お前はまだきあいパンチを知らない   作:C-WEED

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どうもお久しぶりです。色々忙しかったんです(言い訳)
あと私今日誕生日なんです。ケーキが甘すぎてコーヒー飲まずにはいられなかった。

前回のあらすじ

ダイゴさん「大誤算だ」

そんな感じ


15

 △月@日 晴れ

 

 トクサネ宇宙センターに予告状、マグマ団がこんにちは。ダイゴさんと協力して撃退した。メタングとフーディンが事故ったことを除けば問題は無かった。

 フーディンは(頭)大丈夫かな?

 

 まあそれはそれ。

 今後のことを考えよう。

 ゲームの展開でいけば、この後はダイゴさんからダイビング貰って海底洞窟へGO。めでたくカイオーガ復活でグラードンとカイオーガの同窓会がルネシティで開催。ドンチャン騒ぎでホウエン大ピンチと。

 

 まあいいんだよ。展開はわかってる。多分ハルカちゃんがどうにかしてくれるさ。流れに任せてれば大丈夫でしょう。

 でも流れも糞もないことが一つありましてね。

 

 ダイビング貰うのはいいんですよ。ハルカちゃんがダイビング使えそうなポケモン持ってなさそうってとこは取り敢えず置いておくとしても、置いとけない問題がね、あるんですね。

 

 ダイビング

 ポケモンはどうとでもなる。

 

 じゃあトレーナーはどうすんの? とね。

 

 人間は水中じゃ呼吸できない。

 なんかあの、ポケモンレンジャーのジャ……ジャッ……ジャック? ……山寺さんが海の神殿だかに乗り込む時に口にくわえてたあれが手に入れば話は別だけども。そんな伝はありません。ダイビング用の装備が必要だ。

 

 ちなみに俺だけなら話は簡単。

 適当に海上を移動しながらきあいパンチしてればそのうち入り口とかも見付かるでしょう。でもねぇ、それやるとハルカちゃんが五月蝿そうだし。ダイゴさんに道具とかおねだりするのもなんか、ねぇ?かといって今からミナモに戻って自腹で買うのもあれでしょう?

 

 ということで俺はマツブサ氏と交渉()して御協力頂くことにした。

 考えてみて欲しい。あの人達煙突山掘ったりとかしてグラードン見付けた訳でしょ? 海に潜るくらい余裕でできそうじゃない? 実際何とかしてくれるらしいし。

 

 これだけ真っ当に手配すれば、ハルカちゃんも文句は無いだろう。

 

 そしてダイゴさんはルネシティに行った。

 

━━━━━

 

「……ふー」

 

 ジムを出て、大きく伸びをする。空を見上げれば、雲一つ無い青空。日は傾いていない。それはそうだ。普通に朝からジムに挑んだのだから。

 しかし、ハルカの体感的には、既に夕方になっていてもおかしくない気がしていた。それだけ熱い戦い、濃密な時間だったのだろう。

 

 勝負を決めたのはバシャーモだった。

 

 ハルカの目では捉えきれなかったが、にどげりだったと推測している。あれをにどげりと呼んで良いなら、という話だが。レン的に考えれば何ということはない。一瞬にして二度の蹴りを放ったとか、そんなオチだろう。何故あんな威力になったのかとかそんなことは知らないわからない知りたくもない。ハルカからすれば"私に聞くな"である。

 

 自分のパートナーのバシャーモが理解不能な次元に足を踏み入れつつあることを感じる。いたたまれなくて空を仰いだ。

 

 "私の悩みってちっぽけだな"とはならない。パートナーの異常はトレーナーとして死活問題だ。しかし、彼女はそれを解決するには自身ではあまりに無力であることを悟っていた。

 

 "まあ、取り敢えず勝った。今はそれで十分。私はまだ常識の側にいる。願わくば、バシャーモもこちら側に戻ってきますように"

 今のハルカにできるのはこの程度である。

 

「あ、来た来た。ハルカちゃーん」

 

 ハルカが真っ昼間から黄昏ていると、前から元凶の声がした。呑気な声音だ。それも当然か。彼にとってあの思考は当たり前のこと。それをトレースしてみた自分がどれだけ葛藤していても知る由は無いだろう。

 

「ジム戦はどうだった?」

 

「うん、まあ、勝ったよ……」

 

「おお、それはおめでとう」

 

「聞いといて反応薄くない?」

 

「ハルカちゃんが負けるとは思ってなかったからね」

 

「……」

 

 別に悪いことではないのだ。非常識サイドに居るとは言え、レンは悪い人間ではない。嫌味を言うようなタイプでもない。純粋にそう思って言っているのだと判断できる。

 しかし、である。そこまで実力を買われるというのはどうなのだろうか。勿論、実力を買われること自体は悪い気はしない。寧ろ嬉しいのだが、問題は買っている人物だ。父親をはじめとする諸実力者からなら良い。でも、現実はきあいパンチ野郎である。

 

 わからない。ハルカには理解できなかった。

 

 きあいパンチ野郎(レン)はきあいパンチばかり使う(ポケモンに使わせる)トレーナーだ。気が狂っている、は言い過ぎかもしれないが、その思考の根幹はきあいパンチに侵食されているであろうことは想像に難くない。そんなきあいパンチ野郎(レン)が、きあいパンチを使わない自分(のポケモン達)の実力を買っているというのが、ハルカには不思議でならない。気持ち悪い。例えてみるならそう、テストで○が一つもついていないのに、0点ではなかった時のような。

 

「さて、じゃあ、海底洞窟へ行こうか」

 

 海底洞窟。そもそもトクサネシティには海底洞窟へ行くための手掛かりを求めて来た。ハルカは現状、浅瀬の洞窟へ行ってタマザラシを捕まえ、ジム戦で苦戦を強いられて疲れただけだ。

 

「ごめん、私の方では特に手段は見つかってないの」

 

「潜ることを考えたらさ、ミナモデパートにダイビング用品売ってるんじゃないかって思ったんだけど、どう思う?」

 

「あ……確かにそうかも。でも戻って買ってくる時間は……」

 

 ない。何ならジムに挑んでいる時間すら勿体なかった位だ。こうしている間にもアクア団は海底洞窟で何かしらやっているに違いない。

 

 "……何でジム挑んだんだろ"

 

 疲労のあまりポケモンリーグ挑戦という目標も吹っ飛んでいるようだ。

 

「でもまぁ、素潜りでも……」

 

「私は無理」

 

 できるなら自分だけやれば? と、本来であればこう返したい所だが、相手はきあいパンチ野郎。実際できそうである。そんな人間に言っても意味はない。

 

「……なら、どうする? こうしてる間にもアクア団は……」

 

「……」

 

 どうしたものか。ハルカ自身の見立てでは、行った所で止められない。これまでがそうだったのだから今回もそうなりかねない。だとしても行ってみなければならない、のだろうか。

 流石のきあいパンチ野郎(レン)でもこればかりはどうにも出来なさそうである。ならば誰かに頼るか? 宛があるならもう頼っている。

 

「まあ、冗談はこれくらいにして、俺の方で宛があるから今日はのんびりしてなよ」

 

「え、何言ってるの?」

 

 全くもって、わからない。

 いつものことと言えばそうなのだが。

 

「じゃあまた明日」

 

 困惑したままのハルカを放置して、レンは何処かへ行ってしまった。訳がわからなすぎてむしゃくしゃしたハルカはその日延々と浅瀬の貝殻を集めていた。塩は集めていない。

 

 

「さて、行こうか」

 

 翌日、レンについていくと、見覚えのある火山のマークの一団が船着き場に屯して……いや、集まっていた。一応ハルカは寝起きである。そうそう遅れは取らないだろうが、バトルは勘弁願いたい所だ。

 

「ちょっと……レン君?」

 

「何?」

 

「あれは……」

 

「ん? 初対面だっけ? マグマ団の人達だよ」

 

「いや、それは見ればわかるんだけど」

 

 何故彼らが此処に居るのか、という話である。

 

「ふむ、揃ったようだな?」

 

「お待たせしてすみません」

 

「構わないとも。君らが来てくれるなら心強い」

 

 話が読めない。正確には、現状は察したけど何故こうなったのかわからない。言うなれば、どうしてこうなった? である。

 

「では行くとしようか、海底洞窟へ」

 

 レンは「これなら文句ないでしょ?」と言わんばかりにドヤ顔をしていた。成る程、きあいパンチでどうのこうのとか、生身で潜ろうとかそんなことを抜かさない辺り真っ当と言えるのかもしれない。しかしそういう問題ではない。

 

 

 海底洞窟と言うだけあって、結構な深海にあるようだ。潜水艦という選択は至極真っ当だった。生身で行けるのはポケモンかきあいパンチ野郎くらいなものだろう。

 

 まだ海底洞窟へは時間がかかりそうである。どうにも我慢できなかったハルカは、レンではなくマツブサにどうしてこうなったのか聞いてみた。連れてってくれるのは助かるが、それでもわからないものはわからないのだ。

 

「……もう、20年近く前になるな。私とアオギリは元は友人、いや、親友とも言える間柄だった」

 

 何の話だろうか。

 

「あの頃は、そう、人類のために役に立ちたいと考え、お互い切磋琢磨していた。私は地質学、アオギリは海洋学で分野こそ違ったが同じ志を持っていたんだ」

 

 意外、ハルカの感想はその一言に尽きた。

 ところでハルカとしてはここ最近のことについて聞いたつもりだった。何故昔話が始まるのか。

 

「あれは学生時代最後の夏休みのことだったな……。アオギリの強い提案で私達は海へ行ったんだ。所謂、海水浴というやつだ。そのときに、私は……溺れかけ、水着を無くし、メノクラゲに刺され、サメハダーに追い掛けられ、足がつり、まあ色々と散々な目にあったのだ。それから私は海が嫌いになった」

 

「……」

 

「そして、最後の春休み。夏休みのことがあって海なんて糞食らえだと思っていた私は山を提案したんだ。夏休みに海に行ったこともあって山に行くことになったのは良かったんだが……今度はアオギリが、遭難しかけたり、崖から落ちかけたり、野生のポケモンに襲われかたり……散々な目にあってな。それで喧嘩して、対立して、お互いにエスカレートしていった結果、今に至る」

 

「…………あー、そんなことがあったんですね」

 

 結果、聞きたかったことは何もわからなかった。

 

 

 ひんやりとした空気が漂う。感じる臭いは潮と土。まさに海底洞窟といった雰囲気だ。

 海底洞窟という名前から、中も随分水浸しだろうと考えていた。が、案外そうでもなくて安心している。

 

「急ごう。アクア団を、アオギリを止めなければ……!」

 

 道中はアクア団が設置したと思われる照明器具のお陰で明るかった。ところでこの照明器具、ボディが青く塗られ、アクア団のマークがついている。

 

 マグマ団もそうだが、いくら団の備品だからと言って何にでも団のマーク+団のカラーをつけるのはどうなのか。しかしハルカは空気が読める。思いはしても口には出さなかった。

 

「アクア団だからって何でもかんでも青くしてマーク着けてるってどうなんですかね」

 

 そう、ハルカは。

 

 

 

 ハルカ達が来るのを予測してか、各所にアクア団のしたっぱが配置されていた。が、マツブサが連れてきたマグマ団の構成員(したっぱ)がそれらを押さえた。正確には、次から次に「ここは俺(私)に任せて先に行け!」が発生しただけである。

 とはいえハルカやレンだけで来ていれば一々バトルするはめになり時間がかかっていたかもしれないので感謝している。ハルカは。レンが何を考えているかは不明である。

 

 

 広い空洞に出た。ハルカとしては大分深くまで来た気がする。レンはぼーっとしている。

 

「そろそろですね」

 

 ぼーっとしていた筈のレンがおもむろに口を開いた。表情が普段のそれに戻っている。

 

「……そのようだ」

 

 レンの言葉にマツブサが答える。神妙な面持ちだ。

 "何でこの人たちはそんなことわかるの?"

 ハルカにはわからなかった。いや、多少、空気が重たいだろうか。

 

「トレーナーだからさ」

 

「いや、私もトレーナーだし」

 

 反射的に応えたハルカだったが、違和感を感じた。何かおかしかった気がする。

 

「気のせいだよ」

 

「いやおかしいでしょ!?」

 

「しっ、静かに」

 

 レンがハルカを手で制する。空気が読めるハルカはすぐに黙ったが、これでは自分が悪いようではないか。非常に遺憾である。

 

 が、ハルカはここで考え直す。そう、レンに怒っても仕方ないのだ。どうせ通じない。

 岩影に隠れて奥の様子を窺う。……居た。アクア団のリーダー、アオギリだ。

 

「どうやら間に合ったらしいな。よし、行くとしよう」

 

 マツブサを先頭にハルカとレンが続く。

 

 近づいていくと、足音で気づいたのか、アオギリがこちらを振り向いた。

 

「来たかハルカ……と、マツブサまでいるのか」

 

「間に合ったようで何よりだよ、アオギリ」

 

 レンが当たり前のようにスルーされていることに気づいたハルカだったが、前述したように彼女は空気が読める。故にそのことには触れない。

 

「間に合っただと? とんでもない。待ってたんだ」

 

「待っていた? 我々をか」

 

「その通りさ。まぁ、マツブサまで来るとは思っていなかったが……散々私の計画を邪魔してくれたんだ、計画の最終段階を、どうあがいても私の計画は止められないということを、思い知らせてやろうと思ってね」

 

「やめろ! 取り返しのつかないことになるぞ!」

 

「ふふふ、知っているぞマツブサ。お前、グラードンを目覚めさせたはいいが、制御できずに何処かへ逃げられたそうじゃないか。私はお前とは違うのだよ!」

 

「私にできないことがお前にできる筈なかろうがド阿呆! やめろ!」

 

「いいや! やるね!」

 

 そう言って、アオギリはドヤ顔で紅色の玉を掲げた。

 

「この紅色の玉で、私は貴様を超えてやる! カイオーガを従え、海を広げ、よりよい世界を作るのだ! さぁ、輝け、紅色の玉よ! カイオーガを目覚めさせるのだ!」

 

 ……。

 

 何も起こらない。勝ち誇った表情のアオギリだったが、表情筋が震えてきている。

 

「どういうことだ!? なぜ何も起こらない!?」

 

 慌てた様子で紅色の玉を見るアオギリ。見たからって何も……と思っても口には出さない。ハルカは空気が読める。ところでさっきからレンが口を開いていない。何事だろうか。

 

「……!? ただの色のついたガラス玉じゃないか!! さっきまで本物だっただろう!!」

 

 紅色の玉を見たり叩いたり噛んでみたり嘗めてみたり、色々と試したアオギリ。そして気付く、玉が偽物であるということ。彼は思わず声を上げた。

 

「すり替えておいたのさ!!」

 

 ハルカの後ろからそれに答えるように声がした。声がした方を見る。さっきまで影が薄かったレンが、これまたドヤ顔で、紅色の玉を持って立っていた。

 

「貴様一体何をした!?」

 

 顔を真っ赤にしてアオギリが怒鳴る。

 

「トリックですよ」

 

 レンの声に合わせて暗がりからフーディンが現れた。トリック、そして現れたフーディン、……つまり、フーディンがトリックを使った、と。

 タネを理解したハルカは憤慨した。なぜきあいパンチを使わないのか。きあいパンチで何でもできるのではないのかと。だが、口には出さない。彼女は空気が読めるから。

 

「さて、これでカイオーガは目覚め……えっ」

 

 紅色の玉が勝手に輝きだした。ハルカは驚いた。マツブサも驚いた。アオギリは激おこだ。レンは驚きつつも納得した。そういや勝手に輝きだすんだったっけ、と。

 

 ゴゴゴゴ……と洞窟が揺れる。何かヤバい気配が近づいてきている気がする。アブソルとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない、もっと恐ろしい何かだ。

 

「! あそこだ!」

 

 マツブサが指差したのは、アオギリが立っていた目の前の水溜まり。ハルカは何の変哲もない水溜まりだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。水面が、不自然なほど波打っていた。

 

 やがて、水面に巨大な影が近づいてきた。

 ハルカの脳内は語彙力を失う。

 "もうヤバい。ヤバいって言葉しか出てこないくらいヤバい。さっきから鳥肌が止まらない。どうしよう逃げようそうしよう……ここ海底じゃん"

 一方レンはぼんやり考え事をしている。

 "グラードンはマグマに沈んでった。とすればカイオーガも沈んでいくのか……? いやでも沈んでいくならわざわざ浮かんでこなくても……まさか、とうとうあの謎の跳躍が見られるのか……? 天井は普通に岩なんだが……。"

 

 

 水面が静まる。

 次の瞬間、影が浮き上がる。初めて見るポケモンだったが、一目見てわかった。このポケモンがヤバい雰囲気の元凶だ。話の流れからしてこれがカイオーガだろう。

 未だハルカの脳内は語彙力を失ったままだ。

 "ヤバい。もう何て言うかもう、ヤバい。こんなの従えようとしてたとか正気の沙汰じゃない。あのおっさんバカなんじゃないか。"

 アオギリはと言えば、計画の要たるカイオーガの登場に感動しつつも、予定外の展開に困惑すると共に、カイオーガから放たれる圧倒的なプレッシャーに恐れおののいていた。

 

 やがてカイオーガは、ハルカ達を威嚇するように睨んだ後、静かに沈んでいった。他の面々が何事も無かったことに安堵する中、レンだけは鳴き声すら上げなかったことに不満を感じていた。

 

「は、ははは……アクシデントはあったが、計画通りだ! カイオーガが目覚めた! これで私の計画が……」

 

 気を取り直したアオギリが強がる。しかし声が震えている。更に途中で電子音が鳴り、セリフが中断された。締まらない。

 

「私だ。うん? 激しい雨が降りだした? ああ、そうだろう。カイオーガが目覚めたのだから。……何? 想定を超える雨量でヤバい? 海も荒れててヤバい? 報告は正確にしろ! ……雨だけでなく日差しも強いだと? 意味がわからん! どういうことだ!?」

 

「……状況を確かめる必要がありそうだな。出るぞ、アオギリ。団員にも撤退を伝えろ。ここも危険だろう。ハルカ君達も、戻る準備をしなさい」

 

 

 

 一行が外に出ると。

 海は大荒れ、分厚い雲に覆われた空から痛いくらいの大粒の雨が降ってきている。かと思えば雲が切れてかなり強い日差しが差し込んでくる。

 ハルカはカイオーガショックもあって何がなんだかよく分かっていない。

 何だこれ。

 

「何だこれは……」

 

「これが我々の望んだ光景か? これがより良い世界に繋がると? 認めるんだアオギリ。我々はとんでもない過ちを犯してしまったのだ」

 

「こんな……こんなことが……」

 

 

「ハルカちゃん! レン君!」

 

 マジで絶望にうちひしがれたダンディなおじさん、略してマダおを観察していると、空からイケメンが舞い降りてきた。

 

「無事でよかった……けど、どうやら止められなかったみたいだね」

 

「すみません。なんかいきなり目覚めちゃって」

 

「いや、グラードンは既に目覚めていたんだ。遅かれ早かれ異常気象は起こっていただろうさ。そして何より、本来なら君たちがやる必要は無かったんだ。本当に済まない」

 

 考えてみたら、いや、考えるまでもなくその通りであった。何故自分達が色々止めるために頑張ってたんだ。子供にやらせることじゃないでしょう。ハルカはそう思った。だが口には出さない。そう、彼女は(ry

 

「君達も早く安全なところへ行った方がいい……まぁ、異常気象は範囲を広げているらしいから何処に行ってもずっと安全とは言えないけど……」

 

「ダイゴさんはどうするんです?」

 

「僕は、この異常気象の中心になっているルネシティに向かうよ。そこの二人も、同行願えますか?」

 

「ああ、勿論だ。ほら、立てアオギリ」

 

 ダイゴが声を掛けると、マツブサさんがマダおことアオギリを立たせた。まだショックから立ち直れていない様子だ。

 

「じゃあ僕らは行くよ」

 

「気を付けて下さいね」

 

「君達もね」

 

 

 

「さて、じゃあ俺達も行こうか」

 

「どこに?」

 

「わかってるでしょ?」

 

「……私は行かないからね」

 

「どうして?」

 

 怖いからだ。あんな感覚は初めてだった。ポケモンと人間は仲良くできる、と思うのは今も変わらないが、あれは駄目だヤバい無理だ。先程の恐怖を思い出し、また語彙力が危機を迎え掛ける。

 

「あんなの相手に何かできる筈ないでしょ」

 

「そうかな?」

 

 普段のハルカであれば、ここで空気の変化に気づいていた筈である。しかし、今のハルカは結構一杯一杯であった。故に気付かない。

 独壇場が始まる。

 

「確かに、カイオーガは、生で見たあいつは凄かった。明らかにヤバそうだったよね。それは俺にもわかるよ」

 

 ここで、ハルカは気づいた。だがもう遅い。

 

「でも、あいつもポケモンなんだ。俺の連れてるフーディンやケッキング達、ハルカちゃんのバシャーモ達と同じね」

 

「うん、でも」

 

「俺達はバトルをする。体をぶつけ、魂をぶつけ、競い合う。ポケモンと共にね。カイオーガやグラードンの力は確かに圧倒的かもしれない。でもあいつらには無いものが俺達にはあるんだ」

 

「きあいパンチとか言うんじゃ……」

 

「……? なに言ってるの。俺達にあって、あいつらに無いもの。ありふれた言い方になってしまうけど、それは仲間だ」

 

 ハルカは赤面した。先入観に囚われすぎた。

 

「ポケモンは、トレーナーの指示でより効率的に技を使うことができる。ただ力を振るうだけのあいつらとは違うんだ。それに、なにもこの脅威に挑むのは俺達だけじゃない。ダイゴさんがいる。リーダーの二人がいる。ルネシティの人達だって黙って見てるだけの筈がない。ハルカちゃんは一人で戦うわけじゃないんだよ」

 

 確かにそうかもしれない。そうかもしれないが。

 

「ハルカちゃんとしてはかえって不満かもしれないけど、付け加えておくよ」

 

「……?」

 

「大丈夫だ。きあいパンチでぶっ飛ばせる」

 

 

 この期に及んでこれである。何だか笑えてきた。

 

「よし、笑えるなら余裕だね。じゃあ行こうか」

 

「え、私行くなんて一言も「さぁ、飛ぶんだコイキング! 俺達をルネシティまで連れてってくれ!」は!?」

 

 耳を疑う台詞が聞こえた気がする。いや、間違いなく言った。絶対本気だ。飛べる筈がない。飛べたとして無事では済むまい。逃げないと……!

 

「きあいパンチ!!」

 

 時既に遅く、ハルカはレンに担ぎ上げられ、次の瞬間には空へ飛び出していた。

 

 

 

 これが、人類史上初のコイキングによる有人飛行の瞬間であった。




読んで頂きありがとうございました。楽しんで頂けたなら何よりです。

交渉()の内容については皆さんの想像にお任せします。まあ、この作品のこれまでの感じから考えるとまあ……お察しですかね。
コイキングのくだりは次回付け加えて書くと思います(説明するとは言ってない)。今回はやたら字数が増えてしまいまして。間が空くとダメですね。

次回予告
超古代ポケモン激突! 未曾有の危機に見舞われたルネシティに救世主が舞い降りる。
「やっぱり私なんかじゃ……」
「わかった。ハルカちゃんが頑張れるようおまじないをしよう。ちょっと目を瞑ってね……」

次回 お前だパンチ 第16話
(無言のきあいパンチ)

明日の自分に、きあいパンチ!

字数の割にきあいパンチしてない……。リハビリしないとですね。

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