東方与太噺   作:ノリさん

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どうしてこんなにギリギリになってしまったんだ…。これじゃ去年と変わってないじゃないか。いや、きっと投稿は少し早いはずだからセーフ。

て訳で、他愛もない七夕噺おひとつどうぞ


閑話 奇跡。織りし想いを風に乗せて

どうして好きになったのか聞かれると困る。きっかけなんていくらでもあって、意識しだしたのは本当にふとした、些細な事だったと思う。そんな風に思わせた貴方と離れてかなり立ったある日のお噺

 

 

 

 

 

 

********

 

 

「良い風が吹いていますね」

 

 

この幻想郷に来てからかなり経ちました。ここは良い所で、最初はやっぱり少し不便する事もあったり、戸惑う事もあったり、あっちの事を思い出して落ち込んだりと色々ありましたが今はとても楽しく暮らしています。

神奈子様に諏訪子様もいろいろあって楽しそうです。もちろん私も楽しいんですけどね。

 

 

「さなえ~。なんか今日暑くない?」

 

今、お茶の間で私を呼んだのが諏訪子様。八百万の神であり、土着神でもあり、祟り神でもあり、この神社の本来の祭神でもあります。……ちょっと多すぎますね。分かりやすく言うと力を持った凄い神様って感じでしょうか?

 

「どーしたの?」

「いえ何でもありませんよ、諏訪子様」

「今戻った。悪いけど早苗。冷えたお茶でも出してもらえるかな?」

「おかえりなさい、神奈子様。今お持ちしますね」

「私にも!」

「もちろん諏訪子様の分もお持ちしますよ」

「さっすが早苗分かってるぅ」

 

すぐ側にある台所にお茶と参拝者さんから頂いて冷やしておいた葛餅もお出ししましょう。

何やら難しい顔をして御二人で話をしていますが、今行っていた用事の事でしょう。あまり私が聞いても良くわからないので御二人に任せておけばいいでしょう。

 

 

「お待たせしました。お茶と参拝者の方から頂いた葛餅です。冷やしておいたので美味しいですよ」

「ありがとう早苗。…うんお茶も葛餅も美味いね。熱い中で火照った体を冷やすのにちょうどいい感じだよ」

「ほんとに暑いよねぇ。いくら梅雨明けしたからって急に暑くなりすぎ。こんなんじゃ干からびちゃうよ」

「そろそろ熱中症に気をつけないといけませんねぇ。あ、梅干は漬けてあるので塩分補給はばっちりですよ‼」

「…昔からの知恵って偉大だよねぇ」

「そうですよねぇ。無いなりに生きていくために知恵を振り絞って来たんですもんね。すごいです」

「こらこら、早苗。素直なのは良い事だけど、鵜呑みにするのはよろしくないな。今諏訪子は早苗は年齢に似合わずおばちゃんぽいなぁと思っているに違いないぞ」

「そうなんですか?」

「えぇと、その…」

「ほらな」

「なんだよー、言うのやめた事を掘り起こさなくたっていいじゃないかー」

「本当に思ってたんですか⁉」

 

 

ちょっとショックです。そんなに若々しくないなぁ。確かにあっちに居た時も偶にお母さんみたいとか言われてた時もありましたけど…。まぁ、こういった事でも実際役立つことが多いので良いんですけどね。

 

「いやー、ごめんって早苗。怒った?」

「いいえ、怒ってませんよ。役立つことも多いんで、むしろ賢く生きってるって感じがするので良いんです。それにこういった中にも思い出がありますから」

「そっか。もぉ~早苗は本当に可愛いなぁ」

「何だか微笑ましいな」

「そうですか?」

「うんうん。恋する乙女は若々しいよ~」

「もう、諏訪子様ったら」

 

 

まぁ、確かに料理と言いこの辺りの事は仁さんに教わった事なんですけどね。

 

「…元気にしてるでしょうか?」

「元気にやってるよ。きっと仁なら上手くやってるさ」

「まぁ、私が鍛えたアイツの事だそんじょそこらの事じゃ動じないわよ」

「…また、会えるでしょうか?」

「…それは」

「いえ、神奈子様。わかっていますから大丈夫ですよ。ここは良い所ですから大丈夫です」

「早苗は、また仁に会いたい?」

「もちろんです。でも今の生活も好きなので会えなくても良いんです。きっと仁さんなら大丈夫ですから。あ、私境内のお掃除してきますね。神奈子様と諏訪子様はゆっくりなさってください」

 

 

 

 

ふと。思わず出てきた言葉で一瞬にして空気を変えてしまった。

そんな気まずさに耐えかねて私は景色が揺れそうな境内の掃除へと逃げ込むしかなかった。

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

「ねぇ、神奈子。何とかしてあげられないかな」

「何をだい?」

「さっきの早苗の事だよ。会わせてあげられないかなって」

「…気持ちはわからないではないが難しいだろうね。あのスキマ妖怪がそう簡単に外界との接触を許すとは思わない」

「そうかぁ」

「加えて、何やら最近外界に対して警戒しているからか以前よりも精力的に動いている。まぁ、これは単純に最近いろいろあり過ぎたからかもしれないけどね」

「まぁ、結局難しいてことかぁ」

「いや、まぁ、そうとも言えないんだけどね」

「?」

「まぁ、やり方はいくらでもあるって事さ。まぁ、それよりも彼に会わせるのは良い事なのかね」

「良いことに決まってるじゃん」

「まぁ、単純に考えて会いたい人に会うって事はいいことなんだろう。けれど、もし早苗が悪い意味で衝撃を受ける姿に変わっていたらどうする?」

「さっき大丈夫だみたいな事言ってたのに?」

「早苗はアイツが一番落ち着きがなかった頃を知らないからな」

「まぁ、そうだね。私達も心を開かせるのに時間かかったし。あの頃の仁はなかなか…全部に恨めしさを感じてたもんね」

「あぁ、そうだ。それから心身ともに鍛えて分かれる前までには学校生活を無理なく送れるくらいには回復した。でも、本来アイツは独りで生きて来たんだ。それが崩れて壊れかけで何とか持ち直した。それでも根底にある孤独感や恨みは解消はしていない」

「だから私達の知ってる彼じゃなくて、悪い方向に進んだ彼がいるって事?」

「そう…かもしれないね。でも私は会いたいよ」

「……」

「だって、もしそうだったとしてもやっぱりうじうじしてるくらいなら一目でもいいから会いたいよ。そうなってたら私達が原因でもある訳だしさ。辛くても悲しくても、ずっと会えない位ならその辛さを背負う事になってでも会いに行くよ」

「…それが早苗の為になるだろうか」

「…わからないよ。今のはあくまで私の気持ちだからね…でももう早苗もただの子供じゃないよ。それでもし早苗が悲しむことになっても私達がいるでしょ」

「…軽く言ってくれるねぇ。結構早苗って頑固と言うかなかなか意地っ張りというか…」

「誰に似た事やら。親の顔が見てみたいもんだね」

「鏡でも貸そうか?よく見えるよ」

「いやよ。その胸の鏡で見たってどうせ超絶可愛くてお育ちのいい女の子しか映らないんだもん」

「…ほんと早苗はいい子に育ってくれたなぁと思うよ」

「神奈子の方がおばさん臭いね」

「そう言うお前はかび臭いわね。天日で干しとこうかしら?」

「ん?」

「何か?」

「まぁ、今のは見逃してあげるよ。私は超優しいからね」

「ホントに優しい事。ま、今諏訪子と争ってもどうせ私が勝つだろうしね」

「なんか言った?」

「いや何も。…とりあえず可愛い可愛い早苗の為に一肌脱ぐとしましょうかね」

「半袖にでも変えるの?」

「わかってて言ってるでしょ。…でもいい加減暑いから変えようかしら」

「その時は早苗にでも頼まないとねぇ」

「いや、この白い部分取れるから。んっしょ、ほら」

「ホントだ⁉」

「ま、ちょっとまた出てくるわ。夕飯までには戻るわ」

「いってらっしゃい。…私もちょっとだけ動いておこうかな」

 

 

 

**********

 

 

~ 七月七日  博麗神社 ~

 

 

「はい、じゃあ、飲み物って言うかお酒持ったわね。はいカンパーイ」

 

「「「「「「「かんぱ~い」」」」」」」

 

 

神奈子様に言われて宴会に来ましたが、なんだか急ですね。

まぁ、急に宴会やるのなんて珍しくないんですけどね。

でもこの胸騒ぎは何でしょうか。

 

「よう、早苗。何シケた面してるんだよ。こんなに綺麗な星空の下で酒と肴がつまめるんだぜ」

「魔理沙さん…。いや、七夕になるとちょっと昔の事思い出しちゃって」

「昔って?」

「ここに来るちょっと前の事なんですけどね。ある男の人がいたんですよ」

「なんだ、彼氏か?」

「そんなんじゃないですよ。まぁ何と言うか変わってるけど暖かくて、曲がってるけどまっすぐな不思議な人なんですけど面白い事言ってたんですよ」

「何て言ってたんだ?」

「七夕の日に雨が降ってたら会えないみたいな説があるのはご存知ですか?」

「あ~アレだろ?天の川が溢れてしまって二人は会えなくなりますって奴だ」

「そうです。私はそう思ってたんですよ。その時の七夕は雨が降ってたんですけどね。その男の人は『毎年会ってんだろ』って言いきったんですよ」

「なんじゃそりゃ。いい酒のつまみになりそうな話じゃないか」

「私も飲みながら話してますからね。良いんじゃないですか?」

「んで、続き聞かせろよ」

「そうですね。何でですかって聞いたら『天帝はやる事をしなくなったから、ちゃんと働くように離れ離れにしたんだよな。ちゃんと理由があってそんな事するような人だったら、約束守って真面目に働いていた二人に約束を破るようなことはしないと思う。何かしらの手段で会わせてあげているでしょって思うんだよね』って言いだしまして」

「ははははっ、そりゃいい。むちゃくちゃだけど筋がある」

「そうなんですよね。その男の人結構現実主義って言うか少しドライな感じって言うか、そんな物の見かたしてる人なので意外だったんですよ」

「意外とロマンチストだった訳だ」

「いやぁ、それがそうとも言えなくてですね」

「なんだよ?もったいぶるな」

「『俺の知っている限りでの神様ってのは、約束を守って努力したりしている人間との約束をちょっとやそっとの事でで諦めさせるような薄情な神様ではないからね。むしろ、頑張り続けてたら元に戻して前より幸せなハッピーエンドにしようとしてくるような神様だからさ。筋の通っている天帝も似たようなもんじゃねえかなって思っただけだよ』って言ったんですよ。結局ロマンチストとかじゃなくて彼から見た神奈子様や諏訪子様の姿を見てそう補完してたんですって」

「お前らそんなにいい神様だったけかなぁ」

「あちらでもかなりの信仰はあったんですよ。かつてはですけどね。まぁ、でも私はその考えが好きで、その事を言ってた彼も好きだったので七夕になると思い出すんですよ」

「…なぁ、お前はそいつに会いたいのか?」

「会いたいです。もしかしたら私の知っている彼じゃないのかもしれないですけど、やっぱり一目でもいいから会いたいです」

 

 

魔理沙さんの問いに私は上手く笑って言えていたのでしょうか。

 

 

 

「やっぱり、諏訪子の子孫だね」

「そうみたいだね。私もまだ若いって事だね」

「その台詞が年寄り臭いと思うんだけどねぇ」

 

 

 

********

 

 

 

お開きになり三人で帰ろうと思った所、神奈子様と諏訪子様に神社の裏に呼ばれて来てみれば、そこには課のおう会の賢者が。

 

「はぁい。守矢の巫女さん。突然だけど外の世界でも覗いていかない?」

「え?」

「まぁ、端的に言えば貴女の想い人の姿見たくない?って事よ」

「会えるんですか⁉」

「会うのはダメよ。こっち側に来た以上むやみやたらにあっちに干渉するのは良くないですから。あくまでスキマ越しに見るだけですよ。それでもいいなら今から少しだけ見れますよ」

「早苗、これはお前自身で決める事だ。見ずに帰るもよし、見て帰るも良し」

「だだしこれを見る事により後悔することになっても私たちは何もしない。お前ももう唯の子供ではないだろう?」

「神奈子様…。諏訪子様…」

「「さぁ、どうする早苗」」

「お願いします。後悔する事になっても、一目でも良いので仁さんを見たいです」

「じゃ、話はまとまった様だし、こっちのスキマに入って頂戴」

「じゃ、行こうか早苗」

「はい、諏訪子様」

 

 

 

*******

 

 

 

「結構いい部屋にいるじゃん。無駄な物が無くていい部屋だね」

「なんだ、結構服とかの趣味変わってるな。昔は着れたらいいとか言ってて無頓着だったのに急に色気でも付いたのかしら?」

「手巻き寿司ですか…。私達のこと忘れないでいてくれたんですね」

「そうだね。忘れようとしててもおかしくないのに覚えててくれたんだよ」

「私達の知っている仁はやっぱり仁だったね。結局辛い思い出があったとしても忘れられないのよ」

「神奈子様、それって…」

「まだ、きっとかつての事を気に病んでいるのさ。それでも生きることをやめられない。アイツは臆病なんだよ」

「まぁ、それだから仁なりの強さが身に着いたんだよ。私達だって忘れられのは辛いでしょ?」

「ええ。まだ私や神奈子様や諏訪子様の事覚えてくれたことを確認できただけで充分嬉しいです」

「で、仁はどこにいるの?」

「見えませんね」

「あ、ベランダに居るみたいだよ」

 

 

『早苗、神奈子、諏訪子。お前達が本当に居た存在なのかは今となってはもうわかんねぇけど、きっとどっかで元気にやっているよな。また・・・会えるよな?』

 

 

「紫さん!お願いです、彼に何かさせてくれませんか?」

「えぇ、困ったわねぇ。う~んモノによっては許可するわよ」

「風を少し吹かせるって言うのはダメですか?」

「早苗…」

「諏訪子。早苗に任せよう」

「風ねぇ。なんでそれなのかしら」

「私たちに共通しての思い出の現象が良い風が吹く事だったんです。だから、だからそれだけでもさせてくれませんか?」

「ん~…わかったわ。それは許可します。でもそれが終わったら帰って貰いますね」

「わかりました!さ、神奈子様、諏訪子様。一緒にしましょう‼」

「え?いや私は恥ずかしいし…」

「神奈子はやらないみたいだし、私と早苗でやろうね~」

「別にやらないとは言ってないだろう」

「やるなら早くしてくれないかしら。私は少し眠いのよ」

「わかりました。行きますよ神奈子様、諏訪子様」

 

 

「はいよ~、仁。もっと幸せに生きられますように。それ」

「もっと鍛えなさいな。でも、今のアンタもいい男だよ、頑張りな。ほらっ」

「もう会えないかもしれないですけど、もし会える日が来たら笑って会えることを祈ってます、そーれっ」

 

 

この風に乗せて私達の思いが届きますように。

 

 

最後に見えた仁さんの顔は少し笑っていたような気がしました。何かしら伝わってたらいいな。

 

 

 

*****

 

 

「帰って来たね。私達の神社に」

「さ、今日は休もうじゃないか。また明日から忙しくなるわよ‼」

「はい!」

 

 

星を見上げて呟かずにはいられなかった。

 

 

「今日だって間接的には会えたんです。また会えますよ。きっと奇跡は起こるんですから‼」

 

 




毎度ながら最後まで読んで頂きありがそうございます。
去年の七夕の続き?と言うか。これで去年の七夕の噺は完成でございます。

一年間反応とかもらえて続けられますようにと言う願いを込めて去年の私はこれを書きませんでした。何だか達成できたようで嬉しかったり。

最近は更新頻度遅くなってますが、生きていますし書いているので気長に楽しみに待っていただけると嬉しいです。いやぁ、就活って忙しいですね。
Twitterとかではちょくちょく生存報告的に呟いているので興味があれば是非。

生憎の台風だったりしますが、皆様の願いが叶いますようお祈りしつつこの辺で。
それではまた次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら。

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