人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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久しぶりに投稿した気がする。rickです()

特に進展するわけでも......進展するかぁ......。


20話 「切り裂きジャックに会うだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──夜十二時頃 人間の都市『アンリエッタ』 ドゥーコーの何でも屋

 

 十二時きっかりに何でも屋に着くとすぐに......。

 

『皆さん。お待ちしてました。今から二箇所のポイントを言うので、そこで待機、というよりかは、見張りをしてください。もちろん、見張るだけでいいですからね? 手を出しちゃ行けませんからね?』

 

 ──と言われ、今はリリィと二人きりで二人目の被害者が死んだ場所を見張っている。

「ねぇ、姉様。本当に殺害現場に来ると思う?」

「犯人は現場に戻ってくるとか言うらしいし、来るかもしれないわよ? かも、だけど」

「来たら困るなぁ。来るってことは、姉様が狙われるってことでしょ?」

「リリィが守ってくれるんでしょう? 逆に心配なのはエリー達よ。リンさんが居るからと言って、本当に行かせてよかったのか......」

「アナンタが居るから大丈夫よ。竜種なら心配は無いから......」

「......ふふっ、そうね」

 

 成長している。

 

 そう感じた私は、少し微笑ましくなった。

 

「むぅー、どうして笑うのー? 何かおかしなことでも言った?」

「まぁまぁ。......それよりも、誰かに見られている気がしない?」

「......切り裂きジャックかな? でも、辺りには誰も居ないね」

「透明にでもなってる、とか?」

「分かんない。でも透明になってるだけなら攻撃できるね」

「当たればいいわね。取り敢えず、警戒だけはしましょうか」

 

 透明化の魔法は基本的に影は見える。光を反射させて自分を見えなくさせるからだ。

 だが、今は夜中。影を見ることができない。

 

 私に気付かれないで後ろに居た、という可能性も大いにある。

 

「......え? 姉様! 危ないッ!」

 

 リリィの叫び声のつかの間、私は勢いよく押し倒されていた。

 

「痛ぁ......リリィ? 何があった、の......」

 

 最初、何が起きたのか分からなかった。

 

 ただ、手に付いた生温い液体の触感だけが頭の中でいっぱいになった。

 

「え、血......? え? り、リリィ!?」

「いったぁ......。あぁー、痛い。姉様、大丈夫?」

「え、えぇ。私は大丈夫だけど、貴方が! ......あ、れ?」

 

 リリィの背中からは、確かに血が流れていた。

 

 が、服に斬られたような痕はあっても、傷らしきものは一つも無かった。

 

「大丈夫なら良かった。さて、切り裂きジャックなの? それとも別の誰か?

 どっちでもいいけど、姉様を傷付けた奴は殺す」

 

 リリィは立ち上がると、私を守るようにして前に出た。

 

「......答えてくれないのね。そうだよね。死ねっ!」

「わっ!? あっ」

 

 何も無い場所を切り爪で切り裂いたかと思うと、そこから女性の驚く声が響いた。

 

「見えてる? どうして? それに、傷も無いよね? どうして?」

「吸血鬼だから。よく見れば影なんて見える。じゃ、そゆことで、死ねっ!」

 

 勢いよく前に出て、見えない敵を鋭い爪で切り裂いた。

 

「っ! うぅ......」

 

 リリィの爪は血で濡れた。しかし、どう見てもその血の量は致命傷では無かった。

 

「惜しい。掠っただけかな?」

「痛ァい......。ねぇ、お姉さん。本当に吸血鬼なんだね。わたし、初めて見た。

 あなたも、みんなに嫌われてる? 魔族だから嫌われてるよね?」

「姉様からは好かれてる。とってもね。でも、それ以外の人族はどうか知らない。興味も無い」

 

 そんな会話の間にも、リリィは相手が居るであろう場所をずっと見つめている。

 

 しかし、私はそれよりも気になることがあった。

 

「お姉さん? 切り裂きジャック......貴方って子供なの?」

「......やっぱり、喋らない方が良かったね。バレちゃったから、お父さんに怒られる」

 

 その声と共に、何も無い場所からエリーよりも幼い少女の姿が現れる。

 

 金髪のショートヘアーにアナンタのような薄い水色の右目と血のように真っ赤な目を持つ少女。右手には、小さなダガーを持っている。

 目は獲物を見つけた獣のように鋭く、それと同時に、どこか朧けだった。

 

「え? エリ......いえ、違うわよね。そうよね......」

「姉様? どうしたの? 知ってる娘?」

「いえ......貴方、名前は?」

「......切り裂きジャック。それが私」

「聞いたのは本名なんだけど......。まぁ、普通は教えてくれないわよね。

 でも、貴方みたいな子供がどうしてこんなことを......」

 

 見たところ、人間なら学園の初等部一年、六歳前後だ。

 そんな小さな娘がどうしてこんなことをするのか、私には理解できなかった。したくなかった。

 

「お父さんのため」

「親の......? それは、貴方が本当に望んでしたことなの?」

「......お父さんの望むことは、私が望むこと。誰にも邪魔させない。だから、大人しく壊されて!」

「私がそうはさせないから!」

 

 割って入るように、リリィが私の前へと入る。

 

「リリィ。もう少しだけ、この娘と話を──」

「ダメ。危険だから。姉様。貴方を危険な目に遭わしたくないの。だから、何もしないで。私に守られてて」

「壊れろッ!」

「姉様は誰にも渡さない!」

 

 切り裂きジャックは透明になるわけでも無く、距離を取るとダガーを構える。

 

 対して、リリィは私を守るようにしながら、右手に魔力を集中させていた。

 

「壊れてッ!」

 

 切り裂きジャックは何も持っていない方の手で投げる仕草をする。

 

「『スヴェル』! 透明にしても音で分かるんだから!」

 

 切り裂きジャックが投げるのと同時に、リリィは赤く大きな盾を出現させる。

 

 すると、盾から金属の打つかる音が響いた。

 

「透明のダガーでも投げてたの? いえ、それよりも貴方、その盾......」

「エリーの盾だよ。見て覚えた」

 

 私は驚愕した。そして、同じくらいの嫉妬も覚えた。

 

 私があれほど苦労してやっと一つの魔法を覚えたのに、この娘は見ただけで覚えたことに対する才能に。

 

「盾? 普通のダガーじゃ無理そう。なら......っ!? 何がっ!」

 

 切り裂きジャックが何かをしようとしたその瞬間、その小さな肩に、矢が刺さった。

 

「王国軍? なんで? どうして......? 大丈夫だって言ったのに......。また、捨てら......ううん。大丈夫、だよね。もう、帰らないと......。

 次に会ったら、絶対に壊すから」

 

 切り裂きジャックはそれだけ言うと、透明になったのか、姿を消した。

 

「あ、待って! ......一体、誰が?」

「はっ、姉様危ない!」

「えっ、くっ! うぅ......」

 

 リリィの叫んだ声すら聞き取れず、私の腹部に激痛が走る。

 

「何、これ......?」

 

 

 

 ──目が眩む、立ってられない......。

 

「姉様! 姉様!」

「捕獲せよ! 生け捕りにとの命令だ!」

 

 誰かの走る音が聞こえた。男の人の声が聞こえた。

 

「姉様に近付くな! 姉様! 起きてよ! お願いだから! 姉様ぁぁぁ!」

 

 リリィの、泣き叫ぶ声が聞こえた──。

 

 

 

「あぁぁ......あ、れ? ここ、は......?」

 

 目が覚めると、真っ先に白い天井が目に入った。

 

 ──私は、どうしてここに......はっ!

 

「リリィ! っ......」

 

 起き上がろうとすると、腹部が強く痛んだ。

 

 ──包帯? あぁ、私、怪我をして......。ということは、ここは病室?

 

「まだ寝といた方がいい。傷は浅いが、まだ動ける状態じゃ無い」

「誰......、あ、貴方は......」

 

 男の人の声が聞こえた。その方向に目を向けると、昨日、王様の隣に居た少年が立っていた。

 

「ハクア・ホストリア。王の養子であり、補佐役だ。まず、手違いにより負傷させてしまったことを詫びよう」

「そんなのはどうでもいいわ。リリィは? エリーにアナンタ、リンさんは?」

「後者の三人は無事だ。今は家に待機させている。だが、リリィという奴は吸血鬼だと報告があったので、捕縛、監禁している」

「......いつから、後を付けてたの?」

「......昨日からずっと。王からは人族を捕まえろ、という命令は受けていない。それに、王は人族を好んでいる。無闇に人族を殺すことを嫌っている。だから、吸血鬼以外のお前らは無事だ。おそらく、人族だろうと言う報告を受けてな」

「はぁー......」

 

 流石としか言いようがない人族至上主義に呆れ、私はため息を付いた。

 

「ねぇ、リリィを返してくれない?」

「お断りする。王様からの命令で無ければ──」

「あ、お兄様!? こんな所にいらっしゃったのね!」

 

 大きな声と共に、小さな少女が部屋に入ってきた。

 

 その少女は、日に当たっていないのか、透き通るような美しい真っ白な肌を持ち、私の隣に居る男の人、おそらくその娘の兄と同じ黒い髪、ポニーテールと紫色の瞳、エルフ耳を持っている。

 そして、何よりも目に付くのが、左足の足首から右手の中指まで、体を這うようにしてグルグルと細い鎖が巻かれていることだ。

 鎖は動く度にジャラジャラと音が鳴り、まるで自分を動かなくするために巻き付けているようにも見える。

 

「わっ!? クロエ!? ちょ、今仕事中──」

「お兄様!」

 

 クロエと呼ばれた少女は、兄の言葉を無視して、飛び付いた。

 

「お兄様ァ......大好きィ......。で、この女誰? 浮気したらお兄様を殺して私も死ぬ!」

「違うから! 俺はお前が一番好きだから、な?」

「......あぁ、ヤンデレとかそう言う......」

「あら。その容姿は......もしかしてナオミさん!?」

 

 クロエは顔が顔に当たるくらい、近付けると、興奮した表情でそう聞いてきた。

 

「え、えぇ。そうだけど......」

「リリィちゃんと話してたら、ナオミさんに会いたいというから、探しに来たの!」

「リリィと......? リリィは何処なの!?」

「そう慌てなくても大丈夫ですわ。今からにでも、会わせてあげますわ!」

「クロエ!? あいつは魔族なんだぞ!? 魔族とは面談禁止とあれほど!」

「それならもっと頑丈な鍵を付けてとお父様に言ってください。それに、私、リリィちゃんと意気投合しましたし、見殺しにはしません。なので、後で解放するように、お父様に頼んできます」

 

 クロエの言葉に、私は嬉しさと共に驚きを隠せなかった。

 

 あのリリィが、意気投合するわけない、と。

 

「意気、投合......? お前が?」

 

 それは、クロエの兄も同じようだった。

 

「はい!」

「俺やお父様以外には無表情しか見せないお前がか!?」

「はい! 兄を好む私と姉を好むリリィちゃん、何処と無く似ている気がするので!」

 

 似たもの同士だから意気投合した、ということだろうか。

 正直、それだけで仲良くなるのかは不思議な気持ちしか無いが、王女ともなれば、あまり周りの人とは会わないのだろう。

 だからこそ、似ている人と、シスコンで少しヤンデレ気味のリリィと仲良くなったのだろう。と、私は推測してみた。

 

 ──だがまぁ、その推測も案外当たっている気がする。

 

「マジかよ......。お前が言うなら、お父様も止めはしないと思うが......。流石に吸血鬼を簡単に自由にさせるとは思えないぞ?」

「そこはお父様と交渉しますわ! さぁ、ナオミさん。行きましょう!」

「えっ、ちょっ、まだ痛むんだけど!」

「あぁ、もう! 絶対面倒事になるなこれぇ! しかも俺巻き込まれる気しかしねぇよ!」

 

 悲痛な叫びが背後で響く中、私はクロエに連れられて部屋を出ていった────


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