ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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あなたはゲームで命をかけられますか?

もちろん答えはノーだ。
百歩譲って道端で殺人鬼に殺されるなら、『まだ百歩』良しとしよう。
けれど高々パーソナルコンピューターが作り出した0と1という数字の羅列に…ただのシステムに殺される?
意味がわからないだろう。

だがそう遠くない未来。

そんな時がふと訪れるのだ。

ゲームでHPが全損すれば、脳を破壊されるデスゲーム。
一万人を巻き込んだ社会的事件とも言えるその出来事は、一人の英雄の手によって、一旦幕を押すことになる。
まだ当時16歳になったばかりの少年は、ゲームを時に一人で、時に仲間と共に切り抜け、攻略し、挫折し、立ち上がり、打ち倒した。

誰もが彼を『英雄』と呼ぶだろう。

誰もが彼を『勇者』と呼ぶだろう。

今あなたが読み進めているこのifストーリー。

その結末は、ほぼあなたの想像する通りでしょう。

彼は英雄となり、数多くの人をデスゲームから解放するお話。

何も変わらぬというのなら、少し視線をずらして…。


この四人組に目を向けてみましょう。


この物語は、不運にもデスゲームに巻き込まれ――――。


――――しかし、誰よりもゲームを楽しんだ者達のお話。


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第1話『ネトゲで喧嘩すんなや恥ずかしいw』


彼、プレイヤーネーム『キバオウ』はゲーム人生で危機に立たされていた。

場所はそう、第一層のフロアボスが待ち受ける迷宮のすぐ近くに位置する、村の集会場。

屋根もなく、観客席とステージが設けられただけの、一種の粗末な場所に彼は立っていた。

周りを見渡せば五十人前後の攻略プレイヤー。

それもそのはず。今日は自身の後ろにいる青髪が目立つプレイヤー『ディアベル』が開催した攻略会議が今まさに開かれているのだから。

そして彼は今、その会長と同じステージに立ち、全身から冷や汗を流している。

いや、ゲーム世界においてただのプログラムデータでしかない自分たちの体で汗を流すなんてことはないのだが、とにかく今キバオウは、そのような錯覚を起こすほど切羽詰まっていた。

目の前にいるのは、あからさま日本人。

けれど周りのプレイヤーと比べれば明らかに年齢を重ねたほうれい線や、全身から漂う年齢の香りは、明らかに三十路は近い人間の風格。

しかし突きつけられている問答は完全に自分を晒しあげ、あまつさえ血祭りにしてしまうのではないかと思わせるほどであった。

なぜキバオウがこうしてシバかれかけているのか。

それを説明するため、時間を約1ヶ月前。

ゲーム開発者 茅場晶彦によってデスゲームが伝えられ、ほとんどの玄人、βテスター達が次の街へと進み、残るは戦う気力さえ失ったであろう…否、失ったと思われていたプレイヤーで溢れかえったとされる始まりの街から進めよう。

「はいはいみなさん注目!」

街の中心。

まさに生きる気力を無くし、ただ解放を待つだけのプレイヤー達が集まる…いや、デスゲームが告げられた場所から動けずにいるプレイヤー達、といったほうが正しいだろうか。

その空間に、彼はやってきた。

自分たちと同じ服装。それはただの一般プレイヤーと変わりない。

けれど皆は他にやることもなく、只々『そこにきたから見ただけ』ではあったが、彼を見つめた。

歳は既に30歳は近いのだろうか。年相応に少しばかり老けてみえるが、髪の量やこちらに向ける表情の豊かさはまだまだ元気であることを物語っている。

「いやいや失敬失敬。どーもどーもご協力ありがとう。長い自己紹介は嫌われるんで早急に挨拶!どーも一般プレイヤーでーす」

ヘラヘラと姿勢と手つき。口調を変えそう告げる自称『一般プレイヤー』は、皆が彼を見たとわかると言葉を続けた。

「私から話を始める前に一つ質問!――

――『今から私はこのゲームを攻略して現実に帰ります』って人いる?手ぇ上げて?」

もちろん、誰も上げない。

答えない。

そんなことならここにいない。

そう顔が物語っていた。

中には幼いであろう、子供の姿も見て取れる。

中には中年。

ネカマプレイヤーも何人か。

「いないね?なら話を始めよう」

すると彼は近場にあった木箱を台にして背を上げ話を続ける。

「俺たちは今から、第一層ボス攻略に向けてレベルを上げて挑もうと思う。もちろん俺たちだけじゃない。先んじて出かけたプレイヤー。βテスターも含めてレイドを組んで挑みたい。」

誰も聞く耳も持たない。

「そこで君たちに力を貸して欲しい。何も馬鹿みたいに鉄の棒振って、モンスター倒して、ついて来い…とは言わない。勿論そう望むのであれば好きにしてもらっても構わないが…」

そこで彼の目の前にいた青年らしき者が小さく呟いた。

「ほっといてくれよ…」

その言葉に、ん?と返すと、青年は立ち上がり声を荒げる。

「ほっといてくれよ!俺たちは遊ぶためにここにきたんだ。断じて死にに来るために来たんじゃない!それなのにお前は…」

「なら黙ーって俺の話を最後まで聞いてくれないか?乗るか反るかはその後ってことで…」

それでもと言うなら…と彼は木箱から降り、青年の前までくると。

「今すぐここを出てってくれ。俺はお前に話してるんじゃない。おK?みんなに話してんの」

そう終わらせると木箱の上に戻り話を続けた。

「はいはい、一人観客がいなくなったけど続けるよ?」

既に青年の姿はない。

「私たちが今一番して欲しいことはただヒトーツ!各層に商人プレイヤーとして待機してもらいたい」

そう告げた彼の言葉に何人かが顔を向ける。

「前線に出てモンスターと戦って死んでくれとは言わない。俺たち前線プレイヤーにとって、何よりも必要なものは?」

そう尋ねるように見回すも誰も答える者はでない。

「金?レベル?残念外れ。正解は情報と武器。それを容易に手に入れたい。ならどうするか?答えは簡単。売っているところを探せばいい。君たちにはその販売所として活躍し、一秒でも、1日でも、一週間でも、この阿呆らしいデスゲームから脱出するために力を貸して欲しい」

段々と俯きかけたプレイヤーが彼に興味を示したのか、視線が一箇所にまとまりつつあった。

それは、彼がこの空間を、人数を掌握してきている事を表していた。

「その先行投資として、名乗りをあげる君たちから100コルづつ資金源として頂きたい……その代わり。俺たちが。フロアボスが待ち受ける村や町に各人数連れて行き、そこで商売をしてもらう。勿論売れればコルは君たちのものだ。派生として鍛冶屋になるもいいだろう。まぁこちらの要求が多くすまないが、回復薬や攻略に役立つアイテムは譲っていただけるとありがたい」

そう言い終わる頃にはもう下を向いているものはいなかった。

自分たちでも、攻略組を支えることがある。

そういった集団での心理がそうさせていく。

「もちろん、なんども言うけど強制ではない。なので明日の昼までに、街の入り口まで来て欲しい…ご質問は?ある?ないね?以上」

そう言うと彼は木箱の上から降り、そそくさとその場から退散。

追いかける間も無くいなくなってしまった。

彼がその場を離れ、入り口近くの道具屋の前に差し掛かると、中から三人の男が出て来た。

店での用が済んだのか、中から店員NPCの「またのお越しを」という言葉が聞こえてくる。

するとこちらに気づいたのか、そのうちの一人。

やけに小柄であり少年を思わせる身長であるがショートヘアーの黒髪が風に揺れるその顔立ちは成人に近かった。

その男が話しかけてくる。

「よぉ『ニンジャ』、大演説はどうだったよ」

「おっす『ウサギ』概ね順調かな、予想してた妨害も少なかったし」

先ほど数千人のプレイヤーに対して商人プレイヤーへの勧誘を行なっていた彼、ニンジャはあっけらかんと答えた。

すると隣でウィンドウメニューを開き、各プレイヤーに商店で買った回復薬やらを残り三人に配布しているローキが口を開く。

皆既に打ち合わせしていたのか、街の外へと歩き出した。

「随分と簡単にいったらしいな、まぁ商人プレイヤーが増えてくれるに越したことはないからね」

自己主張が激しい天然パーマーをわっしわっししながらローキがそう感想を述べると、隣で曲刀の腹を撫でながらニンジャが。

「いやまぁ、聞いてはいただろうけどどうだろうね…まぁ来れば儲けもの、来なくてもそーいう奴らが何人かいるって思ってくれればいいや」

若干口調がおぼろげなニンジャに、一番端に立つ大柄の男がこちらを見ながら。

「なんだ?自分から言ったのに自信なさげだな。今度は何企んでやがる?」

「はっはっはー勘弁してくださいよリクさぁーん…ま、その話は次の街についてからでいいでしょ」

そう語る四人は、既に街の外へ進み遠目にモンスターを確認できる距離まで進んでいた。

一番早く武器を抜いたのはリク。

「んじゃ、ちゃちゃっと進んでサクッとアニールブレード集めてばら撒きに行こう」

腰から短剣を抜いたウサギは少々だるそうに顔を歪めながらあることを考えていた。

「あ~あ、どこぞの海外スケボーゲームみたいにゲッダンして目的の場所まで飛んでいけたらいいのに」

『え?ゲッダンするの?』

「やだ」

息よく合う三人。

そしてローキが槍、ニンジャが曲刀を抜き放つと同時に皆が駆け出した。

 

それからホルンカの村に辿り着いたのは三時間ほどあとだった。

というより、ウサギの道案内で迷ったり。

落とし穴トラップでウサギが首から下だけめり込んでギリギリ落ちなかったり。

逸れたウサギが大量のモンスターをトレイン(ターゲットが掛かった状態で引き連れてくること)して来て処理に困ったり。

ほぼ全部ウサギのせいじゃねぇかこの野郎。

というわけで絶賛落とし前をつけるために、アニールブレードクエストを受けるための長~いO★HA★NA★SHIを聞きに行ってきたウサギば半端げっそりしながら村の入り口に戻ってきた。

時間は既に九時近くなり、日は落ちている。

今から森へ進み昼までには最初の町へ戻るということを考えても、寄り道せず走って進めば1時間はかからない。道中のモンスターは切り刻んで進めばいいだけである。

目標の戻る時間と目的を確認し、ターゲットのリトルネペントをしばきに行くため歩きだす。

その時に別プレイヤー…黒髪黒眼の童顔男プレイヤーとすれ違った。

が、今はその時でないのか、運命のいたずらか。

お互い声すらかけず、認識することもなく通り過ぎた。

そこから時間を進め一月。

結果的に言えば街の入り口には五百を超えるプレイヤーが集まっていた。

皆が皆、それぞれの目標を胸に集まったとはいえ、後からニンジャから感想を聞くと、予想外の人数にびっくりしていた。

そもそも各層に一人として百人前後いれば御の字であったとの事であるが、多いことに越したことはない。

何人か厳選し各拠点や町に配置し、その他大勢は新しく手に入れた情報をガイドブックにまとめたり、各拠点のプレイヤーを援助する形となった。

そして彼ら四人の指示によって、アニールブレードの拡散が始まった。

花付きのリトルネペントが落とすレアアイテムをホルンカのプレイヤーに預け、格安で販売させ様々なプレイヤーに強制クリアさせて行ったのだ。

もちろん最初の約束通り、集まってくれたプレイヤーにはクエストに行かせず、しかし30名ほどの有志が集まり、彼らで晩御飯もびっくりなほどの勢いでクエストエリアに突撃。

3週間かけて大量のアイテム片手に帰ってきた。

自分たちとは別に攻略ガイドブックも発行され、当時予想していた死亡人数を500人以下に抑えることにも成功した。

そんな1ヶ月後。

最初の街のテラスにて。

 

「てな訳で、ホルンカのプレイヤーに聞いたらアイテムはほぼ完売。大量のアニールブレードが拡散されましたよ、と」

ローキのメッセージログに送られてきた、アイテムの販売履歴を皆に見せると、一旦落ち着いたように他三人は机に突っ伏した。

「はぁー終わったー。疲れたー。酒飲みテー」

「おいダメ社会人起きろ」

盛大にやる気のないニンジャの頭を掴み持ち上げるリク。

持ち上げられた顔にビンタを数発入れるとそのまま手を離し放置。

ゲームであるため痛みはほぼ無いが、巨大な手に何発も顔面を弾かれるプレッシャーに負けたのかむくりと顔を上げる。

「さてさて、落ち着いてられねぇぞ。ウサギ曰く近いうちにボス戦の攻略会議が始まるんだ」

「となると、問題なのはβテスターの批判的発言か。仲間割れを無理にでも起こさせようとする奴が来るかな?」

その言葉でウィンドウを閉じたローキは言葉を代弁するかのように答えた。

と、ローキの疑問に答えるようにリクが口を開く。

「そりゃいるだろ。社会人同士の会合ならともかく、中には子供や社会不適合者だっているさ。胸の内さらけ出す奴もいるだろう。分からなくはないが」

その言葉に皆が顔をしかめる。

「あーマジめんどくせー。ほんとどっかに問題解決してくれる奴いねーかなー」

そうひとり愚痴るニンジャだが、そんな人間呼びかけたって出やしない。

自分から問題に片足突っ込む人間はいないのだ。

「ところでウサギ、攻略会議っていつになるの?」

「それが分からないんだよねー。まぁ今日中に向かえば間に合うっしょ」

ねー聞いた?攻略会議の話。

聞いた聞いた、なんでも今日の昼に始まるんだろ?その話振って来るってことは気になってんな?

そりゃそうでしょ、なんたってこっから出るための第一歩だよ?

まぁそりゃそうだな。けど俺たちじゃ待つことしかできないし…

「なぁウサギ…」

むくりとリクが立ち上がる。

当の本人は座ったまま動かない。

呼びかける本人が黒いオーラに包まれ今にも殺しにかかりそうではあるが…動かない。

他の二人も同じくゆっくりと立ち上がる。

それなのにウサギは相も変わらず座り続けリクに言葉を返す。震え気味で。

「な、なぁに?」

「今時間は?」

手元にウィンドウを表示させると、早朝6時。

会議開始の話が本当であれば、あと6時間。

「行くぞ」

そう告げるニンジャに合わせ、三人は全力で街の外に向かった。

リクは相変わらず動かないウサギの首根っこを掴んで引きずり走る。

「かふっ!?」

掴まれた当の本人はまるで引き回しの刑にあってるかの如く…が、もう首を掴むのもやめて足首を握り走るリク。

顔面と地面が猛烈な摩擦を引き起こしながら引きずられるウサギ、哀れなり。

「あばばばばばば!」

「おいおいニンジャ!どうするあと6時間だぞ!?」

「気にするな走れ!モブも全部無視しろ!6時間も走り続ければ間に合う!…はず!」

「ウサギ後で覚えてろ」

「あばばばばばばばばばばばばは」

奇怪な状態で引きずられるウサギとともに走り続ける四人たち。

途中のモブもプレイヤーも敵も無視して走り続け、約6時間後。

顔面蒼白の状態で会議に参加する羽目になるのだった。

「うぉおおおおおお!唸れ俺たちの足!」

「頑張るのは脳だけどね」

なんだかんだ言って楽しそうである。

キリトは会議場の端で一人腕を組んで待っていた。

時間は後数分。

周りを見渡すと、数々のプレイヤーが今か今かと待ち続けていた。

何人かのプレイヤーは、アニールブレードを背負っていることに気づいて、ふと小耳に挟んだことを思い出す。

クエストアイテムのアニールブレードが売っている。

そんな馬鹿げた話信じてはいないが、もしそれが本当であるなら街で見かける剣を持ったプレイヤーがほぼ全てアニールブレードを持っていたことも頷ける。

なんだ、一人で正規の方法でクリアした自分が馬鹿みたいじゃないか。

そう一瞬思ったが、やめておこう。不毛なだけである。

意識を切り替え、攻略会議の概要を思い出す。

この第一層のフロアボス…確かコボルドロードであったか…の攻略である。

この会議に呼んだ本人の思惑は大体予想はつく。

呼びかけ、レイドを組んでみんなで討伐しよう。概ねそんなところであろう。

「―――ナイトやってまーす!」

瞬間、皆んなの笑い声が聞こえる。

ふと視線をあげると、ステージに青髮が目立つプレイヤーがひとり。

思考に意識を持って行ったせいか、少しばかり一人の世界に入っていたらしい。

青髮のプレイヤー…ディアベルが周りの人に熱弁し続ける様を、黙って見ているキリト。

 

と、客席の裏から何人かプレイヤーが現れる。

遅刻か…と思い、無視しようとすると、どうも様子がおかしい。

四人のうち先頭を歩くプレイヤーは、壁伝いに手を置き、ずるずると両足を引きずりながらこちらに向かって来る。

あとの三人も同じように疲れているのか、のそのそと進むその姿に意識を持っていかれ凝視してしまう。

うち一人なんて、巨漢の男に足を引きずられながら進んで来る。まるで捕虜だ。

「あ、あり得るかよ…6時間走り続けるとか…死ねウサギ」

「なんとか間に合ったな…くそが…死ねウサギ」

「きゅー」

うち一人がキリトの隣にドカリと座ると、他三人も…うち一人は捨てられるように放り投げられ…彼の近くに座り込む。

「あー…なぁ、大丈夫か?」

「んぁ?ああ大丈夫。ちょっと仲間のイカれ加減に絶望してただけだから」

我慢できず話しかけると、なんとも反応しづらい回答が返ってきた。

イかれた仲間…おそらく目の前で死体の如く倒れているプレイヤーの事であろうが、なんとなくキリトは安否を確認する気になれなかった。

ステージ上の言葉を無視して四人に目を向けていると、いきなり怒号が飛んできた。

「この中に五人か十人!詫び入れなあかん奴がおるはずや!」

その言葉とともに、目に見えて周りの空気が空気が変わる。

まとめると、目の前のプレイヤー「キバオウ」は新参プレイヤーを見捨てたβテスターに粛清という意味で謝らせ、アイテムを全て置いてけという事らしい。

その言葉に皆が静かに周りを見渡す中。

「あぁやっぱり出たか」

「言いたい気持ちは分かるけどホントに出るとはねぇ」

「不毛なレスバの始まりです」

「…」

「なぁ、そこで倒れてるやつは本当に無事なのか?」

『ああ、生きてる生きてる』

まるで空気が読めていない四人に対して、キリト自身も付き合うように別の心配事をしてしまう。

というより本当に彼は生きて居るのだろうか。

生物らしい動きを全くしない彼に視線を向けていると、キバオウはキリト達に目をつけて…と言うよりいきなりキレてきた。

「オマエら話聞いとんのか!?」

その言葉にキリトが返すより早く四人は答える。

「あぁ聞いてる聞いてる」

「続けてどうぞ」

「一人寝てるだけだから気にしないで」

「…」

「おい、その男どないしたん」

先ほどまで出で来いβテスターと叫んでいたキバオウすらも寝転がる生物もどきに目が向いた。

が、気を取り直し。

「ってそうやないねん!とっととβテスター出てこんかい!」

そう怒鳴り散らすキバオウをジト目で見つめるプレイヤーが三人。

と、そのうちの一人が小さくため息をついた。

「ま、こんなことになるだろうとは思ったけどねぇ」

「なかなかの敵意の表れだね。身内でもやられたかね」

「あーそりゃご愁傷様だね」

ぶつくさと言葉を並べるニンジャ、リク、ローキは寝転んでいる彼を叩き起こす。

「おいウサギ、いい加減起きろ。ついたぞ」

「こころ…ぴょんぴょん…」

すると再びキバオウは目をつけた…と言うよりツッコんできた。

「お前ら人の話聞いとんのか!」

『ああ、聞いてる聞いてる』

「ごめん今起きた」

「帰れおのれら!」

完全にヒートアップしているキバオウを相手に全く無関心に話を投げつける四人。

その言動に会場席が少しざわつき始めた。

「あーはいはい、キバオウさんとやら。話をもっかい聞かせてもらってよろしい?」

そう気だるそうに聞こえる声の元は、キリトの真隣に座り込むニンジャだった。

「せやからβテスターとっとと出てきてアイテムと金、全部差し出して土下座せえ言うとんのじゃ!」

「はいはい熱くなんないの」

「んなことよりてめぇも名乗らんかい!」

そう言われた男は両手を挙げ降伏する捕虜のような、又はおどける道化師のような雰囲気の携えステージに上がる。

「どもども、キバオウさんからの熱ーいお言葉をもらったニンジャです」

「ナメ腐りおって…」

そう続けるキバオウは終始ニンジャを睨みつけていた。

「まぁまぁそう怒んなよ。んで?纏めるとアンタはβテスターが嫌いで命は預けたくない。だから預けるための誠意を見せろと」

「そや!βテスターが新参プレイヤーを見捨てて美味しい狩場やクエスト独り占めしたせいでこんな現状になっとるんじゃ」

ニンジャはハイハイとキバオウを抑え自身がやってきた位置に目を向ける。

「リクー、パンフレット持ってきてー」

そう声をかけるニンジャに従い現れたのは大柄の男性プレイヤー。

リクはステージに上がると自分のストレージから二枚のパンフレットを取り出し、キバオウに差し出した。

口を最初に開いたのはリクだった。

「この二枚のパンフレット知ってか?」

「当たり前や、そこらで無料配布されとるやつやろ」

「ご名答、ちなみにこっちは俺らが作ったパンフで中身はβとは違う「らしい」狩場の注意やなんやらが書いてたもの」

その言葉に周りのプレイヤーたちはざわつく。

ニンジャ達が作り上げたパンフレットはもう一つ差し出されたパンフレットより後に発行されたものだが、注意書きなどの生き抜く為の術が書かれている。

これに助けられたプレイヤーも多いのであろう。

その言葉の後にニンジャが付け足すように話を続ける。

「んでこっちは俺たちが発行したのよりずーっと早くできたパンフレットで、内容はβ時代の狩場やクエストの情報な訳だけど」

「それがどないしたんや」

「…あー説明するのめんどくせぇ」

「なんやと!」

「…これは恐らくβテスターが書き上げたパンフレット。物的証拠なんてないけど、早すぎる情報にβ時代のことが書かれりゃ他にないだろ」

ついでにとリクがパンフレットをストレージにしまう。

「今現在ログアウトした人数が約500人。デスゲーム当日は200人近かったから300人のプレイヤーが死んでる。が、その殆どはそれこそβテスターや他のゲームで玄人認定されたベテランが多い。おけ?」

その言葉にキバオウは少し押し黙るも絞り出すように言葉を続ける。

「なんや自分、ずいぶん物知りやな。自分がβテスターやからて保身に走りおったか」

その言葉に今度は敵意の目がニンジャに向けられる。

当たり前だろう。今この場はいるのかもわからない敵に向けて悪意を流す傾向にあるのだから。

しかし当の本人は、あっははと天を仰いで高笑いを始める。

「ははははっ…なるほど。んで?その噂のβテスターかもしれない俺に何を望むんだ?」

この時キバオウは勝ったと思った。

実際は勝ち負けではなく、いるかもわからないβテスターを間引いて吊るし上げるつもりではあったが、目の前のプレイヤーはどうも気にくわない。

この際このプレイヤーだけでも土下座させなければ気が済まなかった。

「せやから…ブツと金全部差し出して土下座せい!今すぐ!」

その言葉を聞いた時、ニンジャは…否、ニンジャと今、会場に入ってきた他三人は心の中でニヤリと笑った。

「なるほどなるほど。血も涙もないβテスターは地面に頭擦り付けろという事でいいね?」

ローキのその言葉にキバオウは罵声で同意した。

「おーけーおーけー。いいだろう、俺がβテスターで血も涙もないとそういう事だな?ところでキバオウ。いい剣持ってんな、アニールブレードか?」

その言葉に対してキバオウは血管が切れそうになる。

此の期に及んでまだ言い訳するつもりだろうか。

「そうや、あんたになんの関係があんねん」

「なら一つ皆さんに聞くけども、アニールブレードを手に入れる際、村のプレイヤーからアイテムを買い取った人は何人いる?」

その言葉に渋々といった形で手をあげるものも数名。

ニンジャがふとキバオウに目を向けると、彼も自身のアニールブレードに意識を少し向けていた。

「おっと、その反応だとキバオウはアニールブレード買ったんだ」

「な、なんや。当たり前やろ。無理してモンスター倒すくらいなら金で解決するわ」

その言葉を聞いた瞬間。

ニンジャは勝ちを確信した。

「なぁ知ってるかキバオウ。第一層の町や村に商人のプレイヤーが何人もいるの。ついでにそいつらは始まりの街にいた非戦闘プレイヤーで、ある四人組からの『お願い』で動いてるって…知ってるか?」

その言葉を言い終わる頃には、ニンジャとともに来た他3人が、まるでキバオウを逃すまいと、彼の四方に立ち始める。

「な、なんの話や。それがお前やって言うんか!証拠は!?証拠あるんか!!」

「んな現実みたいに領収書があるわけないんだから今は無理だよぉ~。あ、なんならホルンカの街に一緒に行くか?紹介してやるよその商人」

既に退路は絶たれた。

詰将棋の様に固められた謝罪の道を、既にキバオウは進むしかない様に。

「んでキバオウ。俺は血も涙もないβテスターなんだって?傷つくなぁ、俺らはこんなに頑張って生存者増やしたのに」

「そんな……いや」

「んで?アイテムと金出して土下座しろって?ひひひひひ…謝ってもらっていいか?」

その言葉に、従うしかないと悟ったのか、キバオウは頭を下げ。

「……くっ…すまんかった」

深々と頭を下げた。

が、それでは足りないとばかりに彼の隣に立ったリクは屈むと彼の顔を睨みつけ。

「土下座…じゃなかったのか?」

そう一言漏らす。

屈辱

その言葉以外にキバオウの頭を埋め尽くすものはなかった。

βテスターのせいでと怒りと声をあげ釣れたのはまさかのアニールブレードの売人で、こんなはずではなかったと何度も心の中で唱えた。

頭を地面にこびり付けようと膝をついたところで肩を叩かれる。

ニンジャの手で。

「まぁまぁ、冗談だって。」

これからも仲良くしよう。な?

その言葉でキバオウはステージを降ろされ、ディアベルに一言謝罪するとニンジャ達もステージから降りていった。

 

その後、キリトは再びあの四人組と出会うことになる。

というのも、ディアベルが放ったあの一言が原因なのだ。

 

所謂「ハイみんなで班作ってー」である。

 

ソロを通して来たキリトにそんな友達がいるわけもなく、また他のプレイヤーは皆仲間同士などで次々と決まっていく。

この際パーティーぐらい一人でいいかと思っていた矢先に、アスナというプレイヤーに出会ったのはまだいい。

問題はその後だ。

ボスは通常レイドを組んで行われる。

6人パーティーを最大8パーティーとして組み行われるもののことだ。

故に最大パーティー数には限度がある。

それで、現在のパーティー数は9。

なのでどこかのパーティーを混合しなければならないのだが、その問題はすぐに解決する。

というのも、キリトたち二人パーティーの他に、四人パーティーが組まれていたところがあった。

(ん?四人?)

そこでキリトはふと四人組という言葉に引っかかった。

そしてその疑問はすぐに解決された。

「お、さっきの人じゃん。やほー」

「さっきは騒がせて悪かったな、恨むならキバオウを恨んでくれ」

「えーっと、キリトとアスナね。今回限りだと思うけどよろしく」

「ドライブ!タイプスピード!」

『自由か』

「…うわぁ……」

キリトの受難は始まったばかりである。

 

 




三話目くらいまで改行できない呪いに掛かってるんだけど

どうやったら治るんじゃコレ

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