人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
閑話っぽい本編()
side Ellie Garcia
──オークの都市『ディース・パテル』 付近
「敵はいにゃいにゃ? 私達以外は......もう
レイラは、外に出たと同時に辺りを見回した。
そして、月明かりだけが頼りのこの夜の中、私達の前を走っている人でも見つけたのか、レイラはそう言った。
「こんな暗い中、見えるの?」
「私は獣人だからにゃ。暗視持ちだから見えるのにゃ」
あぁ、暗視があるから......。何も持ってない私は何も見えないなぁ。
魔法を使えば少し先は見えるだろうけど、それだと光で場所がなぁー。
「私も暗視ある。エリー、私の手を繋いで。転けないように見てあげる」
「ありがとうね、アナちゃん」
流石に、月も出てるからそこまで見えないわけじゃないんだけどね。
まぁ、アナちゃんのせっかくの好意を踏みにじるわけにもいかないからね。
「......にゃ?」
「ん? どうしたのー?」
「......少し離れたところで金属と金属が打つかる音が聞こえたにゃ。多分、戦闘音だにゃ」
え? ......耳を澄ましても、何も聞こえない。
こんなに静かな夜なんだし、そういう音があったら分かると思うんだけどなぁ。
「え? そんなの聞こえなかったよ?」
「私も、聞こえなかった」
「猫は人間よりも聴覚がいいからにゃ。多分、カトレア達が引き止めてくれてる音だと思うにゃ」
「今から行けば、助けれる?」
「......止めとけにゃ。いくらお前が強いと言っても、数で負けるにゃ。
ここは、大人しく逃げた方がお前達やカトレアのためににゃると思うにゃ」
レイラ......やっぱり、心配なのかな? 少し悲しそうな表情に見える気がする。
「さぁ、早く行くにゃ。心配しにゃくても、カトレアも、他のみんなも無事に決まってるにゃ!」
「......うん! そうだねっ! 早く森に行って、みんなを待った方がいいよねっ!」
「うん、分かった。でも、エリー。大声出すと、気付かれる」
「あ、そうだね。ごめんね」
きっと大丈夫だよね。カトレア君達も、こういう時のために準備はしてるだろうし......。
そう自分に言い聞かせ、私達は森へと急いだ──
──『魔の森』 入り口付近
「ここだにゃ。この森の奥に、
一日だけそこで
「......集まらなかった人達はどうするの?」
「......遅れてきた
やっぱり、そうなるよね......。
できれば、仲間を置いていきたくない。会ったことない人は多いけど、それでも元は同じように捕まっていた人も多いだろうし......。
「エリー、レイラ。仲間、置いていくの嫌?」
考えていたことが顔に出ていたのか、アナちゃんが私の顔を覗き込みながら、そう聞いてきた。
確かに、置いていくのは嫌だけど、今の私達にできることなんて何もないよね......。
「い、嫌だけど......」
「私も嫌にゃ。けど、今助けに行っても無駄死にするだけだからにゃ。今は他の仲間との合流を急ぐにゃ」
「......うん、分かった。急ぐ」
「うん、急ごっか」
それからは、私達は無言で歩を進めた──
──『魔の森』 中心付近の大きな小屋
「......ここだにゃ。人の気配はするから、先に何人か来ているみたいだにゃ。......一応、警戒しておくのにゃ」
「分かった。エリー、私の後ろに居て」
「うん。......あれだね。アナちゃんの方が年下だろうに......」
あれ、そう言えば歳を聞いていない気がする。
魔族とかって、見た目と本当の年齢は一致しないって言うし、後で聞いてみようかな。
今はとにかく、安全を確保しないとね。
「......誰か居るにゃ?」
レイラがゆっくりと、そして静かに扉を開け、警戒しながら声を出した。
「......レイラ? 良かった! あんたも無事だったんだね!」
「にゃ? あぁ、アエロ姐さにゃふ!?」
中から声が聞こえたと思ったら、扉が突然開かれ、鳥の翼と足を持つ女性らしき人がレイラに飛び付いた。
「き、急にはびっくりするにゃ!」
「いやー、ごめんな。あまりにも嬉しかっただけだ。ん、そこの娘達は? ......新入りかい?」
アエロ姐さんと呼ばれた人は、私達を哀れむような目で見て、そう言った。
まだ十代くらいの私達が捕まっていたことを思って、哀れんでいるのかな......?
アナちゃんやカトレア君、レイラと会えたし、別にそこまで酷い目にあってないから、私はいいんだけどなぁ。
「私、アナンタ。アナって呼んで」
「私はエリー・ガルシア。エリーって呼んでね」
「ふむふむ、アナにエリーだね。私はアエロ・オーキュペテー。
みんなからはアエロ姐さんって呼ばれてるが......まぁ、好きなように呼んでくれて構わないよ!」
アエロ姐さんは、私やレイラよりも背が高く、二十歳よりも少し年上に見える。
獣人、それも鳥人なのか、腕があるはずの部分は青い鳥の翼に置き換わっていて、下半身はほぼ鳥のような姿だった。
髪は短めで、ポニーテール。アナちゃんよりも濃い青色の目を持っている。
「うん、よろしくね。アエロ姐さん。アエロ姐さんは、レイラみたいな
「いんや、私はハーピーの方だな。よく間違われるけど、
ふーん、ハーピーなんだぁ......。ってことは、アエロ姐さんも魔族ってこと?
ハーピーは
まぁ、カトレア君も魔族だったし、同じ裏切り者ってことなんだろうけどね。
「アエロ姐さん、他の人達は?」
「ん、あぁ、ここに居るのは私を含めて十三人だけだな。他の奴らは......まだ来てないな」
「そっか......まぁ、すぐにでも来るに決まってるにゃ」
「あぁ、そうだね。私らは、一番ここに近い出口から来たしな。
あ、いつまでも外で話すのもあれだし、中に入るといいよ」
「あ、そうだにゃ」
中に入ると、玄関から入ってすぐは、大きめの広間となっていた。
そして、隅の方には、人間やエルフ、低身長のドワーフ達が寝転がっていたり、座って寝ていた。
全員、私達を見ることもなく、身体を休めていた。
「エリー、アナ。お前達も寝ていていいぞ。出発は明日になると思うからな。今は、身体を休めておくんだ。
あ、レイラは私と一緒に見張りな」
「にゃー!? ま、まぁいいにゃ。そういうわけだから、お前達は休んでていいにゃ」
「分かった。エリー、寝よう」
「うん、そうだね。......いやまぁ、来る前も寝てたからあまり眠たくないんだけどね」
とは言ったものの、眠気がすごい......。
長い間、走ってたせいなのかな? 私、あまり運動しないし。
「エリー、休息は大切」
「でも......いや、そうだね。今日はもう寝よっか。......そう言えばさ、アナちゃんって何歳なの?」
「六歳。だから、竜種としての力は弱い。レイラくらいで、ようやく半人前」
「へぇー、今よりも強くなるんだねー」
六歳でも、牢獄の壁を壊せるくらい強かったのに、まだまだ強くなるんだなぁ。
まぁ、それよりも、私よりも年下でよかったぁ......。年上だったら、これからどう接すればいいか分からないし......。
一つの疑問を解決できた私は、他の人達と同じように、隅の方でアナちゃんと一緒に丸まった。
そして、気付いた時には──
──夢の世界
「おはよう、エリーちゃん。私だよ!」
──夢の世界に居た。って、急すぎないかなっ!?
え、寝たら自動的に送られるようにでもなってるのっ!?
「いや、私が近くに居るせいだね。私が無理矢理引き込んでる。お陰で、マナ多いのに実体化できないというねー」
なにそれこわい。ん、あれ? 私、声出してなかったよね?
もしかして......。
「心の声が聞こえるんですかっ!?」
「まぁ、聞こえるよ。淑女の嗜みだからね」
「淑女が全員心の中聞こえたら怖いんですけどぉ!?」
「まぁ、冗談だから気にしないでね。これが夢の中だから聞こえるだけ。
それよりも、オーバーリアクションってよく言われない?」
オーバーリアクション? あまり言われないと思うけどなぁ。
「絶対よく言われてると思うんだけどなぁ。まぁ、それは置いとこうか。
今は、それよりも逃げることだからね。敵の様子は見てないから分からないけど、敵が来る可能性もある」
「うん。私達を追いかけて来るかもしれないよね......」
「......まぁ、それもある。と、そうだったそうだった。貴方、お姉さんに何か言っておきたいことはある?
多分、私が貴方と次に会うのは、貴方のお姉さんが来てからになると思うからね」
お姉ちゃんに言いたいこと......?
んー......やっぱり......。
「それじゃぁ、『お姉ちゃん、私は元気だから心配しないで。......私を助けに来ようなんて思わないで。
私は大丈夫。友達もできたし、すぐに逃げてお姉ちゃんに会いに行くから』って、言っておいて」
確か、リナさんは明日に出発するって言ってたし、できるなら、お姉ちゃんを危険な目に合わせたくない。
いやまぁ、それでもここに来るかもしれないけど......。お姉ちゃん、心配症だし......。
「ふむふむ。......よし、覚えたよ。大丈夫、ちゃんと伝えるからね」
「ありがとうございます、リナさん」
「別にいいのよ。......それじゃぁ、私は貴方のお姉さんのところに行ってくるね。
安心して、ゆっくり眠りなさいな。......私が教えた魔法が役に立つ時が来るかもしれないけど」
「え? それってどういう──」
私が聞こうとした瞬間、目の前が眩しく光った。
そして、再び気が付いた時には、寝る前に居た、大きな小屋に居た────
まだエリー編続きます。
同じくらいだし、多分、後一、二話かな