人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:rick@吸血鬼好き
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26話 「久しぶりに再開するだけのお話」

 side Naomi Garcia

 ──エルフの都市『エルロイド』への道 馬車内

 遠征初日。
 馬車の中で揺られながら、私達は和国を目的地として移動している。
 しかし、現在は真っ直ぐに和国を目指さず、今はエルフの都市『エルロイド』を目指していた。

「ねぇー。どうして真っ直ぐ行かないのー? 早くつかなーい?」

 長い時間、馬車の中で退屈そうにしていたリリィが突然口を開いた。
 寝ていたり疲れていたりと、誰も喋らないこの空間に嫌気がさしたのだろう。

「真っ直ぐ行くと魔族領土に入るからよ。入って見つかったら戦闘になっちゃうじゃない。この数で魔族領土を通るのは自殺行為なのよ」
「あ、なるほどねー。......え? なら、どうやって和国に行くの? 空でも飛んでいく?」
「空でも通る場所によれば撃墜されるわよ。今向かってるのはエルフの都市『エルロイド』っていう場所でね。そこは海に面しているの。まぁ、要するにそこまで行ってから船に乗り換えて、和国を目指すらしいわ」

 リリィと話しながら、改めて自分でも和国への道のりを整理していく。
 エルフの都市『エルロイド』まで約二日間、船で約二週間ほどかかるらしい。

 長い道のりだが、これも平和な日々を手にするためだと思えば短く感じる。
 ──ようやく、村で暮らしていたあの日々に戻れるのね......。

「さっすが姉様ー! はくしき? だねー」
「昨日、説明されてたのを覚えていただけよ。そう言えば、私とエリーは大丈夫だけど、船に弱い人とかいる?」
「船乗ったことないから分からないなぁ。リンは大丈夫よね? 人造人間(ホムンクルス)だし」
「はい。もちろん大丈夫です」
「アナちゃんとジャクリーンちゃんは大丈夫ー?」

 リリィが話している最中、私の向かい側の席に座っているエリーがアナンタ達に語りかけていた。
 リリィはジャクリーンに対して複雑な気持ちみたいだが、エリーは年下の友達、もしくは自分の妹のように接しているようだった。エリーの誰とでも友達になれる、優しくて素直な性格には危うさも感じていたが、この分なら大丈夫そうで心の中で密かに安心している。

「わたし、船乗ることない。海、凍らして歩いていく」
「す、凄い......。アナちゃん流石だね」
「わたしはお母さんと一緒なら大丈夫だよっ!」
「へ、へぇー。......お姉ちゃんって好かれやすいよね、お姉ちゃんを好きになる人に」

 エリーは自分にも、自分を好きになってくれる人が欲しいのか、羨ましそうな目を向けられる。

 ──そんな目で見なくっても......近くにいることにどうして気付かないのかしらね、この娘は。

「エリー。わたし、エリーのこと、好き」
「え? ......うんっ、ありがとうね。私もアナちゃんのこと好きだよー」
「そう、なの? ......ありがとう」

 妹達の和やかな会話を見ながら、私はふと別のことを考えていた。
 ──素で忘れていたけど、カルミア達って同じ馬車じゃなかったのね。

「姉様? 何か考え事?」
「いえ、大したことじゃないわよ。カルミア達ってどの馬車に乗ってるのか気になっただけだから」
「お姉ちゃん、大したことだよー? 私達を救ってくれたんだからー」
「......そうね。エリーを救ってくれた恩人に対して失礼だったわね。そう言えば、ハクアがそれについて何か言ってたような......」
「ふふん。姉様や私はその恩人を助けたんだけどね」

 得意気に話すリリィを他所に、ハクアの話を必死に思い出そうとする。

 ──夜になったら一度馬車を降りて休憩をする、とか話してて......。その時に会えるとか聞いたような、聞かなかったような......。

「......ここで考えても仕方ないし、夜になったら会えるとは言ってた気がするから、一度この話は置いておきましょうか。でね、少し話は変わるけど......ジャクリーン。貴方って戦えるのよね?」
「お母さんのためなら頑張れるよ!」

 ジャクリーンは無邪気な笑顔でそう話す。エリーやリリィのように何も知らない無邪気な笑顔。
 この笑顔を絶やしたくない。この笑顔を失いたくない。

 ──あいつとの約束もあるが、それ以前に、親として......絶対に。

「そう......。でもね、頑張らなくていいのよ。貴方は私の娘よ。だからね、約束して。貴方(子供)(母親)に守られて。何かあっても、戦って死ぬようなことはしないで。ごめんなさい。こんなの私のエゴね。でも、親よりも子が早く死ぬなんて......考えたくないから......。
 もちろん、エリー、リリィ。それにアナンタやリンさん。貴方達も、絶対に私より早く死なないで」
「いいけどぉ......わたしが死んだら、お母さんは悲しいの?」
「えぇ、当たり前じゃない」
「......うふふ。やったぁー。お母さん、大好きー」

 嬉しそうな笑みを浮かべながら、私の胸の中に飛び込んでくる。

 初めて会った時には思わなかったが、今は会えて本当に良かったと思っている。

「私、お姉ちゃんに死んで欲しくないからね?」
「えぇ、もちろん死ぬつもりは無いわよ。私も......できれば寿命をまっとうしたいわ」
「できればねぇ......。私、二回も姉様は失いたくないなぁ......。
 あ、姉様。私とも約束しよっか」

 何かを思い付いたかのように、リリィは手を私に向け、小指を出す。
 いつの間にか、私の方も反射的に小指を出していた。

「あ、()()知ってるんだね。なら話が早いや。じゃあ、悪魔()との約束ね」

 リリィは私の小指に自分の小指を無理矢理絡めると、無理矢理そう切り出した。

「え? まだ何も──」
「死に急がないでね、絶対に。指切りげんまん、もし破ったら、死ぬまで恨むから」
「ちょ、貴方(悪魔)との契約(約束)を無理矢理させるなんて......。
 それに、死んだら恨んでも意味無いわよ?」
「ま、無理矢理なんて契約じゃないし、簡単に破棄できるでしょうね。でも、意味あるよ。妹に恨まれて死にたくなかったら、死なないでね」

 リリィは凛々しく、真っ直ぐな瞳で私を見つめる。
 その言葉には強い信念、その類が込められている気がした。

「......えぇ、分かったわよ。死なないから安心して」
「......言わなくてもお分かりでしょうが、私も妹様と同じ意見ですので」
「わたしは、エリーが悲しむ姿見たくない。だから、ナオミが死ぬのは見たくない」
「......はぁー......優しすぎない? まぁ、別にいいけど......」

 恥ずかしさからか、表情を悟らせまいと、顔を下げる。

 頭を下げると、そこには私を抱きしめたまま、気持ち良さそうに眠るジャクリーンの姿があった。



 馬車に乗って数時間後。日が暮れ、月明かりだけが頼りの時間。
 私達はエルフの都市に近い平原の真ん中で一度馬車を降り、そこで夕食と睡眠を取ることになった。

「ここをキャンプ地とする!」
「食事中よ。リリィ、いきなり立ってどうしたの?」
「なんか言いたくなったのー」
「あぁ、お前達はこっちの馬車だったか」
「あら、ハクア。それにクロエも......」
「こんばんは、ですわ」

 何気ない会話をしながら夕食を食べていると、少し離れたキャンプ地からハクア達がやって来た。
 そして、ハクア達の後ろには──

「にゃぁ! エリーにその姉さん達! 久しぶりだにゃぁー。
 あ、でも何日(にゃんにち)か振りだからそこまでじゃにゃい?」
「レイラ! それにカルミアちゃんやアエロ姐さんもー!」
「だから、俺は男だって。......話は大体聞いたよ。まぁ、なんと言うか......ありがとうな」

 本人達を目の前にして、素で忘れていたことの罪悪感が少しだけ蘇る。
 だが、終わり良ければ全てよし、と自分に言い聞かせて罪悪感に耐えた。

「え、カルミア君が素直......。何か変な物でも食べたー?」
「失礼だな......。まぁ、こうして俺達魔族を自由にしてくれたことには感謝するよ」
「いやいやぁ。大体お姉ちゃんのお陰だからー。......あれ? 三人だけなの? それに、レイラって人族でしょ?」

 確かに、不思議と気付かなかったが、レイラは獣人。話を聞く限り、カルミアやアエロ姐さんと違って人族のはず。
 それなのに、どうして捕まっていたのだろうか。そして、他の人は......。

「あぁ、俺達だけだ。大体は人族だったから捕まらなかった。そして、和国ではなく他の場所に行きたいと言う人達もいてな。ちなみに、レイラは本来捕まることはなかったが、俺達が捕まる時に暴れたから捕まったらしい」
「そ、それは......仕方にゃいにゃ? にゃぁー?」

 レイラは顔を赤くして話を濁らす。
 ──仲間のために怒ることは、恥ずべき行動ではないと思うんだけど......。

「にゃぁにゃぁ言いすぎてもう何を言いたいのか......。でも、気持ちは分かるかなぁ。あれ、でも、捕まってた人達は逃がすのが難しいから、和国行き以外に道はないんじゃ......」
「あぁ、それは俺から説明しようか。確かに表向きには不可能だ。正式な手続きなども面倒だしな。しかし、裏向きなら幾らでも手はあった。もちろん、オススメはしなかったがな」

 ようやく話が分かってきた。
 一先ず、表向きで来ているカルミア達は大丈夫そうだと、心の中で安堵する。

「とりあえずにゃ。少なくとも和国までは同じ道。何かあったら頼ってにゃ?」
「うんっ! もちろん! レイラ。それにカルミア君とアエロ姐さんも。みんなで一緒に和国に行こうね!」

 それからも、エリーは数日ぶりに会った仲間と話を続けていた。

 そして、まだあんなことが起きるとは思っていなかった私達は、組み立て式のテントの中で、静かな眠りについた────