ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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私は弟を釣り上げたことがあります。


第11話『釣り竿で魚以外釣った事ある?俺はあるw』

「パパ、なにをしてるの?」

 

「釣りをしてるんだよ」

 

「つり?」

 

「川にいるお魚さんを糸で釣るんだよ」

 

キリトがゲームにログインしてからそろそろ二年。現実ではそろそろ16歳を超えたあたりだろうか。

そんな実際では高校生になっているであろう年齢で子供を育てることになるとは思わなかったであろう。

川のせせらぎが人間としてDNAに刻まれているのであろうか、その音にどこか懐かしさを感じ、その川の桟橋に腰を下ろしてひたすらにあたりを待つ。

そして膝の上に座った自分の娘…ではなく、正体不明の少女と他愛もない会話を楽しむ。

なんて優雅な時間なのだろうか。

前線に出ていたころと比べればなんて贅沢な時間の使い方をしている事だろう。

…いや、前線に出ていた頃も昼寝やら何やらをしていたのであまり変わらないのかもしれない。

それはさておき、ここ数日は突然の訪問者(ウサギ)に悩まされていたため、とても優雅な気分である。

 

そして…。

 

「にしてもキリトが釣りを嗜んでいたとはなぁ」

 

不意にキリトの隣から声がする。

いや、最初からそこにいたのだ。

キリトが視線を川から右にずらすと、そこには草生えるwのギルドリーダーであるニンジャが座っていた。

いつもの深緑一色の甚平姿で、頭に麦わら帽子をかぶり、タバコを口に咥えながらぷかぷか煙で遊んでいる。

 

「わーけむりだー」

 

「煙だよ」

 

そして何よりユイとの会話がとても雑なのだ。

実際言葉遣いに関してはそこまでひどくないので注意する気はないが、きっとこれが彼の精一杯の子供への対応なのだろうとあたりをつけてキリトも会話を挟む。

 

「それはニンジャも同じでしょう。むしろ俺はあんたがこの近くに家を持っているのに驚きだ」

 

「あれ家って呼べんのか? ほぼ倒壊しかけてるし。だから安かったんだけどな。改造も自分でしたし」

 

あとあれは家じゃなくでギルド拠点な――と付け加え、ニンジャの竿にしなりが入る。

 

「お、今日4匹目。晩飯確保終了」

 

「よく釣れるな。俺まだ一匹なんだけど」

 

「パパおサカナつれないの?」

 

「後二匹手伝おうか?」

 

「なんか悔しいからヤダ」

 

そう言ってニンジャの助力をあっさり断ると、ユイが少し暇そうに足をプラプラとし始めた。

それを悟ったキリトは何かお話でもと考えていると。

 

「ちび助、ほれ」

 

そう言ってニンジャが懐から釣り竿を渡してきた。

それもしなりの良い竹か何かの素材からできたただの棒きれのようだが、使うこと自体に問題なさそうだ。

ストレージに入れてないあたり、おそらく釣り竿として認識されないガラクタなのだろう。

 

「それってもしかして自作か?」

 

「まぁな。出産祝い的なもんだと思ってくれ。涎掛けの方がよかったか?」

 

「誰がつけるんだよ」

 

「キリト」

 

「勘弁してくれ」

 

冗談のぶつけ合いをしながらいそいそとニンジャが疑似餌をつけてユイに渡す。

簡単な説明の後にユイも釣りに参加した。

 

「なんか意外だな」

 

「どしたのわさわさ」

 

「今までの対応の仕方から見て子供に対してどう接していいかわからないー、みたいな感じだったからさ」

 

「俺は子供大好きだぞ」

 

「冗談は顔だけにしてくれ」

 

「根性焼きしてやろうか」

 

「ぱぱ、ぼうがおもい」

 

ユイの言葉で会話が中断されるも、あからさまにヒットした様子の竿がぐいぐいと川に引っ張られている。

慌ててキリトが竿をつかんでユイといっしょに引っ張る形になった。

 

「これは将来有望だな」

 

「どういう意味だ」

 

「釣りスキル的な意味で」

 

「今に見てろよ…」

 

「あ、俺も当たった」

 

ニンジャのダメ押しのヒットでキリトのプライドがズタズタになったところで、背後から足音が聞こえ始めた。

 

「失礼します、釣果はどうですか」

 

そう言いながらまさに中年といった雰囲気が似合う男性が近づいてきた。

話のかけ方からNPCではないことは明らかだったので、ニンジャもキリトも川に垂れた糸に視線を向けたまま答えを返した。

 

「今のところ5匹ですね。ここの子持ちは今2匹です」

 

「ぱぱ!またかかった!!」

 

「今3匹になりました」

 

自分の娘の釣果に一層落ち込むキリト…。

そんなキリトに乾いた笑いを上げながら二人の隣に腰を落とす男性。

 

「おっと、自己紹介が遅れましたね。私はニシダと申します」

 

と、そんな他愛のない会話を続ける3人ではあるが、この出会いと会話から後日とんでもないことになるとは、ニシダも思いもよらなかっただろう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――SAOフィッシングし大会――

 

キリトの目の前には、そんな字が書かれた垂れ幕が張られていた。

そして周りにはガッチガチの…もはや見た目で分かるほどに全身釣りをするために固められた装備のプレイヤーであふれていた。

そんな中、黒Tシャツ1枚でやってきたキリトの場違い感といったらとんでもない。

更にウサギに至っては手に持つダイナマイトで何をするかはもう御察しである。

 

「退場」

 

「あんびゃぁああなんでだぁああああ!!」

 

「むしろどうやってこの世界でダイナマイトを手に入れた」

 

ローキに襟首をつかまれて引きずられ退場していくウサギを白い目で確認し、ローキに改めて確認する。

 

「それで、今回はどんな企画なんですか?」

 

その言葉にローキは手持ちのパンフレットを交えながら説明した。

 

今回のイベントはニシダからたっての希望で開催された、川の主を吊り上げようという大会が草生えるwによって大幅に膨らされたイベントであった。

まず、今回は2段階構成となっており、川の主をニシダとキリトの二人の力を使って吊り上げる主釣り。

そして主以外で釣った魚のサイズを競う大会の2つ。

参加賞から上位10名までの景品も用意され、だいぶ大盤振る舞いの大会であった。

 

「計測した魚は大会運営に寄付することになってるし、その魚を商店に送って稼がせてもらうからさ、多少はね」

 

「まぁそうでしょうけど」

 

そう言いながら次から次へと大物を持ち込むプレイヤーが計測所に集い、ランキングが更新されていく。

現在の1位は不動の大物であるのか、1時間近く名前が変わらない。

 

「17匹目フィィイイイイイイイッシュ!!」

 

 

何か聞こえた気がするが気のせいであろう。

視界の端に赤い人物を見た気がするが、この際無視するとこにしたキリト。

 

「何か聞こえたね」

 

「伝説のフィッシャーマンでもいるんだろ」

 

「いやきっと釣り竿を投影している奴がいるんだよ」

 

ローキ、ニンジャ、リクがそれぞれの考えを現在1位を独占している人物に向けて言い放っている。

そんな3人の事を無視してキリトは桟橋へと足を向ける。

何ともご丁寧に『本日のメインイベント、キリトの一本釣り』なんて書かれている立札が目に入った。

この文字、解釈を変えればキリトが釣りあげられるイメージを彷彿とさせる。

 

「マジでやってやろうか」

 

「人の心を読むのやめてくれ」

 

しれっとキリトの後ろに回って心をダイレクトに読んできたニンジャ。

 

しかしながら今回は自分の筋力値がものをいう。

いわば男の腕の見せ所である。

なんなら今日は後ろに結婚相手のアスナに、娘ポジションのユイまで見ているのだ。

絶対に失敗できないと心に決めてキリトは桟橋に到着した。

 

 

 

 

 

「それでは…行きますよ!!」

 

そう言いながらニシダの釣り竿がソードスキルの光を放ちながら仕掛けが降り投げられ、川に着水した。

ここはニシダの2年間の釣り人プレイヤーの腕が試される。

じっとその時を…釣り人としての全感覚を用いてあたりを待つ。

 

「――――――きた」

 

そう言いながらニシダはさっとキリトに釣り竿を渡しそそくさと後方に撤退。

その行動に、何を大げさなと…どんなに大きな『魚』だろうと元前線プレイヤーの筋力値なら流石に余裕だろと、正直たかをくくっていたキリト。

瞬間。

 

キリトは川に向かって前進していた。

 

「はいぃいいいいいいいいい!?」

 

とっさに全体重を後ろに預けて腕っぷしの限りを尽くして桟橋の最先端で何とか止まった。

相も変わらずバカみたいな力で川に引きずり込もうとする魚に対して、何とかして踏みとどまる。

 

「ぱぱがんばってー」

 

そう言いながら手を振っている娘に対して…本当なら手を振り返して余裕の表情であるべきなのだろうが、正直言って無理。

なんだったら既に桟橋から足が離れており―――。

 

「ってそれはだめだぁああああああ」

 

いつの間にか桟橋から離れ川へ引きずり込まれようとしているキリトの体は空中で止まった。

 

「お前らきばれぇええええ!!」

 

そんな叫び声と共に大勢の叫び声が聞こえる。

後ろを振り向けばリクを筆頭に大勢のプレイヤーがキリトを川に沈めまいと全力で引っ張っていた。

キリトを釣り竿で引っ掛けて。

 

「普通に引っ張るってことは出来ないのかよ!?」

 

「ごめん、間に合わなかった」

 

キリトの叫びにリクが素で返答した。

投げつけられた釣り針は上手いことキリトの服の襟に引っ掛かり――。

 

「それいくぞ!!」

 

「おーえす!! おーえす!! おーえす!!」

 

――男性プレイヤーたちと魚の綱引きになっていた。

 

「種目変わってんじゃねぇか!」

 

「お前はとっとと釣り上げろや!!」

 

お互いがギャアギャアと喚きながらも逃がすまいとシッカリ引っ張っているあたり流石であろう。

男たちとキリトの力をあわせ、ようやく川の水面から顔をのぞかせ…というより引きずり出された魚―――。

 

釣り上げた勢いで地面に尻餅をついたキリトは、自分に落とされる陰に一瞬ぎょっとし、ゆっくりとその視線を上にあげると。

 

 

―――もとい、見た目完全にモンスター。

 

 

「魚じゃねぇええええええええ!?」

 

「いや、なんかあの短い手足意外とかわいいんじゃね?」

 

「言ってる場合か!!」

 

その、もはや何本あるかわからない手足をのっしのっしと踏み鳴らしながら巨体にあわないスピードで近づいてくるバケモノから逃げるように皆撤退していく。

 

それもそうだろう。

なんだったら皆釣り人装備なのだから、今この場で武器を装備しているのは…。

 

 

「あ、アスナ!! れれれれレイピア!!」

 

「あぁもうめちゃくちゃ!!」

 

そう言いながら、本来の流れとは違い既に居るのがばれているためフードすら被らずに素顔を見せていたアスナがレイピア片手にキリト達の前に陣取り、突きの構えを取り始める。

 

 

 

 

 

 

が、しかし。

魚(?)はそのまま進路を変え、ウサギ目掛けて走っていく。

 

 

「え、え、え、なんで俺?」

 

一人取り残されたウサギは、前後左右を確認し、しかし自分しかいないことを確認すると。

 

「なんで俺ぇえええええええええええええええええ!?」

 

180度向きを変えて全力疾走し始めた。

 

 

 

 

 

5分前。

 

 

 

 

『ふははは、全身に撒き餌を浴びて川に飛び込めば魚が寄ってくるって寸法よ!』

 

『そのまま食われてしまえ』

 

 

 

 

 

 

 

「あいつマジで浴びたのかよ、撒き餌」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 

 

草生えるwギルドホームに、なぜか川の主のテイムに成功したウサギが現れた。

 

 

 

「懐いちゃった♪」

 

「捨ててこい」


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