ネタバレと描写不足が多々あります。ご注意ください。
「なぜ…」
俺の横で、イースが小さく呟いた。
「なぜ…メビウス様が…あなたが、インフィニティを…
『シフォン』の事を知っているの…」
イースは震えながら正面のノーザを見る。
「フフッ…あなたと一緒よ。イースちゃん」
ノーザの言葉で、イースの体の震えが止まる。
その瞳に映るのは、驚愕の色。
「な…」
「なぜ?どうして?そう思うのでしょう?良いわ、私が教えてあげる」
ノーザが、ゆっくりと話はじめた。
「…あのラビリンスでの最期の戦い…メビウス様は、
あなた達プリキュアに勝てなかった。忌々しい事にね。」
「だからメビウス様は、あなた達プリキュアもろとも自爆しようと、
インフィニティの力を暴走させた」
「けど、爆発が始まる直前、自身が崩壊する最中、メビウス様は考えた」
「そして、行った。この敗北を、その忌々しいデータを、
インフィニティの力を使い過去に送ったのよ」
イースが息を飲んだがわかる。
だが、話の内容は俺にはさっぱりわからない。
「過去にデータを送ることで、その世界はその時点から分岐して平行世界になる。
つまるところ、データを送ったメビウス様自身の敗北は変わらないわ。」
「だけど、べつの平行世界…そう、データを送られた
『この世界』でプリキュアに勝利し、インフィニティの力を使い
全平行世界の支配を成せば、敗北した世界ごと支配することができるのよ」
「これが、メビウス様の作戦。だけど、その作戦にイレギュラーが紛れ込んだの」
「それが、イースちゃん。あなたの存在」
ノーザがイースに指を向ける。
「イースちゃん」
「あなたは、メビウス様の崩壊するデータの中に紛れ込んだ過去のデータ」
「キュアパッションとなり…その存在が消え去ったそれの、残りカス」
「最終決戦時に、メビウス様がキュアパッションから取り込んだ、管理データの残骸」
「あの雨の降る日、クラインの手紙とともに寿命を失い、
キュアピーチと戦いそして死んだ…ラビリンス総統メビウス様がしもべ。
『イース』よ」
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「フフフッ…良かったわね、イースちゃん。
あなた、自分の他にも同じ未来の記憶を持ったの仲間が欲しかったでしょう?
もしかして、他のプリキュアにも同じような娘がいるかも…そう思ったでしょう?」
やめて。
「安心しなさい。メビウス様も、私もクラインも、
あなたと同じ未来の記憶を持っているわ。
まぁ、私とクラインはメビウス様から教えて頂いたのだけど」
やめて。
「過去に…いいえ、この場合は未来に?どっちでもいいわね。
裏切ったことを気にしているの?大丈夫よ、イースちゃん。」
やめて。
「そもそもあなたはキュアパッションじゃない。その残りカスの『イース』よ。
キュアパッションはキュアパッションで元の世界で楽しくやってるわ」
やめて。
「そもそも、私達はあなたに感謝しているのよ。
あなたのおかげであの忌々しいプリキュアが誕生しなかった。
その間に、メビウス様はインフィニティを手に入れる為の
準備に取りかかることが出来たわ」
やめて!!
「ありがとう。イースちゃん」
――わたしの中で、何かが、壊れた。
「それでね、イースちゃんにはご褒美をあげようと思うの。」
ノーザが何か言っている。
「ほら、あなたの寿命って、未来の記憶だと
クラインが管理データを変更して少なくしちゃたでしょう?
でも、元々イースちゃんは今回のインフィニティを手に入れる為の任務用に
育成された国民だったから、最初から寿命は比較的少なかったの。」
ノーザが何か言っている。
「だからねぇ、今回のあなたの活躍にご褒美をあげようと思って。
イースちゃんの寿命をうんと延ばしてあげたのよ。だいたい100年くらい!
これなら、未来の記憶のように任務の途中でイースちゃんが死んで
プリキュアになっちゃう、なんて事なくなるでしょう?」
ノーザが何か、言っている。
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イースが力なく膝をついた。
それを恐ろしい程の優しい笑みで見下ろすノーザ。
…俺は、二人の話が何ひとつ理解できずに困惑していた。
ぷりきゅあ?みらいのきおく?一体何の話なんだ?
「キャーーーーーッ!」
俺が二人に問い掛けようとしたその時、大きな破壊音と共に悲鳴が広がった。
学校内で、何かあったようだ。
「どうやらサウラーくんも、やっと働きだしたようね」
「さ、サウラーも来てるんですか!?」
俺は、その場にへたりこんだイースに手を貸そうと、イースの横に膝をつく。
「ウエスターくん。イースちゃんの事は、今はそっとして置いてあげなさい。
それより、私達はインフィニティを手に入れに行くわよ」
「ウエスターくん?」
「え?あ…はい」
イースはへたりこんだまま、その目に何も写さず地面に顔を向けたままだ。
「スイッチ・オーバー」
「…スイッチ・オーバー」
ノーザに続いてスイッチ・オーバーした後、俺達はその場を後にした。
その間もイースは、下を向いたままだった。
「ラブ!こっちだ!」
ラブと大輔は、ナケワメーケから逃げる為学校内を走り回っていた。
二人は、黒板のナケワメーケの死角や意表を突き、
他の人が避難できる時間を稼ぐ様に一定の場所で逃げ回る。
二人は知らぬ事だが、幸いにしてこのナケワメーケはその能力に重きを置いており
パワーやスピードはウエスターのナケワメーケに比べると非常に低く、
ただの中学生であるラブと大輔でもなんとか逃げ切れていた。
「やれやれ。この鬼ごっこにももう飽きたきたね。そろそろ終わりにしようか」
ナケワメーケの後ろをゆったりと着いてきていたサウラーが呟いた。
「ナーケワメーケー!ケシケシ!」
ナケワメーケは邪魔だと言わんばかりに近くの壁を破壊する。
お構い無しに教室の壁や柱に穴をあけ破壊するので、辺りはボロボロになっていた。
その中を逃げ回るラブと大輔。
それでも、二人のその目から希望を消えていない。
「(…彼女が、メビウス様の最大の敵…)」
先日、ラビリンスに戻ったサウラーは、メビウス様直属にこの仕事を命じられた。
「この人間達の捕獲、ですか?」
「そうだ」
メビウス様の合図で、クラインが資料を渡す。
ただの人間を捕まえるだけには精密過ぎる、大量の資料だった。
人間を軽んじるラビリンスらしくない。そう思ってしまう。
だが、そんなことは自分には関係ない。
自分は、ただメビウス様の命令を遂行するだけだ。
「…では、早速四ツ葉町に戻ります」
「待て、サウラー」
メビウス様に呼び止められる。
「私も同行するわ」
メビウス様の脇に控えていた、最高幹部であるノーザが前に出た。
いよいよもってらしくない。
「サウラーくん。彼女達は、メビウス様の最大の敵よ。油断しないことね」
「メビウス様の最大の敵…」
サウラーは、渡された資料を見る。
[桃園 ラブ]
[蒼乃 美希]
[山吹 祈里]
そして…
[東 せつな]
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「ラブ!」
「大輔!」
あたし達は、お互いにお互いを庇い合いながら怪物から逃げる。
周りは見るも無惨にボロボロだ。
いつ崩れてもおかしくない。
「あの少年が邪魔だな…」
長髪の男が呟いた。
「ナケワメーケ!」
男が怪物に向かって何かを投げる。
あれは…大輔の…写真?
待って、すごく嫌な感じがする。
「あ、あれって…俺?」
黒板の怪物の真ん中に、大輔の絵が浮かび上がった。
「やれ、ナケワメーケ」
「ケーシケーーーシ!!」
怪物が両手の黒板消しで大輔の絵を消す。
その直後、大輔の姿が足元から消えていく。
「う、うわぁぁぁぁーーっ!?」
「だ、大輔!?」
ゆっくりと、大輔の姿が消えていく。
「資料の中に君の写真が有って助かったよ」
男は、まるで今起こっていることが何て事もないように言った。
「さて、そちらのお嬢さんには一緒に来てもらおうか…」
だけど、そんな言葉はあたしの耳には届かない。
「大輔!やだ!やだよ!」
僕が思っていたよりゆっくりと、黒板のナケワメーケの能力で
目の前の少年が消えていくのを、少女は泣きながら見ているだけだ。
メビウス様が恐れる様な、特別な力はついぞ見られなかった。
「なにかあるかと思っていたんだが…まぁいいさ。
ナケワメーケ、彼女を捕まえろ」
「ナーケワメーケー!ケシケシ!」
ナケワメーケが前へ出る。
「ラブ!逃げろ!」
消えゆく少年が、叫んだ。
「で、でも!大輔!」
「あいつらの狙いはお前だ!お前が逃げなきゃ…!」
大輔は、自分の体を見る。
もう胸の部分まで消えてしまった。
だが、痛みは無い。
「ラブ。お前が逃げなきゃ…俺は無駄死にだ」
自分は、きっともう死ぬんだろう。
大輔は不思議なほどにそれをすんなりと受け入れていた。
「ラブ。この学校には、まだ逃げ遅れたヤツがどこかに要るかもしれない。
助けを求めているヤツがどこかに要るかもしれない」
大輔はラブにゆっくりと語り掛ける。
「そしてそれは、美希さんや、祈里さんや、東かもしれない」
その言葉で、ラブの目の色が変わった。
「行け、ラブ!皆を助けてこい!」
そう言って大輔は、残った腕でラブの体を押し出す。
「大輔!!」
ラブは、後ろを振り返りながらも、その場から逃げだした。
サウラーは、追わなかった。
少女の方は別にいつでも追い詰められる。
それよりも、ナケワメーケの能力で目の前から消えてゆくその少年に興味を持った。
「あーぁ、結局最後まで言えなかったなぁ」
少年があっけらかんと言う。
「なぜ、彼女を逃がしたんだい?君は、彼女の事が好きだったんだろう?」
資料に書いてあった事だ。
[知念 大輔]
桃園 ラブの幼馴染でクラスメイト。
そして、桃園 ラブに好意を持っている。
「…なんで知ってるんだ」
「……見ていればわかるよ」
嘘をついた。
資料の話などする時間はない。
少年は最早、首だけ宙に浮いていた。
「わからないな…。こういう場合は、最後まで好きな人には見ていて…
傍にいてほしいものじゃないのかい?」
こんなことは、サウラーの読んできた本の中には書かれていない事だった。
「…自分でも不思議なんだけどさ。俺は俺よりラブの方が大事なんだ。
そもそもあんたに捕まらせるわけにはいかないだろ」
「ふん…そんなものかい。自分の事より他人が大事だなんて、理解しかねるね」
「それに…好きな人には、幸せになってほしいだろ」
少年は力強く言った。
その時、突如天井にヒビが入った。
いや、天井が落ちてくる!?
「ナーケワーメーーケ!?」
「なッ…そうか!この為に同じところで逃げ回っていたんだな!!」
ナケワメーケによってボロボロになった校舎は、いつ崩れてもおかしくなかった。
僕のナケワメーケではこの倒壊から逃げるスピードはない。
少年は、してやったりと忌々しい笑顔を浮かべて完全に消え去った。
大輔大活躍。お前ならきっとこのくらいしてくれる筈だ。作者信じてる。