぁ、そう。それならいいけど......。それにしても綺麗な家ね」

 

扉を開け、部屋に入ると中は城内のように綺麗にされていた。

部屋の数は普通よりも多いみたいだが、一つ一つは少し狭い気がする。

 

「お風呂付き? やったー! 久しぶりに入る気がするー!」

「お風呂? 水、ある?」

「あるよー。アナちゃん! 一緒に入ろー!」

「え、う、うん」

 

夜遅くだと言うのにエリーはアナンタを連れて、はしゃぎながらお風呂場へと向かっていった。

 

「着替えは......。リンさん。着替えの代わり無い?」

「無いですが、作りますよ。道具はありますので。すぐにでも」

 

作れるんだ......。っていうか、道具って何処から出した?

何か、ポケットからポケット以上の大きさの道具が出てきた気がするんだけど......。

 

「姉様。あの二人が上がったら一緒に入りましょ?」

「貴方と入るのは嫌な予感しかしないんだけど?」

「大丈夫。変なことはしないからー」

「それならいいけど。変なことしたら、絶対に一緒には入らないから」

「あはっ! またまたご冗談をー」

 

いや、割とマジなんだけど......。っていうか、ここで冗談と思うってことは、するつもりなんじゃ......。

 

「......まぁ、考えていても仕方ないわね。リンさん。あの二人の服をお願い」

「承知しました。ナオミ様の分はどうなされます? お嬢様の物を着ますか?」

「ついでに作ってもらったら? お姉さまの服は胸元の幅がね......」

 

そう言って、リリィは私の顔の少し下に目線を向けた。

 

「わ、悪かったわね。小さくて......。まぁ、そういう訳だからお願いするわ......」

「別に悪いって言ってないのに。ただ、お姉さまよりもかなり小さいから......」

「何故かしら。あいつの勝ち誇った顔が容易に想像できるわ。あぁー、無性に腹立つわー」

「......姉様。私はそれでも姉様が大好きだからねっ!」

「慰めないで。なんか悲しくなってくるから」

 

なんか話してるだけで涙が出てきそう。......でも、久しぶりに落ち着けた気がするわ。

妹には会えたし、人族領土には戻ってこれたし。でも──

 

「あはっ! ごめんねー」

「別に謝ることなんてないわよ。......ねぇ、リリィ。貴方は本当にこっちに住みたいの?

魔族領土で、元居た家で住みたくないの?」

「え? 別にどっちでもいいよ。私は姉様さえ居ればいいからー」

「......そう言えばそういう奴だったわね。貴方って」

 

質問する必要なんて無かったわ。この娘は私が、リナが居ればそれでいい娘なんだから。

リナも苦労してたでしょうね。......いや、どっちもどっちか。あの性格じゃ。

 

「えへへー」

「あれ、今の話に嬉しがる要素あった? まぁ、いいわ。あの娘達が上がるまで部屋を見て回りましょうか。

リンさん。その間、着替えよろしくね」

「承知しました」

「リリィは......まぁ、付いてくるわよね。ついでに寝る準備するのを手伝って」

「はーい」

 

こうして、新しい都市での、短い生活と物語が幕を開けた────

 

 

 

 

 

side Ellie Garcia

 

──人間の都市 『アンリエッタ』 新たな家(お風呂場)

 

お風呂場は人がギリギリ二人が入れるくらいの小さな浴槽と、都市でしか見れないシャワーが付いている綺麗な空間だった。

 

「ひゃー! 久しぶりのシャワだー。気持ちー」

 

村で捕まってからだから、数日ぶりのお風呂。シャワーにいたっては、前に都市に行った時以来だから数年ぶりだなぁ。

ふぁー、気持ちよすぎて眠くなってきたぁ。

 

「シャワー? ......これ、熱くない?」

 

初めて見たのか、アナちゃんは冷たい水が入った浴槽に浸かりながら、シャワーを訝しげに見ていた。

 

「私は丁度いいかなー。もしかして、氷竜だから熱いのダメ?」

「うん、ダメ。私の水、冷たい水。だから、熱いのダメ」

「へぇー......ちょっとだけ冷たくしよっか」

 

そう言えば、アナちゃんが竜になった時に触れたことがあったけど、その時も微妙に冷たかったような、普通だったような。

綺麗な鱗と目のことは憶えてるんだけどなぁ。どうだったっけ?

 

「あ、そうだ。アナちゃん。触ってもいい?」

「え? うん......。でも、冷たいから、注意して」

 

そう言いながら、アナちゃんは浴槽から出て私の前まで来てくれた。

前まで来たと同時に、シャワーを一度消し、私はアナちゃんの体を恐る恐る触れてみた。

 

「本当に冷たいんだねー。あー、ひんやりして気持ちー」

 

アナちゃんを抱き枕代わりにして寝たら、気持ち良く寝れそうだなぁ。

今日からお姉ちゃんじゃなくてアナちゃんを抱きしめて寝よっと。

 

「......初めて」

「え? どうしたのー?」

「初めて触ってもらえた」

「え、もしかして嫌だった......?」

「ううん。嬉しい。竜の時も、人の時も......エリー以外、自ら進んで触ってくれる人なんていなかった」

「......そっか。でも、私も、お姉ちゃんも。アナちゃんが竜なんてことは気にしてないよ。

みんな、元を辿れば創造主様が創った存在だろうしねっ」

「......エリー、私竜。魔物だから、創造主じゃないかもしれない」

 

......あれ、そうだっけ? あ、なんだか恥ずかしくなってきた。

めちゃくちゃカッコよく言ったつもりなのに、間違ってるとか......。

 

「でも、そう言ってくれて嬉しい。ありがとう、エリー」

「......うんっ! 私もアナちゃんが嬉しそうで嬉しいー。

あ、そろそろ上がろっか。お姉ちゃん達も待ってるだろうしねー」

「うん、分かった」

「あ、それとね、アナちゃん。今日、抱きしめて寝てもいいー?」

「? うん、いいよ」

 

それからも少しだけ雑談を交わし、私達はお風呂を上がった────

 

 

 

 

 

side Naomi Garcia

 

──人間の都市『アンリエッタ』 新たな家(寝室)

 

「結局、リリィのせいでゆっくりできなかった気がするわ......」

 

エリー達がお風呂から上がるとリリィと一緒に入った。

が、すぐに後悔した。確かに変なことはしなかったが、すごく疲れた。暴れる吸血鬼相手には、人間は無力だと改めて実感した。

正直、こんなことで実感したくなかったが。

 

「えー、ちょっと遊んだだけじゃーん」

「貴方のちょっとは私にとってはかなりなのよ。私、人間なのよ?」

「じゃ、血を吸って、眷属にしてあげてもいいよ?」

「遠慮するわ。生涯人間のままでいたいから」

「じゃ、死んだら私の物になってね。その代わり、それまではずっと人間でいてね?」

「......可愛い顔して怖いこと言うわね。それに、それじゃあ意味が分からない」

 

ほんと、リリィにとって私は何なのかしらね。

まぁ、それでも──

 

「ま、冗談だからねー。さ、一緒に寝ましょ!」

「うるさくしないでよ。エリーとアナンタはもう寝てるんだから」

 

今、すぐ隣にはアナンタを抱きしめて寝ているエリーがいる。

おそらく、寝るのは久しぶりだろうし、起こしたくはない。

 

「あはっ、大丈夫。疲れきってる妹を起こすようなダメな姉じゃないからねー」

「......あ、そう言えば貴方にとってエリーは妹だったわね。私も年齢的には妹なんだけど」

「まぁまぁ。そこら辺は難しく考えちゃダメだからね」

「あー、はいはい。それじゃ、もう寝るから。疲れたし。リンさんに早く寝て......いや、ホムンクルスだから睡眠は必要無いのね。

それじゃ、おやすみなさい」

「うん、おやすみ。......また明日ね、姉様」

 

既に寝ている妹達の横で、私は深い眠気に襲われながらも、浅い夢を見るのだった────




次回もほのぼの回な予感

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