お前はまだきあいパンチを知らない   作:C-WEED

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こんばんは。番外編なんて書いちゃったせいでこんなタイミングに。と言いつつ私にしては早かった方です。
前回はきあいパンチ少なかったですからね。なので今回は……。

前回の「鯉王~天駆ける最弱の王~」

コイキング「飛ばねぇコイはただの刺身さ」

そんな感じ



16

 バタフリーエフェクトという寓話をご存知だろうか。

 小さなバタフリーの羽ばたきによって、後に竜巻が生じるとか生じないとか、要は小さなきっかけで大きな変化が生じるかもしれないという話だ。

 

 さて、この考え方を抜きにしても、バタフリーは竜巻を起こすことが可能である。

 

 ではコイキングならどうか。

 コイキングの跳躍は何かを起こすだろうか。

 

 たとえ最弱としても、たとえはねるしか能がないとしても、コイキングだってキングである。

 

 キングドラやキングラーやヤドキングやニドキングやケッキングと同じ、キングなのだ。

 

 キングドラのようにハイドロポンプが使えないとしても、ヤドキングのようにエスパー技が使えないとしても、ニドキングのように多彩な技を使えないとしても、キングラーやケッキングのようなパワーがないとしても、キングなのである。

 

 すなわち、コイキングのはねるは、王の跳躍。なんと高貴な響きだろうか。

 

 序盤の虫でも竜巻を起こせるのだ。虫の羽ばたきでさえ竜巻が起こりうるのだ。

 

 ならば王の跳躍でどれほどのことが起ころうと不思議ではない。

 

 コイキングがはねることで地震が起こったっておかしくない。何処かの火山が噴火したっておかしくない。地割れが起きるかもしれない。氷山が溶けるかもしれない。火山の置き石が動いてポケモンが目覚めるかもしれない。

 

 あり得ないなんてことはあり得ないのだ。

 

 

 だから、コイキングがきあいパンチで有人飛行をしたって、何らおかしいことはない。

 

 

━━━━━

 

「な、何てことをしてくれたの!! 死ぬかと思ったじゃない!! 何なの本当に!! 何考えてるのよ!!」

 

「ああ、反省してるよ。本当に済まない。じゃあ行こうか」

 

 コイキング飛行は思いの外高く飛んだ。あくまでも生身である。シートベルトなどない。恐怖のあまりハルカは意識を失った。

 気が付いたら地上にいた。そして先程のやり取りである。

 辺りは晴れたり大雨が降ったり、率直に言って滅茶苦茶である。

 

「……どこなのここ」

 

「あれ見て」

 

「あれってどれ……っ!!」

 

 レンが指差したものを見て息を飲む。グラードンとカイオーガが激闘を繰り広げていた。どうやら自分たちはルネシティの外縁部にいるらしい。

 

「……いやぁ、壮観だね」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? どうするの!?」

 

「そう言えばハルカちゃんの自転車ってどっち? マッハ?」

 

「えっ……マッハだけど」

 

「おお、それは良いね」

 

「何のこと?」

 

「……ハルカちゃんなら大丈夫だよ」

 

「何が!?」

 

 

 

「カイオーガ! どうした!? これを見ろ! 紅色の玉だぞ!? 大人しくなるんだ! おい!」

 

 アオギリが赤い玉を掲げながら叫ぶ。

 

「……グラードン……やはり、我々ではコントロールは出来ないか……!」

 

 マツブサもまた、藍色の玉を使ってグラードンをコントロールしようとするが、藍色の玉はピクリとも反応しない。とすれば、当然、グラードンが見向きもする筈もない。

 そんな中、マツブサがアオギリに話し掛けた。

 

「アオギリ」

 

「ああ、カイオーガ……! どうして言うことを聞いてくれないんだ……!!」

 

「おいアオギリ!」

 

「何だ!? 取り込み中だと言うのがわからないか!? 空気が読めないのは相変わらずだなマツブサ!!」

 

「っ!? ……まあ、いい。今はそれどころじゃないからな。飲み込んでおいてやろう」

 

「とっとと要件を話せ! 俺は暇じゃないんだよ!」

 

「……黙って聞いてればこの阿保が!! 何がああ、カイオーガ……だ、ちゃんちゃらおかしい。お前の手に持ってるものは何だ!?」

 

「見てわからんか紅色の玉だ!!」

 

「海底洞窟での件を忘れるほど呆けたか!? お前が持ってるのは赤いガラス玉だ!!」

 

 はっとした顔をするアオギリ。マグマ団の制服よりも顔が赤くなっていく。

 

 ガラスの割れる音がした。

 

 

 

「ああ、君達も来てしまったんだね」

 

「やっぱり放っておけなくて」

 

 "それはレン君だけでしょ!?"

 ハルカは心の中で叫ぶだけに止めた。やはり空気が読める。

 

「本来であれば僕達が解決しなければならない所だが……正直、君達が来てくれて心強いと感じてしまっている。本当に申し訳ないけれど、僕達に力を貸してくれるかい?」

 

「勿論、そのつもりでここに来ました」

 

「ありがとう……!」

 

 もはや帰るに帰れない。その事実を悟ったハルカは心の中でも反論するのを止めた。

 

「グラードンとカイオーガが何を考えているのか、なぜこのルネシティでぶつかりあっているのか、どうすれば止まるのか……来たばかりだから僕もわからないことばかりでね。知っているとすれば……そうだ! 是非君達に会ってもらいたい人がいる。おそらく彼が一番この事態に通じている筈だ」

 

 

 その人物はルネシティの奥にいるらしい。ダイゴの先導で歩いて向かう。

 

「……あ、そうだ。町の奥に向かってはいるんだけど、その人は別にこの騒ぎに怖じ気づいて逃げている訳じゃないんだよ?」

 

 その人物の印象が悪くなったりしないように補足をするダイゴ。勝ち組は気遣いもできるのだ。

 

「……」

 

 ハルカは答えない。そもそもそんなことを考える余裕はないし、彼女は自分が口を開けば今置かれている状況に対する不平不満が溢れ出すことを知っている。反論は止めても不満なものは不満なのだ。

 

「そんなこと思ってませんよ。こんなに大暴れしてるんですから、どこにいても時間の問題です」

 

「それもそうだね」

 

 気遣いなど不要であった。二人して笑っていた。ハルカは今にも口を開きそうになるのを必死に抑えていた。

 

「こんな時に聞くのもなんだけど」

 

「はい?」

 

「グラードンとカイオーガを見て、ポケモンは怖いものだと思ったかい?」

 

「いえ、凄いなぁ、と」

 

「ふふ、そうだね。凄いものだ。うん、君達には余計な心配だったかもしれないな」

 

 ここで一くくりにされてしまったが、ハルカがカイオーガにビビりまくっていたのは記憶に新しい。現在進行形で帰りたがっているのだから未だその感情は覆ってはいない。口に出すのを我慢しているだけである。

 

「さあ着いた。この奥にミクリさんという人がいるんだ。君達なら彼の力になってあげられると思うよ」

 

 

 案内されたのは洞窟のような場所。形容しがたい雰囲気を感じる。不思議な力が満ちているようだ。

 

 奥に進むと、一人の男性が物思いに耽っているのが見えた。およそ洞窟に居るには似つかわしくない、ステージにでも立って踊っている方が様になる格好をしている。

 

「……ん? 君達は……そうか、君達がハルカ……と、レンだね。活躍は聞いてるよ」

 

「はじめまして、レンです」

 

「ハルカです」

 

「はじめまして、私はミクリ。ルネのジムリーダーをしていたんだが色々あって今は師匠のアダンさんにジムはお任せしている。……さて、話をしよう。今この街で暴れている二体のポケモンは超古代ポケモンと呼ばれている奴らなんだけど、どうしてこの街で暴れているのか、わかるかい?」

 

「元は火口で、しかも海だからじゃないですか? どっちにとっても割と移動しやすいとか」

 

「ふむ、それもあるかもね。でもそれが一番ではない。今、あの二体は長い眠りから覚めた訳だけど、あれが完全な状態ではないんだ」

 

「そうなんですか」

 

「ああ、大昔、彼らが眠りにつく前はもっと凄まじい力で暴れまわっていたらしい。そして、その力の鍵になるのが二つの玉とこの場所なんだ。ここは目覚めの祠と呼ばれていてね、彼らが真の力を発揮する為には一度ここで力を蓄える必要があるらしい」

 

 もっと凄まじい力、と聞いてハルカの表情が歪む。想像しただけで卒倒しそうだ。もしそうなったら是が非でも逃げようと心に誓った。

 一方レンの脳内ではゲンシカイキというワードが浮かんでいた。ゲンシカイキした二体がぶつかり合ったら割と洒落にならないということも。洒落にならないからどうということでもないが。どうせハルカとレックウザが何とかするんだろうと軽く考えている。

 

「じゃあ今あの二体がぶつかってるのは場所取り合戦ってことですか?」

 

「はは、成る程ね。確かに、そうとも言えそうだ。……それで、ここからが本題なんだけど、実は超古代ポケモンはあの二体だけじゃなかったらしいんだ。このホウエンのどこかに……レックウザ、というポケモンがいる。遠い昔に起こった二体の激突を鎮めたのもこのポケモンだと言われている」

 

「もう一体ですか……」

 

「まあ、私もどこにいるのかわからないんだけどね。でも、あの戦いを止めるにはレックウザを見つける以外どうしようもなさそうなんだ……。ダメ元で聞くんだけど、心当たりとか、ないかな?」

 

「そのレックウザはどんなポケモンなんですか?」

 

「グラードンが陸、カイオーガが海、そして、レックウザは空を司っていると言われているね」

 

「なら、レックウザは人の寄り付かないような高い所にいるんじゃないですか?」

 

「高い所、ねぇ……空、高い……塔? ……そうか! 空の柱だ!」

 

「そこにレックウザが?」

 

「可能性は高い、と思う。……うん、こうしちゃいられないな。私は早速空の柱に向かうよ」

 

 言うが早いか、直ぐに駆け出すミクリ。ハルカとレンが取り残される。

 

「じゃ、外に出ようか」

 

「……ねぇ、レン君」

 

「何?」

 

「もしかして、空の柱に向かおうとか言うの?」

 

 場所がわかったのだ。ルネシティに居てできることなどない以上、レンが向かわないなどと言う筈がない。

 

「いや、俺は行かないよ」

 

「え、ならどうするの?」

 

「……誰か空の柱に向かってくれないかなー。俺こっちでやることあるからなー。誰か行ってくれる人いないかなー」

 

 チラチラと、ハルカに視線を遣りながらレンが独り言、と言うにはあまりに白々しい台詞を言う。

 しかしハルカとしては今すぐ帰りたい。レンの意図を理解した上でスルーを決め込んだ。

 

「ハルカちゃんとか行ってくれると助かるんだけどなー」

 

「……」

 

 直球で攻めるレン。しかしハルカは動じない。超古代バケモンに比べれば恐るるに足らず。無視くらいしたって何も恐くはない。

 

「行ってくれないとなると俺と一緒に超古代ポケモンに喧嘩売ることになるけど大丈夫?」

 

「空の柱ってどこにあるの?」

 

 翻ること電光石火の如し。ハルカの反応は非常に早かった。考えるより先に体(口)が動いていた。

 ちなみに、きあいパンチの技術が上がると考えるより先にパンチが撃てる。つまりそういうことだ。

 

 

 

 

 行くとは言ったものの、冷静になってみるとそれはそれで嫌だ。ハルカは咄嗟に言い訳を考えた。

 

「あ、でも、移動手段がないなぁ。ペリッパーじゃちょっときついだろうし、タマザラシも難しいだろうなぁ」

 

 そう、海は荒れているし空もそこそこ風が吹いていて危ないのだ。ハルカのポケモンではその中を安全に移動するのは難しい。

 

 ハルカは、そう思っていた。

 

 ボールの開く音がした。

 

「ハルカちゃんの話は聞いてただろ? じゃあ、何とかしてやらないとな?」

 

 何かに後ろから抱き上げられる。

 バシャーモだった。

 瞬間、甦る記憶。乾かしても結局雨で濡れたヒマワキシティへの道中。正確には雨に濡れるその前。

 ハルカはこのあとどうなるか悟った。せめて、沈みませんように。ただただ一心にそれを願っていた。

 

 バシャーモ、疾走。バシャーモは脚力に定評のあるポケモンだ。走るのが早いのも頷ける。問題は走っている場所。

 

 海上。

 

 一歩踏み外せば、と言うよりずっと踏み外し続けているようなものだが、要は少しでもミスればドボン。波に呑まれてゲームオーバー。およそ炎タイプのポケモンが居るべき場所ではない。

 

 そもそも走るような場所でもない。

 

 しかし、バシャーモに恐れはない。何故ならば、既に海上走行はマスターしていたからだ。海に落ちたあの日から、夜な夜な練習してきた。それが遂に先日実を結んだ。

 トクサネジムでの勝利もこれを成し遂げていたからこそである。

 

 

 そんなバシャーモの陰の努力など露知らず、ハルカはただただドキドキしていた。吊り橋? お化け屋敷? 否、そんな生易しいものではない。荒れた海だ。平然としている方がどうかしているというものだろう。

 

 幸いなのは横抱きであったこと。海の上を走っているという非現実的な状況を直視しないで済んでいる。勿論、見えないことによる恐怖もあるし、上を向いていることで雨粒がダイレクトに顔を襲ってくるが。

 

 

 やがて、視界の端に高い塔が映る。あれが空の柱だろうか。ようやく落ち着ける。そう思ったハルカだったが、目的地がみえてしまったことでかえって辿り着くまでが長く感じてしまい、空の柱に着いた頃には顔から疲れが滲み出ていた。

 

「……ありがとう、バシャーモ」

 

 恐怖の伴う時間だったとは言え、無事に目的地に連れてきてくれた。感謝の気持ちは忘れない。

 同時に、いよいよバシャーモは遠くに行ってしまったと感じたがこちらは口には出さなかった。

 

 幸いこの辺りは天気は安定している。ミクリはもう先へ行っているだろう。先へ進む。

 地面が揺れた。二体の戦闘の余波? だろうか。できればあの場には戻りたくないものだ。そんなことは無理だろうが。

 

 塔の扉の前にミクリが立っていた。

 

「ん? ああ、すまないね。あんまり急いでいたものだから置いてきてしまった。今、この塔の扉を開けた所さ」

 

「なら、早く行きましょう。解決は早いに越したことはないですよね?」

 

「その通りだね。では……」

 

 二人が塔に入ろうとしたその時、とうとうこの場所にも大雨が降りだした。

 

「天候の乱れがここまで……。不味いな。ルネが心配だ」

 

 嫌な予感がするハルカ。

 

「ハルカ、本当にすまないんだが、私は街に戻ろうと思う。この上にレックウザがいる筈だ。ここは君に任せたから、しっかり頼んだよ!!」

 

 的中した。

 ハルカの返事を待つことなく、ミクリは飛び去った。

 衝撃の事態である。しかしハルカは賢い。ミクリの言うことが理解できない訳ではない。それでもハルカは思った。

 "街が心配なのもわかるけど私のことも心配しろよ!!"

 

 ハルカは思わず天を仰いだ。雨雲が広がっている。大粒の雫が顔を打つ。が、それすらも気にならないほどハルカのテンションは下がっていた。

 

 そんなハルカに一筋の光が射す。

 唐突に雲が割れ、日光が射し込む。滅茶苦茶な天気のもう半分だ。上を向いていたせいでまともに太陽を見てしまい目が眩んだ。

 

 しかしそれだけではない。出発前にレンに御守りとやらを受け取っていたことを思い出した。「ピンチの時にでも開けてね」と言っていた。

 今ハルカは困っている。ピンチと言っていい。

 迷わず開けた。

 

 

 金の玉。

 

 

 中身は金の玉であった。と、一枚紙が入っている。メッセージのようだ。

 "ハルカちゃんへ。この紙を見ているということは御守りを開けたんだね。つまり、ハルカちゃんはピンチってことだ。見ればわかると思うけど、金の玉を入れています。ショップで売ってお金にして、ピンチを打開できる道具を買ってください。満タンの薬とかおすすめです。

 P.S. 拾ったものなので俺の金の玉ではありません。たぶん金の玉おじさん辺りの金の玉だと思います"

 

 ハルカは無言で紙を見つめる。

 ハルカの脳内では色んなツッコミが渦巻いている。しかし本人不在で突っ込んでも空しいだけだ。でもやはり腹立たしい。ので、紙を破り、金の玉を投げた。

 

 気を取り直してハルカは塔へ向き直る。自分が行くしかないのだ。諦めてハルカは塔へ足を踏み入れた。

 勿体無いので金の玉は拾っておいた。

 

 

 外に居る時から感じていたが、ヤバイ気配が漂っている。上からだ。間違いなくいる。そんな中にいる野生のポケモンも馬鹿に出来ない強さだろう。

 

 あまり時間を掛けていられない。極力消耗も控えたい。考えた末にハルカは自転車に乗った。

「こういうものには使い時があるんだぞ」

 父の言葉を思い出した。が、無視する。形振り構っていられるならそうしている。大丈夫、建造物の内部とは言ってもおよそ人間の住む場所ではないのだ。土足上等、汚してなんぼだ。大体、急いでいる今が使い時でないなら何時が使い時なのか。

 

 マッハ自転車で走り抜ける。

 やがて、上の階への階段が見えた。自転車に乗ったままでは登れないが、降りるのも億劫だ。

 

「ペリッパー、お願い」

 

 肩をつかんでもらい、自転車に乗ったまま階段をクリア。着地、走行。浮遊、着地、走行。繰り返すこと数回。

 

 ようやく、頂上だ。

 

 

 瓦礫と埃が散らばっているが、何処と無く荘厳な雰囲気が漂っている。

 きっと、いや、考えるまでもなく、中央で佇んでいる存在のせいだろう。巨大な緑色の蛇、いや、龍のようなポケモンがとぐろを巻いている。おそらく、このポケモンがレックウザ。眠っているのだろうか。

 

 不思議と、グラードンやカイオーガを見たときに感じた恐怖は感じない。圧倒的な力は感じるが。慣れた、あるいは感覚が麻痺してきたとも考えられる。

 

 伝説を前にして、ハルカは考える。眠っているのなら、起こすべきだろう。しかし、起こしてしまって良いものか。眠りを妨げられたことに怒って暴れだしはしないか。さらにそのままグラードン、カイオーガと合流して三つ巴になってホウエン大惨事なんてことに……ならないことを祈る他ないが。

 あるいは、アクア団のアジトで見つけたボールを使うべきか……。

 

 意を決してレックウザを起こすべく声を掛けようとする。が、その前にレックウザが目を開けた。

 ……何から伝えれば良いのだろう。

 

「……」

 

 言葉が出てこない。だがレックウザはハルカの言葉を待つようにじっと見つめている。

 此処に来て、ハルカの目に涙が溜まる。しかしそれは恐怖によるものではない。嬉しかったのだ。最近、周囲が自分の意向を無視して話を進めてくる。有無を言わさず流されてしまうのだ。それが続いていたため、レックウザの傾聴する姿勢に心を打たれた。ポケモンにできることをどうして同族ができないのか。特にきあいパンチ野郎。そうかあれは人間ではないのか。

 

 感動もそこそこに、本題に入らねば。

 

「今、グラードンとカイオーガが暴れているの。このままじゃホウエンが滅茶苦茶になっちゃう。止められるのはきっとあなただけ。お願い、力を貸して……!」

 

 レックウザは静かにハルカを見つめている。もしかして通じていない? いや、通じているはずだ。

 やがてレックウザは何も言わず頷いた。ほっと胸を撫で下ろす。これで自分のすることは終わった。

 

 と、思っていたのだが。

 レックウザが身を低くしている。何かを待っているようだ。視線はハルカをとらえている。つまり、これは。

 

「乗れってこと……?」

 

 レックウザは頷いた。

 

「……」

 

 選択肢なんて無いけれど、迷う時間くらい許してほしい。まあそんな気はしていた。ここで退場なんてあるわけなかった。でも、せめて、もう少しだけ、平穏を……今尚雨は降っているが……戻る前に、覚悟を決めさせてほしい。

 頬を流れる雫は雨粒か、あるいは……。

 

 

 レックウザの乗り心地はお世辞にも良いものとは言えない。勿論、乗れる人間など片手で足りる、むしろハルカが初かもしれない。貴重な体験ではある。だからなんだとハルカは言うだろうが。

 

 しかし、乗り心地についてはハルカはそれ以下を知っている。およそ乗ることに適さないポケモンに乗った経験は多分人より多い。あれはあれで貴重な体験ではあろうが。それに比べれば何と真っ当な乗り心地であろうか。しっかり捕まっていれば何とかなる、というのがどれだけ嬉しいことか。

 

 どれもこれもきあいパンチ野郎(レン)のせいだ。

 

 

 乗り心地はともかく、雲の上を飛んでいるので雨に濡れることはない、という点は素晴らしい。雲が厚くかかっているせいで下が見えないのが不便であるが。しかし、レックウザのことだ。場所くらいハルカの指示が無くともわかるだろう。伝説様々である。

 

 レックウザが下降を始める。どうやら、ルネシティの上に差し掛かったようだ。

 

 雲を抜けようとする直前、猛スピードで何かが横を通り過ぎていった。場所を考えれば飛んでいったと言ってもいい。

 

 青い何かであった。

 

 しかしハルカは振り返らない。いい加減学習している。世の中には目をそらすことのできないことは沢山あるが、目をそらすことで見なくて済むことも沢山あるのだ。

 

 たとえ飛んでいったのが見覚えのあるポケモンであっても、はっきり認識していない以上は、頭に浮かんだポケモンではなく、いきのいいギャラドスが勢い余って空を飛んでいた、なんてこともありうるのだ。

 

 雲が晴れた。

 

 奇妙に思いつつルネシティに近づく。

 

 

 様子がおかしい。……いや、おかしいのはきっと……。

 

 

 紅蓮に燃える体、煌々と輝く瞳。最後に見たときより明らかに危険度の増した超古代ポケモンの片割れが、拳を掲げ佇んでいる。

 

 その背には、見慣れた少年の姿が。

 

 

 そう、おかしいのは……あの少年(きあいパンチ野郎)の頭なのだ。

 

 

 遠くで何かが落ちた音がした気がする。

 そして、ハルカは……。

 

 

 

「レックウザ……破壊光線!!」

 

 

 




読んで頂きありがとうございました。
楽しんで頂けたなら幸いです。

今回はきあいパンチ増量と言ったな(言ってない)。
あれは嘘だ。

未だかつてノーきあいパンチをやったことはなかった(多分)。史上初ですね。仕方なかった。今回はハルカちゃんメインだったんだもの。なんか最近やたら字数かかっちゃって。

次回予告
体はきあいで出来ている
血潮はきあいで心もきあい
幾度の戦場を越えてきあい
ただ一度の敗走もなく、
ただ一度の勝利もなし
担い手はここに独り
拳の丘で岩を穿つ
ならば我がきあいに意味は不要ず
この体は、
きあいの拳で出来ていた

次回 お前だパンチ 第17話
きあいの拳製
明日の自分に、きあいパンチ!!

予告ふざけすぎた感。……いつものことだな。今度こそきあいパンチ増量で……!
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