人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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お久しぶりです。新しい章です。以上()


3章 「和国の遠征編」
24話 「遠征の話をするだけのお話」


 side Naomi Garcia

 

 ──未明 夢の中

 

 目が覚めると、真っ白な空を見上げていた。雲も太陽もない、真っ白な空を。

 

 だが、見覚えがある。そして、どうしてか、刺されたはずの腹の痛みが消えている。

 

「......あぁ、また......」

 ──あぁ、分かった。ここは夢の中か。

 

「起きた? お疲れ様ー。あ、痛みは消しといたよ。傷も多少はね」

 

 目の前には、鏡映したかのように、胸以外が自分にそっくりな女性が立っていた。

 

「リナね。ありがとう」

「どうして再確認したの? ま、いいけどー。それで、大丈夫?」

 

 何か心配なのか、リナは不安気に聞いてくる。

 

 もしかして、ジャクリーンのことなのだろうか。

 と、思い浮かべるも、どうして心配なのかは目覚めた直後だからか、全く分からなかった。

 

 いや、まだ夢の中だから目は覚めていないが。

 

「ジャクリーンは超能力者で、しかもあの性格だよ? リリィが二人に増えたくらいの苦労はかかりそうだよ? それでも大丈夫なの? まだどこに住むかも決まってないのに」

「あぁ、そういうこと。リリィは最近大人しいし、ジャクリーンもまだ子供だから世間知らずなだけで、これから色々教えていけば大丈夫よ」

「あはっ、やっぱり面白いねー。ナオミんってさ」

「ナオミんじゃなくてナオミよ。それで? いつ出してくれるの?」

「えっ?」

 

 質問の意味が分かっていないのか、それともわざとか、首を傾けてとぼけている。

 

「あはっ、冗談冗談。夢から覚めたいんでしょ?」

「やっぱり冗談なのね。そうよ。早く目を覚まさないと、心配されちゃうわ」

「うんうん。そうだよね。ま、私はちょっと話してみたいと思ったから、呼んだだけだし、すぐに目覚めさせてあげる。あ、目が覚めたらびっくりするかも?」

「何が?」

「......多分、予想はできるだろうからバイバーイ!」

 

 リナがそう言うと、辺りに眩い光が溢れ出す。

 

「え、ちょ、ちょっと──」

 

 私は為す術もなく、現世へと戻された。

 

 

 

「はっ!? ......夢か。って、夢だけど! あの人、どうして気になることを途中まで言って、そのまま元に戻すのかなっ!? あー、もういいや。......ここは?」

 

 次に目が覚めると、真っ先に夢の中とはまた別の白い天井が目に入った。

 そして、どこか知っているようなベッドの上だった。

 

 ──確か、昨日か今日か。寝ている間がどれくらいだったのか分からないが、それくらい前にも同じような部屋で寝ていた気がする。

 

 だが、その前とは、少し違っていた。

 

「あ、姉様。起きた? 大声出してたけど、大丈夫?」

「お姉ちゃん! 良かったぁ......。

 お姉ちゃん。腹を刺されて気絶したって、私、心配で心配で......」

 

 隣には、私の妹達が心配そうに、そして嬉しそうな顔をして私を見ている。

 

 少し離れた椅子には、リンと寝ているアナンタも居た。

 

 そして──

 

「お母さん。もう、大丈夫? 良かった。私嬉しい!」

 

 エリー達とは真反対の隣には、ジャクリーンが無邪気な笑顔を見せていた。

 

「ジャクリーン? 貴方、大丈夫なの? 私、あんな無責任なことを言ってたけど、王国軍に連れて行かれるんじゃないかと......」

「大丈夫っ! わたし、お母さんとずっと一緒に居ていいんだって!」

「えっ......?」

「うふふ。お母さん、変な顔」

 

 今の私の顔はどんな顔なのだろうか。

 驚いているのか、嬉しそうなのか、嫌そうなのか。どれにも取れるような声が出た気がした。

 

 実際、私もどれかは曖昧だ。ただ、絶対に嫌だとは思っていない。

 この娘を殺人鬼にさせないのなら、危ない目に遭わせないのなら、一緒に居てあげても、母親になってもいいとも思っているからだ。

 

「どうしたの? お母さん」

「お母さん連呼し過ぎ......」

「むぅ......リリィは、黙ってて!」

「無理ー。私は自由に生きてるからー」

 

 やはりリリィにとっては私に傷を負わせた犯人だからか、嫌っているような態度を見せていた。だが、あからさまな行動を取っている訳では無いので、リリィにとっては複雑な気持ちなのかもしれない。

 

 ──主に私のせいで。

 

「リリィ。ジャクリーンも。喧嘩はやめて、仲良くしなさい。それにしても、ジャクリーン。大丈夫なの?」

「え? 大丈夫?」

「ほ、ほら、一応、殺人犯として......」

「そのことなら大丈夫だぞ」

「え? あぁ、ハクアね」

 

 いつ入ったのか、音も立てず、出入り口の扉の前を開けてハクアが入っていた。

 

「この都市に子供を罰する法はない。罪を犯した場合、全て親が責任を取ることになっている。そして、子供の方は孤児院などの施設に入れられるのだが......。ジャクリーンから、お前がその娘の義母になる、と聞いたがいいのか?」

「えぇ、もちろんいいわよ。ジャクリーンの犯した罪も私が引き受けていいわ」

「いや、それはウォルターが義父の時の話だから、ウォルターが罪を償うことになる。あぁ、ウォルターは俺が捕まえておいた。もちろん、みんなの協力もあったがな。

 あ、それは置いといてだな。前にも言ったかもしれないが、魔族をここに住まわせるわけにはいかない......」

 

 確かに前に言っていた気がする。

 

 やはり、切り裂きジャックを捕まえるという条件は、魔族であるリリィを解放するだけであって、ここに住める訳ではなかった。

 

 ──しかしまぁ、最初からここに住むつもりはなかったけど。

 

「──が、だ。切り裂きジャック事件の主犯を捕まえる手伝いもしてくれたことだ。三日後に俺達が遠征する、和国という国のある地域に住めるように手配できないこともないぞ」

「え、ほ、本当に? あの和国に?」

 

 和国......創造主や双子神以外の神様が創ったとされる、神の住まう国。

 

 なんでも、六つの地方に別れており、その内の二つが戦争中とかなんとか。

 

「あぁ。もちろん、戦争をしておらず、魔族や人族の差別がない地方にな」

「そ、そこまで配慮してくれるのね。私は一度、和国に行ってみたいとは思ってたけど......。みんなは、どう思う? 和国に住みたいと思う?」

 

 一人一人の顔を見渡し、呟くような声で聞いてみる。

 

 平和とは言っても行ったことがない未知の国。本当に平和なのか、安全なのか。真実は行ってみないことには分からない。

 

「私はお姉ちゃんと一緒に、幸せに暮らせるならどこでもいいかなー。あ、もちろんアナちゃん達も一緒でね」

「姉様となら、どこでもいっしょがいい。私は、それだけ叶えばいいから......」

「妹様の命令とあらば、どこへでもついて行きます」

「わたしは、お母さんといっしょに居たい。ただ、それだけでいいの......」

 

 分かっていたこととは言え、やはりというか何というか。みんな、一緒に居てくれると分かって嬉しい気持ちでいっぱいになる。

 

 ──後は、アナンタだけだけど......。何か迷っているのかしら。難しい顔をしているわね。

 

「......わたしは、エリーと一緒が、いい。でも、ちょっとだけ、流国という場所に行ってみたい」

「流国か......。あそこは戦争には関わっていないが、危険だぞ?」

「りゅうこく? 和国にある場所? どうして危険なのー?」

「流国。別名龍の国とも呼ばれている。和国の一部であり、和国の西南に位置する島の名前だ。そこでは竜とは違う龍が住み、閉鎖的な地域だと聞いている」

 

 竜と言えば、エリーから聞いただけだが、アナンタも氷の竜。自分の出生を知りたいとか、そんな理由だろうか。

 

 ──そこまで親しくなく、下手に聞ける話とは思えないからエリーに任せるしかないけど。

 

「アナちゃんはそこに行きたいんだねー。私も行ってみたいなぁー」

「そんなチラチラ見ながら言われなくても、アナンタもエリーも行きたいんでしょ?

 なら行くに決まってるじゃないの」

「やったぁー!」

「全く。面倒事が好きな連中だな。......だがまぁ、事件を手伝ってくれた者達だ。和国までの道のりは護衛しよう。俺もクロエも、和国に用があるから、ついで、だけどな」

 

 ついでとは言え、神のハーフと言われる二人と一緒に行動できるのは頼もしい。

 和国までは船以外だと、必ず魔族領土を通るから尚更だ。

 

「ハクア、だっけ? 世話焼きだね。結構」

「こ、これは王の命令も含まれている。だからついでなのだ。別に世話焼きなどではない。

 そ、それよりもだ。お前達とおそらく一緒に居た魔族達を解放するとは言ったが......流石に他の連中にバレて、難しくなった」

「あぁ......カルミア達のことね。あの人らも災難ね。色々と。どうにかして助けれない?」

「それは大丈夫だ。手は打ってある。お前らと一緒に数日後の遠征で和国へと送ることにした。表向きは流刑だが、実際はお前達と一緒にさせて逃がす算段だ」

 

 かなり素早く手を回している辺り、流石としか言いようがない。

 

 ──それにしても、どうしてここまでしてくれるのかしら。事件を一つ手伝っただけなのに。なんにせよ、お礼だけでも言わないとね。

 

「......ありがとうね。ハクア」

「え、い、いやな......。別にいいってことよ。お、俺は仕事があるので戻る。お前達は傷を癒し、ここから出る支度をしていてくれ。出発日前日、家に訪れるとする」

「えぇ、分かったわ。それじゃあバイバイ」

 

 ハクアを見送ると、私は静かに横たわる。

 

 横で話す妹達としばらく話した後、再び目を閉じるのだった────


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