東方与太噺   作:ノリさん

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どうも‼七夕をすっかり忘れていたノリさんでございます。

七夕のために慌てて書き上げたお噺ではありますが出来る限りの修正もした上で投稿させてい頂きます。七夕のうちに投稿したからセーフ。
もしミスがあったらすいません。温かい目で許して頂けるとありがたいです。

時間的には七夕ギリギリなんで、七夕の内に読める人は少ないかとは思いますが、そこはご容赦を。

そして今回はいつもとは違った感じでお送りさせて頂くつもりであります。


これは、鷹崎仁のかつての思い出を振り返るお噺。そして、幻想郷に来るちょっと前のお噺となっています。

それでは本編へどうぞ


閑話 いつかの七夕の思い出

~鷹崎仁 大学3年生 7月7日~

 

今日は朝から軒並み講義がお休みになり、1日暇な日だった。幸いにも結構な雨が1日中降り続けている。心理検査を行っての検査結果の報告書作成の課題などいくつかあったが、家で出来る作業ばかりだったので1日で終わらせてしまった。

むしろ時間が余ったのでテストの時に必要な文章題の事前に用意する必要のある回答用原稿の準備も終わってしまった。

 

で、気がついたら18時。せっかくの休みが休みでなくなってしまった。

晩御飯どうしようかな。幸い昨日の夜に買い出ししたから生モノとか大体の物はある。

 

と思いつつ、テレビをつけると今日は七夕だから面白くない特番ばかりだったのですぐに消した。

そうか、今日は七夕だったのか。1人暮らしだと季節の行事とか全くしないから忘れていた。よく考えればここ数年の俺の町の七夕は雨が降ってばかりだったと思う。

 

七夕で、雨か・・・・。思い出さずには・・・いられないよな。

 

 

 

 

*****

 

 

~鷹崎仁 高校3年生 7月7日~

 

「くっそつめてぇ」

 

予報の本日は1日快晴とは何だったのか。

 

俺はいつも通り面白くもない、居場所もない学校生活を終わらせてきた。

普段通り、ある日を境にますます通うようになった神社に向かっていた。

だが、途中で豪雨に襲われていた。予報があれでは傘など持つはずもなく、家も神社も両方走ったところでどうにかなるわけではないので、あきらめて濡れながら歩いていた。教科書はこういう時に備えて通学鞄のリュックサックにごみ袋を入れていた。で、それに教科書を包んでリュックに突っ込んでおいたので濡れる心配は無し。

俺は眼鏡のせいでレンズに水も 溜まる ので 堪った もんじゃない。お、ちょっと今の面白い。

 

歩いていたおかげでもう少しで神社には着くが、こんなびしょ濡れで行っても迷惑だし前通り過ぎて家に帰ろう。

幸い今日は俺以外の家族3人は弟の習い事の全国大会に出向いていて家には俺しかいない。多少家が濡れても怒られることはない。

そう思い神社の前を通った時

 

「あ~~‼びしょ濡れじゃないですか‼」

 

はい、何でこんな強い雨のなか外にいるのですかねぇ、早苗さんは。

 

「おう、早苗。今家に帰るからよ。気にすんな」

「もう‼こんなびしょ濡れじゃじゃいけません!早く神社の中に入ってください‼」

「きょうび、びしょ濡れって聞かねぇなぁ」

「そんな事はどうでもいいですから早く入ってください‼」

「お、おう」

 

早苗って時々怖いというか押しが強いというか、そんな時あるよなぁ。

と言う訳で手を引かれて、ちょっとドキッとしてしまいながらも神社に連行されてしまった。

2歳ほど下の娘に連行されるって・・・。

 

軒先に着いたとたん「タオルもってくるからちょっと待っててくださいね」と中に入ってしまった。

 

「やぁ、今日も来たな仁。ってびしょ濡れじゃないか!?早く服を脱げ、すぐに乾かしてやる」

 

はい、本日びしょ濡れ2回目。たまに出る早苗の言葉の古さはこの人の影響じゃないのか?

 

「やぁん、神奈子。軒先で年下男子に脱げなんてエッチー」

「なっ‼ああああ、ちち違うぞ仁!そんなつもりじゃないからな?」

「お邪魔します御2人とも。諏訪子はあんまり神奈子の事からかいすぎるなよ」

「はーい」

 

この2人が自分の事を神様と言ってきた、そして俺を救ってくれた人たち。八坂神奈子と洩矢諏訪子。

最初のうちは様付で呼んでいたし敬語だった。そもそも、女性に対して名前で呼ぶ事も敬語的な物を崩す事も俺は基本的にない。

 

けど出会ってしばらく経ったある日、諏訪子が「普通に話せ!そして名前で呼べ‼話さないと本気の駄々こねるぞ‼」と言ってきたことがあった。正直神様の本気の駄々をこねるは見たかったので「どうぞ!ぜひ神様の本気の駄々こねよろしくお願いします」と言った。そうしたら困ったように唸った。

そこに神奈子が「いじわるしないでやってくれ。そこそこ付き合ってから発ったのに一向に距離が縮んだ気がしないって気にしているんだ。普通に喋ってやってくれ」と言われたので「わかったよ。これでいいのか、諏訪子」と言ったのが始まり。諏訪子曰く「なんだか恥ずかしい事バラされて複雑だけど結果良ければすべてよし‼」だそうだ。そこからなし崩し的に神奈子も諏訪子に話すように話してくれと言われて話すようになった。

 

そしてさっきタオルを取りに行ったのが東風谷早苗。早苗が来てからしばらく経って早苗にも同じように話せと言われて普通に話すようになった。今ではちょっと懐かしい思い出だ。

 

 

「お待たせしました。って神奈子様?お顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「あぁ、早苗。だだだ大丈夫だよ。気にしないでくれ」

「ほら早苗。早くタオルあげないと仁が風邪ひいちゃうよ~」

「はわわわ、ど、どうぞ仁さん‼」

「ありがとう早苗。こんな事では風邪はひかないけどさ。・・・・っと拭き終わったけど中はいるのは遠慮するわ」

「ダメだぞ仁。濡れた服を着続けたらそれこそ風邪をひいてしまう。確かお前のために用意した着替えがあるからそれを出そう。お前は洗面所に行って着替えてこい」

「そんなものいつの間に。それならありがたく着替えさせてもらおうかな。じゃ、お邪魔しまーす」

「はいはい、私は神奈子と一緒に茶の間でお茶いれて待ってるね~。早苗は仁にあの大きい浴衣持って行ってあげて」

「はいっ、諏訪子様‼」

 

って言ったとたんに3人とも行ってしまった。はやっ。

とりあえず俺も洗面所行って濡れた服乾かしてもらおう。

 

 

 

******

 

ところ変わって茶の間。

 

「ねぇ、仁。聞きたい事あるんだけどいい?」

「なんだ、諏訪子。お菓子なら今日は持ってきてないぞ」

「そうなのぉ・・・・ってそうじゃなくってさ!何でおしりにタオル敷いてるの!?」

「そりゃ、畳を濡らさないためだよ」

「なんで濡れるの??」

「流石に見知った仲とは言え、他所の家でノーパンになるほど愉快な性癖は持ち合わせてない」

「うん、細やかな気遣い。良い事だぞ、仁」

「私もそこまでは気が付きませんでした・・・・」

「えぇ、おかしいと思ったの私だけ?」

「いや、多分この2人の感性は独特だから気にしないほうが良い」

「いや、仁が言っちゃダメでしょ」

「なんで?」

「はぁ・・・」

 

なんでそこでため息なんだ諏訪子。

うーん、会話って難しい。

 

で、他愛もない話をしていると早苗がふと話題に挙げてきた。

 

「今日は七夕なのに雨が降っちゃいましたよね。織姫と彦星さんは会えなくなっちゃいますね」

「うん?あぁ、七夕か。あれも一種の信仰だね。私たちの神社でもやっても良かったかもしれないな」

「う~ん、でもやるとしたら誰が運営するのさ。早苗と仁くらいしかいないじゃん」

「俺はパスだぞ。そんなめんどくさそうなのは嫌だ」

「私もちょっと・・・」

「相変わらず早苗は人見知りが激しいなぁ。仁の事始めて見た時もモガガガ」

「早苗?諏訪子の口をふさいでどうした?」

「いいえ、何でもありませんよ」

「はははっ、聞いてやるな仁。早苗にもいろいろあるのさ」

「ふぅん、まぁ良いけどさ。で、何話してたっけ?」

「えっと、七夕で雨が降っちゃったから織姫と彦星が会えなくなってかわいそうだなぁ・・・ってお話です」

「早苗は何でかわいそうだって思うんだい?」

「え?だって会いたい人がいて、会えるチャンスの日が来たのに会えないって悲しくなりませんか?だから、かわいそうだなぁって」

「それはもちろんそうだね。私だってそんな相手がいれば悲しいさ」

「ですよね!」

「でもね、早苗。会えなくなっても想い人を慕い続けられる時間って言うのは幸せな事だと思うよ。私はね」

「ふわぁぁぁ、流石神奈子様‼大人のお答えですね」

「でも神奈子にはモガガガ‼」

 

今度は神奈子に口をふさがれてるよ、諏訪子。お前さっきからいったい何を言おうとしてんの!?

 

「もがーもががっが‼」

「神奈子、離してやってくれ。諏訪子が何言っているのかわからん」

「う、うむ、仁がそう言うなら放そうじゃないか。いいか、諏訪子。余計な事は言うんじゃないぞ」

 

うわっ、ガチ睨みこわっ。

 

「ぷはぁ、ありがとうねぇ、仁。危うく神奈子に気絶させられる所だったよ~」

「で何話そうとしたの?」

「それはね~」

「仁‼」

「はい‼」

「余 計 な 事 は 聞 く な」

「イエス、マム‼」

 

こわっ、神奈子がここまで隠したい事ってなんだよ。って言うか何でそんな事さらっと言おうとしてんの諏訪子は!?

スーパー神様大戦とか始めないでくれよ。ぜってー神奈子はイメージ的にキャノンだよ。何キャノンかって?それはご想像にお任せします。

 

「は、話を戻しましょうか!ね、神奈子様」

「んんっ、そうだな早苗。おぉ、そうだ。じゃあ私と早苗の見解は話したから残りの2人にも聞こうじゃないか?」

「それは良いですね‼」

 

えぇ、そんなに七夕って思い入れあるもんじゃないしな。とりあえず諏訪子より早く言わないとネタがないぞ‼

 

「じゃ、私からね。良いよね?仁」

 

ハイ、先越されましたー。

 

「お先にどうぞ、諏訪子様」

 

もう出だしを挫かれた段階で決まっていたようなものだ。

 

「それじゃあねー。そもそもあれってイチャつき過ぎ、仕事しないのはダメだよって年に1回しか会えなくなったんでしょ?」

「大分ざっくりしたけど、まぁそんな感じだな」

「てことはイチャついてない期間がある分やっぱり余計に相手が恋しくて仕方がないとは思うよ。でもやまない雨はないって言うしさ。いつかは必ず会えるんだよ。それが次なのか、そのまた次なのか。いつになるかはわからないけどね。だから、2人の想い慕いあう気持ちが変わらず在り続けるなら、その時まで2人は精一杯生きて、いつかの幸せな時間のために元気に生きていけると思うよ。・・・って感じかな!」

 

おぉ、諏訪子・・・。

 

「ごめん諏訪子。俺、諏訪子からそんなしっかりした話が聞けるなんて思ってなかった」

「なんだとー‼仁は私の事バカにしてるの!?」

「いや違うって‼てっきり諏訪子はもちょっと面白可笑しく話すと思ってたもんだから、真面目な話が聞けてむしろ普段とのギャップが出てよかったって事だよ‼」

「へぇ、いやぁ、まさかギャップが出ちゃったかー」

 

ほんと諏訪子ってコロコロ表情変わるよなぁ。ほんとに恐れから信仰される祟り神なの?って感じだ。

まぁ祟り神の場合単純な恐れだけの信仰じゃないから何とも言えないけど。

 

「うむ、仁の言う事も一理あるな。かくいう私も同じように思ってた」

「私も諏訪子様がこんなに真面目に答えてくださるとは思ってませんでした。そしてとっても大人な回答ですね」

「えへへ~、やるときはやるのよ~」

 

さっきから早苗の物言いに冷や冷やしてるのは俺だけ?

大人な回答ってそれ受け取り方によっちゃ、馬鹿にしてるみたいになっちゃうよ?

まぁ、でも早苗に限って、そこまでの悪意を持っての発言はないか。

 

う~ん、それにしてもこの諏訪子のチョロさとでも言えばいいのだろうか?ちょっと不安になってくるなぁ。

でも時々いい事言うって事は、諏訪子もちゃんとした神様って事か・・・。

 

「ちょっと仁。失礼な事考えてない?」

 

なんでわかった!?

 

「そんな事はないよ、諏訪子」

「ホントかなぁ」

「ホントホント、オレウソツカナイ」

「なんでカタコトなのさ!?」

「はいはい、諏訪子そこまでにして仁の見解も聞こうじゃないか?」

「でも神奈子~」

「あとで個人的に聞きなよ・・・。ほら早苗が仁のを聞きたくてうずうずしているじゃないか」

「べ、別にそんな事はありませんよ!?」

「あ、わかったよ、早苗‼」

 

今ので何が分かったというんだ。

 

「ななな、なんでしょうか?」

 

早苗もめっちゃ動揺してんじゃん。

 

「もしかして私と神奈子が思っていた以上に大人な回答を出してきたから、自分だけ子供っぽい事言っちゃってちょっと恥ずかしくなってきたんじゃないの?それで仁に最後の望みを託して・・・」

「あぁ、なるほど。早苗、気にすることはないよ」

「神奈子様も諏訪子様も何言ってるんですか!?合ってますけど‼」

「合ってる事は認めるんだな」

 

あらやだこの娘、超素直‼

 

「そうですよ~どうせ子供っぽいですよ~。でも仁さんは私の味方ですよね?」

「いやぁ、私たちと同じかもよ」

「こら、諏訪子。あんまり早苗をからかうもんじゃないぞ」

「いいじゃん、神奈子。で、仁はどうなの?」

「って言われてもさすがに俺ってそこまで七夕に思い入れとかもある訳じゃないしなぁ」

「それはダメですよ‼」

「そーだそーだー。私達も話したんだちゃんと話せー」

「うん、私も仁の見解は興味があるな」

「ですよねぇ。ま、俺の考えでいいなら」

 

っても俺のが一番まとまってないし、めちゃくちゃな気がするんだよなぁ。

 

「あー、じゃ話すけど一応最後までちゃんと聞いてから物言ってくれよ」

「もちろんさ。さ、始めてくれたまえ」

 

え?神奈子さん、そんなに改まって言われるとちょっと困るんだけど。大した事言わないし。

 

「まぁ、まず結果的な事言うと織姫と彦星はかわいそうでもないし、かといって想いあう時間が伸びたりすることもないって感じだな。つーか、毎年会ってんだろ」

 

「え?」

「ん?」

「ほぇ?」

 

上から、早苗、神奈子、諏訪子の順に驚いていた。

まぁ、そりゃそうなるよなぁ。

 

「だってさ、そのお話に出てくる天帝だったっけな?確か神様的ポジションだった気がするんだけど・・・。そいつって確か織姫と彦星に真面目に働いたら1年に1回七夕の日は会わせてあげるって約束したんだろ?確か織姫と彦星って、2人が会う前からどっちも仕事するときは真面目にやるイメージだったからさ。大切な人と会うためにってなったら気合入れて真面目に働くんじゃないの?だから会えないって事はないだろ」

「でもそれじゃ、雨が降ったら会えないんじゃ?」

「まだ終わってないよ早苗。うーん、これは俺の自己完結した結果と言うか、理論的に考えたらめちゃくちゃ感情論ばっかでアレなんだけどさ・・」

「ほら、何でもいいから話しなよ~」

「わかったよ諏訪子。まぁ、確かに雨が降ったら天の川に水が溢れてだったかな?会えなくなるって言うけどさ。俺、天帝がそんなに意地の悪い神様みたいな奴だとは思わないんだよなぁ」

「なんでそこで天帝が出てくるんだ?」

「神奈子もまだ続いてるから。何でって言われるとな、元々天帝は2人がやるべき仕事をしなくなったから、ちゃんと働くように離れさせたんだよな。ちゃんと理由があってそんな事するような人だったら、約束守って真面目に働いていた2人に約束を破るようなことはしないと思う。何かしらの手段で会わせてあげているでしょって思うんだよね」

「なんだか思っていたよりもかなり優しい見解ですね」

「うん、仁ってもっと現実見た物の見方してるから、もっとドライな感じかと思ったよ」

「早苗に諏訪子はどんな目で俺の事見てるんだよ。いや俺も物語とか神話とかは大好きだからね。そんないちいち物語の面白さを叩き潰すような無粋な真似はしないよ」

「でも、天帝の性格とかの描写まで書いてある物なんてあるのか?君が何の根拠もなくそんな補完の仕方はしないと思うんだが」

「神奈子は鋭いなぁ。そうだよ、でもこれは俺のオリジナルだよ。俺も天帝の性格まで補完した上での話は聞いたことがない。よく見なくてもわかる事かもしれないけど、天帝の行動って筋は通ってるし間違ってることは言ってないんだよなぁ。まぁ解決手段が適切かどうかはさておいてだけどね。そんな天帝だからって言うのもあるし、それに・・・・」

「「「それに??」」」

 

「俺の知っている限りでの神様ってのは、約束を守って努力したりしている人間との約束をちょっとやそっとの事でで諦めさせるような薄情な神様ではないからね。むしろ、頑張り続けてたら元に戻して前より幸せなハッピーエンドにしようとしてくるような神様だからさ。筋の通っている天帝も似たようなもんじゃねえかなって思っただけだよ」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

ボッ と音が鳴りそうな感じで3人の顔が赤くなった。

ちょっと面白い。

 

「おいおい、何で顔赤くしてんだ?」

「いやぁ、だってその・・・・」

「そりゃあねぇ。ほら・・・・ね。神奈子」」

「そ、そうだな。諏訪子」

「すまん、俺には何を言ってるのかさっぱりわからん」

「神奈子、この男に何でか言ってやってよ‼」

「私からもお願いします神奈子様‼」

「よし、解説よろしく頼む神奈子」

「お前たち・・・・。はぁ、わかったよ。良いか、仁。」

「おう、なんだ?」

「お前が今言った事はその・・・、勘違いではなければ・・・だな。その・・・・」

「なんだよ言いにくそうにして。俺はそんな神奈子が言いごもるようなエロイことは言った覚えはないぞ」

「そ、そうじゃなくてだな‼えぇい、お前が言ってるのは私達をべた褒めしたのではないかと言う事だ‼」

「ん?・・・・あぁ、そうだな。そうなるのか?まぁ事実だし良いんじゃないか?」

「そ、そうか。それならそれでいいんだが・・・。まったく・・・」

「諏訪子様、仁さんってやっぱりズレてると思います」

「うぅん、まぁ、そうだねぇ」

「おい、褒めたのになんだその言われようは。ひでぇなおい。顔赤くして言われても何も気にならないけどな。そんな事より、腹減ったな」

「えぇ、自分で壊していくスタイル?」

「何を壊すんだ、諏訪子?・・・っても俺部活帰りだし、腹減ったんだよ。今何時?」

「えぇっと、18時ぐらいですね。あ、今日は仁さんも一緒にに食べませんか?」

「俺は今日は家に誰もいないからいいけど、良いのか?」

「うむ、仁ならいくら居て貰っても構わないよ」

「そうだよ!いまさら何気にしてるのさ」

「冷蔵庫の中身」

「そっち!?」

 

当たり前だろ。こうなって俺が料理を作らなかったことがあっただろうか?いや、ない。

 

「冷蔵庫の中身は大丈夫ですよ。今日買い出しに行ってきましたから、何でもありますよ‼」

 

うん、作らせる気満々だったんだな。

 

「でも俺今日疲れたしなー。楽な物にしたいし・・・。今日は手巻き寿司とかでいいか?」

 

そうしたらちょっと俺が巻くもの作ればいいだけだし。

 

「あれ?珍しくご馳走だね?」

「おい諏訪子。その言い方は普段の俺の料理は貧しいとでも言いたいのか?」

「ち、違うよ~。仁の料理って節約しながらおいしくいっぱい食べられるような実用系の料理ばっかじゃん?だから派手に食材使うようなイメージなかったからさ」

「まぁ、確かに・・。でも俺も使う時は考えなしに使う事もあるぞ。今までの料理は早苗が自分でも作れるような物を教えてくださいって言ってたから、教えながら作った結果だぞ」

「そうだったのか。で、早苗は料理の腕は上がったのかい?」

「一応はそれなりに出来るようになりましたけど・・・・。仁さんほどの物は作れませんね‼」

「自信をもって言うな。ってまぁ教えてる側がそう簡単に抜かれても困るんだけどさ」

「でも神奈子様、仁さんの指導が厳しいんですよ~」

「おぉ、そうなのかい?仁、もうちょっと優しくしてあげたらどうだい?」

「早苗が厳しく指導をお願いしますって言ったから無理。俺はしっかりダメなとこはダメって言うぞ」

「ゔ、それはそうですけど・・・」

「まぁいいや。ほら早苗、作りに行くぞ。俺は腹が減った」

「はい‼今日もご指導よろしくお願いします‼」

「早苗ったら嬉しそうにしちゃってさ~」

「うん、笑顔なの良い事じゃないか。でも仁1ついいかな?」

「ん?何だ?」

「どうして手巻き寿司みたいなご馳走にしたんだい?」

「あ、それ私も気になった‼ただ疲れたからって訳じゃないよね?」

「え?そうなんですか、仁さん?」

「そんな訳ないだろう・・・・。と言っても良かったけどやっぱ鋭いね。まぁ、理由はあるよ」

「へぇ?そうなんですか?教えてください、仁さん」

「早苗は食い付き過ぎな気がしないではないけど、大した理由じゃないよ。せっかくの年に1回織姫と彦星が会える日なんだからさ。ハレ(晴れ)の日になりますようにって事で完全に駄洒落だけどご馳走にしようと思ってね。それにハレの日には白米、尾頭つきの魚とか酒とか飲み食いするんだろ?流石に尾頭つきの魚とはいかないけど、お刺身にでもして、色んなものを巻いて美味しく食べられる手巻き寿司が丁度良いかなって思ったんだよ。あ、酒はそっちで勝手に飲んでくれよ。俺は未成年だから飲まないぞ」

 

「⁇どういうことですか?」とわかっていない早苗。

「ほほぅ、やるじゃないか」とわかって静かに笑う神奈子。

「やっぱ仁って学力はいまいちって感じだけど頭はいいよね」と一言多い諏訪子。

 

まさに三者三様といった反応だ。諏訪子はあとでちょっとお説教。

 

「ほら早苗。早く準備するぞ。あっちで作りながら今の解説するから。こっちの準備は任せたよ、2人とも」

「まっかせて‼」

「うん。酒とかその他諸々は任せておけ!」

 

うん神奈子に諏訪子、そうじゃないけど・・・。まぁいいや。賑やかな方が良いだろう。

 

「行きましょう仁さん‼」

「そうだな早苗。俺はもう限界が近い」

「それならなおさら急ぎましょう‼」

 

早苗は俺が何か面白い物でも作るんじゃないかと思ってるんだろうか?えらい元気な気がする。

まぁレパートリーが増えるって楽しいからその気持ちはよくわかるぞ。

さて、何を作ろうか?せっかくだし普段作らないような豪華なほうが良いかな?

 

 

結局その日は雨が降ったままだったけど、俺たちは4人で楽しく時間を過ごした。完全に七夕パーティーだった。酒を勧めてくる大人組2人には参ったが、なんとか飲まずに済んだ。

 

そうそう、雨は降ってるけど織姫と彦星は俺の考えであればきっと会えてる。

都合のいい解釈だし甘い考えなのかもしれないけど、物語ならそれくらいの幸せがあってもいいと思ったんだよな。

 

 

*********

 

~~ 鷹崎仁 大学3年生 7月7日~~

 

時刻は19時と30分。思い出しながら何となくキッチンで手巻き寿司を作ってしまっていた。

元々刺身は今日中に食べちゃおうと思ってたからいいんだけどさ。

なんだか一人で食べきれる量じゃない量を作ってしまった。余ったら明日の朝ごはんにしよう。

 

お、そうだ。せっかくだしこの前部活の先輩から飲めないからあげると言って渡されたお酒の箱があったな。

あれを開けよう。真っ白の箱に入っているから、何の銘柄が入っているか見てなかったけど、先輩曰く日本酒が入っているらしい。さっそく開けて銘柄見てみよう・・・ってこれって。

 

「はははは、これは傑作だな‼」

 

先輩がくれた日本酒の名は 純米吟醸 吉福金寿 と言う 真澄 と言うお酒のちょっと贅沢なやつだ。

それと手巻き寿司のために用意した物を机に並べた頃には雨がやんでいた。本当に久しぶりの雨のない七夕だ。

あの時とは違って、ちゃんとハレの日になってくれたじゃないか。

 

お酒を盃に注ぎ、それを持って晴れたので空を見にベランダに出た。

 

「おぉ、ほんとに急に晴れたなぁ」

 

あの時とは違った景色の。1人だけの七夕パーティーが始まった。

 

なぁ、結局お前たちと過ごしていたあの時間は幻だったのかなぁ。俺以外誰も何にも覚えちゃいないんだぜ。

本当だったのか確かめようがないけどさ、あの時間は本当に幸せだったよ。

変わらず思い出せる思い出と、あの時とは大きく変わってしまった俺、および環境。

時が経つってのは残酷だよな。もう4年ぐらい経とうとしているんだろうか?

その間に色々と大きく変わてしまった。俺自身も。

 

なぁ、俺もう酒飲めるような歳になっちゃたぜ。

もうどうしようもなく駄目な男になってしまったよ。こんなんじゃ、胸張って会えねぇよ。

それまでに何とかなってるといいなぁ。

 

また会えるんだろうか?その時俺はどんな気持ちを抱くのだろう?

あいつ等は今の俺にいったいどんな気持ちをを抱くのだろうか?

 

わからない。わからないけど、その時は笑って会えるようにしよう。

 

「ふぅ、今日はえらく星が綺麗に見えるなぁ」

 

今までで1番綺麗な星空かもしれない。

 

星空を見上げながら

「早苗、神奈子、諏訪子。お前達が本当に居た存在なのかは今となってはもうわかんねぇけど、きっとどっかで元気にやっているよな。また・・・会えるよな?」

 

そして俺は持っていた酒を一気に煽った。

何故か胸にえも言われぬ熱さが込み上げてきたが、頬を撫でた風がその熱さを落ち着かせてくれた。

 

 




さて、いつもながら最後まで読んで頂きありがとうございます。

今日慌てて13時から16時、20時半から23時10分程まで。
何とか七夕に間に合うようにと、6時間ほどで仕上げる事となりました。

いつか書こうと思っていた過去のお噺を、今回の七夕に合わせて急遽七夕と絡めたお噺にアレンジしました。アレンジしながら最初から打ち込まなければいけなかったので、お噺のベースがあったとはいえ、今までで1番大変でした。もうこんな大変な事はしないようにしたい。

真面目なお話を少し。
今回はちょっとこれまでのいつものお噺とは違った方向性の仕上がり方となりました。
最近ので言ったら、さりげなくかわいい狸が出てきたりとか主思いの狐があらぶったりのような日常的なお噺や、主人公の過去の暗い感じのお噺など。
今までのは、そんな感じでした。

しかし今回は読者の皆様をちょっと切ないような、ちょっと胸を打つようなお噺に仕上げたいなと思い書き上げました。もちろんお噺として面白いと思って貰えれば嬉しいです。そして、今回は読者の皆様の胸にちょっとした切なさや、胸を打つような何かが感じて頂けたなら、なお嬉しいです。

今回のお話は、最後のお酒の部分など なぜ? と思うような、わかり難い点もあるかと思います。
ですので、ヒントのような物を書いておきますと

・ハレとケ
・真澄の鏡

の知識があればより楽しんでもらえるかと思います。
真澄の鏡に関しては、pixiv百科事典の 八坂神奈子 の記事を読んで頂けたらとてもわかり易いかと思います。
主に上記の2つの事を知った上で今回のお噺を読み返して頂ければ、なるほど と思って貰えるのではないかと思いますので是非。

今回はここまで。おそらく次は本編の続きでお会いすると思います。
これを最後まで読んでくださった皆様の願いが叶うよう祈りつつ今回はお別れです。
次話でお会いしましょう。さようなら。

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