人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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またまた、お久しぶりです。約二週間ぶりですかね? はい、遅くてすいません()

今回は再開とかのお話です


21話 「自由を得る権利を手に入れるだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──人間の都市 『アンリエッタ』 牢屋

 

 腹部の傷が痛む中、クロエに連れられて牢が一つしか無い部屋までやって来た。

 

「リリィ!」

 

 そして、吸血鬼である妹の姿を見つけると、そう叫んだ。

「姉様ぁ! 大丈夫!? 怪我痛くないの!?」

 

 その声に反応するようにリリィに近付くと、牢屋越しに手を繋ぎ、抱きしめ合い、その感触が本物かを確かめた。

 

「......良かった。また会えて......。リリィ、大丈夫? 何もされてない?」

「うん。大丈夫。クロちゃん、ありがとうね。姉様を呼んできてくれて」

「いいえ。お礼は必要ありません。兄を思う気持ちにも似たその姉を思う気持ち......よく分かりますわ」

 

 ──兄と姉は少し違うと思う。

 

 そう心に思ったことは口には出さず、ただ今は、妹に会えたことだけに安堵し、喜びに浸る。

 

「牢屋越しでそうするのも疲れるでしょう? 今すぐ出してあげますわ」

「クロエ! それはお父様から許しを得てから──」

「お兄様。お堅いですわよ? お父様には後でお許しを得ればいいのです。それに、魔族だからという理由で捕まえるのもおかしいですわ。リリィちゃん限定で!」

「やっぱり変わってないのか......。まぁ、別にいい。ただし、怒られてもお兄ちゃんは守ってあげれないからな? 絶対にだぞ?」

「いいえ。お兄様は絶対に守ってくれてると信じていますので!」

「っ!? ......し、仕方ないな。今回だけだぞ?」

 

 純粋な眼差しで、それも曇り無き眼で見つめられたハクアは渋々と返事をし、了承する。

 

 ──あぁ、ヤンデレも相当だけど、兄の方も意外とシスコンなのか。いや、姉妹や兄弟が嫌いな人は少ないだろうし、普通かもしれないけど。

 

「流石お兄様です! 今度、お礼をたァっぷりしてあげますわね。大丈夫。痛くはしません!」

「......お兄ちゃん、背筋が寒くなったんだが? 絶対にやばいやつだよな? お前のことは嫌いじゃないが、たまに一途過ぎてやり過ぎるのは苦手だぞ?」

「嫌いでないなら慣れましょう! 大丈夫......手取り足取り、教えてあげますわねェ?」

「名前何て言ったか......あぁ、ナオミ。代わりに教えてもらうか?」

「ダメよぉ、お兄様ァ。貴方にしか教えれないのよォ?」

「......だってさ」

「いや、あぁ......。とにかくだ。王様のところへ行くぞ。リリィ(その娘)も連れてな」

 

 これ以上話しても意味がないと考えたのか、ハクアはそそくさと牢屋から出ていった。

 

「お兄様ったら。本当にお堅いんですから......。そこもまた、好きですけどねェ......」

「......リリィ。貴方って色々と凄い人と友達になったのね......」

「え? クロちゃんは普通じゃない?」

「......貴方を見ているとそう感じてしまう自分が怖い......」

「では、王室へ行きましょうか。安心して下さい。リリィちゃんは私と居れば大丈夫ですので!」

「そう言えば、ハクアの妹なら、王の養子とは言え王女なのね。......そう考えれば、大丈夫かは分からないけど、確かに安心はできるわね」

 

 この世界では養子とは言え王の子供なら権力は強い。

 だからこそ、王女となれば王とは行かずとも、それに限りなく近い権力を振るうことができる。

 

 ──それにしたって、王が許さなければリリィが外に出ることはできない......。リリィが自由を得られるかはこの人に掛かっている。......こういう時、私って何もできないわね......。

 

「はい。私は王女です。幼い頃、お兄様と一緒にお父様に拾われ、育てられました。お父様には実の子供はいないので、それはそれは、大切に育てられましたわ。ですから、きっと大丈夫です。まぁ、それなりの条件があるでしょうけど。それはまぁ、私も手伝いますわ。お兄様と一緒に。

 ......実を言うと、最近お兄様が仕事で忙しいので、それを口実に一緒に居たいと言う気持ちもありますけど」

「分かる。私も姉様と一緒に遊びたい時は適当な理由を作って遊ばせると思うから」

 

 どちらもそれを話している時、少し悲しそうにも、思い出にふけているようにも見えた。

 

 私はそれをじっと見つめながら、リリィにエリーの姿を重ね、思い出していた。

 

 ──色々なことがあったとはいえ、最近は遊べていないどころか、エリーよりもリリィに気をかけ過ぎているかもしれない。......実の妹を気にかけないでいるのは、やっぱり姉としておかしいよね......。でも、助けてもらった恩もあるから......。

 

「姉様? どうしたの? 私は大丈夫だよ? クロちゃんがいるから」

「......えぇ、そうね。大丈夫よね。さて、王室へ行きましょうか。多分、ハクアも待っていることでしょうから」

「そうですわね!」

 

 私は本当の気持ちを義妹(リリィ)に言えないまま、王室へと向かった。

 

 

 

 王室へ辿り着くと、王様とハクア以外は出払っていたのか、それとも王自身がそう命じたのか。誰もいなかった。おそらくは、王がこのような特例を他の人に知られたく無かったのだろう。

 

「......おぉ、クロエ。ハクアからあらかたの事情は聞いた。......本当に、その魔族を解放しろと申すのか? そやつは魔族だと言うのに......」

「人族と魔族の関係は百も承知ですわ。ですが、それとこれとは別の問題です。リリィちゃんはここへ来てから、危険なことは何もしていませんわ!」

「しかし、兵士を傷付け......」

「それは姉を守る為です! 話は既に聞いています。疑いがあるだけで、兵を使いこの方達を騙したことも。切り裂きジャックに襲われた時も監視を続け、助けなかったことも。そして、挙句の果てに切り裂きジャックは逃がしてしまったこともです!」

「うっ......そ、それはだな......」

 

 王は自分の娘の気迫に押され、たじろいでいた。そして、とっさには言い返す言葉も思い付かなかったのか、王はそのまま黙り込んだ。

 

「お父様。いえ、王様。私から一つ、提案がありますわ。リリィさんを、それとリリィさんの仲間と言う魔族達を解放する代わりに、私とお兄様で切り裂きジャックを捕まえ、この街でその事件が起きないようにします。さらに、前々から提案されていた東方遠征、倭国への遠征を引き受けましょう」

 

 ──うん? リリィの仲間......? さらっと言ったけど、カルミアとか捕まってるのかしら?

 

「クロエ!? お、おぬし、この魔族のためにそこまですると申すか!?」

「はい。友の為に、最善を尽くしますわ。ねェ? お兄様ァ?」

「......はぁー。手伝うしかないか。後が怖いし......。王よ。私からもお願いします」

 

 妹に促され、ハクアも王に頭を下げる。

 

 王は頭を抱えるも、目は真っ直ぐと自分の息子達を見ていた。

 

「......よかろう。そこの魔族、リリィと......人間のナオミと言ったか。その二人を守り、監視し、何があってもそなた達が責任を負うと言うのなら、その提案を呑もう」

「流石お父様! 分かっていますわね!」

「......まぁ、お前、自分の思う通りにならないと怖いしな......」

「お兄様!」

「は、はい!」

「それに、リリィちゃんとナオミさん!」

「え、何かしら?」

 

 唐突に呼ばれたこともあり、少し驚きながらも返事をした。

 

「そうと決まれば! 早く捕まえましょう! あ、その前に家にいる妹さんや友達さんに会わないと心配されていますわね! ということで、まずはそっちに行きましょう!」

「え、あの、ちょっ!?」

「えっ? な、何これ?」

 

 突然、クロエに巻き付いている鎖とは別らしき鎖が三本、私とリリィ、そしてハクアの手に巻き付いた。

 その鎖は全て、クロエの指先から出ているようにも見える。

 

「落ち着け......。これはクロエの魔法だ。そうだ。お、落ち着くんあわわ」

「貴方の方が落ち着きなさいよ!」

「い、いや。こうされるとトラウマが......。いや、それよりもあいつ、無理に引っ張っていくからな。走らないと、手が取れるぜ」

「いや、それ怖すぎるんだけど!? と、止めてよ!」

「いや。俺にはどうすることも......」

「クロちゃん。姉様と私も分の鎖だけは解いてー。ちゃんと走るから大丈夫ー!

 あ、貴方のお兄さんのは別にそのままでもいいから」

「あ、分かりましたわ!」

 

 そう言うと同時に、巻き付いていたはずの鎖は消えていた。

 

 その代わりと言わんばかりに、ハクアの両手に一本ずつ鎖が巻かれていた。

 

「お前、俺に恨みでもあるのか!?」

「さぁて。お兄様! 行きましょうか!」

「せめて普通に運んでくれ!」

「......姉様。姉様はああいうの、好き?」

「ごめん。全然好きじゃないわ。......さぁ、早く家に戻って、エリー達に会いましょう」

 

 そう言うと、私達はクロエとハクアを連れ、家の方向へと向かって行った────




次回も1週間後かもしれませんが、気長に待って下されば有り難いです

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