お前はまだきあいパンチを知らない   作:C-WEED

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どうも。
最近流行ってるって言うか、よく見かけるような気がしたので私も乗っかりたくなったんです。許してくださいきあいパンチしますから。

前回のあらすじ
いつからあらすじがあると錯覚していた?



何かの記念に作られた閑話
汚いゴキブリを拾ったので虐待することにした


 シンオウ地方を旅していた時のことだ。

 

 火山の麓を歩いていると、汚いゴキブリがひっくり返って地面にめり込んでいるのを見つけた。

 空に向けた四本の足を動かしてブレイクダンスでも踊っているつもりなのだろう。

 

 しかし、ゴキブリのブレイクダンスなど誰が見たいだろうか。

 

 ひっくり返して踊るのを止めさせた。

 

 すると、地面に足が着いた途端、ゴキブリは薄汚れた体で此方に突進を仕掛けてきた。

 

 人間に逆らうなんて生意気なゴキブリだ。立場を思い知らせてやろう。

 誰かに見られるのもよくないので拠点まで連れていく。

 逃げたり抵抗できないように宙に浮かせて運んだ。

 

 拠点に着いたら早速虐待を始めた。

 

 まずは全身に火傷しそうな程の熱湯を浴びせる。

 

 連れが止めてやれと言ってくるが手を緩めることはない。

 

 非常に硬質な繊維の塊で身体中をゴシゴシと擦ってやる。

 

 この時点でゴキブリはダウンしている。

 しかしまだまだこの程度では終わらない。

 

 だらしなく開いた口に、とても食べられるようには見えない刺々しい鉱物をぶちこんでやった。

 

 そして豪快に火炙りだ。汚物は消毒しなくては。

 ゴキブリを虐待している間、煽るように舞い踊っていた蝉と入れ代わりで出てきた軍鶏が更に煽るように舞う。

 

 盛り上がったところで炎を纏った突撃、ではなくきあいパンチ。

 

 衝撃で目を覚ましたゴキブリは何が何だかわかっていない様子だ。

 

 そろそろ仕上げだ。

 単純に殴るのも十分虐待と言えるだろう。しかし敢えて直接は殴らせない。ギリギリ当てない。それによっていつ殴られるのかわからないという単に殴るよりも長期的な恐怖を味わわせる。

 

 これでゴキブリも十分思い知った筈だ。

 

 また外に放り捨ててやる。

 

 だが、ただ捨てるのではない。

 

 最後に、羽も無いのに空を飛ばされる恐怖を味わわせてやった。

 

━━━━━

 

 アルセウスが宇宙を創造した時、ヒードランは洞窟を創造した。ディアルガが時間、パルキアが空間を司る神として知られているが、実はヒードランは洞窟の主である。

 季節を告げたり、雷を鳴らしたり、嵐を起こしたり時を越えたり、封印されていたり命を与えたりするポケモンがいる中、ヒードランは洞窟の壁や天井に張り付き、悠久の時を過ごしている。洞窟を産み、洞窟に生まれ、洞窟に生き、洞窟で生涯を終える。それがヒードランである。つまり、ヒードランとは洞窟であった。

 

 学者の間ではヒードランという名前は古代の言葉で洞窟を意味する言葉であるという説がある。「全ての洞窟はヒードランに通ず」そんな言葉もあるとかないとか。

 

 それはさておき、このハードマウンテンもまた、洞窟である。

 つまり、主たるヒードランもいる。のだが、どういうわけか、気が付いたらそこそこ重い石によって封印されてしまっていた。それは今から36万……いや、1万4000時間前のことだっただろうか。まあいい。

 しかし封印されていても、ヒードランは洞窟の中にいた。むしろ、封印されていない時よりも洞窟に近かった。故にヒードランはそれはそれで満足していた。

 

 しかし、その平穏は唐突に終わりを告げる。

 

「お、この石いいね」

 

「いいって……何に?」

 

「漬物石とか……」

 

「漬物なんて作らないでしょうに」

 

「じゃあほら、きあいパンチの訓練に」

 

「は?」

 

 ヒードランを封印していた石が何者かによって持ち去られてしまったのだ。

 

 しかし、ヒードランは自分が目覚めたことに気づいていない。何故なら、目覚めていようと目覚めてなかろうと、彼が洞窟の中にいることに変わりは無いからだ。

 

 ところで、洞窟とは即ちヒードランであるとしても、封印されていた以上、彼のことを知るポケモンは少ない。そもそもポケモンから崇められていた訳でもない。

 現ハードマウンテンの主がいる。ドサイドンである。サイドンにプロテクターを持たせ通信交換する、という非常に手間の掛かる進化をする。しかしこのドサイドン、生まれてこの方トレーナーに捕まったことはない。しかしドサイドンである。自然とは不思議なものだ。

 

 さてこのドサイドン、縄張りを見回った後は、ハードマウンテンの一番奥の小部屋で休憩するのが日課となっている。腰を下ろすのに丁度いい石があるのだ。

 正確には、あった。

 

 今日も今日とで見回りを終えたドサイドン。今日も縄張りに異常はない。いつもの小部屋に向かう。いつも腰掛ける石も良いが、あの小部屋そのものも気に入っていた。あの狭さがいいのだ。

 

 小部屋に入る。ドサイドンは後悔した。何が異常無しだろうか。大惨事だ。

 

 まず、石がない。これでは座れない。

 

 更に、石があった筈の場所に見慣れないポケモンが鎮座していた。なんだこれは。

 

 何が起こったのかよく分からないドサイドンは、初め、このポケモンは石が変身したものではないかと考えた。ので、ポケモンに座ってみた。当然、そんなことはなかった。あの石の座り心地ではない。尻を火傷した。

 

 次にドサイドンはこう考えた。

 このポケモンが石を何処かへ隠したのだ。ふてぇ野郎だ。ぶちかまさなければ。

 

 ドサイドンの手のひらには穴が開いている。岩石を放つ砲門だ。放つ岩石はどこから来るのか。当然、現地調達である。ガッッと割ってギュッッと詰めてバァーンだ。

 

 さて、御察し頂けただろう。ドサイドンはぶちかますために、十八番(BWまで)の岩石砲を選択したのだ。

 

 ガッッと割れなかったので掴み、ギュッッと入らなかったので吸引力で確りくっ付け、バァーン。

 

 憎きあのポケモンは飛んでいった。ドサイドンはホッと息をつく。

 

 あのポケモンをぶっ飛ばしたら石の在処がわからないということに気付いたのはこの翌日のことである。

 

 

 さて、ドサイドンによって飛ばされてしまったヒードラン。

 落下の衝撃で目が覚めると、そこは洞窟ではなかったのである。なんということだろう。いつもなら爪が掴んでいる筈の洞窟の壁がない。天井がない。今のヒードランに降り注ぐのは洞窟の埃ではなく、火山灰と日の光だ。

 

 何より、今のヒードランは逆さであった。落下の際、運悪くこうなってしまった。懸命に足を動かしてみるが背中が地面にフィットして動けない。ただただ足が空を切る時間が続いた。

 いよいよ途方にくれていた時である。

 

「モジャンボ、きあいパンチ」

 

 ドン、と衝撃を感じると、気が付けば体が宙に浮き、次の瞬間には普段通り、ヒードランの足は地面を掴んでいた。

 

 ヒードラン、歓喜。

 

 しかし、ヒードランは不器用だった。彼はこの気持ちを、感謝を伝える術を知らない。故に取った行動はシンプル。全力の五体投地。即ち、最敬礼。感謝のあまり、勢いよくその身を投げ出す。

 

 しかし、最敬礼ならず。

 

 ヒードランの体は宙に浮いていた。

 

「ありがとうフーディン。ついでにそのまま運んでくれ」

 

 フーディンは頷いた。

 フーディンは知能指数5000だ。トレーナーのピンチを察して勝手にサイコキネシスしたのだ。知能指数5000であればその程度、見てから余裕で対応できる。

 

 さて、運ばれるヒードラン。足どころか爪一本も動かせない。恐るべしサイコキネシス。

 だがヒードランは困ったとは考えない。彼の脳内にあるのは洞窟のことばかり。最終的に洞窟に帰れるのならばどこに行こうと気にしないのだ。

 

 洞窟のことを思ってボーッとしていると、不意に、地面に足が着いた。何処かに着いたのだ。当然見知らぬ場所。しかし、入り口があってそこから中に入るということは洞窟に同じである。つまり、ここもまた洞窟なのだ。

 

「汚れてるからね。仕方無いね」

 

「何言ってんの……?」

 

 見知らぬ、とは言え洞窟であることにリラックスするヒードラン。しかし安息は一瞬で終わる。

 

「エンペルト、ねっとう」

 

「あんたねェ!!」

 

 熱い。いや、そこは別に問題ではない。寧ろ熱い分まだましだが、要は水だ。

 ヒードランは水が苦手だった。熱湯であっても浴びせられるのはしんどかった。それも全身だ。ヒードランが意識を失うのにそう時間はかからなかった。

 

 

「いや、ほら塊あるから、ね?」

 

「そういう問題じゃ……」

 

 口の中に何かが放り込まれ、ヒードランは反射的にそれを飲み込んだ。

 

 

「テッカニン、バトンタッチ。で、バシャーモは更に剣の舞」

 

 何かを飲み込んで、少しだけ意識が浮上してくる。薄い意識の中で何かがせわしなく動き回る振動が伝わってきていた。

 

「よし、バシャーモ、フレアドラ……きあいパンチ」

 

 そしてヒードランを襲う炎熱と衝撃。しかしこれらはヒードランの体力を削るものではなく、ヒードランの体を温め、気付けをするものだった。

 

 燃える。体が内側から燃え上がるようだ。ただの貰い火の効果なのだがヒードランはその辺りには無頓着である。

 しかしこの燃えるような感覚が目の前の男とポケモン達によって与えられたということはわかる。とは言えどうしていいかもわからない。この沸き上がるパワーを持て余し、戸惑っていた。

 

「折角だし強くして帰さないとね」

 

「何を」

 

「きあいパンチ」

 

「ちょっ」

 

 またしてもフーディンであった。念のため言うなら無作為抽出だった。にもかかわらず、またしてもフーディンであった。

 知能指数5000なら確率を操作するのも造作もない、ということだけ付け加えておく。

 

「御手柔らかにな」

 

 さて、きあいパンチのデパートことフーディンである。今回のきあいパンチは、なんと、当てない。ケーシィの時のそれと同じでありながら少し違うきあいパンチ。今回フーディンが放つきあいパンチは、確り拳を振るった上で、当てない。そして拳からきあいが放たれる。

 例えば拳を寸止めにしたらぶつからないので痛くは無いけど風を感じる。つまりそう言うことだ。

 

 繰り返しフーディンが放つきあいを浴び、ヒードランはますます戸惑っていた。こんな動きは見たことがない。そして戸惑いながらも、高まるものを感じていた。拳を向けられれば向けられる程、自分の中にエネルギーが満ちていくのがわかる。

 洞窟程では無いが、とても心地好い。これならばいくらでも受けていられる。

 

 そう思っていたが、これまた唐突に、終わりを告げる。

 

 

「よし、もう十分だろう」

 

「何が?」

 

「何があってああなってたのか、俺には全くわからない」

 

「私もあんたが何言ってるのかわかんない」

 

「まあ、あれだ……止まるんじゃねぇぞ」

 

 男が天を指差す。それが合図だったのかはわからない。

 拳がヒードランを打ち上げた。

 

 ヒードランは空を飛んだ。

 

 なお、天井をぶち抜いて飛ばしたため、このあと滅茶苦茶セッキョウされた。

 

 

 一方のヒードランは二度目の飛行に目を輝かせていた。洞窟の外もそう悪くはない。そう思えるほどに。この重い体でも空を飛べる。これを知れただけでも今日は大収穫だ。

 

 徐々に高度が下がる。このまま行けばハードマウンテンの中腹に着地することになるだろう。

 そしてヒードランは見つける。かのドサイドンの姿を。自分を飛ばした元凶を。

 恨みはない。怒りもない。ヒードランの心は静かなものであった。だがしかし、一方で、今がその時だと心の中で囁くものを感じてもいる。その時がどの時なのかはヒードランもわからない。わからないが、委ねるのも悪くないと思った。

 ヒードランは囁きに身を任せる。彼の体は自然と頭を前に出し、全身から脱力した。

 あるものはただ落ちているだけだと言うだろう。見る人が見ればすごいアイアンヘッドだと言うだろう。きあいパンチ野郎ならこう言うだろう。これもまたきあいパンチであると。

 

 つまり、囁くものとはきあい。囁きに身を任せるということは、即ち、きあいパンチであった。

 

 

 ドサイドンはと言えば、ヒードランをぶっ飛ばした後、このままでは石を見つけられないことに気付き、ヒードランを探していたのである。まさか上から来るとは思わない。

 

 取り巻きがギリギリで「上から来るぞ、気を付けろ!」と伝えた所で間に合う筈もない。そもそもきあいパンチの前に生半可な防御など無意味である。

 

 激突。辺りに響く轟音。真新しいクレーターがその威力を物語っていた。

 

 ドサイドンはなす術もなく崩れ落ちた。

 

 自分を洞窟から追い出した元凶を打ち倒したヒードラン。今倒したドサイドンはハードマウンテンの主であった。ということは、この瞬間、名実共にヒードランがこのハードマウンテンの主となったのである。

 

 ヒードラン勝利の咆哮。

 

 そしてヒードランは山を降りる。

 洞窟に生まれ、洞窟に生きるヒードラン。そんなヒードランが山を降りる。おかしいと思われるだろうか。だがそんなことはないのだ。

 

 彼は出会ったのだ。新たなきあい(どうくつ)に。より新鮮で、より心地好く、終わりのないきあい(どうくつ)に。

 

 そしてヒードランは跳んだ。きあいパンチはコイキングですら有人飛行を可能にする。ヒードランもまた、跳んだ。

 

 きあいパンチを通じて、ゴキブリ(ヒードラン)跳べるよう(バッタ)になったのだ。

 

 体内のきあいの導きに従って繰り返し跳ぶ。そして、見つけた。あの男だ。

 

 さあ、あの男にきあい(かんしゃ)を伝えよう。再び、跳躍。そして、空中で感謝の五体投地。

 ある人はやはり落ちているだけだと言うだろう。トレーナーが見れば意識の高いヘビーボンバーだと言うだろう。ルチャブルが見れば「バーカ!」と言うだろう。つまり、これもまた、きあいパンチであった。

 

 

 尚、この日謎の飛行物体が確認され、目撃者の間で「鳥ポケモンだ」とか「すばやいエモンガだ」とか「メタグロスだ」とか意見がわかれている。

 

━━━━━

 

 虐待から暫くして、道を歩いていると、空からゴキブリが降ってきた。

 あのゴキブリだ。

 上から来るぞ、気を付けろ! と言う警告すらもないまま潰された。大方、あの虐待への復讐だろう。

 

 腹立たしいことだ。空から降ってくるのは女の子、という幻想も打ち砕いてくれたので余計に許せない。

 

 

 なので二度と逆らえないように紅白の玉に閉じ込めてやった。




読んで頂きありがとうございました。
楽しんで頂けたなら幸いです。

ポケモン原作でこんな話投稿してるのは私だけ(自信過剰)

強いて言えばUA10万突破記念ですかね。ホンダムは何もやってないだろって? 何かタイミング逃しちゃって……。許してくださいきあいパンチ(ry

何かの記念に作られた閑話のルビはプレミアショートです。自分でつけといてなんですが、プレミアショートって何かケーキみたいですよね。

本編も書いてるのでどうかご容赦を。書いてるとか言いつつ次の投稿がクリスマスとかになったらどうしよう……。

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