お前はまだきあいパンチを知らない   作:C-WEED

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体調崩してたんですよ。許してください。

前回のあらすじ
オリ主「きあいパンチは雲を貫く」

オリ主「見えなくても当たる。それがきあいパンチ」
ハルカ「きあいパンチ無しで」

オリ主「きあいパンチはダメ……きあいパンチはダメ……」
マタドガス「俺がきあいパンチになることだ」
フーディン「きあいパンチしろってことだな!」

ナギ「貴様に神を見せてやろう」
オオスバメ「命を燃やせぇー!」

そんな感じ


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「おい、何だアイツ!?」

 

「こっち来てるぞ!」

 

「何で笑ってるんだ!?」

 

「くそっ……逃げろ!!」

 

 こっちは逆立ちしてるだけなんだが。いい大人がそれにここまで大袈裟に反応して、逃げ惑ってんだから、笑うしかないよ。

 

 

「バカかお前ら! 侵入者だぞ! 捕まえろよ!」

 

「だったらお前も逃げてんじゃねぇよ!」

 

 

「……ホラー映画でも見てるような気分だぜ」

 

「ブー」

 

 バネブーが同意するように鳴く。出した覚えはない。何で出てきたんだよ。せめて俺の頭から退いてくれよ。バネの音がうるさいんだよ。

 ……ポケナビが鳴ってるな。

 

「バネブー、取ってくれ」

 

「ブー」

 

 

「ありがと。……もしもし、レンです。あ、ハルカちゃん、どうしたの?……潜水艇が? うん、そうか、頑張って」

 

「俺? 今、アジトっぽいの見つけて入った所だよ」

 

「……あー、まあ、そうなんだけどさ、思ってたより問題ないよ。逃げてったし」

 

「うん、マグマ団の人が」

 

「え、そりゃあ、仕方無いでしょ」

 

「だって俺、逆立ちだぜ?」

 

━━━━━

 

 △月◆日 雨とか色々

 

 逆立ちの休憩がてら書いている。

 ヒワマキシティを出てミナモシティに向かっていた俺(逆立ち)とハルカちゃんだったが途中で、送り火山に向かうアクア団の連中を見てしまい、「放っておくわけにも……」というハルカちゃんの意見に従い、送り火山に向かうことになった。

 

 頂上に行くと、案の定例の玉がパクられる所だった。アクア団だけじゃなく。マグマ団も玉持ってったってんだから大惨事よ。

 これまた放っておくわけにもということで手分けすることに。ハルカちゃんはアクア団が向かうって言ってたカイナシティへ。俺はマグマ団のアジトを探すところから。勿論逆立ちしながら。

 場所を知らなかったら辛かっただろうね。やっぱり知識って大事。

 岩の前に居たしたっぱは逆立ちした俺の姿を見て逃げた。失礼な話だよな。

 

 

 先程の連絡によると、カイナシティで潜水艇がパクられたそうなので、ハルカちゃんはミナモシティのアジトへ行ってみるそうだ。

 

 一方その頃、俺は逆立ちをしている。……この字面のシュールさよ。

 

 マグマ団のアジトは火山にあることもあってか、床と言うか、地面が熱い。空調は効いているものの、地面には誰も気を配っていないらしい。彼らの装備が長靴だからかな。結構性能いいんだろう。

 

 そんなこともあって、俺も手に靴を履いて? 移動している。素手よりは遥かに快適だ。

 

 長時間の逆立ちは体によろしくない。しかしかといってちょくちょく休憩してられるかと言ったらそんなこともない。体調管理要員としてフーディンが基本的に俺の後ろに佇んでいる。血管とかそういうのをどうのこうの。サイコパワーって便利だな。

 

 同じサイコパワーでもスリーパーが背後に立っていると事案である。でもフーディンだとそうでもない。知能指数5000って偉大だ。

 

 バネブーは何がしたいのかよく分からない。俺の頭の上で跳ねている。

 

━━━━━

 

「ウヒ……何だ、お前」

 

 何で真顔になるんだよ。ウヒョヒョって言わねぇのかよ。そんなに逆立ちしてるのがおかしいか。

 

「なるほど、したっぱどもが慌ててたのは、お前が原因だな?」

 

「俺は何もしていませんよ」

 

 そう、逆立ち以外はね。

 

「……まあいい。ここは通さねぇ」

 

 以下きあいパンチ。

 

「ウヒョヒョ……こんな変なのに負けるってのは、複雑だぜ」

 

「あなたの笑い声、被ってますよ」

 

「ウヒョ? なんの事だ?」

 

 

 

 さて歩くこと……どのくらいだっけ? どうでもいいか。

 グラードンのいそうなエリアに来た。

 何故わかるのかって? そりゃあ俺が空気を読める男だからさ。なんかほら、気温高いし。

 

 

 おっ、やってるね。

 

「マグマに眠るグラードンよ……何をしても目覚めなかったお前が求めていたのは藍色の玉……そうなんだろう?」

 

 藍色の玉を片手に一人でポケモンに語りかけているオジサマを影から見守る逆立ちの少年……絵になるね!

 

「さあ、ここにもってきてやったぞ! この輝きで目を覚まし、お前の力を私に見せるのだ!」

 

 オジサマことリーダーマツブサが藍色の玉を掲げた。玉が光を放つ。

 光を浴びたグラードンは目を覚まし、一声吠えると、再び目を閉じ、マグマの中に沈んで行った。……飛んでいくわけじゃないのか……。

 

「……グラードン! 一体、どうしたと言うんだ!? 藍色の玉ではダメだと言うのか? どこへ消えてしまったんだ」

 

 さて、出ていくタイミングだろう。

 

「お前か! あっちでもこっちでも……」

 

 何だ、言葉の途中で黙っちゃって。

 

「誰だお前は!」

 

「通りすがりのきあいパンチ親父だ!」

 

 すり替えたりはしていない。だって俺は地獄からの使者じゃないからね。

 

「何だ、何なんだお前は!? 何故逆立ちをしている!?」

 

「誰かを助けるのに理由が要るんですか? 要らないでしょう! つまり、俺が逆立ちすることにも理由なんかいらない!」

 

「ええい、知ったことか! お前が何かしたんだな? 許せん、マグマに叩き落としてやる! 行け、グラエナ!」

 

「仕事しろバネブー! きあいパンチ!」

 

「ブー!」

 

「噛み砕く攻撃だ!」

 

━━━━━

 

 グラエナが大きく口を開けバネブーに迫る。迎え撃つバネブーは頭の真珠を手に取り、バネを絞る。そして、跳躍。

 

 真珠は、吸い込まれるように、グラエナの口の中へ。

 衝撃がグラエナの歯を、顎を、頭を襲う。グラエナの意識が薄れていく。

 だが、まだグラエナは倒れない。グラエナにも意地があるのだ。噛み砕くという指示を受けた。ならば噛み砕かなければならない。

 しかし自分の口は真珠が塞いでいる。バネブーを噛み砕くことはできない。

 

 ならばやることは一つ。せめて、真珠を噛み砕く。ギリギリと顎に力を込め真珠に圧力を掛ける。やがて、ヒビが入り、真珠は砕けた。

 

 一仕事終えた満足感と共に、グラエナは意識を失った。

 

 

 

 一方、バネブーはと言えば、号泣していた。あの真珠は物心ついた時からずっと、そして戦闘においても常に、自分の傍ら(頭の上)にあった。そう、例えるなら、相棒のようなものだった。

 それが奪われたのだ。

 

 声にならない声で真珠のことを呼び続けていた。しかし、もはや真珠は答えない。考えてみれば壊れる前も答えてはくれなかったのだが。

 

 自分の使い方には問題なかった筈だ。問題があった筈がない。だってきあいパンチにしか使っていないのだ。壊れる理由がない。壊せる筈がない。そう、きあいパンチ一発で沈むような奴に真珠を壊せる筈がないのだ。

 

 ああ、しかしだ。現に真珠は砕けてしまった。壊れたものは戻らない。もうこの真珠ときあいパンチすることはできないのだ。

 

 たった一度の攻防。しかし、そこでバネブーが失ったものはあまりにも大きかった。

 

 

 ゆ"る"さ"ん"

 

 

「クロバット、影分身だ」

 

「バネブー、やれるか?」

 

 バネブーは頷いた。

 これは敵討ちだ。報復だ。真珠(あいぼう)が味わった痛みを思い知らせてやらねば。

 

「きあいパンチ!」

 

 バネブーは跳ぶ。そして、殴る。真珠(あいぼう)亡き今、バネブーは自らの拳を振るい、戦っていた。殴っては分身が消え、殴っては分身が消える。そして、最後の一体。漸く感じる手応え。これが、殴るという感覚。

 まず一撃。殴った反動で後ろに下がり、バネの力でまた飛び出し、殴る。繰り返すこと数回。

 

 クロバット、戦闘不能。

 

 しっかりダメージは与えた。そして感じる拳の痛み。これが、きあいパンチの痛みか。……いや、痛くなどない。真珠(あいぼう)は呻き声一つ上げなかったではないか。自分だってやれるんだ。

 

 真珠(あいぼう)がいなくたって、一人で、やれる。

 

 そうでなくては、真珠(あいぼう)が、真珠(あいぼう)が……安らかに逝けないではないか。

 バネブーの脳裏に真珠(あいぼう)との日々が甦る。跳ねる自分の頭の上でガタガタグラグラする真珠(あいぼう)。きあいパンチの時、勇ましく相手の脳天にぶつかっていく真珠(あいぼう)。相手の攻撃から自分を守ってくれた真珠(あいぼう)

 ……やはり自分は真珠(あいぼう)に頼りっぱなしだった。情けない。なんと情けない。

 今のクロバットも、真珠(あいぼう)とのきあいパンチならば一撃で仕留められた筈なのだ。真珠(あいぼう)が居ないだけでこんなにも……。

 

 

 涙で歪んだ視界の中で何かが動くのを感じた。相手のポケモン? ……いや、違う。あれは、あの輝きは……真珠(あいぼう)! 逝ってしまった筈の真珠(あいぼう)が、その欠片が、再び集まり、元の球体に戻っていく。

 

 先程とは別の涙がバネブーの頬を流れる。また、戦ってくれるのか。まだ、やれると言うのか。

 

 バネブーは再び真珠を手に取り、頭の上へ……持っていくかに思われたが、持ち上げて、後ろの地面へ置いた。

 

 真珠(あいぼう)は戸惑っただろうか。だが、これは必要なことなのだ。真珠(あいぼう)が復活したのなら、だからこそ、自分の力で勝たなければならない。

 

 真珠(あいぼう)への感謝と、別れの気持ちを込めて、バネブーは前を向く。その背中は、覚悟を決めた背中。雄豚の背中であった。

 

 相手はバクーダ。思えば真珠(あいぼう)と共に放った初めてのきあいパンチの時もバクーダが相手だった。

 倒さねばならない。一人で、そして、一撃で。真珠(あいぼう)を安心させるのだ。

 

「……わかった。良いだろう。バネブー、きあいパンチだ」

 

 

 バネブーはバネを絞った状態で、目を瞑った。

 

 バネブーの心臓は、足代わりのバネで絶えず跳ね続け、その衝撃によって動く。つまり、それだけ自力で動く力が弱いのだ。

 現在のような、跳ねることを止めた状態でいることが如何に危険なことか。まさしく命懸け。一世一代、バネブーの覚悟の表れである。

 

「バクーダ、突進だ!」

 

 勢いよく突撃してくるバクーダ。いつもなら、真珠(あいぼう)が助けてくれる。しかし、耐えねばならない。逆に考えるのだ。この衝撃で心臓が動くと考えるのだ。

 そしてバネブーは、地面に長い線を引きながらも……耐えた。

 

 反撃の時。

 

 心臓が動く。血液が踊る。今この瞬間、バネブーの全てが、きあいパンチの為に動く。

 真珠(あいぼう)への思いを込めて放つ、決別の一撃。

 

 さらば、真珠(とも)よ。

 

 

 

 気づけばバクーダは地面に倒れていた。

 

 

 バネブーが振り向くと、真珠(あいぼう)は「見届けたぞ」とでも言うようにキラリと光り、静かに破片へと還った。もう動く気配はない。

 

 バネブーは静かに涙を流した。

 

 

 

 なお、後日大きな真珠を持たせて貰い、狂喜乱舞するのはまた別の話。

 

━━━━━

 

「あ、もしもし、レン君? そっちは……ああ、終わったのね」

 

 無事みたいで何よりだね。

 

「私? うん、まぁ、なんとかなったんだけど……まだ終わってないって言うかなんて言うか……」

 

 カイナシティからミナモシティのアジトへ急いで行って、奥に言ったら何処かで聞いたような笑い声の小太りのおじさんとバトルして、でもそれは時間稼ぎで、リーダーの人達は海底洞窟とか言うところに行ったらしい。

 

「……お疲れ様って、そりゃそうだけどさ。それで、どこで合流する?」

 

「え、しないの? いやまぁそうだけど……じゃあ取り敢えずトクサネシティに行ってるね」

 

 ……まぁ、合流しない方が気が楽ではあるよね。

 嫌な予感がするのは何故だろう。こう、猛獣の檻の鍵が閉まってないとか、そんな感じの不安がある。

 

 

 

 さて、トクサネシティに着いた。ムロタウンとはまた違った趣がある。生えてる木が違うし、島自体も大きいし、砂浜がボコボコ。……ん?

 

 砂浜がボコボコっておかしくない?

 

「あ、ハルカちゃんだ」

 

 此方に手を振りながら歩いてくるレン君。砂浜の原因がわかった気がした。

 

 




バネブーは専門家の指導の下、特殊な訓練を積んでいます。危険ですので真似しないでください。
頭の上で跳ねるバネブー可愛いとか思いながら書いてたのにどうしてこうなった……。
真珠の復活は知能指数5000のサイコキネシスによる粋な計らいです。流石フーディン賢い。

次回予告
宇宙センターに届く犯行予告。ジムリーダーの涙。共闘するダイゴを襲う大誤算。ハルカは海底洞窟へたどり着くことができるのか!?
次回 お前だパンチ 第13話
カガリ、行方不明

明日の自分に、きあいパンチ!

何でエメラルドではカガリさんいなくなったんだろう。確かにイズミに比べたらキャラ立ってなかったけど。

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