ワカシャモ「ケッキングには勝てなかったよ……」
フーディン「頭を使うんだよ(物理)」
ケッキング「もう何も怖くない」
おおよそそんな感じ
○月◆日 曇り
ハルカちゃん敗北。なかなか惜しかった。まぁ、次があるさ。
俺は勝った。
ケッキングパパまじジムリーダーの鑑。俺がヤルキモノに話してる間ちゃんと待っててくれたんだぜ? いい男だ。
今回バトルで使ったのはフーディンとヤルキモノ。フーディンは開幕フラフラダンス食らって、混乱しながらセンリさんのポケモンを倒した。うーん、新しいきあいパンチの模索……だよな? それと混乱が重なって、あんな、俺でも流石にどうかしてると思っちゃう感じになったのかね?
ヤルキモノはケッキングになった。やったぜ。
ローブシン並みのきあいパンチを撃てるようになったぜ。やったぜ。
そう言えば最近、ハルカちゃんが俺に冷たい……というか、厳しい、が近いのかな?
別に何も邪魔とか嫌がらせとかはしてこないんだけど。なんかちょいちょい俺に敵対的というか、センリさんとのバトルの時とかとうとうセンリさん応援してたし。
いやまぁ父親応援するのはなんらおかしいことではないんだけど。
僕達仲良しです!
今度誰かに自己紹介するときがあったらそう宣言してみよう。たぶんちょっと嫌そうな顔するんだろうな。
俺何かしたっけなぁ……?
きあいパンチ教えようとしたら断られた。
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「落ち込んでるかと思ったけど、大丈夫そうだね」
「うん、もう平気。それよりも、早く強くならないと!」
バトル以外では、レン君は基本的にいい人だ。やっぱりどこか常識を捨ててる節があるけど。
「ところで、きあいパンチなんてどう?」
「は?」
今なんて? 何も聞こえなかった。
「だから、センリさんに勝つために、きあいパンチを覚えさせてみないかって」
「ん?」
聞こえてしまったけど、ちょっとよくわからない。きあいパンチを、なんて?
「いや、無理にとは言わないけどさ。何て言うか、あと一歩届かないって感じに見えたからさ。新しい技でも覚えさせたらどうかなー、と」
「それで、きあいパンチ?」
「うん。タイプ的にも弱点つけるよ?」
「うーん、今はいいかなぁ……やっぱり、自分達の力で勝ちたいし」
本音を言えば、非常識に足を踏み入れたくない。私のワカシャモがよくわからないきあいパンチ(仮)を撃つなんて……悪夢よ。パパに負けるより辛い。
でも、新しい技、か。格闘タイプの技、何か無いかな……? きあいパンチ以外で。
2日後、色々試したけど、結局、新しい何かを見つけられないままパパとの再戦に臨むことになった。
「手加減はできないが……お前の成長、見せてもらうぞ!」
「今度は負けないよ!」
パパはパッチールを繰り出した。私は……キノガッサを
……ってあれ?
「シャモ!」
ワカシャモが勝手に出てきちゃった。
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ワカシャモは悔やんでいた。
ハルカの期待に答えられなかった。ハルカの手持ちの中で一番の古株である自分は、エースなのだ。エースである以上、負けは許されない。逆境を覆せるからこそエース。ここぞという時に任せられるからこそエース。
自分がエースであるという自覚を持つワカシャモにとって今回の敗北はそれほどまでに屈辱的なものだった。
何故負けた? 相手が強かったから?
否、自分の力が足りなかったのだ。
夜中、こっそりとモンスターボールを抜け出し、木に向かって蹴りを放つ。
現状のメインウエポン、にどげり。
しかし、この技で倒しきれなかったからこそ、今の状況がある。これで、いいのか? この技で、いいのか?
ワカシャモは迷う。
この迷いを振り払うように、何度も何度も蹴りを放つ。しかし、迷いは、不安は、拭いきれない。
そしてそんなワカシャモに近づく者が一人。
「勝ちたいか?」
その人物は、きあいパンチ野郎であった。友人であるとは言え、ハルカはこの少年に複雑な思いを抱いている。故に、ワカシャモもまた、何とも言えない気持ちになった。
だが、その問いには頷いた。
「ハルカちゃんはああ言っていたけど、お前自身はどうだ? きあいパンチ、興味無いか?」
ワカシャモは再び迷う。
ワカシャモ自身は直接対峙したことはない。しかし、その威力は、脅威は、何となく伝わっている。
格闘タイプ最強の技、きあいパンチ。この技があれば、勝利を以て汚名を雪ぐことができよう。
しかし、ハルカは断った。自分達の力で勝つのだ、と。
ワカシャモは首を横に振った。
「そうか……」
お前に用は無いと言うように、レンに背を向け、再び木を蹴る。
「一つだけアドバイスしといてやる……」
再戦の時。汚名を注ぐ時。
他のポケモンに任せてなどいられない。自分が、勝つのだ。
「交代するか?」
「……自分から出てきたってことは、戦いたいんだよね。交代はしないわ」
「そうか、なら、行け! パッチール!」
相手のポケモンが出てきたのを確認したワカシャモは、ハルカの指示を待つことなく走り出す。
「えっ、ワカシャモ!?」
ハルカが困惑した声を上げる。だがワカシャモは足を止めない。
「サイケ光線!」
「かわして!」
サイケ光線の軌道は直線的だ。かわすことは難しくない。
サイケ光線を避けつつワカシャモはさらにパッチールへと近づく。
「にどげりよ!」
改めて言われるまでもない。
ワカシャモは、自身のにどげりを以て勝負を制することを心に決めていた。
十分に接近し蹴りのモーションに入る時、ワカシャモはレンの言葉を思い出していた。
「お前の使える格闘タイプの技、にどげりは文字通り二回相手を蹴る技だ。一回蹴るより二回蹴る方がそりゃ威力高いような気がするよな」
「でもな、違うんだよ。にどげりよりも威力の高い単発の蹴りはいくらでも存在する。……何故だと思う?」
「昔話で言ってたが、初心者は矢を二本持っちゃいけないんだと。二本あったら、一本目を外しても二本目があるから大丈夫だって考えて、一本目の矢を疎かにしちまうからだと」
「ああ、お前を初心者って言ってるわけじゃない。むしろ初心者じゃないだろうからこそ聞くんだが、お前はちゃんと、蹴りの一発一発を、特に、にどげりの一発目の蹴りを、大事にしてるか?」
いつもより深く踏み込み、いつもより強く地面を蹴り、いつもより鋭く、蹴りを放つ。
二発目など考えない。ただ一撃、この一蹴りで仕留める。ただその一心で放つ渾身の蹴り。
それを急所に受けてしまったパッチールは一瞬で崩れ落ちた。
「あ、えっと……すごいよワカシャモ!」
「……まだ甘いな」
ハルカの引き気味の賞賛は勿論、レンの小声での呟きもワカシャモの耳には届いていた。
まだ甘いなどと、そんなことはわかっている。
もっと素早く、もっと鋭く、もっと華麗に、ハルカが引くことすら忘れるような、そんな蹴りにしなければ。
パッチールでウォーミングアップは済んだ。次はヤルキモノ。憎きケッキングの進化前。リハーサルにはちょうどいい。
「ヤルキモノ、きりさく攻撃だ!」
今度は相手も近接攻撃。
「かわしてにどげり!」
回避する指示が出る。しかし、ワカシャモは動かない。
こちらの攻撃も近接、相手も近接。こちらが動かないなら相手が近づいてくる。近づいて来たなら、避けるまでもない。
相手より先に攻撃し、相手を戦闘不能にすれば良いのだ。
ヤルキモノが腕を振り上げる。
ここだ。
懐に飛び込み。その勢いのまま、がら空きの鳩尾を蹴る。飛ばされるヤルキモノ。
今のはそれなりに手応えがあった。
だが、ヤルキモノは起き上がってきた。ワカシャモ、驚愕。
「今度こそ当てるぞ、きりさく攻撃だ!」
「ワカシャモ!」
放心している暇はない。奴は倒れなかった。戦闘はまだ終わっていない。
しかし、ヤルキモノとてジムリーダーのポケモンである。その隙を逃す程甘くはない。
反応が遅れたワカシャモは爪による一撃をもらってしまった。
無様だ。自分はとことん、甘い。何がにどげりだ。何が一撃で決めるだ。結果はこの様。相手は倒せず、自分は攻撃を受けた。
しかも、しかもだ。一撃で決めることに集中し過ぎてにどげりであることを忘れてしまった。二回目の蹴りを入れていない。
この体たらくでどうして汚名返上などできようか。情けない自分に対して怒りが沸いてくる。
体が熱い。もしや猛火が発動してしまったのか? ますます情けない。ただの一撃で大ダメージを受けてしまったことになる。
体が熱い。この怒りをどう沈めよう。……いや、沈める必要などない。ぶつけてしまえばいいのだ。
気が付くと、視界が高くなっていた。一歩踏み出す。歩幅が広い。これはどうしたことだ?
「ワカシャモ、あなた……進化したのね」
ハルカの声を聞いて、自らの体を見る。成る程、確かに今までとは違う。力も、増したようだ。
これならば……いや、過信してはならない。もう繰り返すものか。慢心は捨てよう。
そして繰り出されるワカシャモ、否、バシャーモの蹴り。
その蹴りは、炎を纏っていた。
「ブレイズキックか」
「ブレイズキック?」
「今バシャーモが出した技だよ。その名の通り、炎を纏った蹴りさ」
脇からレンの解説が入る。
「この土壇場で進化か。うん、いいぞ、その調子だ。トレーナーとポケモンは常に、成長し続けることができるんだ」
ヤルキモノが倒れ、次に出てきたのはマッスグマ。
「腹太鼓!」
「ブレイズキック!」
進化したからか、頭が冴えてきた。
ああ、認めよう。自分は未熟だ。下手くそだ。にどげりなんて技もまともに使えない。
だが、蹴るしかないのだ。
戦わなければ、蹴ることをしなければ、勝つことなどできないのだ。
「逆に考えるんだ。蹴れば勝てるぞ」
そう言えばそんなことも言われていた気がする。
……やはり、蹴るしかない。
跳躍、そして空中で回転、狙うはマッスグマの脳天。
回転によって威力を増した炎の踵落としが炸裂する。
「今のカッコいいな」
レンの呟き。
「カッコいいよ! バシャーモ!」
ハルカの賞賛。
だが、まだ足りない。自分が自分を認められない。
「頼むぞ、ケッキング!」
こいつを越えなければ。
━━━━━
「カッコいいよ! バシャーモ!」
いきなり出てきたり、一撃で倒したり、いきなり進化したり、一撃で倒したり、今日のワカシャモ、じゃなくてバシャーモは何処かおかしかった。
でも、バシャーモがすごく頑張ってるのはよくわかる。
あと一体。ケッキングを倒せば私達の勝ち。
きっとバシャーモはケッキングを倒したくて、その一心で燃えてるんだよね。
「頼むぞ、ケッキング!」
やっぱり、あのケッキングは強そう。違うわね、間違いなく強い。だけど、バシャーモなら、きっと越えられる。
「あなたの力、見せてあげて! ブレイズキック!」
走るバシャーモ。そしてケッキングに向けて足を振るう。足は炎を纏っていない。
……ん?
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あの日砕かれた誇りを、取り戻す。
自分の蹴りでこいつを倒す。
ブレイズキックでは駄目なのだ。新しい技では、駄目なのだ。
自分は、にどげりを使って敗れた。
であれば、にどげりを以て勝たなければならない。
執念も自信も、蹴りを放つ時に意味はない。そんなものがあっては蹴りに揺らぎが出る。だからこそヤルキモノを仕留めきれなかった。
無心でただ蹴る。筋肉を、膝を、骨を、自らの全てを蹴りの為に使う。
まず一撃。良い当たり……いや、自己評価など無意味。結果が全てを物語る。
良い当たりだったと、ここで油断したからこそ反撃を受けた。
蹴ったのだから当たるのは当たり前。そこに良いも悪いもない。
バシャーモは学習している。故にバシャーモは油断しない。この技はにどげりなのだ。ここで止めてはただの蹴り。
故に、
バシャーモは二度蹴る。
━━━━━
△月○日 晴れ
ハルカちゃん大勝利。
いやまぁ、より正確に言えばハルカちゃんと言うよりはバシャーモなんだけど。
アドバイスが役に立っていた……いたよね? 役に立っていたようで良かった。
最後のバシャーモはすごく決まっていた。
シャモは二度蹴る、なんてね。
ハルカちゃんは指示をスルーされる形になって複雑な顔してた。
でもにどげりで負けたんだからにどげりで勝ちたいよね。
そこら辺の男のロマン的なのをわかってあげられるようになったら、バシャーモともっと仲良くなれるんじゃないかな。まあ知らんけど。
さて、次はヒワマキシティ、いよいよ水タイプのポケモンが欲しい今日この頃。
トウカシティにある池と言うか沼と言うか水溜まりというか、まぁそんな感じの所で水ポケモンの捕獲を試みた。釣り竿を持ってなかったので適当に枝折って釣り竿にした。コイキングの引きにすら耐えられなかった(枝が)。
釣り竿ってどこで貰えるんだったっけ。
面倒だったのできあいパンチ漁をした。簡単にやり方を記しておく。
きあいパンチで水面殴る→水ザバァ! →ポケモン打ち上げられる→速やかに捕まえて残りは水の中へ
ヘイガニとコイキングを捕まえた。
良い子は真似しないように。ハルカちゃんにはドン引きされた。
そもそもハルカちゃんが釣り竿貸してくれれば良かったのにというのは言わないでおいた。
読んで頂きありがとうございました。
ここまできあいパンチ使ってないのは今作初ですよ笑
次回予告
雨。いつもなら嫌な気分になるけど、今は違う。だって私の隣には彼がいるんだもん♪などという、青春的な雰囲気皆無な強行軍で疲労が溜まるハルカとレン。帰りたいとぼやきつつアクア団を相手にするハルカと、川を渡ろうとするレンとの間に再び溝が(そもそも一度も埋まっていない)
次回 お前だパンチ 第10話
水着も、ラッキースケベも、無いんだよ
明日の自分に、きあいパンチ!
今回の予告は割とまともかもしれない。感覚が麻痺してきたんでしょうね。まあでも、信じちゃだめですよ。