人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
今回からまた一週間に一度のペースを目指して頑張りたいと思います。
では、お暇な時にでも、ごゆっくりどぞー
side Naomi Garcia
──和国への航路 船上
和国へと向け船に乗り、かれこれ一週間経つ。
初めての船に戸惑ったり、船酔いしたりと、散々な目にあう超能力者の娘や竜っ娘がいたが、今では落ち着いてエリーとともにはしゃぎ回っている始末だ。
対してリリィはと言えば、毎日毎日同じ景色を見て飽きているのか、ほとんど用意された自室で過ごしていた。もちろん、私を連れて。
「あのさぁ......早く外に出なーい? アタシの魔法見るんじゃないのー?」
そして、船酔いする娘やアナンタの面倒を見ていたせいで、今日までシルフィードの魔法を見ることが叶わなかった。
今日こそはと思っていたものの、今はリリィに誘われて用意された自分の部屋に戻っていた。
そんな時に、見て驚いてもらうと息巻いていたシルフィードが痺れを切らして部屋まで入ってきていた。
「あぁ......ごめんなさいね。すぐに行こうと思っていたところよ」
「えぇー!? 私と遊ぼうよ〜」
「アタシの魔法見たいのよー、ナオミはー」
「むぅー......無理」
「え、な、何?」
リリィは私をそこから動かさない気でいるのか、私の右手を力強く掴んだ。
「これくらい......あら、動かないわね......」
リリィの思惑通り、人間の力では引き剥がすことも難しく、無理やり手を取ろうものなら手が抜けてしまう勢いで掴まれているので、私はそこから動けなくなってしまった。
「今日も姉様と一緒にいたい」
「またー!? わがまま過ぎでしょこの娘! ナオミも何とか言ってよ!」
「私が言って止まるなら苦労しないわよ......。それと、貴方も充分わがままよ......」
最近は毎日このやり取りをさせられる。いつもは最後にシルフィードが折れ、リリィが私を独占する。
という流れだったのだが、どうやら今日は違うらしい。
「今日こそアタシの力を認めさせるのよ! 無理やりにでも連れて行くわ!」
「別に認めてないわけじゃないし、認めてない、なんて言った覚えがないわよ」
「あ、あらそう? 当然っちゃ当然よね。
......じゃなくてね! 危うく乗せられるところだったわ!」
「充分乗せられてるわね。って、肩に乗らないでよ」
「あ、つい。ごめんねー」
居心地がいいからか、シルフィードはよく私の肩に乗る。小さいこともあり重くはないが、身体が小さい分代わりに声がデカくなっているのか、とてもうるさい。
「シルフィードは一人で魔法でも使って遊んでて。私は船無理だから、部屋でゆっくりしたいの」
「リリィは船が無理なの? というか一週間も一緒にいて初めて知ったわ」
「あれぇ? 言わなかった? もっと私のことを知って欲しいし、もっと私と一緒に居ようね、姉様」
「ちょっとアタシ蚊帳の外じゃな〜い? そろそろアタシの魔法見よ──」
「あぁー、もう! さっきからうるさい! 私と姉様の邪魔しないで!」
船が苦手なせいで機嫌でも悪いのか、とても冷めたい目で、きつい口調でシルフィードに言い放った。
「え、あ......はい。ごめんなさい......」
対してシルフィードはショックでしおらしくなり、うっすらと涙目になっていた。
「じゃあ、もう行くね......」
「シルフィード! ちょっと待って。
ねぇ、リリィ。流石にひどいわよ。この娘も貴方みたいに遊びたいだけなのよ。謝りなさい」
「うぅ......はい、姉様。......ごめんなさい。ねぇ、姉様。シルフィードの魔法見に行ってもいいよ......」
「べ、別にいいのよ。アタシの魔法なんて別に......」
「どうしてそんな子供みたく拗ねて......はぁー、いいわ。外に出るわよ。リリィ。貴方もね」
「え? 私も?」
「貴方も」
この二人を見ていると、呆れた、という感想しか出てこない。
独占欲が強かったり、自信が強かったり。どちらも我が強いタイプなのは分かるが、程々にしてほしい。
「ほら! 早く行くわよ! シルフィード、魔法見せたいんでしょう?
リリィは私と一緒に居たいのよね? なら貴方も来なさい」
「いいのね! やったわー!」
「シルフィードはともかく、姉様のテンションが珍しく高い......。分かったけど、姉様の引っ張る力弱いね」
「貴方の力が強いだけよ! さぁ、話してないで行くわよ」
気分転換も兼ねようと、私は二人を連れて外へと出た。
甲板へ行くと、すでにそこにはエリー達がいた。リンさんも最近はリリィの命令でエリーに付く形となっており、エリー達が遊んでいるすぐ近くで待機している。
私達はその近くの少し広い場所で魔法を行使することにした。
「ねぇ、やっぱり部屋に戻ろ? 海見える場所だとなんか気分が......」
「それ、戻るなら私も一緒なのでしょう?」
「うん。いい?」
「ダーメ。魔法を見るのに海が目に入るなら、こうしときなさい」
「え......?」
そう言うと、私はリリィを引き寄せ、腕の中に頭を納めるようにして抱きしめた。
「これはあれ? 貴方は私だけを見てなさい、っていう......」
「違うから。どうせなら、このまま寝てもいいわよ」
「......ふふん。それもいいかも。やっぱり、姉様が姉様になってくれて良かった。
姉様。誰にも渡さないから......」
「いい雰囲気だったのに言うことが重い。......って眠そうね」
抱きしめたついでに頭を撫でていると、気持ちいいのか腕の中で大人しくなっていった。
── 一層の事、このまま寝かせた方が楽かもしれない。
そう思い優しく抱き抱えながら、ゆっくりと頭を撫でる。
しばらく経つと、さっきまでとは別人のように、可愛らしい笑顔で寝息を立てるようになった。
「......ナオミー。もうやっていいー?」
「あ、いいわよ。お待たせしてごめんなさいね」
「別にいいって。それにしても......本当に仲良いのね」
「......そうね、私でも不思議に思ってるけど。......貴方って意外と気が弱いのねぇ」
「べ、別にあれはびっくりしただけだから! そんなことより、アタシの魔法にびっくりして大きな声出さないでよ?」
また怒られることを危惧しているのか、それともただ単にリリィが怖いのか注意を促された。
──そこまで悪い子じゃないのに......。
心の中でそう思いながら、シルフィードの魔法を見て今日も平和な一日を過ごした────
side Ren Ross
──どこかの海上
俺達が『魔の森』でリリィや人族を逃がしてしまったことを切っ掛けに、帝国の信用は下がってしまった。それでも、元からあった男爵の忠誠心や話術のお陰で俺達はギリギリの立場をキープしている。
逃がしたリリィ達のことは都市、主にリナのことを知っていた連中にとっては痛手だったらしく、他の捜索隊が探しているらしい。
そして、俺達は失った信用を取り戻すべく、和国へ協力を求めようとする人族の連中の情報を手に入れ、それを止めるべく和国近くの船上で見張りをしていた。
「レン。あまり思いつめるな。これはお前のせいではない」
そういう顔でもしていたのか、一人で甲板にいると男爵が近付いてきてそう話す。
確かに最近まで思い詰めてはいたが、今は吹っ切れているはず、と自分では思っていた。
「......思いつめてなんかないさ。ただ、見張りをしていただけだ」
「見張りならラナが居るだろう」
「それもそうだが......」
ラナ......本名はラナ・アラーシュ。俺と同じ人と吸血鬼のハーフ、ダンピールの女性。
前回の失敗を受け、帝国から援軍として派遣された内の一人。長距離特化型の凄腕らしい。が、昔から遠くで見たり話に聞くことはあっても、実際に近くで会って話すことは今まで一度も無かった。
「それに、近距離戦闘を得意とするお前が見張りをして何になる」
「......そうだな......」
悔しいが、何も言い返すことはできなかった。
俺はラナが居るであろう遠くの別の船を見やると、そのまま部屋へと戻っていく────